Review

KAROL G: Mañana Será Bonito

2023 / Universal
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失恋と成功を得た上で再発見した内なる平和

07 April 2023 | By Nao Shimaoka

近年のラテン・ポップは飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を増している。ラジオステーションをつければ、音楽チャート上位でスペイン語の楽曲を耳にしない日はない。多くのラテン系アーティスト達がアメリカ市場のみならずグローバル規模で大奮闘を見せている中でも、コロンビア出身のカロルGは、今最も脚光を浴びるポップスターと言えるだろう。モダン・ラテン音楽の先頭を走り続けるプエルトリコ出身の大スター=バッド・バニーが達成した、全編スペイン語のアルバムによる全米1位という記録を追うように、彼女はアルバム『Mañana Será Bonito』で女性アーティストとして初めて獲得。レゲトン、そしてラテン音楽全般が男性アーティストによって支配される世界で、カロルGは自身の音楽で女性の強さとエンパワーメントだけでなく、フェミニニティを祝福し続けている。

カロルGの4作目となるアルバム『Mañana Será Bonito(「明日はいい日になる」)』は、失恋後の自己受容の旅と自身の脆弱さを表現した作品だ。オープニング・トラック「Mientras Me Curo Del Cora 」は、ポジティヴなモードで幕を開ける。「落ち込む日があっても大丈夫、それは普通のことで悪いことじゃないから/明日はもっと良い日になる」。また、「Bichota(カロルGが過去に発表した曲のタイトルであり、彼女が“強い女性”という意味を持たせたスラング)」を代表する彼女は、同郷の先駆者であるシャキーラと共に元恋人を嘲笑うリリックでボス・ウーマン像もしっかりと見せつける(「TQG」)。そしてアルバム・タイトルでもある最終曲「Mañana Será Bonito」では、元恋人のために全てを捧げた自身を肯定しながら、「鏡を見て、あなたがどれだけセクシーか/独り身のあなたも美しいから」とセルフ・アファメーションで締めくくる。彼女が過去の傷から逃げずに向き合い、脆さを打ち明けることを恐れないその強さが、カロルGの自信溢れるアティチュードを生んでいるのだ。

過去作品と比較して、コロンビアのラテン・ポップ・クイーンは、サウンド面で自身のルーツを維持しながらも、多岐なサウンドを取り入れている。幻想的なトラック「Provenza」はアフロビーツ・インスパイアで、「Cairo」はEDMのムードを漂わす。プエルトリコにルーツを持つシンガー=ジャスティン・キレスとドミニカン・ラッパーのアンケル・ディオールが客演する「Ojos Ferrari」は、デンボーのリズムが彼女の力強い表情を引き出し、「Gucci Los Paños」ではバンダが取り入れられたりと、アルバムは様々なラテンの音色で楽しませる。また、フィニアスもプロデュースで参加する「Tus Gafitas」は、作品に意外性を持たせるソフト・ロック曲だ。

「レゲトンは女がやる音楽ではない」と言われてきたとカロルGは打ち明ける。しかし、男性を中心としてきたラテン・ミュージックの世界で、レゲトンからロックまでを一つの作品に納め、失恋のヒーリング・プロセスを経て再発見した自信と自己受容を彼女は表現し、ラテン・アーティストとして記録的な成功を掴み取ったのだ。外部の意見がクリエイティヴ・プロセスとその産物に意味を持たないことを、『Mañana Será Bonito』で彼女は証明したのではないだろうか。急成長し続けるラテン・ポップと共に、カロルGは挑み続ける。(島岡奈央)


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