一人の人生の重み
歌とギターは、ただただ美しく。一聴してシンプル、あるいは語弊を恐れずに言えば幾分地味かもしれないと思ったFloristの5枚目となるアルバムの印象は、USインディ・フォークを基軸に4人で活動する彼女/彼らがセルフタイトルを冠した前作『Florist』での、エクスペリメンタルな音響感、インストゥルメンタルのトラックを細かく挟んだテンポ感と比較してしまったからかもしれない。それはメインコンポーザーであるEmily A. Spragueがモジュラーシンセなどを用いたアンビエント系のソロ・プロジェクトを《RVNG Intl.》からリリースしていた影響も言わずもがな大きく、現行でいえばエイドリアン・レンカーやGia Margaretといったミュージシャンと比較できそうな、あるいは過去メディアの記事でポーリン・オリヴェロスの名前が登場したことも個人的に印象に残っている。
もちろん、耳をこらさずともシンセサイザーや環境音などは今作でも登場するのだが、例えば「Levitate」の途中で差し込まれるピアノの広がりは「ここでさらにグッと前に出ればパンチが出るだろう」という気持ちになりそうなところでサッと抑えられる。まるで得意とする手法に固執しないように、コンパクトな弾き語り〜バンドサウンドへの重心が感じられるだろう。
だが、内省的な歌詞に耳を向けると、余計に生々しく意味を持つように思えてならない。それまでも交通事故や家族の死、孤独などがテーマとしてついてまわりながら、本作のインタビューなどでは前向きな雰囲気なども感じさせていた。それでも、歌詞の中で「死」や「交通事故」をはじめとするナイーブなワードが顔を覗かせるとその緊張感は無視できない。あたかも穏やかで安心感を感じさせるメロディーが際立つほど、人生というコントロールできない存在の陰もまた濃くなっていくように。
そうやって繰り返し聞き込むと徐々に、柔らかなソングライティングに音響的なテクスチャーを「取り入れつつ一歩引く」というスタンスは、今日的なアンビエントなどの要素をただ組み込むより一歩洗練されたアプローチへと聞こえてくる。決して派手ではないものの前述の歌詞と合わされば、繊細に生きることを眼差し、自問自答するバランス感とリンクするようである。そこに生まれる一人の人生の重み。それはネガティヴやポジティヴな感情への過剰でドラマティックな前振りとしてではなく、まして諦念とも言い切れないように響く。
特に印象深い歌詞があった。最後の曲である「Gloom Designs」から引用したい。
コンピューターはどんどん賢くなってきている
そして私は数ヶ月後に30歳になる
人生の大半を双子座で過ごす
あるいは何かに気を紛らわせること
これは良くない
決して良くなることはない
正直、このことについて話すのはもううんざりだ
私は彼女とほぼ同世代(歌詞の通りであれば星座も同じ)で、あどけなさを残す風貌と愛犬との生活(「Sparkle Song」の“Sparkle”は彼女の犬の名前と思われる)に映画『ウェンディ&ルーシー』におけるタッグの面影を重ねたり、そんな勝手な親近感も手伝っているからにせよ、不安も希望も引き連れて同時代を生きるその機微に、共感とリアリティを感じずにはいられなかった。(寺尾錬)
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【REVIEW】
Florist『Florist』
https://turntokyo.com/reviews/florist/