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Omar Apollo: Ivory

2022 / Warner
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たまごっち?パバロッティ?あのファレルが参加した注目新人のデビュー作!

03 May 2022 | By Kei Sugiyama

CucoやStill Woozy、Remi Wolf、Role Modelなどの、ジャンルを横断した風通しの良いポップを作るという面で才能あるソングライターたちが、いま注目を集めている。本作がデビュー・アルバムとなる彼もその一人だ。これまでにEPとミックステープを合わせると3枚作っており、その他にStill WoozyやJojiの作品に客演するなど、日増しに注目度を集めてきた。親がメキシコからアメリカに移住してきた移民2世という点は、Cucoと共通している。

本作の魅力は、ヒップホップを通過したビートと耳心地がよい韻の踏み方。その上にセンチメンタルな歌声とメロディが醸す高揚感だろう。これまでの彼の作品と聞き比べると、よりダンスミュージックとしての部分が強調されており、本作にはポップスターとなりえる器の大きさを感じさせる。それは、ほとんどの楽曲にプロデューサーとして参加したCarter Langの存在も大きかっただろう。このプロデューサーが関わった本作の「No Good Reason」や「Invincible」は、ポスト・マローン「Sunflower」(映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の主題歌)やドージャ・キャット「Kiss Me More ft. SZA」など彼がこれまでプロデュースしてきた、踊れて歌えて、ちょっぴりセンチメンタルな響きも持っている楽曲と共通しており、本作をより垢抜けた作品へと仕上げるのに一役買っているのではないだろうか。

垢ぬけるという意味において上記の2曲以外にもファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴのプロデューサーチーム、ザ・ネプチューンズとの「Tamagotchi」とChromeoとの「Go Away」は、本作のハイライトになる楽曲でそれぞれがOmar Apolloの異なる魅力を引き出している。フレンチ・モンタナ「Pop That」をサンプリングした「Tamagotchi」は、剥き出しのビートにメランコリックなメロディーが加わる後半の展開がたまらない。彼のヒップホップ的バックグラウンドが垣間見れるこの曲は、ゆるキャラの”たまごっち”を、3大テノールのパバロッティとで韻を踏む所や、硬質なビートとメランコリックなメロディーが混じりながら盛り上がる所など、コントラストのあるモノが同居する面白さが詰まっている。

前述のCarter Langに加えダンスアクトChromeoも迎えた「Go Away」は、本作で最も高揚感、解放感を備えた楽曲になっている。これまでの彼の楽曲「So Good」などで見られたディスコ・ポップとしての側面にフォーカスするだけでなく、サビ部分でグッと盛り上がる高揚感は、これまでの彼の作品の中でも飛びぬけているのではないだろうか。

そうしたシングル仕様の楽曲だけでなく、それらを繋ぐスローな楽曲、特に「Killing Me」「Waiting On You」「Petrified」「Personally」の4曲は、本作を一つの物語としてまとめるという意味において大きな役割を果たしており、中盤の大きな聴き所になっている。全体を通して使われている少しの言い換えによる繰り返しや脚韻が多用されているリリックは、こうしたスローな楽曲ほどそのリズム感が心地よい。さらに「Petrified」「Personally」で顕著な彼のセンチメンタルな感情を喚起させるサビでの歌声は、そこに情感を加えている。それにより本作がある人との関係を、自分の中で一つ一つ折り合いをつけていく物語として楽曲ごとが線で繋がっていくような面白さを作り出している。

本作でもう一つ触れておかなければいけない点が、スペイン語歌唱だ。全編スペイン語歌唱の「En El Olvido」も収録されているが、私がポイントだと思うのは、「Killing Me」「Tamagotchi」など英語の合間に歌われていることだろう。彼は移民2世ではあるが、アメリカで生まれ育ったためスペイン語があまり得意ではなかったそうで、映画を見たり自らメキシコへ行き語学習得をしたそうだ。こうした彼の姿勢は、政治的な分断に対し、カルチャーを通してコミュニケーションのあり方を模索している形の表れなのではないだろうか。こうしたシームレスな感覚は、本作の「Bad Life」に参加しているコロンビア生まれのSSWであるカリ・ウチスや前述のCucoなど、新たなポップシーンを形成している。こうしたシーンの形成は、日本でもよく使われている欧米圏という言葉が持っている白人中心主義的な意識に対するカウンターとしての側面。そして、アメリカ合衆国という国が地理的にも文化的にもメキシコをはじめ中南米の文化圏との交流の上に文化を形成してきたことを改めて気づかせてくれる。(杉山慧)


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