Review

Horsegirl: Versions Of Modern Performance

2022 / Matador / Beatink
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今に生きる特権を行使させる音楽

06 June 2022 | By Kenichi Ogura

すでに話題沸騰シカゴ出身の3人組ホースガール、待望のデビュー・アルバムがいよいよリリースです。今年のブライテスト・ホープと言っても過言ではない彼女たち、僕ももちろん本作を楽しみにしていたわけですが、このレビューにあたり若干の不安がありました。というのも、この原稿の公開予定はアルバムの発売日頃。つまり、リリース前に原稿を仕上げる必要がある。仕事柄、リリース前の音源を聴ける機会も時々あるのですが、事前に聴いてしまうことで熱が冷めてしまうなんてことも実体験としてあります(編集部注:筆者の方は輸入CD/レコード・ショップ勤務)。楽しみな作品ほど先に聴きたくないというアンビバレンス。発売を楽しみに待つ時間は、その作品をより特別なものにしてくれる重要な要素だとも思うのです。その待つ楽しみと引き換えにアルバムのデータを再生したわけですが、そんな不安もなんのその、すでに擦り切れるほど……いや、ギガを使い果たすほど繰り返し聴いているにもかかわらず、熱は冷めるどころか本作が自分にとって(もしかしたら人生レベルで)重要な1枚となるかもしれない、そんな予感を強くしています。

「このアルバムはシカゴ以外では作れなかった」と記されているように、地元シカゴがバンドに与えた影響はとても大きいのでしょう。そしてそのシカゴから世界へと飛び立とうとする中、地元シーンあるいは同世代の代表としての自覚や覚悟のようなものもまた、このアルバムからは感じることができます。それは冒頭の「Anti-glory」から明らかで、ソニック・ユース直系のヒリついたサウンドに挑戦的なタイトル、挨拶がわりの一発にはもってこいだ。と思いきや、続く「Beutiful Song」ではシューゲイズ・サウンドにパステルズ風のメロディーを乗せるといった愛嬌ものぞかせる。合間に挟まれるインタールードは簡素ながらも印象的で、バンドの余裕と風格すら感じさせる。全曲シングル・カット可能なほどの楽曲が並んでいるが、あえてハイライトを挙げるならば僕はB面2曲目の「Option 8」に一票入れよう。ステレオラブ〜マイ・ブラッディ・ヴァレンタインさながらにかき鳴らされるギター、疾走するドラム、声高ではないがしかし力強くたたみかけるヴォーカル。ギターを鳴らし歌うことの意味や本質が全てここにある……なんて大仰なことを言いたくなるほどの説得力が、彼女たちにはある。

ほかにも様々な固有名詞が浮かぶように、このアルバムには彼女たちが敬愛する先達への無邪気なまでの憧憬が詰まっています。それを彼女たちは“Modern Performance”と名付けたわけですが、それもまったく正しい。特別革新的な何かがあるわけではないけれども、しかしこのバンドには確実にマジックが宿っている。そしてこのようなバンドが、今のイギリスではなくアメリカからというのもまたたまりません。それこそ昔のソニック・ユースやパステルズがインターネットもない時代に海を越えて繋がっていたように(かつての《53rd & 3rd》レーベルにそんなコンピがありましたよね)、同じ時代を生きるもの同士、同じ感覚を共有しているとしか思えません。そうした歴史の先端に、彼女たちが今この瞬間存在しているという事実。そこに感動し、彼女たちの音楽を聴いているとなんだか泣けてくるのです。

僕はこういう音楽を聴き始めたのが高校を出て上京してからと結構遅くそれがコンプレックスでもあったのですが、遅れてきた青春を取り戻すかのように「今」の音楽に夢中になっていきました。過去のバンドに対してはどこか歴史上の人物のような遠い感じがしていましたが、リアルタイムのバンドは自分ごととして捉えられたことが大きかったのだと思います。そして、これまで夢中になってきたどのバンドとも違うワクワク感、ドキドキ感を、ホースガールは与えてくれます。「今」の音楽に夢中になれるのは「今」に生きる人の特権で、僕はそれを存分に行使しようと思う。本作を手にした人それぞれにとっての特別な存在となるに違いない、完璧なデビュー・アルバムだ。100点満点で言うならば、100点。(小倉健一)

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