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Douglas Andrew McCombs: VMAK<KOMBZ<<< DUGLAS<<6NDR7<<<

2022 / Thrill Jockey / Headz
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“もう一人のトータス”によるテクスチャーの探求

17 December 2022 | By ASUNA

2011年、シカゴのドラマー/パーカッショニストのチャールズ・ランバックとともにアメリカとカナダで10公演ほどのツアーを行った。チャールズ・ランバックは自身のユニットColorlistをはじめとして、ジェイソン・アジェミアンやジェフ・パーカーらによるグループのWho cares how long you sinkのセッション・メンバーとして頭角を現し、タウン・アンド・カントリーのリズ・ペインによるThe Zoo Wheelやヴィア・タニア、L’Altra等のバンドでドラマーもつとめ、近年はライリー・ウォーカーのコラボレーターとしてデュオ・アルバムをスリル・ジョッキーやデッド・オーシャンズからリリースしている打楽器奏者だ。そのツアーの時にチャールズがシカゴ即興シーンの雄フレッド・ロンバーグ・ホルムとニック・マクリ(The Zincs、Euphone、C-Clamp)と結成したばかりだったトリオのStirrupの演奏を見る機会があった。ライブの客席にはトータスのダグラス・マッコームズの姿もあり、ライブを真剣に見つめるそのダンディな佇まいを横目でちらりと見ながら、彼のユニットのブロークバックの大ファンだった自分はその客席の面子にも静かに興奮していた。終演後にダグは気さくに自分にも声をかけてくれ、チャールズとも最近同じバンドで一緒にツアーをしたという話しを聞かせてくれた。当時の自分は英語がからきしダメだったので(というか今もだけど)、一体どのバンドでのツアー話だったのか分からなかったが、今思い返すとそれはダグとチャールズとギタリストのビル・マッケイとのトリオ、Black Duckのことだったかもしれない。さらにその数日後に予定されているダグがベースを務めるイレヴンス・ドリーム・デイのEmpty Bottleでのライブにも誘ってもらった。ちょうど自分たちのMyopic Bookstoreでのライブ(共演はデイブ・レンピスとリズ・ペインだった)と重なっていたので見に行けなかったが、終演後に合流してみようとチャールズに誘われてEmpty Bottleに向かった。結局そちらもライブは終わったところで、ダグが機材の片付けをしながら同じくイレヴンス・ドリーム・デイのメンバーでもあるマーク・グリーンバーグ(The Coctails)らとツアーでの逸話を冗談を飛ばしながら語り合っていた。そのライブに集まった様々な仲間たちとダグのやりとりを眺めていると、シカゴのミュージシャンたちの良き兄貴分として本当に信頼されているんだなと実感したことをよく覚えている。

そのダグラス・マッコームズによるフルネーム名義での初のソロ・アルバム『VMAK < KOMBZ < < < DUGLAS < < 6NDR7』がリリースされた。《Headz》から発売された日本盤ライナーノーツでは岡村詩野さんと福田教雄さんの両者が彼の活動遍歴なども含め詳細に解説されている(ブロークバックの2003年作『Looks At The Bird』に参加しているアキツユコさんのコメントも一編の物語のようで素晴らしい)ので、ここではアルバム各曲について個別に触れながら、実際に使用されている機材やそれによる演奏面から全体をレビューしていきたいと思う。

先のライナーノーツで岡村さんが書かれていたとおり、現在ではトータスのメンバーはそのほとんどがシカゴから離れてしまっており、現在でもシカゴに拠点を構えるのはダグラス・マッコームズとダン・ビットニーの二人だけである。そのダンとニック・マクリが結成した新バンド、Ibisesが奇しくも同日(10月21日)にアルバムを発売することになり、先日(11月12日)にダブル・レコ発が現地の前衛ジャズと即興音楽の演奏拠点として知られる《Constellation》にて開催されたばかり。配信もされたそのライブ映像では、ダグはいつものフェンダーのBass VIではなく、Bigsbyのトレモロアームをカスタムしたテレキャスターによるギター独奏を行なっており、アルバムの1曲目「Two to Coolness」の前半パートの再現とも言える演奏が披露されていた。

Track.1 「Two to Coolness」
アルバムでは冒頭からいきなり歪ませたモアレ状のエフェクトギターの響きが印象的だが、その後のゆったりと間の置かれた断続的なギターピッキングとその残響に耳を澄ますと、背後でモジュレーションがかかったように繊細かつランダムに変化してゆくエフェクト音を聴くことができる。ライブ映像を見ていてわかったことだが、彼はこの変化してゆく電子音のようなエフェクトをリアルタイムで、それぞれ個別の系統のエフェクター(MOOGのMoogerfoogerのフィルターを中心に複数台使っているようだ)に通された合計三つものボリュームペダルを足元で駆使しながら、その残響のサステインを電子音楽を演奏するかのようにコントロールしていたのだ。もちろん、エフェクターを駆使した電子音楽のようなギター演奏は今となっては目新しいものではないが、ここでの彼の演奏はあくまでも断続的に演奏されるギターピッキングが前面にあり、その残響のサステインをその都度違ったかたちのエフェクトで密やかに鳴らしているという点が非常に面白い。この特異な演奏を聴いているうちに、だんだんとギターのメロディーではなく、そのエフェクトによる電子音のテクスチャーを聴かせるための演奏なのではないかと耳が背後のサステインの変化にひきこまれていく。その隙間に自然と入り込むようにミニマルなベースと浮遊感のある電子音が聴こえてくる。これは今夏にリリースされたジョン・マッケンタイアとのデュオ・アルバム『Sons Of』も記憶に新しいサム・プレコップによるもので、そのシーケンスに寄り添うかたちでジョン・コンヴァーティノのドラムとダグによるギターが重ねられ、リズムと構成をともなった楽曲が進行してゆく。とはいえ、この後半パートで聴かれるダグのギターは彼の十八番とも言えるような哀愁のあるメロディーではなく、前半パートを引き継ぐような断続的なピッキングで、決して大仰にはならずに全体のテクスチャーが一体となり、このうえないアンビエントとして聴く者の耳と空間を軽やかにしてくれる。

Track.2「Green Crown’s Step」
次の曲へのインタールード的に配置されたダグのアコースティック・ギターによる演奏。断続的かつ抽象的なメロディーであるがゆえに、その音の隙間から野外の鳥のさえずりが心地よく聴こえてくる。まるで彼が自宅のリビングでドアを開け放って録音したかのような親密さを感じる。個人的には1998年にリリースされた、ダグとクリス・ブロカウ(Codeine、Come)、カーティス・ハーヴェイ(Rex, The Letter E)、そしてトータスの初期メンバーでもあったバンディ・K. ブラウンらとのバンド、プルマンのファースト・アルバム『Turnstyles & Junkpiles』におけるダグのアコースティック・ギターによるソロ演奏「Fullerton」の音風景が思い出された。

Track.3「To Whose Falls Shallows」
ここで初めて彼のシグネチャー・サウンドとも言えるBass VIでの哀愁あるメロディーが、終わりの始まりを告げるかのように鳴らされる。そしてギターとエフェクターによる幽玄なドローン・サウンドと繊細な物音のように背後で鳴らされるフィールド・レコーディングが聴く者をひきつけてゆく。それらを包み込むかのような優しいギターリフとジェームズ・エルキントンのドラムが緩やかに始まり、この曲にダグの真骨頂とも言える要素が集約されているかのように、Bass VIのシングル・ノートの印象的な響きが物語を終わりへと導いていってくれる。

Track.4「White Steam」(日本盤のみのボーナス・トラック)
歪んだトレモロのエフェクト・ギターが、アルバムを締めくくるために耳を最初の地点へと引き戻す。その残響が道を引き延ばすようにドローン・サウンドとして先導し、ダグのベースギターのメロディーがその道に痕跡を残して歩き去っていったかのようなアンビエンスの余韻を残す。アルバムとして完璧な幕引き。

ここでさらに思い返して、先ほど挙げたプルマンのティム・バーンズ(Jim O’Rourke Band、The Tower Recordings)を迎えた2001年のセカンド・アルバム『Viewfinder』を引っ張りだしてみると、その中の「Street Light」ではダグのエレキ・ギターによるソロが収録されており、すでにボリューム・ペダルを使った繊細な電子音楽のような演奏が繰り広げられていた。同年(日本盤は2000年)にリリースされたブロークバックの初期作でヨ・ラ・テンゴのジェームズ・マクニューやステレオラブのメアリー・ハンセン、ラン・オンのアラン・リクトらが参加した『Morse Code In The Modern Age: Across The Americas』にもこのような特徴は見られ、2009年リリースのSan Agustinのデイヴィッド・ダニエルとの共作でのファースト・アルバム『Sycamore』や2012年作のセカンド『Versions』でも同様の方向性が顕著になった楽曲が収録されている。この流れから改めて今回のソロ・アルバムを聴いてみると彼の一貫した音楽性の強度とさらなる発展が見えてくるようで、「Two to Coolness」での電子音のテクスチャーを主眼とした構成などは、現在のアンビエントやニューエイジの隆盛を傍目に、返ってそれらを更新するほどの楽曲だと思う。トータスやブロークバック、イレヴンス・ドリーム・デイのメンバーとしてのベテラン然としたイメージを吹き飛ばすかのように、初のソロ・アルバムで新たな音楽的地平を見せてくれたダグラス・アンドリュー・マッコームズ。まだまだ自分たちを引っ張ってくれる兄貴分として信頼のおける音楽家だ。(ASUNA)

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