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《The Notable Artist of 2022》
#6

ArrDee


生意気なミーム・ラッパー? ArrDeeの真価を問う

「それはとても政治的な質問だね、俺は政治家じゃないよ」。

《Face Magazine》に掲載されたインタヴューで「世界を救うために、アーティストにできることは何でしょう?」と問われ、ブライトン出身のラッパー、ArrDee(アーディー)は一蹴する。2021年、UKで最も名を揚げたティーンのひとりに対してそれを聞くのは少し早すぎたのだろうか。1月にフリースタイル「Cheeky Bars」を、続けて3月には「6am in Brighton」をリリース。自身の生い立ちについてブライトンの路地裏にある影を交えてライムし群雄割拠のドリル・シーンに登場。決まり手はTion WayneとRuss Millionによる「Body」のリミックスでキックしたヴァースがTikTokでヴァイラル・ヒットしたことだった。ラッパーに必須で求められる言葉遊びや皮肉の上手さだったり、声のノリの良さやフローの巧みさはもちろん、“Cheeky Chappy”という愛称の通り、生意気で楽天的な態度が現時点における彼の最大の魅力といっていいだろう。Sweet Female Attitudeの同名曲をサンプリングした最新のヒット・シングル「Flowers (Say My Name)」でも清々しいほどの粋がりっぷりだ。

彼の持つこの魅力的な不遜さ、あるいはルックスからAitch(エイチ)を連想をする人も少なくないだろう。Aitchは、マンチェスター北部出身の22歳で、2018年に「Straight Rhymez」をヒットさせ、2019年にはエド・シーラン、ストームジーによる「Take Me Back To London」にリミックスで参加。2020年にリリースしたAJトレイシー、テイ・キースとの「Rain」はブリット・アワードでソング・オブ・ザ・イヤーを獲得。直近ではアフリカ(ガンビア)のルーツを色濃く表現するコヴェントリー出身のパ・サリューと共演した「Bad」でダンスホール風のビートを乗りこなすなど音楽的にも着実に幅を広げている。また、Aitchは昨年公開された《NME》のインタヴューでは、手にした名声とその責任について「自分が手本にならなければいけないことを、より強く意識するようになった」と妹の存在を引き合いに出しながら語っており、今後はさらに多面的なリリックにも期待できそうだ(おそらく今年リリースされるであろうAitchによるファースト・アルバムにも期待!)。つまり、Aitchは名実ともに、ArrDeeより一足先にUKラップ・シーンを象徴する存在となったMCといっていいだろう。事実、SNSを中心にArrDeeはAitchのミニ・ミーだという声もすでに多くあがっている。

無論、彼らは似て非なる存在であり、ニューカマーとしての印象が強いArrDeeをAitchで比較するのはまだ早いかもしれない。だが、注目を集めた後にどのように活動していくかを考える上でArrDeeにとって、Aitchの成熟の仕方はひとつの指標となる。一発屋で終わるのか、アワードに名を残すラッパーとなるのか。ArrDeeは今、真価の問われるタイミングを迎えようとしている。人生が変化する理由のほとんどは、意志ではなく環境にある(とあくまで自分は考えている)。ブレイクを経て取り巻く環境が変わっても、Cheeky Chappyは、Cheeky Chappyのままなのだろうか。いや、必ず進化を遂げるはずだ。ArrDeeは昨年の時点でミックステープの制作に着手していたようなので、新作はもうじき届くことになるだろう。果たして彼はミーム・ラッパーではないことを証明できるのか、楽しみに待ちたい(と書いていた矢先にArrDeeとAitchの共作曲のアナウンスが届いた!)。(高久大輝)

Text By The Notable Artist of 2022Daiki Takaku


【The Notable Artist of 2022】


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