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《見える室内楽 ― 構造を可視化する視聴会》を受講して見えた 『KAMMERKONZERT』の構造

04 September 2026 | By Tsumugi Nishimura

7月17日に京都精華大学で行われた特別講義『見える室内楽 ― 構造を可視化する視聴会』は、スクエアプッシャーの最新アルバム『KAMMERKONZERT』を読み解く試みだった。

講師には、in the blue shirtとして活動し、京都精華大学 メディア表現学部音楽メディア専攻の非常勤講師を務めている有村崚氏を迎えて開催された。会場となった京都精華大学には、メディア表現学部の他に、芸術学部、マンガ学部、デザイン学部、人文学部の5学部があり、視覚文化を強みとしている大学であるため、本講義のように音を聴くだけではなく視覚文化として“視聴”するというアプローチは、京都精華大学ならではだったように思う。

会場である京都精華大学 友愛館入口のイベント案内

Squarepusherのキャリアを3軸でマッピング

有村氏は、スクエアプッシャーのキャリアについて、
①電子音楽 ⇄ 生演奏
②アカデミック ⇄ バイブス
③ソロ ⇄ アンサンブル(人数感)
という3つの軸でマッピングした。

まず、①について、電子音楽と生演奏は両極にある音楽ジャンルだが、彼のキャリアでは反復横跳びするようにどちらもを往復して変遷しているという。

その例として、まず『Coopers World』がかかる。1997年リリースのアルバム『Hard Normal Daddy』は、打ち込みの早いドラムのリズムに生ベースが乗っており、まさにスクエアプッシャーのシグネチャーとも言える。こ れを電子音楽と生演奏の間(=基準)であると仮定すると、次にかかった1997年リリースのEP『Maximum Priest E.P.』収録の『A Journey To Reedham』は、電子音楽に寄っている。次に聴こえてきたのは、翌年1998年リリースのアルバム『Music Is Rotted One Note』収録の『My sound』で、この作品はドラムも鍵盤も生で多重録音しており、まさに生演奏の作品と言える。その後、2001年リリースの『Go Plastic』は電子音楽寄り、「この世で1番いい曲と噂もある~」と有村さんが『Iambic 9 Poetry』をかけると、笑いが起こり、頷きながら聴く受講者。そんな『Iambic 9 Poetry』が収録されている『Ultravisitor』(2004年)は生演奏寄りで、『Hello Everything』 (2006年)は電子音楽に寄っており、2009年にはパリ公演の独奏を無編集収録した生演奏の『Solo Electric Bass 1』がリリースされている。そして、2012年には生楽器を全部排除した純エレクトロニック作『Ufabulum』が生まれている。このように、電子音楽と生演奏を行ったり来たりしている、広い幅のあるミュージシャンであることがわかる。

次に、②については、先ほどの電子音楽と生演奏という軸は、同時にアカデミックとバイブスという言葉にも当てはまるのではないかという議題で、「電子音楽=バイブス」「生演奏=アカデミック」となるのではないかと以下のように有村氏は言う。「電子音楽は、速いスピードでブレイクビーツを刻んでいること自体が利害の出来事であるというか、バイブスというか、合理ではたどり着けないようなアレンジが多すぎるんですよ。一方で、楽器を演奏するとなると、音楽教育もしっかり受けていて、譜面も書けて、プレイヤーとしても高いレベルでいて、ジャズもできて、フュージョンもできて……みたいな。プレイヤーとしての顔を見せることで、アカデミックな香りがすると思うんですよ」。

①を横軸、②を縦軸に配置して、以下のようにマッピングすると、右肩下がりの分布になることがわかる。最後に、③の「人数感」は、聴いた時に示唆される規模感(何人で演奏しているように聴こえるか)を意味する。何人で演奏しているように聴こえようとも、トム・ジェンキンソンが1人で演奏しているため、実際に演奏している人数とは異なる。まず例として出された『Squarepusher Theme』は、ブレイクビーツの上にベースを入れており、1人のミュージシャンが作っているように聴こえる一方で、『My sound』や、少なくとも「バンドの体(てい)で作られた『Just a Souvenir』は、バンドの編成で演奏されているものが想起されるため、3人くらいで演奏しているように聴こえる。アルバム『Solo Electric Bass 1』は名前の通り1人に聴こえるなど、1人で演奏しているように聴こえる完全なる純電子音楽と、バンド編成を個人で吹き替えて作っている3人くらいに聴こえる作品が、彼のキャリアには混在していることがわかる。この人数感は、以下のようにマッピングでは、丸の大きさで示されている。


【ナンバリングアルバム 3軸マッピング】
https://intheblueshirt.com/kammerkonzert/map/


上記3つの観点からキャリアを辿ることで、単なるディスコグラフィ紹介ではなく、それぞれがどんな作品なのかを3つの軸で立体的に考えることができた。



最新作『KAMMERKONZERT』はどこに位置するのか

さて、『KAMMERKONZERT』を上記に当てはめて考えてみると、電子音楽と生演奏の融合はバランスよく中間地点くらいに位置しているが、アカデミックに寄っており、圧倒的に人数が多いと感じる。有村氏は、特に人数感の多さが今作の最も特異的な部分であるという。タイトルの『KAMMERKONZERT』が、ドイツ語で、「室内協奏曲(chamber concert)」を意味するのにも頷ける10人くらいの人数が想起される。

そもそも室内楽とは、それぞれのパートを1人で演奏し、4〜5人やそれ以上の演奏者で行うクラシック音楽のジャンルのひとつであるのに、各パートをトム・ジェンキンソンが1人で演奏・打ち込みしているため、示唆される人数感に差があるのだ。



レクチャー中の有村崚

譜面から読み解く!各曲の構成

ここでなんと、未公開の譜面が映し出された! 有村氏は今作をより理解するためにと、『K1 Advance』『K7 Museum』『K9 Reliance』を例に出し、それぞれを以下のように説明した。



『K1 Advance』:クラシックの方法論にスクエアプッシャーのバイブスを持ち込む (クラシック→スクエアプッシャー)
『K7 Museum』:スクエアプッシャーのバイブスでクラシックにアプローチする
『K9 Reliance』:電子音楽的な手法にクラシック楽器を持ち込んでいる(スクエアプッシャー→クラシック)

『K1 Advance』について、4拍目にフェルマータが付いていることで拍が伸縮し、0:05から登場するオスティナート(=テーマ)が繰り返されるなど、典型的なクラシックの手法が使われていることがわかる。作曲の時点でテンポを有機的に変化させているのだ。楽譜を見たときに、想像とかけ離れていて衝撃を受けた。とても自由度が高く、クラシックの楽譜に近かったため、楽譜を書いてからDAWに落とし込んでいるという順序に合点がいった。

『K7 Museum』について、冒頭のメロディはハープシコードで演奏され、途中からスクエアプッシャーらしいブレイクビーツのドラムがリズムを刻み始め、次にベースが入ってくる。クラシックの楽器であるハープシコードの持続音を、刻むビートで支えるという、通常では考えられない楽器編成の二層になっていることで、打ち込みなのに温かみとグルーヴが生まれるというような効果を生んでいるという。



『K9 Reliance』について、冒頭に低音にピアノが使われており、クラシックで使用される楽器にベースを弾かせていることがわかる。ドラムは、従来打ち込みで作曲してきたブレイクビーツを生演奏に変換している。この例でもわかるように、スクエアプッシャーが得意としているマシン・ライクなフレーズをクラシックの楽器に演奏させている。その考え方を念頭においてアルバムを聴いていくと、『K2 Central』は電子音楽的な手法が見られ(=『K9 Reliance』)、『K3 Diligence』はクラシック楽器を使用しており(=『K7 Museum』)、『K4 Fairlands』は電子音楽的な手法の上にバイオリンなどのクラシック楽器を持ち込んでおり(=『K9 Reliance』)、『K5 Fremantle』は拍が伸縮しており(=『K1 Advance』)、3つの手法のいずれかに当てはめられる。



最後に、『K7 Museum』のMVが映し出され、鑑賞した。今まで聴こえてこなかった、電子音楽的な、スクエアプッシャーらしいブレイクビーツのリズムとバイブスが見えた。

トム・ジェンキンソン本人の登場こそなかったが、有村氏の素晴らしい講義によって、複雑な音の絡み合いの正体が、レイヤー、視覚的配置、そして譜面によって可視化でき、より明確になった。『KAMMERKONZERT』は室内楽でありながら、実際にはトム・ジェンキンソン1人で構築された複数人格的なアンサンブルで、そのことこそが私が当初感じていた「スクエアプッシャーらしくないな」という違和感だったとわかった。スクエアプッシャーの30年にわたるキャリアを「何人で演奏しているように聴こえるか」という独自の尺度で読み解く視点。そして、耳で聴くだけだった音楽体験から、構造を可視化できたこと。スクエアプッシャーの音楽を深く知れた、まさに「見える室内楽」な講義であったように思う。(西村紬)


講師
有村崚(ありむら・りょう。1991年生まれ、京都在住。in the blue shirt名義で音楽や映像を制作するソロプロジェクトとして活動。自身の作品の他、TVドラマやアニメ、舞台演劇の劇伴、CMやWEB広告の音楽も手がける。2024年にフジロックフェスティバル出演。関西を拠点に音楽ワークショップ「Potluck Lab.」の運営、神保町・美学校でのワークショップ「サウンドシェア」の企画運営、京都精華大学非常勤講師なども務める。



Text By Tsumugi Nishimura


Squarepusher

『Kammerkonzert』

LABEL : Warp / Beatink
RELEASE DATE : 2026.04.10
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