「世の中には私が大好きな実験的なアルバムが山ほどある。それらが今も大衆にアピールするものになっているのは素晴らしいこと」
サヤ・グレー、デビュー・アルバム『SAYA』インタヴュー
カナダと日本にルーツを持つ、マルチ・インストゥルメンタル奏者/シンガーのサヤ・グレーが《Dirty Hit》から初のソロ・プロジェクトとなる『19 MASTERS』を発表したのが2022年。初めてインタヴューをしたときから彼女は、憧れの対象と自己像をはっきりと自覚していた印象がある。そうした理想と現実や溢れてくるアイデアをシームレスに繋げる作風は、コラージュ音楽だと感じていた。
『19 MASTERS』でソフトな音響効果のなかを、長い間抑圧してきたサヤの声が浮かんでは消えていく。続く、2部作からなるEP『QWERTY』(2023年)、『QWERTY II』(2024年)はサヤ自身が「陰と陽のような、アイデアとコラージュのコレクション」と語るように、エネルギッシュで複雑な変容を遂げた。ヒップホップのビート、ジャズ、ときにスラッシュメタルのリフが飛び交う高い演奏技術とユーモア。こうした奔放さに潜む衝動性は、ビョークを想わせるときがある。
だからこそ、2月21日に発売となるデビュー・アルバム『SAYA』のメロディアスさと恋に落ちたように穏やかなヴォーカルは新鮮に響くだろう。さらに旋律だけでなくスケールアップした音質には、兄のルシアン・グレー、ジョン・マヴロといった熟練アーティストの参加も大きい。そしてマスタリングにプリンスの作品を手掛けてきた、L・スチュ・ヤングが加わっていることも触れておこう。
このインタヴューでは『SAYA』の制作背景、レコーディングのプロセス、ジョニ・ミッチェルから受ける影響、アーティストとして危惧していることなど、たくさん話してくれた。サウンドを紐解く内容とあわせて、『SAYA』を聴いてみてほしい。
(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/安江幸子 写真/Jennifer Cheng)
Interview with Saya Gray
──デビュー・アルバム『SAYA』であなたは落ち着きを持っているように感じます。それには2023年秋に日本を訪れ、自由に旅したことで「精神的なしがらみを解いていった」ことが関係しているとありました。具体的に、どのような心境の変化を感じたのでしょうか?
Saya Gray(以下、S):このアルバムは私が自分の人生の中で、色んなものを終わらせようとしていたときに手放したかったものたちの断片でできているの。ということもあって、A地点からB地点への旅の始まりと終わりを感じさせるものにしたかった。悲しみのサイクルをまるごと網羅するものにね。独り旅に出ると、興奮、恐怖、悲しみ、嘆き、怒り……感情のスケールをすべて体験するじゃない? そのスペクトラム全体を伝えるアルバムを作りたかったのよ。AからZまでの旅全体をね。
──それが落ち着きにつながったのでしょうか。
S:そうね。これまでの人生、すごくカオスだった気がしているの。すごくクレイジーな生活をしていてね。今回は初めて、「もし“落ち着いた状態”を自分で作って、アルバムを作ったらどうなるだろう」と思ったの。曲をフルで書いてストーリーを伝えたいと思った。そのためには、物事をフォーク的な視点に戻す必要があったのよ。
──新作はビートルズ、レッド・ツェッペリン、そしてジョニ・ミッチェルの作品に多大な影響を受けたとありました。カナダにルーツを持つあなたが、ジョニ・ミッチェルを影響源に挙げているのが興味深いです。どのようなきっかけで、ジョニ・ミッチェルの作品をリファレンスに選んだのか教えてください。
S:ジョニ・ミッチェルのジャズやロックの取り入れ方…『Hejira』でジャコ・パストリアスを起用したこととか、ストーリーの伝え方、ウィットに富んだ歌詞を使ってハートブレイクについて語るところがいいなと思って。みんな題材は一緒だけど、大切なのはその表現の仕方だからね。彼女の息の長いキャリアや、インスピレーションを得るのに周りにほとんど自分を合わせようとしてこなかったところが素晴らしいと思う。何かをやるように何度仕向けられても彼女はブレなかった。それが私にとっては本当にインスピレーションになっているわ。特に今のご時世にはね。
──ジョニ・ミッチェル、レッド・ツェッペリンの音楽性はブルージーで伝統を継承しつつ、様々なジャンルや要素を取り入れる実験精神に富んでいたと思います。そうした精神面での共感はありましたか?
S:正統派のレコーディング手法にとてもインスピレーションを受けたわ。私にとってはauthenticity(正統派であること、信ぴょう性、真正性)という単語がすごく大事なの。あと、experimentalization(実験化すること)、それでいて理解可能であること。世の中には私が大好きな、実験的なアルバムが山ほどある。それらが今も大衆にアピールするものになっているというのは素晴らしいことだと思う。すごくアーティスティックでも理解できるものになっていてね。
──『SAYA』を制作するにあたって、幼少期を過ごした「故郷」のカナダを振り返る側面もあったのでしょうか? カナダに住み始めた時期のことを「70年代の日本をカナダに持ち込んだ」と話していましたが、このアルバムはあなたの幼少期を循環しているような気がしたので。
S:循環にはなっていると思うし、特に母方の曾祖母や祖母に対する壮大な賛歌になっている気がする。ムラタ家側ね。曾祖母が三味線奏者で、歌舞伎の劇場などで演奏していたってことが判ったの。曾祖母にはアートワークでも敬意を表したいと思って、昔の曾祖母の写真をコピーして、同じようなポートレイトを作ってみたの。その中で私たちが何なのかを彷彿させる要素を使ってね。昔の面影があるものとか、古い瓦礫とか。
──そのアートワークも含めて、このアルバムは「自己発見と成長の重要性を強調したもの」だと思いますか。
S:そうね。初めて自分のもろい部分とも向き合った作品だと思う。色んな感情を併せ持っていることがそれまでは陰に隠れていたけど、今回はこれが本当の自分というか、「これが私が経験してきた旅だ、ようこそこの旅へ、一緒に旅しましょう」と表現しているような感じかな。

──レコーディングはカナダ・トロントにある《Revolution Recording》で行われています。レコーディング期間はどのぐらいの時間をかけて進んでいきましたか?
S:ほんの2週間くらいだったわ。エンジニアのL・スチュ・ヤングがものすごく仕事が速くてね。ものすごく速い、稲妻みたいな指!(笑)。プリンスのエンジニアをしていた人だから、どんな人か想像がつくでしょ? プリンスのパーソナル・エンジニアをしていた人で、『Musicology』のマスタリングを手がけたのよ。そのことは知っていたわ。私のヴォーカルも手がけてくれたの。楽器に2週間、ヴォーカルに1週間半くらいかけていたかな。ものすごく速いプロセスだった。それから私が編集をしたんだけどね、何時間もかけて(笑)。私のプロダクションは完了するまで何時間もかかったわ。何時間も何時間もかけて、ひたすらドラム・テイクを編集したり、目ぼしいテイクをピックアップしたりしていたんだけど、採用したテイクのほとんどがライヴ・テイクだったのはラッキーだった。ものすごく多忙な作業だったわ。
──ということは完成までに1ヶ月くらいかかったと。
S:そうね、そのくらい。でもバンドメンバーのヘルプがあったからラッキーだった。みんながプレイしてくれたからね。いつもは私独りだけだから、すごくコラボ的なプロセスに感じられた。兄とも一緒に作業できたし、バンド全員が参加してくれて最高だったわ。
──『SAYA』ではスティール・ギター、ペダル・スティール、ナイロン弦のクラシックギター、ハープ、琴、ウーリッツァーなど芳醇な音色の楽器が多いと思います。これらの楽器はどのようなサウンド効果を狙って、取り入れられたのでしょう?
S:何だか、作る前からアルバムの音が頭の中で聞こえていたような感じだったのよね。それって素晴らしいことで、テクスチャーがわかっていたの。ペダル・スティールはずっと前から使いたいと思っていたのよね。ペダル・スティールのサンプリングはいつもやっていたけど、実際の楽器を使ったことはなかったから。トロント出身のクリスという素晴らしい男性が弾いてくれたわ。色んな感情の隙間を埋めてくれた。感情豊かな楽器だしね。本当に美しい音。そうして、アルバムの音をソリッドにしてくれたのよ。
──新作のメロディアスさは、こうしたテクスチャーのある弦楽器とあなたのヴォーカルが前面に出ていることも大きいと感じます。ヴォーカル・パートは、どのようなことを意識して曲作りをしてましたか?
S:ヴォーカル・プロダクションが私にとっては一番大きかったわ。これに対してはこだわりたかった。ヴォーカルが大きな存在になるってわかっていたし、自分にとっては初めてのスタジオ・アルバムだから…他の人のプロデュースをスタジオでやったことはあったけど、自分のアルバムをスタジオで作ったことはそれまでなかったのよね。だから自分ならではのサウンドを確実に維持する必要があったのよ。ヴォーカリストとして、そして『QWERTY』や『19 MASTERS』で感じたものをより大きなスケールにしたくて。自分にとってオーセンティックなものをすべて網羅しつつも、もっと膨らませて壮大な感じにしようと思ったの。色んなエフェクトやアナログのギアを使って、ちょうどいい塩梅のミキシングを確実にするようにした。スチュとは多くの作業を共にしたのだけど、素晴らしい方向に向かったわ。彼はいったん私のサウンドを把握した後はとても直感的だったわね。プロダクションの段階までこぎつけた後は、かなりプロセスが楽だった。ヴォーカルに関してはとても厳格にプロダクションを施しても、私らしい感じになることにこだわったの。『19 MASTERS』や『QWERTY』の自分を失ったとは思ってほしくなかったから。スタジオ・アルバムを作るときって、そうなってしまいがちなのよね。関わってくれる人も変わるし、ヴォーカル・マイクだって変わるし。そうするとピュアさを失ってしまうこともあるのよ。
──『19 MASTERS』リリース時のインタヴューで「全部自分でやらないといけなかったから、すごく制限があった」、「ほかの人をあまり起用しすぎずに、自分の感情をそのまま素直に表現するというのが、サウンドを作る上で一番大事なことだった」と話してくれました。『QWERTY』『QWERTY II』から兄のルシアン・グレー、ジョン・マヴロなどミュージシャンが殆どの楽曲に参加していますよね。彼らと一緒に制作をしようと思った理由は何でしょうか?
S:単に、その時がやってきたからじゃないかな。手を広げて、また試練を受けるべきタイミングがやってきたのよ。バンド・メンバー全員に参加してもらって、なおかつ自分も静かにしているんじゃなくて彼らをプロデュースするというのはものすごいチャレンジだった。今回はコミュニケーションのあり方もまったく違ったし、ミキシング・エンジニアを使うというのもいつもと全然違った。エンジニアを使うこと自体いつもと違ったわね。まともに使ったことなんてなかったから。だからスチュがいてくれたのは本当に素晴らしいことだったわ。まったく違う経験ができて。このアルバムは私のプロダクションを確かにしてくれたんだと思う。『19 MASTERS』と『QWERTY』はヒップホップ・スタイルの強いサンプリングの作品だったけど、今回は全部をサンプリングした訳じゃないからね。その要素はあるけど、サンプリングは今回は使っていなくて、曲を書いてプロデュースしたから。今までみたいに曲を書いてサンプリングしてその上に歌を入れるって感じじゃなかったのよ。まったく違う経験だったわ。
──他の人と作業することになってその経験をすることができたのでしょうね。
S:そうね。チャレンジだったのよ。同時にやり甲斐のあることだったわ。プレイしないことが功を奏することもあるのよ、私より巧い人はたくさんいるから(笑)。例えば私がピアノで行き詰まっていたら、友だちのAce Gが来て、たった1回のトライで最高のものを作ってくれる。私だったら20テイクは要っただろうけど(笑)。他の人のフレーバーが入るのは素晴らしいことよ。それらをミックスすることによって、全体に息吹が吹き込まれるから。ライヴはきっと最高になるわ。みんなそれぞれプレイしたパートをやることになるからね。
──カントリー・ミュージックからの影響があった「H.B.W」など、アディショナル・ドラム・プロダクションをルシアン・グレーが担当しています。ドラムやビートについて、どのようなコンセプトを共有していましたか?
S:兄は特に完成させることに長けているのよ。私が聴き取れないものがある時は特にね。私独りだとある程度までしか発展できないものを兄に持っていって、「これにもうひとつセクションを足すとしたら?」なんて訊くと、素晴らしいパートを作って10秒で戻してくれるわ。あと、エフェクトの使い方も素晴らしいの。私の頭の中にあるけど聞こえてこないものを、「ああ、それは70年代のこの音だね」なんて言って具現化してくれる。エフェクトやギアなんかに対して、知識の百科事典みたいな人よ。ギターのタイプなんかも「このタイプのギターを弾くといいよ」なんて教えてくれるの。本当にすごい、知識の百科事典みたいな人。
──お兄さんがいたことによって、色んなタイプの音をコラージュすることができたのかもしれませんね。新作は倍音やトレモロの揺らぎが多く含まれているように感じましたが、あなたが全曲プロデュースしていくなかで、こだわったことを教えてください。
S:主な狙いは曲を(自分の)期待に応えるものにすること。実は、元々はすごくシンプルなものを作る予定だったのよね。それが最終的にはシンプルじゃないものになった訳だけど(笑)、できるだけみずみずしく贅沢なものにしたいと思って。ステム・カウントが400を超えて、セッションの最大量に達していたわ。スチュにとってはクレイジーな話だったけど、チャンピオンみたいに最大限のコントロールを使って、見事に作り上げてくれた。旅を体現した、贅沢さとシンプリシティを併せ持ったものにしたかったの。スローな曲も速い曲も入れて、感情のスペクトラム全体を網羅したかった。それはソングライティングだけじゃなくてプロダクションにも言えることで、「無」の瞬間があったと思えば「極端」な瞬間もあるような感じにしたかったのよね。

──長年のクリエイティヴ・パートナーであるジェニファー・チェンと手がけた「AA BOUQUET FOR YOUR 180 FACE」のMVなどのヴィジュアル、視覚的なインスピレーションはどういったところから得ることが多いですか?
S:多くは私自身のクレイジーでカオスな心から来ていると思う。ジェン(ジェニファー)はそのクレイジーでクリエイティヴな考えを汲み取って、私が何を意味しているかを理解することが最高に上手なの。時には100くらいネタを持っていくこともあるけど、それを整理して参照してくれることにものすごく長けているのよ。「あなたが私に言っていることからこういうものが見えてくるわ」なんて言ってね。彼女がいなかったらどうなっているか…彼女はヴィジュアル面で極めて重要な存在よ。ヴィジュアルを統合してくれるの。ブランド全体もね。真のクリエイティヴ・ディレクターだと思う。素晴らしい人。そして彼女自身もアーティストだから、誰かのために働くんじゃなくて、その人と一緒に働いてくれるの。一緒に作ってくれる。彼女が関わってくれて本当にラッキーだわ。私が何を作ろうとしているかを語ったクレイジーな説明を土台にした、ジェンのクリエイティヴな表現といったところね。私は自分が感じたいものの参考になるものを彼女に持っていく。そこから始まって、行ったり来たり、行ったり来たり、行ったり来たりしながら、その感じが掴めるまで煮詰めていく。実は最後まで曲を聴いていなかったりするのよね。
──MVのアイデアが先にあって、音楽は後からなのですね。
S:そうなのよ。通常は私の立ち位置的なものを伝えるの。私は曲を書いているその位置を生きているような気がするし、今自分が生きていないものについては書かないから。彼女は友だちだから、どんな「時代」を描こうとしているのか解ってくれるわ。
──以前はSNSにあまりポストしないタイプだとあなたは話していましたが、SNSに対する行動が変わるきっかけは何だったのでしょうか?
S:ちゃんと一通りSNSを経験しておかないと意見も言えないと思ってね。自分で経験しないことについては意見したくないタイプだから。今はたくさんの世代が、「情報はたくさんあるけど経験がない」状態じゃない?だから私はまずオンラインに身を置いてみて、どんな感じなのか実際に体験してみたいと考えたの。
で、やっぱり自分には向いてないなって思った。私は感受性が強すぎるから影響されやすいし、それって自分のアートにとっては危険なことなのよ。他のものに似ているものを作ってしまったりして、影響が丸見えになってしまう。私は今、オンラインと健全な関係にいると思うわ。SNSアプリを入れていないし、使ってもいないけど、私のオンライン生活を手伝ってくれる人たちはいる。私に身の周りの出来事を知らせるのに絶好のプラットフォームだってことはわかっているわ。じゃなきゃ私はビーチで風に向かって叫んでいることになって(笑)、誰にも聞いてもらえないもの。今はすごく居心地のいい状態で、自分がポストすることに抵抗はないけど、実際の投稿作業を行っているのは私じゃない。人が代わりにやってくれるの。つまり、プロキシを通した私ってことね。プロキシが私にとってのSNSの境界線で、その状態に満足しているわ。
──どうやってそのいい着地点が重要であることを見い出したのでしょうか。
S:消費者たちと直接関わりを持つにはソーシャル・メディアが一番だと思ったんだと思う。そうでなければ、ストレートにつながる場ってないからね。ベストなプラットフォームだと思うわ。ちなみにTikTokとか他のプラットフォームはやってないの。
──あなたにとって音楽だけでなくヴィジュアル、ファッションを通じて「自分らしさ」や「アート」を失わないことは大切なテーマだと思います。今の音楽業界に対して「名声が芸術にとって代わってしまった。それは本当に悲しいことだ」ともありました。率直に今の音楽業界に対して、あなたが危惧していることを訊かせてください。
S:SNSは多くのアーティストを露出過多にしてしまったような気がするのよね。私たちがまるでブランドみたいな存在になることを求める期待が大きすぎる。
誰もがミュージシャンになれるのは素晴らしいことだと思うけど、今は飽和状態になっていて、自分の欲しい音楽を見つけるのが逆に難しくなってしまっている。新しいアーティストを見つけるのも至難の業よ。あまりに多いから。以前のSNSではコミュニティづくりの方により投資がされていたから、シアトルに住んでいたらシアトルの、トロントに住んでいたらトロントのアーティストの大ファンになっていたものだけど、今は門戸が広く開かれているからね…それは素晴らしいことではあるけど、同時にコミュニティ的には難しくなっているわ。自分が拠点とするエコシステムにファン・ベースがないってことだからね。かつてはすごくライヴ重視だったのに。
しかもAIの台頭によって音楽自体も変わってきているしね。それも悪いことじゃないけど、物事にはプラス面とマイナス面の両方があると私は思っているから。でも今は楽器をものすごく巧く演奏する人の数がどんどん減っているし、プロダクション面も、ヴォーカルのマスタリングとか…そういうものよりも、自分のブランディングや見映え、オンラインで誰とつるむかなどの方にフォーカスが置かれている。音楽やその人が作っているアートよりもね。全員がそうという訳じゃないけど、そういう人が多いってことは誰もが感じていると思う。今はアートのどの分野も飽和状態だからね。音楽業界やアーティストはオーディエンスに直接手が届くようになったけど、DSPの盛況でCDやヴァイナルを売ることも難しくなったし。日本はそういう意味で素晴らしいわよね。今でもヴァイナルやCDを持っている人たちがいる、数少ない国のひとつだし。フィジカルはDSPと同じくらい大切だと思う。アーティストたちはフィジカルによってお金を得ていたのが、今はDSPシステムを通じてになっているし、とにかく依然とは違うのよね。私、多分心は老女なんだろうなと思うわ。変化を受け容れられないというか。頭や心の中はいまだに70年代だし…って70年代に生まれてすらいなかったのにね! ヘンなファンタジーの世界に生きているんだわ。あるいは前世をいまだに引きずっているとかね(笑)。
<了>
Text By Nana Yoshizawa
Interpretation By Sachiko Yasue

Saya Gray
『SAYA』
LABEL : Dirty Hit
RELEASE DATE : 2025.02.21
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