「ロックから逸脱しようとしたけど逸脱できなかった」
SAGOSAIDが鳴らすカタルシスとサッドネス。
2019年夏、ファースト・カセット・シングル「Little Heaven」を皮切りに3本のカセット・シングルを発表し、話題を呼んだボーカル/ギターのSAGOを中心としたユニット、SAGOSAIDが、2021年12月に待望のファースト・アルバム『REIMEI』をリリースした。ピクシーズやダイナソーJr.、ソニック・ユースに代表される90年代オルタナティブ・ロックの正統な後継者というべきサウンドを鳴らしてきた彼ら。今作でも「Moment26」、「Spring is cold」といったカセットやライブですでにお馴染みになっているキラーチューンはロックンロールの衝動や興奮を味わせてくれる。しかし、より音質や録音にこだわったという今作における重いドラムと不協するギター、そして暗闇に響いていくような深い残響は、そうしたロックが有するカタルシスからあえて逃れようとしているようにも感じられ、このせめぎ合いと葛藤こそが彼らにしか描けない陰影を生み出している。そしてこのある種のネガディヴィティとでも言うような感覚をもたらす彼らの音楽には、ライブハウスやインディー・シーンといった枠を超えて、先を見えない日常を生きる私たちに広く、深く届く普遍性があるように思えてならない。
2020年に筆者がSAGOSAIDに行ったインタビューから2年。コロナ禍の影響に悩されながら活動を継続し、昨年末からはリハーサル/レコーディングスタジオの経営も始めたというSAGOに新作から音楽活動に対するスタンスまで多岐にわたる話を聞いた。(インタビュー・文/ドリーミー刑事)
Interview with SAGO
──《TURN》でインタビューさせてもらうのは約2年ぶりです。前回はちょうど二本目のカセット・シングル「Spring is cold」がリリースされたタイミングでした。あれから2年でアルバムが出たわけですが、ご本人としてはこの期間は長かったですか?
SAGO(以下、S):時間がかかったなという感じです。前作から今作までの間にはコロナがあったので、皆で集まれなかったっていうのが作品を作るにあたって影響が大きくて。曲はあるのに完成まで時間がかかってしまったなという感じです。
──でもその2年の間に、なんと(東京で)リハーサル/レコーディング・スタジオの経営を始めたという……。
S:そうなんですよ。私が会社を辞めたところに、ちょうど「スタジオを引き継がないか?」という話があったので。お金もかかることなのでさすがに結構悩みましたけど、ギターのシンマ君もめちゃくちゃやりたいってことで負担も半分になるならやろうかと。一人だったら絶対やってないと思うんですけどね。
──スタジオをやろうと思ったのは、ビジネスというよりは音楽というものを自分の生活や人生の真ん中に置こうという気持ちからですか?
S:本当にそういう感じです。ビジネスだけで考えたら私たちが目指すスタジオの様な形態だと全然儲かるものではないですし、やっぱり自分が大切なものは音楽だし、せっかくいい話があるのならやってみようかなって感じで。
──こういうスタジオにしたい、というイメージはあったんですか?
S:普通のスタジオと同じじゃつまんないから壁をおしゃれなグレーにしようぜ、くらいの感じでしたかね(笑)。あとは料金を一律に一時間いくら、という感じじゃなくて、バンドの活動形態に合わせたオーダーメイドっぽいプランを準備しています。あとは現在も居心地よくご利用いただけるよう努力中です。
──そしてそのスタジオの名前が《Studio REIMEI》。今回のアルバムと同じですね。
S:そうです。漢字で書くと「黎明」です。
──ということはまさに本作はStudio REIMEIで録音されたアルバムと思いきや……。
S:違うんですよ(笑)。このアルバムを録音していた時はスタジオをやるという話は全然なくて。アルバム・タイトルは、90年代の音楽が好きでそれに影響を受けた音楽をやってきたけど、結局、どんだけ頑張っても90年代そのままの音になるのは無理だし、新しいことをしたいなという気持ちになってきて……。歌詞もずっと英語でやってきたけど、しゃべれないしもう疲れた(笑)。じゃあもう突っ走るかという気持ちになって、日本語にしようと。そこで「新しいことをする」という意味の日本語を探していたら「黎明」という単語が見つかって。漢字もかっこいいし、これにしようと。
──歌詞は英語でタイトルだけ日本語っていうのは逆に洋楽っぽい気もしますね(笑)。漢字のタトゥー的な。
S:今回は音にリヴァーヴを足したんですね。なんで足したかというと、やっぱ自分は90年代のオルタナティブロックっぽいカラカラの音が好きだったんですけど、コロナ禍で家に閉じこもってずっと音楽を聴いていたら最近のバンドで音がカラカラの人が少ないなってことに気づいて(笑)。自分もカラカラな音じゃないといかん、みたいな気持ちじゃなくなってきたんです。
──90年代のオルタナ・サウンドを引き継いだ作品最新型として、本作ではとにかくカッコいい音が鳴っている一方で、そういうロックの興奮や喜びのようなものに易々と乗ってたまるかというか、そこから離れようという葛藤のようななものも記録されているところがこの作品にしかない深みだと思います。
S:自分でもそう思います(笑)。
──曲目の「What to do」の重いドラムが気怠く入ってくるところから、これはもう只事じゃないぞ……という予感がします。この曲は2019年夏にリリースされたデビュー・カセットシングル「Little Heaven」のB面でしたが、SAGOSAIDの中で一番キャッチーなその「Little Heaven」が入っていないというのもある種の意思表示かな、という気もしました。
S:「What to do」はライヴでも一曲目でやっていて、直感的に最初っぽい感じがあるんですよね。さっきもいったように今回リヴァーヴを足しながら録音をしていったら結構ダウナーなサウンドになっていって。「Little Heaven」も最初は入れようと思ったんですけど、どうしても本作のサウンドにはハマらなかったんですよね。
──今回収録された楽曲の多くはカセットテープでリリースされてきたものの再録ですが、もう一度レコーディングするにあたってのコンセプトやイメージはあったのでしょうか?
S:色々な音楽を聴いていて気づいたリヴァーヴを使ったサウンドを作ってみようとしました。今までは100%自分の好きなものだけで作ってきたんですけど、自分たちのリスナーも意識して今回はそのうち10%くらいは現世……?令和……?のサウンドの流れを意識した感じですね。今回も録音を自分たちでやってるんですけど、これまではできる限りメチャクチャにして、汚い音で録るのが好きだったんです。でも今回は自分たちの持つ技術を全部使って、できる限り綺麗な音で録ってみようとしました。これまではバンって一発録りしていたところをちゃんとパートごとに録音して、ミックスして、足りないところに音を足したりピッチ補正もしたりして。人に聴いてもらうぞ!という気持ちを込めて。
──その現世、令和の要素を足した仕上りはどうですか?
S:完成した時は綺麗な音で録れたぞと思ったんですけど、改めて他のバンドを聴くともっとみんなクリアで分離感があってヴォーカルも前面に出た音になっているんですよね。そういう意味では今の音にはなっていないかもしれないけど、逆に言えば自分たちのペースで一歩、二歩、進むことはできたかなって思います。普通こういう時は「すごくいいんで絶対に聴いてください!」って言ったほうがいいんですよね……?
──(笑)。でも結果的にどこにもないサウンドになっていると思います。
S:そうですね。本当にどこにもないサウンドだと自分でも思います。
──私がアルバムを聴いて印象に残っているのは、カセットテープで発表されていた作品と比べてヴォーカルの感情表現が豊かになっていることです。これによって心の奥底にあるサッドでブルーな感情がより伝わってきたんですよね。
S:それもやっぱり録り方を変えて、メンバー全員集まらずに自分一人の空間で落ち着いて時間をかけて歌えたというのが大きいと思います。今まではバンドで録音した後に、じゃあ歌を録るかって感じでみんながいる前で歌っていたので。それで自分たちのスタジオがほしいなっていう気持ちが大きくなってきましたね。
──例えば「Spring is cold」もカセットの時は道端のゴミ箱を蹴っ飛ばすようなカッコよさがあったと思うんですけど、今回のアルバムのテイクだとより気怠さが前に出てきているように感じました。このダウナーな気怠さがどこから来たものなのか、ということが興味深かったです。
S:元々自分の性格というのがめちゃ大きいと思います。でもこのアルバムを録音した時はコロナで家から出れない時期で、バンドメンバーで集まることもできないから何にも進まないし、めっちゃ焦っていました。とにかくなんでもいいから録音したいって。それで会えなくてもいいからって遠隔で録ったりして……。
──やっぱり早く出したいという気持ちがあったんですね。
S:次のことをしたいという気持ちが強くて、今やっている曲を早く出したいと思っていました。あとドラムのカイチ君は名古屋に住んでいて、遠距離でずっとバンドをやっていたんですけど、東京に来てもらえないという状態が続いていて、そのことにも焦っちゃってましたね。でも色々言ったんですけど、結局は元々気怠い性格なので気怠いサウンドになるのだと思います(笑)。
──SAGOSAIDは90年代のオルタナ・サウンドを追求してきたわけですが、当時のアメリカは景気も悪くて非常に暗い、特に若者が希望を持てない時代だった。今の日本と少し重なる部分もあるからこそ、若いリスナーが聴き続けているように思うのですが、そういった共通点を感じることはありますか?
S:すごくあると思います。自分は昔から本当に生きづらい人間で。日本の社会に適応できないというか。学校に行けと言われても行けないし、なんかやれと言われてもできないし。本当に適応できない。例えば今のフェミニズム的なことにも通じるんですけど、「なんで女の人だけ子供を産まなきゃいけないの?」とか子供の頃から疑問に思ったりして。そうすると「女の子なんだから当たり前でしょ」とか言われるんですけど、その度に暗くなったりして。自分の疑問を社会に投げても跳ね返されてしまうから性格もひねくれてしまう。そういう中で中学生くらいの時に出会ったのがオルタナティブロックで、すごく響いたんです。日本の音楽にはないような歌詞だったりが、自分の気持ちにぴったりハマったんだと思います。当時、13歳とか15歳の時にはそこまではっきり理由が分からなかったけど。特に今も全ての問題が解決されて、生きていくのがハッピーなんてことにはなっていないので。だから今でもそういう音が好きなんだろうなと思います。
──この『REIMEI』というアルバムはそういう鬱々とした気持ちを抱えた人が思いを託せるものになっているように思います。
S:そうだといいんですけどね……。でも自分はその人の気持ちを救えるわけでもないし、本当にやりたいことをやっているだけなんで。たまたま聴いてもらってなんかフィーリングが合う人がいればいいなと思います。
──言葉を選ばずに言うと、これはいい意味で協調性のない音楽だなと思いました。やりたくないことは一切やっていない、ということが伝わってきて。
S:そう思います。でも自分的には次はもっと、いろんな人に聴いてもらえるようにしたいです。エゴ100%の音楽をやるということだけじゃなくて、どうやったら人に聴いてもらえるのか、ということも考えながら作りたいという思いはあります。
──今回の収録曲のうち、カセットではリリースされていない新曲で「Stay up late」という曲があります。不穏だったり気怠い空気が漂いつつも、ところどころでロックンロールの盛り上がりが不意に訪れる。この内省と興奮が入り混じる感じが『REIMEI』を象徴しているのでは……と。
S:私も実はこの曲が一番好きです。ライヴで演奏しても楽しいし。一番の推しです。人が聴いたらよくわからん曲だって思われるかもしれないけど。これが一番新しい曲……と言っても二年前くらいにはあったんですけど。この内省と盛り上がりの入り混じる感じという面で一番影響を受けたのは、SAGOSAIDでギターを弾いているシンマ君のバンド、VINCE;NTなんですよね。静と動のコントラストがすごくかっこよくて。
──今回のアルバム・リリース・ツアーを最後にドラムのカイチさんが脱退されたということで、また活動を見直さないといけない感じですか。
S:そうなんですよ。音源の録音なんかはもう始めているんですけど、これからどうしようかなって自分も考えているところです。
──これからはソロ色が強くなっていく感じでしょうか?
S:そうですね。次はソロっぽい、自分がやりたいことを追求することになると思います。
──じゃあこのアルバムはバンドとしてのSAGOSAIDの総決算って感じですね?
S:そうですね。『REIMEI』という名前の作品を出して、またこれから新しいことするぞという気持ちです。
──ちなみにソロ色の強い作品とはどういうイメージのものになりそうですか?
S:今までと大きく変わることはないと思うんですけど。今まではライヴでどうやって演奏するかとか、あまり同期の音を入れないとかバンド以外の楽器を入れないとかってことを意識していたんですけど、これからはもうちょっとバンドの音以外を入れていきたいなって思ってます。けど今のところ結局バンドだけの音になっちゃってますね(笑)。なかなか思った通りには進まないので。でもライヴ・ハウスに遊びに行って、色々な人とコラボしてるバンドを見ると「いいな、やってみたいな」って思ったり。ゲストを呼んでも何していいかわかんないんですけど (笑)。でも、バンドだとバンドの中だけのコミュニケーションの中からしかアイデアが生まれないし、一人だと一人のアイデアしか出てこないし。外部の人に介入してほしいなって思ってます。6eyesにゲスト・ヴォーカルで呼んでもらった時に日本語の歌詞を歌ったんです。自分の作品だったら日本語では歌わんやろって思ってたんですけど、日本語もいいなって思ったんですよ。やっぱ自分の頭ではもうなんも出てこなくなってきたんで。別の人に頼りたいなって(笑)。
──他人に頼ることで生まれるオリジナリティがあるかもしれませんしね。
S:髪の毛を緑にしたのも、MVを撮ってくれた篠田(知典)君が「緑にした方がいい」って言ってくれて。それは似合わないでしょって自分では思ったんですけど、そこまで言うなら他人の意見を信じてみようとやってみたら、めちゃくちゃ気に入って。なので信頼できる人の意見を取り入れてみるのもいいなと思ったんですよね。自分の思いつきとかやりたいことがベースにはなるんですけど、人が言ってくれたことも取り入れていったら面白い感じになるんじゃないかなって。
──書く曲や歌詞も変わってきた感じがありますか?
S:ちょっとずつ……まだ全然暗いんですけど。でもスタジオを始めたりいろんなこともあったので、ちょっとずつ「こうしなきゃいけない」というものから抜け出そうとしている感じはありますね。今まではそこから出れなくて苦しかったんですけど、今はそこから出ようとしている歌詞になってきた感じはあります。
──今回いろいろと話を伺って、私のような第三者が想像するような型通りのストーリーにはまらない、偶発的で自由な閃きやアイデアから生まれてくるんだな、ということが分かりました。
S:音楽を作る人ってあまり作品をどう聴いてほしいかってことは言わないことが多いじゃないですか。「そこは聴く人の自由だよ」みたいな。自分も基本はそう思っているし、言わない方が聴く人の想像が広がるとは思うんですけど、言わないと伝わらないことが多すぎるって日常生活の中でも思うんですよね。せめて「こういう風に取られたくない」ってことは言っておかないといけないなって思うんですよ。そうしないと、例えば自分の表現を勝手に解釈されて自分が望まない何かに加担しているように捉えられたりするかもしれない。それは嫌だなって思うようになりました。なので制作の意図みたいなことについても、言わなきゃいけないことはちゃんと言っておこうと思ってます……けどあまり話せてないですよね(笑)。
──いや、何か言っておくべきことがあればぜひ。
S:やっぱり歌詞は佐合の独白って感じですよね。英語ではあるんですけど、CDには日本語訳の歌詞カードもついているので、そこはぜひ読んでほしいなと思います。
──まさに独白という感じですよね。特に夜と朝という、二つの時間帯を対照的に表現しているところが印象に残っています。
S:やっぱり夜が好きで、朝は好きじゃない。
──どういうところが?
S:なんか普通に朝は起きられないんで……ってなんだその理由(笑)。
──(笑)
S:インタビュー映えするカッコいいことが言えなくてすみません(笑)。でも『REIMEI』っていうタイトルはカッコいいんで。あと自分のポイントとしては、やっぱり最初に言った、ロックから逸脱しようとしたけど逸脱できなかったという暗さみたいなものがあるんじゃないかなって思ってます。結局自分にはここしかない、という諦めのような感情が出てるんじゃないかと。
──でもそういう必ずしもポジティヴではない感情表現こそがロックですよね……とキレイにまとめるようなことを言ってしまいましたが(笑)。
S:(笑)そうですね。そう聴こえるといいと思います。
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Text By Dreamy Deka