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シャロン・ヴァン・エッテンとの共作曲で大注目!
ジャズやフォークロアとも行き来しながら柔軟にポップスに向き合うケイト・デイヴィス登場

02 December 2019 | By Shino Okamura

今年2019年は本当に多くの女性シンガー・ソングライターが、インディー・ベースを出発点にしつつも、それぞれに制作の力点が明確な跳躍力のある作品をリリースした。ワイズ・ブラッド、ケイト・ル・ボン、エンジェル・オルセン、クライロ、フェイ・ウェブスター、そして個人的大発見のジョアンナ・スターンバーグ…。1月リリースだったのでやや記憶が遠のいてしまっているが、今やボン・イヴェールとともにレーベル《Jagjaguwar》の顔とも言えるシャロン・ヴァン・エッテンも、インディー制作という枠組みを超えた規模の大きさを感じさせる存在であることを新作で改めて証明したと言っていいだろう。ヴァン・ダイク・パークスとのコラボ作を発表したグァテマラのギャビー・モレノ、同じくヴァン・ダイクが1曲だけだがアルバムにアレンジで参加したフランス出身のソフィア・ボルトらも、ビリー・アイリッシュやラナ・デル・レイらが体を張ってチャート・アクション上で活躍する傍で、豊かな音楽性を静かに育んで発揮しているフィメール・アーティストだ。

このケイト・デイヴィスも今年活躍したそうした女性アーティストの一人としてカウントしておきたい重要な人物だろう。シャロン・ヴァン・エッテンのアルバム『Remind Me Tomorrow』収録曲「Seventeen」をシャロンと共作して一躍注目を集めたのがケイト。オレゴン州ポートランド出身の彼女は、ジャズやクラシック、アメリカのフォークロア音楽のマナー、知識を大学などで実地と研究を重ねながら丁寧に身につけた、ある種アカデミックな経歴を持つ変わり種だ。だが、過去の演奏動画などを探せば、スタンダードやポップスのカヴァーをジャズ・アンサンブルで披露しているものが見つかるが、そうしたジャズ・スタイルを一つの武器にしつつも、最終的にポップ・フィールドで活動しようとする柔軟で開かれた感覚の持ち主でもある。過去には名門《Concord》と契約をしたこともあるというそんなケイトに、11月に発表されたポップ・フィールドでの正式なデビュー・アルバム『Trophy』について、そしてこれまでのユニークな経歴について話を聞いた。(取材・文/岡村詩野)

Interview with Kate Davis

——あなたのキャリアを調べていると、とてもユニークな経歴であることに気づきます。今のあなたはゴージャスな衣装を着たり、華やかなアイメイクを施したりしていていますが、もともとアカデミックな音楽教育を受けているそうですね。まずは改めてプロフィールから聞かせてもらえますか?

Kate Davis(以下、K):1991年2月にオレゴン州ポートランド近くのウェストリン出身です。母と父はそれぞれ結婚する前から趣味で音楽をやっていて、80年代の曲のカヴァー・バンドで一緒に演奏していたようです。そういう音楽好きの両親だったので、私が音楽に興味を示したときには最大のバックアップと理解を示してくれました。ヴァイオリンを小さな頃からやっていたのも両親の理解があったから。音楽の趣味こそ両親の好みそのままではなかったんですが、プロのミュージシャンになりたいという夢は大人になるまでずっと私の心の支えだったんです。

——幼少時はどういう音楽を聴いていたのですか?

K:両親に買ってもらった最初のアルバムはEiffel 65の「Blue (Da ba dee)」でした。自分のお金で買った最初のアルバムはホワイト・ストライプスの『Elephant』だったと思います。

——小さな頃はロック、ポップ・ミュージック・リスナーだったのですね。地元の『Portland Youth Philharmonic』でコントラバスを学んでいたと聞いていたのでちょっと意外です。

K:私はクラシック音楽の…それも古典的なレパートリーに深く影響を受けています。でも、そうした音楽から、今の自分の作風にも生かされている、ハーモニーやメロディーの在り方を学びました。他にも10代の頃からレヴェルの高いユースのオーケストラで演奏していたこともあって、ブラームス、マーラー、サミュエル・バーバー、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズらの交響曲が大好きで、今もインスピレーションを得るためにしばしばそうした音楽を聴いたりします。

——さらに、ニューヨークに出て『Manhattan School Of Music』でジャズやアメリカの伝統的な民俗音楽を学んだと聞きました。確かにあなたの曲からは、ジョージ・ガーシュウィン、コール・ポーター、バート・バカラック、ビル・フリーゼルなどの作曲家やプレイヤーの系譜を感じることができます。こうしたアメリカのポピュラー音楽に対して、あなたはどのようなスタンス、アプローチを身につけたと言えますか?

K:確かに私は非常に多くのジャンルの音楽を学ぶことで、過去の音楽がその後のすべてにどのように影響するかを知ることができました。20世紀にハーモニーがどのように発展し、それがアメリカの音楽に直接影響を与えたかを知ることはとてもクールな作業。アメリカの偉大なる作曲家からジャズ黎明期のアーティストまでを知ること…それは、作詞作曲、作曲、ストーリーテリングへの愛を育むのに役立ちました。私は自分がやってきたこと、自分の嗜好するものが大好きで、そこに集中して学びを進めていたのですが、そこからさらに幅広い作詞作曲の伝統に興味を持ち始め、例えばそこからアメリカのフォーク・ミュージックについても学び始めたんです。私は今、多くの現代の作詞作曲とロック、ポップスの音楽に影響を受けていて、それが反映された曲を書いてますが、それよりももっと昔の音楽…過去200年にわたって書かれた古い音楽にも深く影響を受けているんです。

——しかもあなたはニーナ・シモンの「My Baby Just Cares For Me」を取り上げたりする一方で、メーガン・トレイナーの「All About That Base」をカヴァーしたりもしています。

K:ええ。ミュージシャンであれば誰でも一度は自分以外のアーティストの曲をとりあげたりしますよね。それが一つのインスピレーションになって広がっていくことが音楽の豊かさ。それに、そもそもメーガン・トレイナーの曲は演奏すること自体がとても楽しかったです。ニーナ・シモンは……自分の根幹を形作ってくれた大事なアーティスト。他にもジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディランなどの歌を演奏することで、彼らの中に住むことができるし、私自身歌や作曲のスキルを向上させることができるんです。



——ところで、2008年には『Introducing』というアルバムがリリースされ、2009年には『Kate Davis Holiday』というカヴァー・アルバムがリリースされました。これらはそもそもどういう位置付けのアルバムなのでしょうか?

K:大学でジャズを学んでいたのでアメリカのスタンダード曲をカヴァーして録音するのは自然な流れだったんです。私の父は私が当時演奏していたそれらの作品のいくつかを録音するのを手伝ってくれたんですけど、それならオリジナルも書いた方がいいよってアドバイスをしてくれて。そこから本気で自分の曲を書き始めました。ちょうどそうした境目に当たる時期の作品ですね。そのあと、私は老舗のレーベル《Concord》と契約したんですけど、残念ながら作品をリリースすることはできませんでした。

——ええ、私は《Concord》との契約のニュースを聞いていたので作品が出るのを楽しみにしていた一人です。ただ、結果として時間をかけてこうしてポップ・ミュージックに振り切ったアルバム『Trophy』を制作、リリースすることができました。初めて『Trophy』を聴いた時、ジャズやスタンダードの素養をちゃんと消化した上で、ストレートでカジュアルなポップ・ソングを作れる人なんだ、と驚いたくらいです。

K:ええ、意味のある自分の歌のアルバムを出したかったんです。何と言ってもこの『Trophy』ではバンドと素晴らしいスタッフを集めることができた。結果、私はポップなスタイルが好きですけど、今回はギターとドラムをたくさん使った仕上がりにしたいと思っていたことが実現できました。今回のアルバムの曲の多くはダークで感情的なので、サウンド、演奏面でもそれを反映しようと思って…。それができたことをすごく誇らしく感じています。

——今回のアルバムの曲は、そもそもどのように作られたものなのですか?

K:今まで学んできたことが結果として生かされた曲ができたと思っています。私は大学でジャズ・ミュージシャンとしてのスキルなどを学びましたが、それだけで本当に満足することはありませんでした。もちろんそれが生かされているからこそ、今は自分の音楽を作れているんだという自覚はあるんです。特にアップライト・ベースを身につけてきたことはアレンジの面でもすごく生かされていると感じます。あと、ヴァイオリンという楽器を知っていることは曲を作ったりアレンジする上ですごく助かっています。歌やメロディを支えるアレンジを考える上でとても役立ったんです。

——アルバムはブルックリンで、ティム・ブライトのプロデュースによって録音されています。そもそも今はブルックリンに住んでいるのですか?

K:はい、ブルックリンに住んでいます。ティムと私は、彼のホーム・スタジオである程度の録音をし、近くの大きなスタジオでバンドと共にいくつかの曲を追加でレコーディングしました。集中していたからどうしても時間がかかっちゃったんだけど、ティムはアレンジ、演奏などすべておいて不可欠でした。彼は素晴らしいギタリストなのでサウンドと演奏面でのバランスをとることもできたし、それを実現するための感覚、耳の良さも持ち合わせているんです。キーボードのマルコ・ベネヴェントらの著名なアーティストたちが参加してくれたのもティムのおかげ。彼の知人だったからこそスタジオに来てくれたんです。マルコはとってもクールなヴィンテージ・キーボードを弾いてくれたんですよ

——アルバム全体のテーマにも通じるのかもしれませんが、収録曲の一つ「I Like Myself」の歌詞がとても象徴的な印象に感じました。そもそもアルバム制作時の大枠のテーマはどういうものだったのでしょうか?

K:信じる必要があるメッセージだったので、この曲を書きました。私は苦労していて、自分でとても大変でした。自己愛がなければ、他人を愛したり、人生でベストを尽くすことはできないことに気付きました。まだ信じていませんでしたが、力を与えるために言葉を出そうとした重要な瞬間でした。それは私にとって非常に重要な歌であり、いくつかの困難な自己疑念を乗り越えてくれました。


ケイト・デイヴィスが共作したシャロン・ヴァン・エッテン最新作『Remind Me Tomorrow』収録曲「Seventeen」

——たぶん今のあなたのリスナーの多くはシャロン・ヴァン・エッテンのアルバムに参加していることをきっかけにあなたの存在を知るようになったと思います。現在、優れた女性シンガー・ソングライターがとても多く活躍するようになっていますが、女性としての目線から、今の社会、時代において、あなたはどういう表現ができると思っていますか?

K:ええ、まず私は昔からシャロン・ヴァン・エッテンの音楽が大好きだったんです。彼女は私のソングライティングにおけるのヒロイン。だから一緒にやれることができてとても光栄でした。彼女とは最初共通の友人を通して会って。とても温かく、新しい友人であり、仲間として私を歓迎してくれました。パティ・スミス、エンジェル・オルセン、ラナ・デル・レイ、エミリー・ヘインズ、PJ・ハーヴェイ、ケイシー・マスグレイヴスなどなど…。もちろん、エリオット・スミス、アンディ・シャウフ、ジョン・レノン、ダニエル・ジョンストン、(サンディー)アレックス・G、ジェームズ・ブレイク、ロバート・スミスも好きですけど…確かに女性アーティストの表現には共感するところは多いですね。ただ、どっちにしても、今私たちアーティストができることは、我々が生きている時間を作品として反映させることだと思っていて。私は自分の音楽通じて、多くの人間の経験になりうるものとして伝えているんです。もちろんそれには私たちが住んでいる時代の難しさも含まれます。そこを自覚しない人にも伝えていくということが大切ではないかと思って。そういう意味でも、さっき話した「I Like Myself」、あれはただの自己愛の歌ではないんですね。

——なるほど、今の時代を生きるのに必要なことを伝えるためには自分を信じる力、自分を愛する力こそが必要だと。

K:そう。自分自身を信じる必要があるというメッセージなんですけれど、ある意味、自己愛がなければ、他人を愛したり、人生でベストを尽くすことはできないことに気づいたんです。この曲を作るまでは、まだ正直そこまで自分を信じられていませんでしたが、そのための言葉を出そうとした重要な瞬間がこの曲に込められているんです。この曲を作ったことによって、自分の中にあるいくつかの疑念を乗り越えられたと思っています。<了>


Photo by Pip Cowley

Text By Shino Okamura


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Kate Davis

Trophy

LABEL : Solitaire / Tagboat Records
RELEASE DATE : 2019.11.20

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