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Black Boboi インタヴュー
最新作『Sepia』に込めた“記録と記憶”

22 May 2026 | By Nana Yoshizawa

2018年に音楽コミュニティ・レーベル《BINDIVIDUAL》の立ち上げをきっかけに結成された電子音楽ユニット、Black Boboi。Julia Shortreed、Utena Kobayashi、ermhoiの3人によるサウンドは、2019年のデビュー作『Agate』から独自の色があった。浮かび上がるような音像、アンビエント、エレクトロをシームレスに構築する手腕と柔軟な感性は、特に際立って見える。それぞれがソロ活動を行うBlack Boboiの作品には、お互いの異なる側面が自然と息づいているようだ。

前作『SILK』から約5年ぶりとなる最新作『Sepia』が4月にリリースされた。本作では、落ち着いた声の入れ替わりや息の合ったコーラス・ワークに加えて、テクノ、トリップホップのビートなど心地良くも危うさを孕んでいる。ここでインタヴューに入る前に“セピア”という言葉について『大辞林』から補足しておこう。何か彼女たちの言葉や本作を紐解けるかもしれない。

“セピア 〖sepia〗①イカ・タコの墨を乾かし,アルカリ液に溶かし,希塩酸で沈殿させて作る黒茶色の絵の具。水彩画・ペン画素描に用いる。②黒茶色。”

インタヴューでは『Sepia』の具体的な制作背景、創作活動を続ける中で考えていたことなど、Black Boboiの3人が語ってくれた。ぜひ『Sepia』を聴きながら読んでみてほしい。

(インタヴュー・文/吉澤奈々 写真/中野道)


Interview with Black Boboi(Julia Shortreed, Utena Kobayashi, ermhoi)


──本作『Sepia』はコンセプトをしっかり練られて制作されたということで、今回のコンセプトを教えていただきたいです。

ermhoi(以下、e):数年前に3人で小説を書くきっかけがありまして。どういう風に書くかというと、それぞれ手紙を送り合ってストーリーを進めていく方法でした。文通の中では、アポカリプス小説のようなものを作っていって、その内容をインスピレーションの源として曲を作っていく感じでした。

Julia Shortreed(以下、J):手紙を書いていく中で、徐々にSFのような物語ができていきました。受け取ったら、その先の物語を想像し手紙にしながら相手に渡します。

Utena Kobayashi(以下、U):なので、文通を通して作った小説に対して、サウンドトラック的な感じで音楽をつけていったのが大きなコンセプトになるかなと思います。

──《BINDIVIDUAL》のコンピレーションEP『BVBV』がリリースされた2024年5月の時点で、新しいアルバムを制作中とありました。

U:小説を書いたのは、とあるキーワードを元に文通してくださいという企画をいただいたのがきっかけで。ただ企画が流れてしまったので、そのまま文通は眠ってしまったのですが、『BVBV』を出した少し前ぐらいに、「そういえば、あの文通面白くなかった?」となりまして。小説を完成させて、それを元にアルバムをつくろうということになり、文通を再開し、楽曲制作を始めていました。その時点では、歌もあまりない、インストゥルメンタルが多めのサウンドトラック寄りだったんですね。そこからまたひと練りして、歌物になって、最終的に今回のような形になったので、今までのアルバム制作と比べると制作期間が長かったと思います。

──1作目の『Agate』からアートワークがモノクロだったり、Black Boboiをイメージするカラーが黒だったので、今回の『Sepia』というタイトルは変化を示してるように思いました。

e:今までは初期衝動やその時感じてること、“今”にかなりフォーカスを当てていました。今回の作品は小説のストーリーの中にも出てくるのですが、“過去”に気持ちを馳せるような部分がありますね。過去に思っていたことを大切にする気持ちを、ある意味肯定する。それを踏まえた上で、未来をどうやって生きてくか考える……きっかけを与える作品になったらいいなというのも含めてます。セピアって懐かしさを彷彿とさせる色だと思うので、そういったイメージを込めたタイトルになってます。

──《BINDIVIDUAL》のHPのインタヴューで、Juliaさんは「頭の中に広がる絵が合致した曲を二人に送りました」と拝見しました。文通を重ねていく中で、頭の中に広がった絵とはどういったものだったのでしょう。

J:物語の中では、3人が別々の世界に生きているという設定なんです。住めなくなった地球に残る人、海底に作られた都市に住む人、違う惑星に住むために宇宙船に乗って向かっている人、この3つの状況があり、それぞれの近況を文通で伝え合いながら物語が進んで行きます。地球に残る人(Utena)の状況は、ニュースなどを通して知ることができます。就寝時に頭部を機械へ接続することが義務付けられていて、統治機関にとって有害、危険だと感じられる感情、記憶を消去され、代わりに統治機関にとって有益な情報が脳へ書き換えられる。朝目覚めると、どこまでが自分の記憶で、どこからが統治機関の情報かがわからなくなり困惑しているというシーンがあります。

──そこで合致して送った曲はどれになりますか。

J:7曲目の「When I Fall Asleep」です。深く眠っていくにつれて、自分の記憶が少しずつ失われていく。人との関係性は記憶があるからこそ、その人との時間や距離を近く感じられるけれど、失った瞬間にとても遠い存在になってしまう。その人はまだ存在しているのに、もう会えなくなってしまったような気持ちというか。そんな感覚を書いた曲です。

──これまでに強い影響を受けた、もしくはインスピレーションをかき立てられた映画・映像作品があれば教えていただきたいです。

J:映画は『メランコリア』かな。このアルバムに限ったことではないのですが、ときどき、あの終末的なクライマックスシーンを思い出します。

U:「Between Us 2」は『メランコリア』のあるシーンをイメージして作曲しました。実は映画を見たことが無いのですが、広告の画像だったか、映像だったかを見て、その印象で曲をつくりました。私は何だろう。今思い出したのは、打ち上げの時だったかみんなでご飯を食べていた時に、中華屋で見た『鳥人間コンテスト』で高校三年生がもう最後のフライトなんだけど、何かの影響で飛べるか飛べないかみたいな映像。気づいたら涙が出てた。

e:私がインスピレーションを受けたのは、本当にみんなで書いたストーリーだけだったと思います。ストーリーの中に影響を受けてるアイディアというか、色々なSF映画の影響だったり、小説だったり、今まで見てきたものの積み重ねが詰まってるから。それがグラデーションになって、色んな映画の影響が出てると思う。

──「Complete silence」「Moon/Saturn」と艶のある電子音やビートがトリップホップのように感じました。以前、ermhoiさんは「Black Boboiの音楽はだんだん深めていけばいくほどトリップホップのようなサウンドかな」と言及されていましたが、今回のトラック制作で意識したことは何かありますか?

e:そうですね。テンポとか今の自分たちにちょうどいいエモーションの乗せ方でいうと、私はトリップホップやそれに近いジャンルで言い表せるかと思います。冷たい感じだったり、哀愁というか少し物悲しい感じの。だけど、今回はそれに加えて土の香りがするようなサウンドというのは意識してましたね。

──タイトル曲「Sepia」はビートとコーラスが最後にかけてとてもエモーショナルで、Black Boboiの冷静なイメージを良い意味で裏切るようにも感じました。「Sepia」はどういう思いを込められて作られたのでしょうか。

e:Utenaのアイディアで曲が始まったのですが、優雅で、おおらかな、広大なイメージを受けました。だから自然とそういう風な広がり方をしたと思います。今は希望がないだけではない、憂えて見ているだけではない、もう少し生きてく意志を持ちたいというか。それを共有していきたい気持ちがどこかにあります。

──前作の『SILK』はコロナ禍の影響が無意識にでも反映されていたと思います。『Sepia』が完成して、間接的にでも影響が反映されたと思う事はありますか? 先ほど話にあった、今の状況などを意識しましたか。

e:先にあった夢の中を機械によって記憶操作されるとか、そういうことは現実を見てても結構感じる部分はあります。SNS、フェイクニュース、AIなどどんどんと変わっていく世の中を見てると、それをどういうふうに受け止めればいいのかって、日夜考えてることだと思いますけど。

U:なんだろう。今回の文通の大枠の話として、まず私たちが決めたのが、情報が全て今インターネットとかクラウドとか、全てのものがメディアで保存されている。それが誰かしらの、何かしらの影響で全て消えてしまったっていう設定なんですね。そういったストーリーがベースになっていることもあって、“記憶と記録”について考えるきっかけになったりもしました。記録したい、思い出を残したいっていう気持ちはみんな人間が持っていて、すごく尊い気持ちだと思います。でも今思い出を残したすぎて、記録する行為にものすごくいきがちでもあるなと思ってます。それを今回のアルバムで否定肯定したいわけではなくて、思い出や記憶の儚さについて感じたことが楽曲に反映されていると思っています。例えば、ツーショットで撮った写真が消えちゃっただけで悲しくなったりとか。その人とまた会えるのに、物理的な思い出の一部が消えたことで喪失感を得たりする。もしくは誰かの声を忘れてしまうって想像して、切なくなったりする。そういった感情にリンクする歌詞がアルバムに含まれています。

あとは、文通の中の世界で、私たちはそれぞれ別の場所に生きてて、情報が統制されてる人もいれば、限られた情報しか得られない環境で住んでる人もいる状況で。3人で書いてる文通なので、あらすじも結末も決めていないけど、「また一緒に音楽できたらいいよね」みたいな文通にもなったりして、なんならどうにか会えないかな、集合場所は分からないけどどこかで会えないかなってトライしようともするんですね。コロナ禍で制作した 『SILK』の時もそうでしたけど、「どうやって私たちは歩んでいこう?」という答えのない問いかもしれませんが、そういったテーマがあるのが最後の曲「Sepia」です。

J:一緒に過ごしている時間を毎回映像や写真に残せないのだとしたら、その瞬間をもっと存分に味わおうとすると思います。私たちはその感覚をこの物語中で一度体験していて、3人でその世界に深く入り込みながら選んだ言葉や、その中で味わった感覚を音にしています。聴いてくれる方が少しでも何かを受け取ってもらえたら嬉しいです。

──ちなみに今後文通を公開する予定はないですか?

U:もちろん手紙を公開するかも議論しました。これが元だから公開していいんじゃないかとも考えましたけど、でも音楽という形にした時点で、公開が必要なのかなって。手紙を音楽にしてアルバムにして出すのが、今の私たちの答えというか今回の作品ですという感じかな。ただ、何かの片鱗が伝わったら嬉しいです。

e:いろんなキーワードなどが散りばめられているので、皆さん想像力を膨らませていただいてもいいなって思います。宇宙船に乗って移動している最中のシーンとか、クリオネみたいな想像上の生物の鳴き声を作ってみたり。

──最後に一問だけ訊かせてください。みなさんインディペンデントでDTMから音楽活動を始められて、縛られない自由さのようなものを大切にされてると思います。ソロ活動も増えていますが、メジャーに対するインディーの魅力をどういうところに感じていますか。

e:誰にも左右されないっていうことは一つ大事なことでもあり、リスクでもあるっていう。例えば、クリエイティブコントロールは自分にしかない。結構怖いことをやってるなと思いますね。自分が伝えたい表現は、これは人を傷つけることなのか、傷つけないことなのかとか、色々な部分において本当に自由なので。それが魅力でもあり、大変さでもあると思います。

U:メジャーの世界を知らないので、対するインディーの気持ちが分かり得ないというのが正直なところなのですが……。《BINDIVIDUAL》の当初の目的であった、個々が集い環境をつくり合う、といったコミュニティの中でみんなで支え合って活動してこれたことは思い出深いです。今はそれぞれの環境も変わって、コミュニティとして活動する機会は少ないですが、何かあればまた手を取り合えたら素敵ですよね。音楽に限らずですが、一人だけでは、自分たちだけでは出来ないことがたくさんあるので、感謝の気持ちやリスペクトを忘れないようにしたい。そのためにも、意見を出し合ったり、聞いたり、受け取ったりと、制作や活動においてクローズドになりすぎないようにもしたいです。インディーの魅力かは分かりませんが、BVを通して学べたことがたくさんあったと思っています。

──Juliaさんも、そこは同じ気持ちでしょうか。

J:はい、同じ気持ちです。私も《BINDIVIDUAL》の初めてのミーティングの日を今でも覚えています。自分たちで全てを決断できる環境や、制作において自由に表現できることは、もちろん大変さもありますが、それ以上に楽しいです。1作目の『Agate』では“思いきりポップスを作ろう”というところから始まり、2作目の『SILK』では、3人それぞれのアイディアをコラージュするように制作しました。そして3作目では、こうして架空の日記から着想を得て、物語の世界を深く掘り下げながら作っています。「自分たちが面白いと思うもの」に素直でいられること、採用されるかわからないけど、一回言ってみようというアイディア出しも楽しい時間です。一緒に何かを作れるメンバーがいるということは幸せなことですね。

<了>

Text By Nana Yoshizawa

Photo By Michi Nakano


Black Boboi

『Sepia』

LABEL : BINDIVIDUAL
RELEASE DATE : 2026.4.22
配信はこちら
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