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混沌から“眠くない街”東京を描き出す
(sic)boyとKMによる新作『CHAOS TAPE』完成!

02 November 2020 | By Daiki Takaku

SoundCloudから頭角を現し釈迦坊主の主催するイベント『TOKIO SHAMAN』の出演でも注目を集めながら、ロックに強く影響を受けたスタイルで群雄割拠のラップ・ゲームへと飛び込んだラッパーの(sic)boy。そして田我流をはじめBAD HOPやMARIA、SPARTAなどラッパーへのトラック提供だけでなくCM楽曲の制作や渋谷《VISION》での定期イベント「STEREO WAVE」の開催やblock.fmでラジオ番組『ADD. SOME RADIO』ではホストを務めるなど今や日本を代表するプロデューサーのひとりとなったKM。そんな2人が2月に発表した共作EP『(sic)’s sense』からのタッグを継続し、ここにフル・アルバム『CHAOS TAPE』を完成させた。

2人のバックボーンや制作に対する姿勢については前作リリース時のこちらのインタビュー記事も参照していただけると幸いなのだが、そのときの言葉でとりわけ印象に残っているのは「ヒップホップはまず自由でなきゃいけない」というKMの強い信念の滲む言葉だ。そんな信念のもと、両者にとって共通のルーツであるミクスチャー・ロックを起点にしながら、すでにYouTubeでの再生数が115万を超えている先行シングル「Heaven’s Drive feat.vividboooy」をはじめとした全12曲(CD限定でボーナス・トラック「Akuma Emoji (KM Back to 2002 Remix)」も収録)は前作を凌ぐ多種多様なサウンドのヴァリエーションでタイトル通りカオスな様相を呈している。しかし同時に、ここには「ジャンル東京」という大きなテーマが掲げられており、「何かあるようで何もない」なんてどこかで聞いた言葉のイメージもある東京という街が、2人の鳴らす混沌とした音楽の中からそのアイデンティティーを逆手にとるように新しい輪郭をまとって浮かび上がっている。そんな魅力的で不思議な体験を宿した本作について2人に話を聞いた。また少し脱線してKMの様々な活動に対する想いについても話してもらっている。そこにラップ・シーンの現在と本作がどのような意味を持つのかが垣間見えるはずだ。 (取材・文/高久大輝 撮影/SAEKA SHIMADA)

Interview with (sic)boy , KM

――前作『(sic)’s sense』リリース後ほどなくしてパンデミックを迎えたと思うんですが、モチベーションの変化などはありましたか?

(sic)boy(以下、S):リリース・パーティーも延期になってしまって僕もKMさんも少しヘコんだんですけど、逆にその分アルバムに気合いを入れることができたなと思います。

KM(以下、K):ちょっと時間軸がどうだったかあんまり思い出せないかな。忙しかった……。

――完成したときの手応えはいかがでしたか?

S:自分の中で前作よりも手応えはあって、やりたいことをKMさんと伝え合ってできたのかなと。作りたかったものに近づいていけたきっかけのアルバムになったのかなって聴き返していて思いましたね。

K:反応があるように作るのがプロデューサーだと思うので、自分は出てみないと結果がわからないんですけど、やっと最近反応が出てきて。この間「Ghost of You」がSpotify UKのF1のプレイリストとかに入れてもらえて、F1も好きだし、海外から反応があるのは嬉しい(笑)。アジアのアンダーグラウンドなメディア、《Eastern Margins》からも反応あったり。そうやって反応が出てくると大丈夫だったのかなと思える。僕は出るまでは結構ナーバスなんですよね。(sic)boyはもう次を作り始めてる感じですけど。

――タイトル通りまさにカオスな内容になっています。本作で目指したものについて教えてください。

S:リリックの中では「東京」っていうのを、KMさんとも話したんですけどテーマで掲げていて、(「東京」という言葉を)何度も言うことによって全部聴き終わったあとに印象に残るようにしたかったのかもしれないです。ごちゃ混ぜに聴こえることもあるかもしれませんけど、何か共通点が浮かび上がってくるかなと。そう聴いてもらえたら嬉しいですね。

K:東京ってなんでも聴けるし、J-POPって言葉ももちろんあるけれど、音楽的(特にダンス・ミュージックにおいて)には何も生み出していない気がしていて、それがないからDJとかアーティストが自分たちの国の音楽を誇れないんじゃないかなって思っていて。 UKだったらグライム、UKガラージ、ドラムンベースとかパッと出てくる印象があるじゃないですか。個人的にはそういうのが日本は全然なくて、自分もそういう負い目はずっと感じていて。ある日、ないならないでカオスが特徴、ごちゃ混ぜ感が東京っぽいなって開き直って、みんなで共有できるように音作りに落とし込んで行った。だからドラムンベースも入るしガバも入るしEDMやエレクトロニックな音色も試したり、取り入れましたね。意図的に取り入れたんじゃなくて、その感性を隠さなかった。

――「ジャンル東京」を掲げた本作ですが、東京に対してどのようなイメージを持っていますか?

S:東京からあまり出ることがないので、変わらないもの、不変のもので、街の景色は変わってもホームグラウンドというか。これからもそうなると僕は思ってますね。それにSpotifyのユーザー数を地域別で見ると東京都内の割合が高くて、それが結構嬉しかったんです。だけどもちろん地方でも聴いてくれる人を増やさなきゃいけないので、もっといいものを作らなきゃっていう焦りもありますね。

――曲のタイトルにもなっている「眠くない街」という表現も印象的です。

S:「眠らない街東京」っていうより眠くないんじゃないの?っていう感覚で。僕は今大学も行っていなければ、社会人として働いているわけでもないので、(sic)boyとしての目線からはそう思えて。

K:あれ、いいよね。僕も寝てる間になんか何か起きちゃうんじゃないかみたいな思いもあって。それこそ今のラップゲームって、本当に目を離した瞬間に誰かが新しいスタイルを試している。だから作っている側としてはそれを楽しめれば良いんだけど、プレッシャーもすごかったですね(笑)みんなすごいスピードで進んでるから、似たようなアプローチだったり、やろうとしてたビート感だったり、狙いが近いんだろうなっていうのが先に出ちゃったり。それは東京っぽさでもあるかもしれないですね。

――「似たアプローチのもの」について具体的に教えていただけますか?

K:kZm君の「TEENAGE VIBE feat. Tohji 」と先行シングルの「Akuma Emoji」が同じ日に出て、「Akuma Emoji」のサウンドってラップの枠から弾かれると思っていたら「TEENAGE VIBE feat. Tohji」もたまたま似たようなBPM感で、ラップの枠に囚われない2曲が一気にプレイリストに入ったので、プロデューサー目線からしたら、あの日、あの週が革命的だったと思っていて。そこからもう気を使わないぞって火がついたかな。

――ちなみに現在はUSビルボード・チャートでパンク・ロックのサウンドを大胆に取り入れたマシンガン・ケリーのアルバム『Tickets To My Downfall』が好調ですね。

K:似てるって書かれてるよね(笑)。

S:強いて挙げるならって感じですかね。「Ghost of You」だけ聴いてるとそう思うかも。

K:なんならマシンガン・ケリーより早いか、もしくは同時期にできてますからね。これ書いといてください(笑)。っていうか、Lil Peepを筆頭に、SoundCloudでオルタナティブなラップに火が着いてから、ラップ・シーンがロックも飲み込んでいくことは誰もが想像出来ていた。難しいのはタイミングと、あとは歌うアーティストにどれだけ説得力があるか無いかだと思う。

――本作ではミクスチャー・ロックだけでなくサイケやエレクトロなど多種多様なサウンドを聴くことができます。ただ一方である種の統一感もあると思うのですが、プロデュース、ミキシングにおいて意識した部分はありましたか?

K:今の若い子はSoundCloudとかYouTubeでラップを聴いてると思うんです、無料で聴けるから。音楽好きはSoundCloudとBandcampで掘っていく。そんな中からLEXとか(sic)boyもそうだし、スターが生まれてくると思うんですけど、ミックスはお世辞にも良いとは言えないものも多い。音圧を無理矢理上げるんですよ。そうするとキックとスネアが不自然なくらい浮き上がったミックスになる。そうやって何もわからず音圧を上げたものが再生数を叩き出すもんだから、そもそもクリーンな音で作っていたメジャーのレーベルの人たちがそれをフォローしたんだと思う。それが2016年とか2018年あたりで、XXXTentacionとかああいうラウドな音でそのままオフィシャル・リリースみたいなことが普通になってくると、もうそこに合わせないと若い子の耳って満足してくれない。 僕自身もそういうサウンドが好きだから、とにかくキックとスネアと808っていう、それってそもそもヒップホップの根本的な部分と繋がる部分だと思うんですけど、そこはすごく大事にしたかな。「Ghost of You」と「走馬灯」のドラムはまた方向性が違うけど。

――「走馬灯」ではノイズが全体に張り付くようなサウンドですね。

K:全体的に温かみが出るように、一回シンセで弾いたフレーズをアナログシュミレーターでダーティーにして、サンプリングしたような雰囲気を作った。それって彼が好きなロックの生演奏のグルーヴというか、キックとシンバルが同時に鳴ってコンプで潰れる音の感じのことなんだけど。アルバム全体に通ずる音作りですね。

――サウンド面でもそうですが、本作では前作以上にポエトリー・リーディング的なものも含めてフロウでも大きな振り幅がありますね。

S:ポエトリーもそうなんですけど、なんというか僕が1番やらなそうというか、似合わなそうっていうのが、シンプルな淡々と16小節のバースを2個蹴ることだと思っていて。それが自分の中ではやっていて楽しいことでもあったし、挑戦したいことでもあったんです。そういった面では前作の「(stress)」を個人的に気に入っているんですけど、今回さらに淡々とラップをすることの楽しさと難しさがわかった気がします。もちろん「Ghost of you」や「Set Me Free feat.JUBEE」のようなディストーション・ギターにKMさんのビートが重なって、そこに僕がエモというかラウドなノリで乗るのが「Hype’s」から続く僕のイメージだと思いますし、もちろんそれが1番の核として譲らずにやっていきたいとも思っています。それこそ全体サビがわからないくらいキャッチーさのあるような。僕はもともとそういう音楽が好きなので。

K:「走馬灯」が1番最後にできたよね。そもそもあと1個何か欲しいよねってなったときに、彼はフリースタイルもできるんですけど、その雰囲気をアルバムに入れてあげたかった。

S:普段は結構手直しするんですけど、「走馬灯」はすごいスピードで作っていって。今回挑戦してみて、そっちのほうが逆によかったりするのかなと思ったりしました。

――ポエトリー・リーディングやシンプルな16小節のラップと言う意味で影響を受けた作品などはありますか?

S:影響を受けているかはわかりませんが、BRON-Kさんの『松風』(2012年)は、ポエトリーではないけどあの淡々とラップしていてフックにはメロディーもあって、いいなと思って聴いていましたね。あとは友達のSalvador Maniの先輩なんですけどQNさんの『New Country』(2012年)ってアルバムがすごい好きで、RAU DEFさんの作品も好きですね。

――本作では前作と比べて自分を掘り下げるようなリリックも聴くことができますね。

S:周りのすごく仲がいい友達のこととかも歌っていたりして。そいつと将来のこととか話しているときの「結構大変なんだよね」みたいなことを「走馬灯」の2バース目では書いています。今までは間接的な誰かとか、街のことを歌うことが多かったんですけど、意外と身近にいる人とか、それこそ友達のこととか書いたことなかったのでこれもいいのかなって。ちょっと恥ずかしかったんですけど。

――「Ghost of You」には「説教したがりの馬鹿が多い」という痛快なラインもあります。

S:別に「俺はお前らの味方だよ」という意味ではないんですけど、意外とみんな当てはまるというか、大人だけ、子供だけ、じゃなくて。そういう点で切り口にできればなと。正直言うと説教されることとかはあんまりないんですけど、でもやっぱり中学とか高校のときのこととか、すごい嫌な奴のこととか、そういうときのことを意外とねちっこく思い出しちゃったりして(笑)。でもそうやってバカにされてた俺が今こうやってKMさんたちと作品を作っていることに対しては誇りを持っているし、これからもやめるつもりは全くないんで。そういう意味でもやっぱり「Ghost of You」をアルバムのリード曲として押したかったんですよね。

――本作には公式の音源として初めてJUBEEさん、vividboooyさん、LEXさん、Only Uさんといったゲストを招いています。KMさんはゲストが誰かを想定してトラックを制作されましたか?

K:いや、僕が誘ったのは「Set Me Free」でフィーチャーしているJUBBEだけで、それ以外は彼が決めたんですけど。

――どの曲もゲストの方の個性が生かされているように感じたので意外です。では「Set Me Free」はどのような流れで制作していったんですか?

K:そもそもJUBEE君もすごく特殊な立ち位置というか、普通のヒップホップファンからはちょっと敬遠されちゃうんだろうなっていうサウンドに果敢に挑んでいってるタイプじゃないですか。そういうところで共通する部分があるなと思ったので、いっしょにやってみたら?って。

S:初めはこのトラックの上でラップのしようがないなと思って。だから「Set Me Free」に関してはもともとはバースも蹴る予定だったんですけど最初にフックができちゃって、最後のシャウトの部分はJUBEE君が書いた後に最後に付け足したんです。それこそリンキン・パークのヴォーカリスト2人が掛け合う感じというか、ここからここまでで分けるという感じではなくセッションのような感じにしたくて。シャウトの部分はその日に決めてその日に録りましたね。

――LEXの登場する「Pink Vomit」のアウトロも面白いです。

K:(sic)boyのヴォーカルが入ったものをLEXに送ったら、ちょっとHookにするには短いヴォーカル・データが返ってきたので、それを人と違う使い方をしたいなと思って、アウトロに持ってくるっていう、なんというか贅沢な構成な曲ですね。

――多彩なアプローチがありますがリリックにも全体を通して流れを感じますし、すごくスムーズに聴くことができる曲順になっています。これは2人で考えたんですか?

S:打順はほとんどKMさんが組んでいて。

K:流れは僕が決めちゃったんです。曲の単体の方向性とかは全部彼が決めてて、もちろんアルバムの構成も話し合ったんですけど最終的にこれがいいんじゃない?って提案してそれがそのままOKになった感じですね。

――「Interlude」も全体の流れの中で重要だと思いました。

K:前のEPのときは「(stress)」のアウトロでスクリューして次の曲に繋がるような形に意図的にしてるんですけど、それと同じようにDJ的な感覚で。だから「Heaven’s Drive」から「Pink Vomit」に繋がるときにBPMが合わなかったんで、リミックスを後ろにつけてみています。あと、例えば「Pink Vomit」はアウトロにLEXがきて「Ghost of You」にすぐ繋がるようになってる。ちなみにそれはCharli XCX『how i’m feeling now』の影響もあって。あれって全部繋がっているように聴こえるような、一体どこからどこまでが1曲なのかわからないような感覚になるんですけど、そこから着想を得ていますね。あとおっしゃっていただいたようにちゃんとリリックで聴いて行っても一本のストーリーになってくれるような作りになってる。

――リリックには「信者」という言葉もありますがリスナーが増えている感覚はありますか?

S:SNSのフォロワーも増えてますし、チェックしてくれる人も増えたのかなって。「Heaven’s Drive」以降かな。

K:ライヴもかなり人が増えてたよね。あとはたぶん「Heaven’s Drive」で認知度が上がって、(sic)boyが自信を持てたところがあって、それで制作が加速していったのはあるかもしれないですね。それまでは「なんで認めてもらえないんだ」みたいな電話がすごかったんですけど(笑)。そういう期待に応えるのもプロデューサーの仕事なので良かったですね。

――話は少し脱線しますが、KMさんは渋谷の《VISION》で毎月第二土曜に定期イベント「STEREO WAVE」を開催されていますが、そのコンセプトはどのようなものでしょうか?

K:2019年の夏くらい(長年レジデントを勤めたクラブから退いて)から本当はもうDJあんまりしたくなくて断ってたんですけども。曲作るのに忙しくて時間無かったってのもあって。でも今年の6月とかかな?《VISION》からオファーがあって、どうせやるんだったら、ビートメイカーやプロデューサーが曲やビートライブを披露出来るイベントがあったら良いなと思って。DJって表現の幅が結構狭いと言うか、極論を言えば、今は誰でもできる。フロアの客層を読んでグルーヴを作るのがDJの仕事だと思ってるんですけど、そもそも(冒頭で言った通り)日本にダンス・ミュージックにおいて文化的な軸が無いから、パーティー・チューンもだいたいビルボード・チャートで決まっていて、そもそもそういうDJに僕はもう飽きちゃって。でも同じ気持ちの人たちって結構いるはずだよなって思って。EDM以降特に、DJが作ったエクスクルーシブとかDJ中に登場するMCやアーティストを楽しみにしてきている人も多いと思うのでそういう新しい部分、普通のDJパーティーではなく、プロデューサーが曲やスタイルを披露するパーティー、そういうものをいち早くやりたいと思ってます。それを《VISION》規模で開催していく難しさを痛感してますけども(笑)。

――KMさんは「東京の耳を信じてる」とSNSで何度かポストしていましたが、この言葉の指しているものについて具体的に教えていただけますか?

K:たまに、ああなりますよね僕(笑)。今の(sic)boyみたいな、USのラップとは全然違うラインでのラップっていうのは、いわゆる「日本語ラップ」の範疇じゃないかもしれないですけど、おそらく日本独自なんですよ。なぜか関西に多いイメージがあるんですけど、日本語ラップっていうステレオタイプの人たちの耳には入らないであろうLe MakeupとかLIL SOFT TENNISとか、『S.D.S=零=』に入っているような、日本のヒップホップ・シーンは本来ああいうのを潰しちゃいけないんです。ちなみに今USにはトラップっていう圧倒的な源流があるじゃないですか、みんなそれに乗っかってラップをパフォームして一時的なヒットを出して行っても日本には何も残らないんですよ。そこから一歩進んで例えばドラムンベースを取り入れるとか、たくさんの要素を取り入れて、試行錯誤のすえに初めて独自の日本語ラップが生まれなきゃいけないのに。言葉にするのは難しいんですけど、自分の耳で判断しろっていうのがその言葉の意味ですね。極論を言うと僕の言葉すら無視してもらってよくて、「KMの言ってること違うよ」っていう意見の方がむしろ健全な状態だと思う。これはアーティストがやりたいことと相反するんですけど、信者って本当は1番何も生み出さないんですよね。

――そこから広がりは生まれないと?

K:そう、フォロワーだから。今ヒップホップが好きな連中って絶対数が少ないじゃないですか。だからもっと独自な聴き方をしてもいいし、実はこういうの好きなんだよねって言っていいんですよ。2016年あたりから世界的にはLil Peepあたりのエモ・ラップの流れが来て、そのラインとは別で日本から(sic)boyみたいな独自の感性でラップをしてる世代も出てきたっていうのは本当にすごいことなんですよ。

――そういった「こう聴かなければいけない」というステレオタイプな感覚から生まれる閉塞感は未だにありますか?

K:閉塞感には、もう慣れちゃって分からないから気にしていないです。ステレオタイプの話で言うと、特にメジャーのレコード会社にその感覚を持ってる人が多いイメージがありますね。過去のロールモデルとかチャートからリファレンスを引っ張ってきて、「USレベル!新しい!」ってメディアに売り込む。マジで終わってますよね。もちろん、そうじゃない音楽は自然と耳に入ってくるし残ってくるし、アンダーグラウンドなパーティーでもプレイされてますよね。だから音楽業界はスタイルに貪欲な奴らを絶対に潰しちゃいけないと思う。逆にそういう人たちが(sic)boyを聴いてくれてるんだと思いますね。「リズムから考えるJ-POP史(blueprint)」を書いているimdkmさんという方だったり、僕の周りの友達レベルのライターの方やDJもそうですけど、心底音楽が好きな人たちが反応してくれているので、テンションは保ててます。最近は「Heaven’s Drive」のヒットでメジャー・レーベルからプロデュース依頼も増えたので、一つ一つ真摯に向き合って仕事していきたいです。

――イベント以外にもラジオ(「ADD. SOME RADIO」)でまだデビューしていない若手ラッパーやトラックメイカーなどの音源を紹介しているのもそういった意識の延長にあるのでしょうか?

K:そうですね、(sic)boyのおかげもあってプロデューサーとして注目もいただいているので、ここで自分の「好き」を展開していかないともうタイミングがないなと思って。ラジオもやってみるし、イベントもやってみるっていう。

――本作で2人のコラボレーションも一区切りということですが今後は別々で活動することが多くなりそうですか?

K:いや一区切りって書かないと自分名義のアルバムとかプロデュースの仕事が全然できなくて。年内の一区切りって感じです。実際は来年の企画がどんどん進んでるくらいなんで。この人はアルバムが作り終わった後もガンガン作ってますからね(笑)。

S:僕はいまだにデモを送ってて(笑)。このアルバムで引き出しは増えたというか、ひとつ成長できたと思うので早く次を作りたいんです。あと僕はちょっと来年に向けてライヴの練習だったりギターとか、バンドの方にも目を向けていきたいなと内心考えているのでそこの準備とかもアルバムがリリースされたら積極的に動いていこうかなと思ってます。

K:ちなみに「Ghost of You」のギターのソロの部分は(sic)boyが弾いてるんです。

S:これから僕がギターリフを作ってそれを送りつけることもあるかもしれないですね。そしたらライヴでも弾きながらできるし。あと人間的な面でもKMさんは的確な意見をくれるし視野の広さもあって。去年とかよりは少しは馴染めるようになってきたんですけど、やっぱり僕はまだ全然このシーンとかでライブも含めて活動の経験が少ないので。この先もひとりじゃ拭いきれない不安とかはKMさんに相談すると思います。

――最後にこのアルバムにこれから出会う方にメッセージをお願いします。

K:YouTubeのコメントとかを見てるとすでにいろんな感想を持ってくれる人がいて、The Chainsmokersに似てる、レニー・クラヴィッツに似てるとか、Weezerに似てるとか、マシンガン・ケリーに似てるとか、みんな言うこと全部違うじゃんって思ってたんですけども(笑)。でも、良く考えたらたぶん全部入ってるんですよ。レニー・クラヴィッツ聴いてる層とマシンガン・ケリー聴いてる層は世代もバラバラだと思うし。その人たちが自分が聴いてきた好きな音楽の中から、それを日本語で聴ける嬉しさとかも感じ取ってああやって応援してくれてるって考えるようになったら幸せなことだなと思えて。でもThe Chainsmokersに関しては調べたら「Sick Boy」って曲があって、音的にじゃなくて名前のせいかもしれないので、それはただの刷り込みだと思います(笑)。あと今回はパッケージもちゃんとしててブックレットに写真と歌詞も入って、デザインもこだわってるんで見ながら聴いてもらえたらいいですね。

S:すでにいろんなみんなの好きを重ね合わせて聴いてくれてて。それこそ『CHAOS TAPE』はなんでも入ってると思うのでいろんな層に刺さるんじゃないかと思います。アルバム全体を聴いてもらって自分のお気に入りの一曲を見つけて欲しいです。

<了>

   

Text By Daiki Takaku

Photo By SAEKA SHIMADA


(sic)boy,KM

CHAOS TAPE

LABEL : add. some labels
RELEASE DATE : 2020.10.28
TRACK LIST
1. HELL YEAH
2. Set me free feat.JUBEE
3. BAKEMON(DEATH RAVE)
4. 眠くない街
5. Heaven’s Drive feat.vividboooy
6. Pink Vomit Interlude
7. Pink Vomit feat.LEX
8. Ghost of You
9. U&(dead)I
10. 走馬灯
11. Kill this feat.Only U
12. Akuma Emoji
13. Akuma Emoji (KM Back to 2002 Remix) ※CD限定

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Tower Records / HMV / Amazon / iTunes

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