2026年上半期懺悔企画
TURNのロスト・アルバムズ25
静けさへの回帰──なのかどうかはわからないが、アルゴリズム、SNS疲れの果てに、自力で到達し、耳を澄ませ、ようやく手にいれる大切な瞬間を欲している。2026年前半に発表された数々のアルバム、楽曲に触れながら、そう感じている人は少なくないと思う。長い時間をかけて体内に入り込んでくるリズム、繰り返し聴くほど発見があるアレンジや構成、計算だけでも思いつきだけでもない必然を伴う音響設計、肉体と一つになったメロディ……気がつけばアルバムという単位で提示する作品が改めて存在感を増し、じっくり聴く体験を重視する流れはさらに進んだ。2026年前半もTURNはレヴューやインタヴューなどで数多くの作品をとりあげてきたが、それでも漏れてしまったものはあり、あれよあれよのうちに7月に入ってしまった。そこで、TURNとして取り上げるべきだった作品を編集部でピックアップした。とはいえ実はもっともっとあって……ああ、時間と猫の手がほしい、と唸りながら選んだ25作品です。ぜひご一読ください。(編集部)
Otto Benson『Peanut』
RELEASE DATE : 2025.12.31
実験音楽、フォーク、さらにはハイパーポップなどを複合した楽曲作りを続けてきたNY拠点の精鋭が、初めて向き合った本格的な歌ものアルバム。交流あるジェシカ・プラットほど古典的ではなく、だからといってジョン・フェイヒィ~ヘイデン・ペディゴの系譜ほどにはギタリストとしての目線が強いわけではない…など、アルゴリズムをせせら笑うようなつかみどころのなさが美しくリスナーを振り回す。インディー・フォークの形を借りた夢と移ろいと皮肉のアンビエント。(岡村詩野)
Joyce Manor『I Used To Go To This Bar』
RELEASE DATE : 2026.01.30
むかしこのバーにはよく通ってたんだ。そうアルバム・タイトルが告げる通り、本作はバンドの特徴であるポップ・フックを散りばめたパンク/エモ・サウンドと、ザ・スミスゆずりの哀愁たっぷりのメロディーを携えて、“あの頃”を振り返りながら、その時代から“いま”へと至る過程のなかで生じた変化について歌う。変わったこと、変わってしまったこと、変わってくれたこと。第四波エモを象徴する『Never Hungover Again』(2014年)を生み出した彼らの、幸福であり残酷でもある変化についてのアルバム。(尾野泰幸)
Softcult『When A Flower Doesn’t Grow』
RELEASE DATE : 2026.01.30
“Riot gaze”と表現するのは、カナダ拠点の姉妹によるデュオ・バンド。筆者が彼女たちを好きなのは、信念を持って自分たちの音を鳴らしているからに尽きる。ライオット・ガール、フェミニスト……当然の人権と搾取されまくってきた出来事を歌詞に綴り、ツイン・ヴォーカルで涼しげに示す。特に「16/25」の緊迫するドラムやギターとの対比は、ナイン・インチ・ネイルズの影響だけでなく、コクトー・ツインズの幽玄さを思い出す。(吉澤奈々)
By Storm『My Ghosts Go Ghost』
RELEASE DATE : 2026.01.31
正直、涙なしには聴けないアルバムだった。エクスペリメンタル・ヒップホップの領域を押し広げた3人組、インジュリー・リザーヴの2人がBy Stormとなり、Stepa J. Groggsとの死別から回復していく、その過程がここには生々しく記されている。『By the Time I Get to Phoenix』(2021年)と比べ、音の過激さは薄れているものの、ある意味で激しく、同時に美しい作品。(高久大輝)
Mandy, Indiana『URGH』
RELEASE DATE : 2026.02.06
「Dodecahedron」のキックに、Ye「Black Skinhead」の控えめな剽窃を聴く。2015年にも2019年にも、インダストリアル・フェティシストは世界同時多発的に出没してきたが、昨今はすこし様相を変えている。打ち込みの機械性よりも、パーカッショニストを擁した人力の金鳴り、機械の無慈悲を人間の腕が演じ、聴く者はその打擲に身体を委ねる。嗜虐の外形をとった甘美さ、インダストリアルとは誕生以来常にそういう倒錯のうえに在った。(髙橋翔哉)
Roy Montgomery『Guitars Infernal』
RELEASE DATE : 2026.02.06
『loveless』の飴色の癒しと、幾多の音楽家が東洋音楽に夢見た終わりなき持続、のあいだのなにか。轟音にも旋律にもなりきれずに、進行することを周到に避けたギターの音が、ただ堆積して風化されるのを待っている。展開しないし、到達しない。伏線は回収しないし、悲しみもないし、喜びもない。病もないし、老いもない。何もないまま、からっぽの空に潰される。Dadamah結成以来だろうか、ロイ・モンゴメリーは長く空虚な質量を枯らし/鳴らしてきた。このテキストと同じ。(髙橋翔哉)
Twisted Teens『blame the clown』
RELEASE DATE : 2026.02.13
10代のころ、『The Velvet Underground and Nico』に天啓を得たこのニューオーリンズの二人組は、空高く舞い上がるペダルスティールと、電撃のようなしゃがれたヴォーカル、痙攣するエレクトリック・ギターを組み合わせながら、無駄をはぎ取りシンプルに構築することでカントリーとパンクをクールに混交させた。本作が発表された5か月後にはアルバム・アートワークの色のように、憂鬱で哀愁ある物語を詰め込んだセカンド・アルバムをリリース。本作と対で聴くべし。(尾野泰幸)
Star Moles『Highway to Hell』
RELEASE DATE : 2026.02.26
フィラデルフィアを拠点として活動するミュージシャン、スター・モールスが、敬愛するフォクシジェンのツアー・メンバーをつとめ、長年の制作パートナーでもあるケヴィン・バスコをプロデューサーにむかえ録音した一作。キャメロン・ウィンターやワイズ・ブラッドもひきあいにだされる繊細かつ夢幻的に処理されたサウンドと、影響を公言するケイト・ブッシュのような弾力に富んだヴォーカルが印象的。(尾野泰幸)
Buck Meek『The Mirror』
RELEASE DATE : 2026.02.27
バック・ミークの楽曲はいつも彼の歌声が良い。本作でも軽やかで、飄々としたゆるい歌声が作品中を駆けまわる。プロデューサーはミークと同じくビッグ・シーフのメンバーであるジェイムズ・クリヴチュニア。電子音楽家としても活動する彼の手腕も手伝い、自身のソロ・ワークのどの作品よりも音数を増やし、カラフルでエクスペリメンタルに仕上げられたカントリー・サウンドが、ミークの歌とともに愉しく踊っている。(尾野泰幸)
Ms Banks『SOUTH LDN LOVER GIRL』
RELEASE DATE : 2026.03.13
近年のUKラップで最もリアルな曲の一つである「ME & YOU – OUTRO」を目一杯楽しむために、できればスキットの入っているヴァージョンを、頭から再生してほしい。ナイジェリア人の父とウガンダ人の母のもとで育ち、それなりに輝かしいキャリアを築いてきたラッパー、ミス・バンクスが12年越しに送り出した、ユニオン・ジャックの意味を再定義し得る、素晴らしいデビュー作。(高久大輝)
Antropoceno『No Ritmo da Terra』
RELEASE DATE : 2026.03.16
サンパウロ発、アートワークの世界観をそのまま音にしたような、湿度と密度のエクスペリメンタルMPB。“ひとり馬鹿騒ぎ”がダビーに折り重なってできたアンサンブルはブラック・ミディ以降の語彙の大流転を視せるようだが、この地域にはエルザ・ソアレス(Elza Soares)やメタ・メタ(Metá Metá)が耕した、土着の霊性とアヴァンギャルド・ノイズを混ぜる自前の土壌がある。本作の奔放さは様式の輸入ではなく、その地理的な系譜にある。(髙橋翔哉)
Avalon Emerson & the Charm『Written into Changes』
RELEASE DATE : 2026.03.20
ベルリンからニューヨークにバンドメンバーでもある妻と移った心情を綴る表題曲をはじめ、今作はシンセポップ~ドリームポップ寄りの作風だ。艶やかなシンセの音色やリヴァーブを多用したのも要因だろう。だがバンド主導のグルーヴによって、ダンス・ミュージックに近い仕上がりに聴こえる。と同時に、ベック『Colors』のように濃密なミキシングは、2026年上半期のリリースで最も凄みを感じた。(吉澤奈々)
Flea『Honora』
RELEASE DATE : 2026.03.27
視野に入れていたのは間違いなく本作のプロデューサーでもあるジョシュ・ジョンソン、ジェフ・パーカー、アンナ・バターズらによるユニットのETA IVtet。そのメンバー周辺と共闘した結果、抒情的でスピリチュアルなチェンバー・ジャズ作品になった。フランク・オーシャンやジム・ウェッブのカヴァーも含めた全10曲、カギの一つは自分もベーシストなのに敢えて迎えたアップライト・ベースを弾くアンナだろうか。トム・ヨークの参加が話題になりがちだが切り口はヤマのようにある。(岡村詩野)
Bon Iver『VOLUMES: ONE (SELECTIONS FROM MUSIC CONCERTS 2019-2023 BON IVER 6 PIECE BAND)』
RELEASE DATE : 2026.04.03
初の公式ライヴ盤にして、もしかするとブレイク以降最も重要かもしれない作品。ジャスティン・ヴァーノンが始めたアーカイヴ・シリーズの第一弾ではあるし、ボブ・ディラン、ニール・ヤングの同系シリーズをお手本にしているそうだが、実際に『22, A Million』『i,i』以降の複雑な楽曲を、肉体的でダイナミックなバンド・サウンドとして生まれ変わらせた演奏が伝えるのは、アメリカン・ロックの継承と、共同体としてのロックの真髄だ。間違いなく現段階での一つの到達点。(岡村詩野)
upsammy & Valentina Magaletti『Seismo』
RELEASE DATE : 2026.04.10
アップサミーによる環境に対する繊細な考察、マガレッティによるドラムという楽器にこびりついた古い価値観に対する批判的な視点、それらが重なり合った先に、ここまで遊び心と躍動感に溢れた世界が待っているとは、いやはやあまり想像できていなかった。実験的であることは、大衆を置き去りにすることとイコールではない。私たちの喜びの形は、まだ決まりきっていない。明るく、温かく、楽しいことはわかるのに、知らない、そんなアルバム。(高久大輝)
Hollie Cook『Shy Girl In Dub!』
RELEASE DATE : 2026.04.17
一時的にザ・スリッツのメンバーでもあったホリー・クックによるソロ5作目にして、陽だまりのようなモダンなラヴァーズ・ロック集『Shy Girl』(2025年)が、オリジナル版も手掛けたプロデューサーのベン・マッコーネの手によってアナログな手法でダブ化。二つの作品は完全に別物と言えるが、太陽と月のように輝きを共有している。(高久大輝)
Carla dal Forno『Confession』
RELEASE DATE : 2026.04.24
いわゆるシンガー・ソングライター的文脈の人の作品の中では、今年前半の屈指の1枚だと思う。実はこれが(ちゃんとした作品としては)4枚目とそれなりのキャリアの持ち主だが、C86的ポップなフックもあるメロディと不穏な心理描写の対比が鮮やか。そこにドゥーワップやロックステディの影響もあり、廃病院の一部をスタジオに改装した空間で数年かけて録音したからか音響の面白さも感じ取ることができる。(岡村詩野)
Kehlani『Kehlani』
RELEASE DATE : 2026.04.24
本作の圧倒的な出来栄えに驚くあまり、「王道R&Bの時代が戻ってきた!」なんて気持ちになるのはわからなくもないが、むしろケレラ『new avatar』や8月にリリースされるL’Rainの4枚目『fata morgana』などと並べて聴くことで真価の伝わる作品だろう。つまり、ブラック・フィメール・ヴォーカルによる歴史の継承と拡張に、より一層耳を傾けるべきタイミングが訪れているということだ。(高久大輝)
ashnymph『Childhood』
RELEASE DATE : 2026.04.28
アートワークは17世紀オランダのプロンクスティレーフェン、すなわち過剰な饗宴を精緻に描きながら虚しさを伝えるヴァニタスの様式で、音もまた同じ構造をしている。1981年のDAF、1982年のザ・キュアー、1985年のニュー・オーダー。参照を捉えようとしても上滑りし、どこでもない彼方へ飛んでいく。コールド・ケイヴ(Cold Cave)のような従順な借用ではなく、様式を全力で鳴らしながらその必然性のなさを晒すこと。なぜ今この音楽を? そんな飽食な空虚さゆえに無敵。(髙橋翔哉)
American Football『American Football (LP4)』
RELEASE DATE : 2026.05.01
このバンドは当然、自らが抱えてきたコンテクストや語りに興味がないのだろう。作品全体をひとつのムードで柔らかく覆うことに徹しており、もうほとんどアンビエンスとして機能している。近いのは『Songs of a Lost World』のザ・キュアーだ。ソングではなく空気を差し出し、感情の彫刻ではなく持続するエーテルとして佇む。聴き込ませないことは後退ではなく、むしろ成熟を意味している。(髙橋翔哉)
Ana Roxanne『Poem 1』
RELEASE DATE : 2026.05.01
シンセサイザーとヴァイオリンを中心に構成された霧雨のようなアンビエント・サウンドのなかから、アナ・ロクサーヌの小さい、けれども散らない歌声がはっきりと耳に届く。大きさや、飾りや、起伏や、広さといったスケールとは対極にある本作の音と歌唱は、実存の最小単位としての身体と精神の弱さや脆さを、決してマイナスなものとしてではなく、自らがここにいる、ここで生きているという確かな印としてより明瞭に伝えている。(尾野泰幸)
Maya Hawke『MAITREYA CORSO』
RELEASE DATE : 2026.05.01
女優/モデルとしても活動する、マヤ・ホークの作品はもっと評価されていい。アコースティック・ギターと詩を中心に、自己探究をする4作目では、インディー・フォークとポップの手法を丁寧に繋ぎ合わせた。フィドルの多彩なリズム、トイピアノやメロトロンの哀愁を帯びた表情と終始豊かなハーモニーが感じられて心地良い。前作に続いて、フィービー・ブリジャーズとも共作を行うクリスチャン・リー・ハトソンの協力が光る。(吉澤奈々)
Rostam『American Stories』
RELEASE DATE : 2026.05.15
そもそもアメリカ音楽とは何か? そこに自分はどう向き合うのか? そんなテーマを持ったアルバムが、トランプ政権が悪辣さを増している今作られたことの意味は大きい。アメリカーナとペルシャ系音楽は同じ故郷を持っているということを、クレイロも参加した混交するサウンドや歌詞のみならず、星条旗が逆さまになっているジャケもまた物語る。“イラン系移民でクィアでもある私だってアメリカである“という主張のもとに。(岡村詩野)
The Field『Now You Exist』
RELEASE DATE : 2026.05.15
アクセル・ウィルナーのこれまでの作品には2つの区切りがある。デビュー作から『Looping State of Mind』までは旋律やブレイクがはっきりしていて、“反復”はロック・ミュージックのように入れ替わった。『Cupid’s Head』から前作までの強調されたビート、霞がかかるドローンはミニマル・テクノに深く潜った時期だろう。8年ぶりの今作は、環境音ともシューゲイズとも形容しがたい持続音で3つ目の境界を引いた。(吉澤奈々)
Wyatt Smith『ever』
RELEASE DATE : 2026.06.01
友人の「そろそろ曲を作ってみたら」という声かけをきっかけに制作された3作目。前作『Maple』(ミキシングは長年の友人であるJay Somことメリーナ・ドゥテルテ)が無邪気なローファイ・ポップだとすれば、今作は真逆の位置にある。憂鬱を抱えたスミスの歌声はいつにも増して無理がない。特に「guitarfreestyle」のヴォーカルは、エリアス・ロネンフェルトのソロ作品と通じる奇妙な温かさに気づくはず。(吉澤奈々)
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Text By Shoya TakahashiNana YoshizawaShino OkamuraDaiki TakakuYasuyuki Ono
