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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Boldy James, Real Bad Man – 「Game Time」

USハードコア・ヒップホップ・シーンの一翼を担うクルー、Griseldaの一員としても知られる、アトランタ生まれ、デトロイト育ちのラッパー、Boldy JamesとLAのアパレル・チーム、Real Bad Manによる『Real Bad Boldy』(2020年)以来のタッグ作『Killing Nothing』から。不穏で重たいブーン・バップ・サウンドが鳴り響いた時点で思わずガッツポーズしたくなるが、低めの声と落ち着いたフロウでもってウータン・クランのレイクウォンに絡めて魅せるワードプレイも格別。そして節々で顔を出すヒリついたストリートのリアルと悲哀。荒々しくも冷静に書きつけられた街の記録だ。(高久大輝)



Bolis Pupul – 「Neon Buddha」

同じベルギーのシャーロット・アディジェリーとのコラボ・アルバム『Topical Dancer』が素晴らしかったボリス・パパルの新曲(今回も過去2作品を出しているソウルワックス主宰の《DeeWee》からのリリース)。アナログ・シンセをメインとしたフューチャー・アンティークな音作りでオリエンタルな旋律、レトロなフレーズをループさせていく曲調はYMOの「東風」やクラフトワーク「Pocket Calculator / Dentaku」などを思い出させるし、交錯させるその手法は故アンドリュー・ウェザーオールのよう。マカオ出身でベルギー在住というこの人の二つのアイデンティティを実にユーモラスに重ねている。(岡村詩野)



Phelimuncasi – 「Ngiphupha Izinto (feat. NET GALA)」

南アフリカのゴム・ユニットのセカンド・フル『Ama Gogela』から。3人のコール&レスポンスからなるヴォーカルと激しく刻むベース、粒状に弾ける電子音との絡み合いが楽しい。中盤、ビートが切り替わり音の位相が派手に変化するあたり、彼らとの新しいコラボレーターで、韓国のプロデューサーのNET GALAの存在が作用しているのでは。本作がリリースされた《Nyege Nyege Tapes》や、近年Ecko BuzzやSlikbackらのリリースで知られる《Hakuna Kulala》はどちらもウガンダのレーベル。東アフリカを中心にエッジーなエレクトロニックを紹介しており、今後追っていこうと思っている。(髙橋翔哉)



Spring Summer – 「Mountaineer」

キャス・マッコムや、ココナッツ・レコーズ、ベン・リーのサポート・アクトを務めながらキャリアを重ねてきたサンフランシスコ拠点のミュージシャン、ジェニファー・ファーチェスによるプロジェクト、スプリング・サマーが7月にリリースするニュー・アルバムからのリード・トラック。自身の友人でもあるというウォー・ペイントのジェニー・リー・リンドバーグのプロデュースのもと、これまでにファーチェスが書き溜めてきた無数のデモ音源を再構築して制作されたという本曲は、透き通るように響くヴォーカルの多重録音とリヴァーヴの重用により楽曲全体に奥行きがもたらされたインディー・ポップに仕上がっている。(尾野泰幸)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Alex G – 「Blessing」

突然空気を変えるシンセの層、抑揚もなくささやくように繰り返すセンテンス、淡々と進行するドラム、不意に飛び出す雄々しい掛け声、唐突に終わる教会のような旋律。青春ホラー映画『We’re All Going to the World’s Fair』(アメリカで4月公開)のサウンドトラックを手がけたアレックスだが、その不穏なムードはここにも引き継がれている。「毎日は祝福」の言葉とは裏腹に、どこか倒錯的な盲信、あるいは怨念のようにも響く彼の声。だがこの奇妙な感覚こそが甘美なのだと心は感じている。かねてから制約のないDIYの手触りが魅力的だったアレックス。違和感を巧みに操るSSWの手捌きは次の領域に進んでいるようだ。(阿部仁知)



Beth Orton – 「Weather Alive」

2018年にケミカル・ブラザーズとの共演曲「I Never Asked To Be Your Mountain」を発表しているが、これは企画的な意味合いが強く、実質的には16年リリースのアルバム『Kidsticks』以来の音源と言って差し支えないだろう。自身の名義では約6年ぶりとなる新曲は、《Anti》から《Partisan Records》へ移籍しての第1弾リリースであり、9月23日に発表される同名タイトルの7作目からのリード・トラックとなる。7分に及ぶ彼女らしいフォーキーな曲調なのだが、ザ・スマイルのドラマーであるトム・スキナーや、ロンドンのジャズ・シーンで活躍するマンチェスターのサックス奏者アラバスター・デプルームと、ベーシストのトム・ハーバートらを迎え、幽玄で繊細な音の響きを生かした空間が曲が進むに連れて、どんどんと広がっていくような印象を与える。9月の新作への期待が否が応でも高まる。(油納将志)



えんぷてい – 「まどべ」

昨年リリースしたEP「chorus」が話題を呼んだ、名古屋を拠点に活動する三人組のインディーバンド・えんぷてい。歌謡曲やアジアン・ポップスの香りが漂う叙情的なメロディを、ミツメやヨ・ラ・テンゴにも通じる余白と残響を活かしたギターサウンドで鳴らした陰影のある音像が特徴の彼ら。本作は「chorus」の楽曲を、リバーブ系のエフェクトを一切使わず、会場となった名古屋の銭湯の反響だけを利用した演奏を収録したライブ音源。この実験的なアプローチによって生みだされた、まさにいい塩梅としか言いようがないアンビエンスと角の取れた音質。バンドと楽曲の湿度とメロウネスが高まり、柔らかく心に染み込んでくる。(ドリーミー刑事)



Aoife Nessa Frances – 「Emptiness Follows」

アイルランドはダブリンのSSW、イーファ・ネッサ・フランシスが《Partisan Records》と契約して発表したニューシングル。ボサノヴァ風のゆったりとしたリズムと牧歌的なサイケデリアの中で、寂寥としたアルト・ヴォーカルは喪失の痛みを歌い、心の空白を優しくとらえる。オルダス・ハーディングも引き合いに出されるディープな歌声は、以前の作品では楽器と溶け合うバランスで配置されていたが、今回はグッと前面に。これまで以上に歌を聴かせようとしていることがわかる一方で、ハープや管楽器を使った、音の粒子やレイヤーを意識させる細やかなアレンジにも磨きがかかる。来たる2ndアルバムへの期待が高まる1曲だ。(前田理子)



Ella Mai – 「Break My Heart」

待望のエラ・メイのソフォモア・アルバム『Heart On My Sleeve』収録の、本人も気に入っているという一曲。深く惚れ込んだ相手に対し「誰かに私を傷心させるとしたら、あなたしかいない」と迫る歌詞は、ものの30分で書き上げたそう。シルク・ソニックやH.E.R.らの楽曲を手がけ、近年のR&BプロデューサーとしてはMVP級の活躍を見せるDマイルがプロデュース。アレクサンダー・オニール「If You Were Here Tonight」をサンプルしているが、ギターとシンセの音色は90年代半ばの煌びやかな夜を思わせるかのよう。夜の高速道路で聴きたくなるような一曲。(奧田翔)



Glasser – 「New Scars」

2010年の傑作『Ring』をはじめ、スリリングなトラックとディーバ然とした立ち振る舞いからビョークとも比較されるNY宅録エレクトロニカの至宝、グラッサーことキャメロン・メジロー。そんな彼女が5年間の沈黙を破り、静謐かつ猛々しくカムバックした。仄暗い水面を想起させるグランドピアノと歌のみのアコースティックなオープニングは、年月が彼女に負わせた痛みを想起させるのに難くない。だからこそ、私は彼女がこの曲のクライマックスで、シンセサイザーとストリングスの洪水に攫われる最中で「私たちの人生は続く」という諦観の念を繰り返す場面に、流れていってしまった痛みの愛し方と忘れ方を啓示されているような気がしてならないのだ。(風間一慶)



They Hate Change – 「X-Ray Spex」

UKベースミュージックからの影響を強く感じさせるフロリダ・タンパ出身のヒップホップ・アクト、《Jagjaguwar》からリリースしたアルバムが素晴らしい。ロザリアやデンゼル・カリーとの仕事で知られるニック・レオンをプロデューサーに迎えたこの曲のMVは、ジョン・カーペンターの映画『ゼイリブ』からアイディアを拝借。タイトルをはじめ「最近はスタイル・カウンシル、ペット・ショップ・ボーイズ、シャーデー、プリファブ・スプラウトに夢中」という発言や、“架空のベッドルーム”がテーマのアルバム・カヴァー(残念ながらボツ)など、雑食的でギークなセンスとエネルギッシュなグルーヴに元気をもらえる。(駒井憲嗣)



PVA – 「Untethered」

これはカッコいい。南ロンドンのバンドの中でも、クラブ音楽寄りのアプローチを採用する3人組。その《Ninja》からの新曲は、「想像上の綱からの解放」というド直球のメッセージを込めた超ソリッドなポストパンク・エレクトロ。特に打ち込みと生音を融合したビートの高揚感は、最高に尖ってた『XTRMNTR』期のプライマル・スクリームも顔負けの凄まじさ。ブリブリと唸るシンセや所謂「シュプレヒゲザング」との組み合わせは、自身の「Sleek Form」を発展形だが、よりスケール感のあるサウンドになっている。それは文字通りさらに大きなステージに向かうというバンドの態度表明だろう。バンド自身のプロデュース&ミックスという制作面の野心も含めて、完全に推せる。(佐藤優太)



Wallice – 「Funeral」

LAを拠点とするSSWであるWalliceことWallice WatanabeのEP『90s American Superstar』からの楽曲。架空のロックスターの回顧録的な作品だが、ラストとなる本作で自らを埋葬する。それは、自身のロックスター観の埋葬でもあり、アップデートでもあるだろう。それを示すかのように、彼女の楽曲では新機軸となるブラス隊がギターなど目一杯のノイズで鳴らされる終盤は、これまでの大団円でありながら、次への脱皮を思わせる。プロデューサーも、ギタリストも友人で固められた本作は、彼女の地に足のついたDIYなスタンスと、EPのテーマ性とのギャップが浮彫になっており面白い。(杉山慧)



lynyn – 「uja end」

シカゴ在住で、モノボディのギタリスト、管弦楽団やBrain.fmのコンポーザーなど多方面で活躍するコナー・マッキーが、90年代初期のIDMから受けた影響を存分に発揮しているソロ・プロジェクト、lynyn。音楽理論や電子音楽について学んだ経験に裏打ちされたメカニカルで多彩なビートが、ヒューマニスティックな感性で繋ぎ合わされる。その展開は、まるでアンドロイドが発達している過程のよう。またMVで表現されるテクスチャは明らかに異質なのに生命を想起させるカットも。本楽曲が収録されるデビュー・アルバム『Lexicon』は、同じくシカゴ拠点の《Sooper Records》から7月リリース予定。(佐藤遥)



The Loophole – 「R U GAE?」

狙いすました80年代ポップス・サウンドにのせて上ずった声でがなる直截的な歌詞……プロデューサー李權哲の溢れ出る才能は期待を裏切ることを知らないらしい。幼少期より父の影響で60年代から80年代のロック、ポップスを浴びて育ち、バークリー音楽院を卒業という確固たる来歴に支えられたユニークなセンスは唯一無二だ。The Loopholeは李權哲がベースを務め、同時にプロデュースも手掛けるバンド。昨年のアルバム『Isn’t It Annoying』で聴かせたサイケデリックかつフォークな60年代末ロックのヘヴィーな鎧を脱ぎ、本作では軽快なポップスをまとって同性への愛を高らかに歌う。その自由な姿に痺れる!(Yo Kurokawa)


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