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あらゆる蓄積のなせる技
サム・ゲンデル&サム・ウィルクス来日公演レポート

25 July 2022 | By hiwatt

ガラパゴス化状態にあると言われて久しい日本の音楽市場の一方で、日本の音楽受容というのはつくづく不思議なもので、一定数のレジスタンス気質な音楽ファンが存在し続けている。そして、そんな極左ミュージックラバーの欲求に応える、世界的にも稀有な音楽フェスが日本にはいくつかある。しかも、世界と比較して圧倒的に遅れている日本のコロナ受容と、超円安というパンチの雨を喰らいながらも、性懲りも無く開催されたのだ。 5月末に長野県で《FFKT 2022》が口火を切り、数組の出演者が惜しくもキャンセルするというハプニングがありながらも成功を収め、11月には静岡県で《FESTIVAL de FRUE 2022》が控えている。そんな《FRUE》が、都市部で暮らす同志を救うかのように、6月26日〜28日にかけて東名阪の3都市で《FESTIVAL FRUEZINHO 2022》を開催した。

私は、最終日に《ユニバース》にて行われた大阪公演を鑑賞。折坂悠太(独奏)、サム・ゲンデル&サム・ウィルクス、ブルーノ・ペルナーダスの順に演奏された。その中から、折坂悠太とサム・ゲンデル&サム・ウィルクスの演奏を中心に記す。

開演時刻となり、《ユニバース》のディスコ風情のある白いフロアは観客で埋め尽くされ、ほぼ定刻通りにステージに現れた折坂悠太。拍手をもって迎え入れられ、クラシックギターを手に取り、初期の名曲「馬市」が披露されると、徐々に会場の熱も上がっていく。

歓声が上がる中、折坂が何かを手に取る。大抵の人は何なのか動揺しただろうが、私は見逃さなかった。カセットプレーヤーだ。折坂は、カセットプレーヤーからポンポンという信号音を流し、マイクに近づけては離してドップラー効果を生み出し、それをサンプリングしてマシュー・ハーバートよろしくなループを作る。そして再び歌い始めた。ある意味、これが次の演奏者への伏線となった(?)。

短いセットも終盤となり、軽やかなコードがかき鳴らされる。すると、ガヤガヤとしていた後方の観客も静まる。テレビCMにも起用されている「さびしさ」だ。そして、折坂悠太が如何に特殊なアーティストなのかと思い巡らせる。彼は、2018年の『平成』でブレイクスルーを果たし、月9ドラマに楽曲が使用されポピュラーな存在となりながらも、自身の音楽をセルアウトしない。むしろ、昨年リリースされた『心理』は、同年にリリースされ早くもマスターピースとなりつつある、ピノ・パラディーノ&ブレイク・ミルズの『Notes With Attachments』(2021年)から、即興性やミルズの構築的なサウンドの影響を受けつつも、トム・ウェイツやレディオヘッド等の要素も匂わせながら、彼のシグネチャである日本民謡由来のメロディが彩る、非常にハイコンテクスト且つウェルメイドな名作であった。そして、そんな2作品には、この日共演したサム・ゲンデルが参加している。改めて、この2組をブッキングした《FRUE》に敬意を表したい。

当然、折坂悠太とサム・ゲンデルがコラボレーションした「炎」を生で観られるのを期待する。これを逃すと、もうこのコラボレーションを見られない可能性すらあるからだ。すると、折坂は再びカセットプレーヤーを手に取り、ボタンやフタをいじくりカチャカチャと音を立てる。再び観客は動揺したが、それらの音がループされると不思議と焚き火のような音へと変化する。そして、折坂が次の曲が最後と告げ、サム・ゲンデルを呼び込み「炎」を演奏した。折坂悠太の歌声と、それに寄り添うゲンデルのサックスが包むこの時間は、間違いなくこの日のハイライトであった。

折坂悠太は、メインストリームとレフトフィールドを繋ぎ、海外のエッジィな音楽を自身の音楽に落とし込んで日本に紹介する、日本音楽で最も重要な存在であると確信した。

興奮冷めやらぬまま、短いインターバルを挟み、LAシーンきっての奇才プレイヤー、二人が登場した。

演奏に触れる前に、この二人の来日公演への意気込みや、希望溢れる(?)音楽のこれからについてこの《TURN》に語った、岡村詩野氏によるインタビューを是非一読頂きたい。興味深い話ばかりである上に、思わず失笑してしまう内容だ。

二人が椅子に座り、それぞれに楽器を構えた。ゲンデルがマイクを手に取りボイス・パーカッションを始め、バスドラム代わりにマイクを叩いてループさせる。ループ・ミュージックをバックに演奏するという、折坂悠太とのシームレスな演出に思わずニヤリとしてしまう。

そして、そのビートをバックに演奏が始まる。ウィルクスがプレシジョン・ベースにコーラス・エフェクトをかけ、ハイポジションでコードを弾く。そのフレージングの美しさに、思わず声が漏れてしまったが、このコード弾きが彼のベースプレイの専売特許と言える。彼はマルチプレイヤーであり、当然ギターの演奏も得意としているため、あらゆる蓄積のなせる技なのであろう。

またウィルクスは、正確で繊細なフィンガリングや、グルーヴィでパワフルなピッキングなど、基本的なベースプレイも一級品。今現在、最もプレシジョンベースの魅力を引き出せるベースプレイヤーの一人ではないだろうか。KNOWERの先代ベーシストのティム・ルフェーヴルも優れた“プレベ使い”だが、彼らは私たちの世代のジェームス・ジェマーソンやキャロル・ケイと言っても、過言ではないかもしれない。

近年の、ティーブスやディジョン、マギー・ロジャース等の作品への参加で聴くことのできる、スタジオ・ミュージシャンとしての巧さを、ライヴでも存分に披露して見せた。デュオというミニマルなセットが故に、ウィルクスのベースが音の中低域の大半を占めており、脊髄にまで響く迫力は圧巻であった。

一方のサム・ゲンデル。筆者は、2019年にカルロス・ニーニョと共に来日した際の、《sonihouse》(現《listude》)にて行われた奈良公演以来の鑑賞で、その時から彼のシグネチャであるエフェクターを駆使したサックスプレイの虜なのだ。

前述したインタビューの中でも語っているが、彼は自身の中で機材を選ぶルールを持っており、肝となるエフェクターはほぼ固定化されている。筆者のTwitterにて彼のペダルボードを分析し、図解したものを紹介しているので、興味がある方はご覧頂きたい。



私は彼のサウンドを「カリカチュアライズされたジョン・レノン・サウンド」と表現しているが、理由は彼が使用しているエフェクターにあり、肝となる物が3つある。

最初に接続されるのがStrymonのDECOだ。これは、ジョンレノンが『Revolver』のレコーディング時に、「二重録音のために何度も歌うのが面倒くさい」というワガママから産まれた「ADT」をシミュレートしたエフェクターだ。1つの音を少しだけずらして2つに分け、ユニゾンさせることができる効果がある。

次にゲンデルは、2つに分けた音のアタック、立ち上がりを、2台のBOSSのSG-1でそれぞれに調節する。このエフェクターが、彼の幽玄で浮遊感のあるサウンドを演出している。

そして、友人と作製したというオリジナルのハーモナイザーに接続する。このエフェクターは、その名の通り1台で音を2声に分け、それぞれのピッチを自在に操りハーモニーを作り出すことができる。それを2台使用しているので、最大4和声となる。

この後にディレイとルーパーを繋ぐのだが、7台のエフェクターにより、1人でサックスカルテットを作り出せてしまうのだ。また、彼は演奏時に靴を履かないのだが、演奏時に足でエフェクターのツマミをイジる為であり、リアルタイムでピッチ等を調整している。

後日談だが、ひょんなことからゲンデルにメールで質問することができたのだ。今回はSG-1とハーモナイザーを1つずつに減らしたミニマルなセッティングだったようで、最大でもサックスデュオだったというわけだ。因みに、ハーモナイザーを使用していることもその時に初めて発覚した。

2人のサムのそれぞれのサウンドについて語ってきたが、ここからが本題だ。

2人がコラボレーションした作品は3作ある。その楽曲群から主に演奏されると思いきや、新曲が殆どであった。ウィルクスのベースから生み出されるえリズムに、観客は条件反射で身体を縦に動かす曲があれば、ウィルクスのコード弾きとゲンデルのサックスが絡み合うアンビエントに身体を横に揺らす曲もあり、緩急の効いた演奏が繰り広げられる。

前述のインタビューで、ゲンデルが特別な物を用意していると語ったが、その正体はハーモニカだった。ゲンデルはハーモニカで沖縄民謡のスケールを吹き鳴らした。彼なりの日本のファンに向けたプレゼントだったのだろう。つくづく思うが、彼は比較的内向的な性格ではあるが、超が付くほどのナイスガイだ。

そんな演奏の中、1番の盛り上がりを見せたのがジュディ・シルの「There’s a Rugged Road」のカヴァーだ。他公演ではミルトン・ナシメントやウェイン・ショーターのカヴァーも披露されたと聞いているが、全公演で披露されたのはこの曲だけだ。

ジュディ・シルといえば、大胆にADTが施された歌唱や、多重録音によって複数の彼女の声が重なり合う重厚なハーモニー、といったボーカルプロダクションが特徴的だ。つまりはゲンデルのサックスとの親和性が高いのだ。このことからかなりの思い入れがあったと想像できる。演奏も、ウィルクスの70年代ライクなタイトでうねるベースに合わせ、ゲンデルの歌うようなサックスが彩る、リスペクトに溢れる素晴らしいものであった。

そして、全ての演奏がおわると、最後にゲンデルが流暢に「ありがとう」と囁き、歓声と名残惜しさが入り混じる中、2人はステージを降りた。

11月の《FESTIVAL de FRUE 2022》では、再びサム・ゲンデルが帰ってくる。それも、ピノ・パラディーノとブレイク・ミルズが率いる最強カルテットの一員として、名作『Notes With Attachments』を演奏する。音楽を愛する我々のために。

3日間の公演の大トリを務めるブルーノ・ペルナーダスだが、時間の都合で3曲ほどしか観ることができなかった。その上、持ち前の腰痛が悪化し、後方から腰をかけて鑑賞することしかできなかった。が、そのお陰で最後に素晴らしい景色を見る事ができた。言葉の分からぬ、地球の反対側の音楽に乗せて、ダンスフロアで踊る人々がそこにいたのだ。私たちの望むものが戻りつつあることを確信し、希望に満ち溢れたまま会場を後にした。(hiwatt)


Photo by Makoto Ebi

Text By hiwatt


FESTIVAL de FRUE 2022

2022年11月5日(土)、6日(日)


出演:Acid Pauli、Aragaki Mutsumi、billy woods、Deerhoof、Manami Kakudo、Pino Palladino and Blake Mills featuring Sam Gendel & Abe Rounds.、Salamanda、Sam Amidon with String Quartet……and more TBA
場所:つま恋リゾート彩の郷 (静岡県掛川市満水(たまり)2000)
公式サイト:https://festivaldefrue.com/


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