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BEST 9 TRACKS OF THE MONTH – June, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Cass McCombs & Steve Gunn – 「Sweet Lucy」

最近ではブレイク・ミルズとの交流で知られ、ミルズの最新作『Mutable Set』でも共作などで全面的に参加していたカリフォルニア出身のキャス・マコームスは、43歳の今が最も旬と言えるかもしれない。昨年金延幸子と来日したことも記憶に新しいスティーヴ・ガンと組んだスプリットEPからのこの曲、キャス主導のこちらはなんとマイケル・ハーレーの76年作のカヴァー。オリジナルのカントリー・タッチから、アシッドフォーク〜スワンプ風へと解釈した素朴ながらもねっとりとした風合いが感じられる粋な1曲だ。スティーヴ主導のもう1曲はスコットランドのトラッドのカヴァー。7インチとしてツアーで発売する予定だったが惜しくもコロナで延期になっている。(岡村詩野)

C.O.S.A. – 「May (Losses Freestyle)」

6月21日、父の日にYouTubeで公開された、ドレイク「Losses」のビートにフリースタイルを乗せた1曲。コースから外れた人生についてライムしている同楽曲の中には、ドレイクの実の父であるデニス・グラハムの声が収録されているということも踏まえてのビートチョイスであろうか。

優しく、力強いリリックに、ぼんやりとだが確かに彼の家族と過ごす日々、そしてこんな状況でも無垢な瞳で未知に溢れた世界を生きる子供達の姿が浮かび上がって涙が出そうになる。自分には子供もいなければその予定もないし、子供達は大人に関係なく生きる術を身につけていくのだろうけれど、せめて希望のある未来を想像できるように、と都知事選の開票結果を見ながら改めて思う。(高久大輝)

Flock of Dimes – 「Again (For the First Time) 」

ボルチモア出身のデュオ、Wye Oakのジェン・ワスナーが、ひっそりと“Flock of Dimes”名義のソロEP『Like So Much Desire』を発表。4年ぶりの新作となる今作は名門《Sub Pop》からのリリースだが、その目玉はなんと言ってもBon Iverことジャスティン・ヴァーノンがギターとピアノで参加していること。昨年よりジェンがBon Iverのツアーメンバーに加入したこともあっての「友情出演」とはいえ、ジャスティンは本作のうちこの「Again (For the First Time)」ではレコーディングも担当している。Jennのヴォーカルを何層にも重ねたハーモニーと、ラップスティールの揺らめく響きが微睡むほどに美しいハワイアン~カントリー調の楽曲は、このシンプルなコーラスを繰り返すだけのルーツ的な展開だからこそ染み渡る。何気ないすれ違いから身近な相手との絆を確かめるようなささやかな歌詞もまた、「小さく」暮らすようになった我々の映し鏡のようだ。(井草七海)

Lianne La Havas – 「Wired Fishes」

ロンドンのSSW、リアン・ラ・ハヴァスのサード・アルバムからの先行曲。先月配信されMura Masaが関わった「Can’t Fight」もそうだったが、ロックのグルーヴを伴ったドラムとベースのビートの上で、ギターを力強くかつリズミカルに鳴らし、ソウルフルな歌声を美しく響かせている。本楽曲は2013年頃からライブでカバーしていたというレディオヘッドの楽曲で、冒頭3秒までは原曲とほぼ同じテンポ、以降はテンポを落として歌い上げることに終始する。原曲で象徴的なギターのアルペジオは後半から登場し、最後にはギターの歪みが包み込む。ギターロックの意匠を取り込んだソウルフルな楽曲、この巧みなアレンジに驚かされた。(加藤孔紀)

Mina Tindle – 「Belle Pénitence」

ザ・ナショナル周辺が若き女性SSWの宝庫になってきている。5月にアルバムをリリースしたイヴ・オーウェンに続いては、既にキャリアもあるフランス出身のミナ・ティンドルが同じく《37d03d》と契約。10/9に出るアルバム『SISTER』からの先行曲が2曲同時公開された。そのうちの1曲がフランス語で歌われたこれで、丁寧に重ねられた甘いヴォーカルと、アラブ〜北アフリカの音楽の要素を合流させたような幻想的な仕上がり。アルバムのプロデュースは彼女の夫でもあるブライスとスフィアン・スティーヴンス、トーマス・バートレットだそう。先行曲のもう1曲「Lions」ともども緩いグルーヴが伝わってくるのは、さすが誰もが羨む鉄板トリオの仕事だけある。(岡村詩野)

Noname – 「Song 33」

本曲にあるリリックのいくつかは全世界でBlack Lives Matterの炎が燃え上がる最中、J. Coleが発表した新曲「Snow on tha Bluff」へのアンサーとして受け取ることができる(この一連の流れについては下記のリンクを参照してみてほしい)。

Nonameが曲を発表した後にTwitter上で「自分のエゴが前に出てしまった」と投稿したことからも、人々の興味をBlack Lives Matterとは別の方向に引き寄せてしまったという意味で彼女の本意ではなかったのかもしれないが、本を開くより先に音楽から勝手に学んできた過去の自分のようなキッズたちにとって重要な契機となったに違いない。マッドリブのトラックも素晴らしい。(高久大輝)

(参考)
Jコールとノーネームのやりとりを読む。(J Cole – “Snow on the Bluff” & Noname – “Song 33″)
https://note.com/raplyric/n/na7a99c753fbc
【コラム】Black Lives Matterが映し出すもの – NonameとJ. Coleについて –
https://fnmnl.tv/2020/06/25/100148


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Dance Lessons – 「New Job」

ロンドンの新人ダンス・レッスンズによる「New Job」は、メイズ「Before I Let Go」のようなソウルを下地にした楽曲だ。同曲はビヨンセによるセカンド・ライン風カバーもあるが、彼らはファンキーなダンス・ナンバーの中にThe XX以降の感覚で繊細な部分も描く。

”忙しくするのは、あなたのことを考えないで済むように”と歌うこの曲は、人との別れにおける後悔が含まれ、しかし、サウンドは、そんな歌詞とは対照的に愛を歌い上げる踊れる楽曲を下地しているのだ。それにより、最後のサビ前のリフレインなどは、別れを過去のモノへと変換していくようで、同じ歌詞でも意味合いが変わっていく様が聴き所。(杉山慧)

Instant Obon – 「よさこい土左衛門」

松本市のライブスポット〈give me little more〉の存続支援のためリリースされたコンピ盤「そこにいる」は、地元松本をはじめ全国各地のエッジーなアーティストを紹介するサンプラー的価値が高い作品となっている。中でもさすがの存在感を示すのがキセル・辻村豪史のソロユニットInstant Obon「よさこい土左衛門」。土着的なお囃子と死者を弔うお経のような歌声に、ディアンジェロ的な揺らぎのあるブレイクビーツが融合することで立ち上ってくるあの世とこの世をたゆたうようなドープなグルーヴが圧巻。これはクルアンビンへの信州からの回答と言ってもいいのでは。キセルの叙情的な景色の向こう側に、かくも妖しい涅槃が広がっていたことに興奮してしまう。(ドリーミー刑事)

トクマルシューゴ – 「Canaria」

オンラインで開催された主催フェス『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL』で発表されたトクマルシューゴの新曲。様々な装飾音がバンドの駆動を賑やかす中でも、グロッケンやノコギリを弾く音色のさりげない不協和も併せ飲んで「調和」を奏でる様は、なんともおおらかだ。そして、豊かな色彩をさらに広げるのが、360° VRのアニメーションMV。宇宙も空も、今いるこの場所もひと繋がりという事実に立ち返らせてくれる情景は、まるで生命の胎動のように雄大に広がっていく。あのディストピアのような「新しいライブ様式」さえ、楽しそうと言ってみせる彼が届けてくれたのは、僕らがこの状況下で失いかけていたワクワクする心なのだ。(阿部 仁知)


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Text By Hitoshi AbeDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaNami IgusaDaiki Takaku

 
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