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BEST 10 TRACKS OF THE MONTH – April, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Bedouine – 「The Hum」

これはコロナに揺れる今年きっての素晴らしいカヴァー曲だ。昨今、多くのアーティストがカヴァーを手軽に自宅から配信したり制作したりしているが、シリア出身のこの女性SSWは実に作りが丁寧。オリジナルはマーゴ・ガーヤンの1974年のデモ曲。愛らしい風合いの歌声ながら鋭く理不尽な格差社会を切り取った歌詞はまさに現代に置き換えられるが、キーを少し下げて落ち着きのあるトーンにしたここでのカヴァーは社会状況が悪化の一途を辿る今の時代によりリアリティを帯びて響く。優雅でモダンなフォーク・タッチの曲調を生かしたアレンジ、中盤の3文字「A××」にピー音が入るところもそのまま。それにしてもこのベドウィンもLA在住なのでした。(岡村詩野)

Charli XCX – 「forever」

自己隔離期間に制作している5月15日リリース予定の新作アルバム『how I’m feeling now』からの先行シングルで、長年交際しているボーイフレンドへと捧げられたバラード。BJ BurtonとA.G.Cookによるときに不協和音にも感じるノイズとエコーに彩られたシンセ・サウンドにオートチューンの効いた歌声のリフレインが混ざり合い、永遠の不完全さと永遠を想う瞬間の高揚と幸福が見事に表現されている。

また本曲を含むアルバムの楽曲およびアートワーク制作等をファンとSNS上で共有していることも重要だろう。物理的な距離を超え、人と人とを結びつけてきたポップ・ミュージックの在り方に新たな変化が訪れているのを感じる。(高久大輝)

Faye Webster – 「In a Good Way」

雨後の竹の子のように現れる新しいSSWたちの中でも、フェイ・ウェブスターは、個人的にはミステリアスな存在である。捉えがたい。カントリー、R&B、ヒップホップ、ソフトロック…どこを切っても違う断面が見える。昨年のアルバムの延長線上とも言える新曲でもまた、相変わらずヒップホップのように低音はインパクト大なのに、慎ましくも切ないストリングスによってレトロポップのように聴かせてしまっているのが奇妙だ。
また、右のチャンネルに聴こえる軽く擦るようなアコースティックギターの音色はカントリー風でもありながらどこかウクレレのようにも響いているのが面白い。そういえばペダルスティールも、ハワイアンからカントリーに持ち込まれたのだっけ。一見違う音楽同士を同じ坩堝の中でぐにゃりと溶かしてしまうことで、その本来的な「近さ」を再認識させてくれるのが、彼女の持つ新しさなのだと思わされる。(井草七海)

Samia – 「Is There Something in the Movies?」

ニューヨークのシンガー・ソングライター、サミアの新曲のMVは彼女の友人で俳優/歌手のマヤ・ホーク、そしてチャーリー・プラマーが出演するという映画ファン必見の映像だった。タイトルにある通り、これは映画についての曲で、サミアと親交があったという俳優の故ブリタニー・マーフィについて歌われている。ブリタニーは映画の中で生き続けるが、その姿を振り返って見るほど傷つき悲しむサミア。まるで映画という芸術の永続性の美化や、その空想という性質を拒むように。そんな彼女のあまりに具体的な詞と、個人的な感情が込められた歌に胸を打たれる。人との距離が離れ、バーチャルのコミュニケーションがどこか空想に思えてしまう今、個人の存在をはっきりと感じる音楽を求めてしまう。(加藤孔紀)

THE SCOTTS – 「THE SCOTTS」

キッド・カディ(本名 Scott Mescudi)とトラヴィス・スコットがタッグを組んだTHE SCOTTS初のリリースは、人気オンラインゲーム『fortnite』のゲーム空間で開催されたトラヴィスによるイベントにて初披露され、ゲーム開発元であるEpic Gamesによれば1230万人ものプレイヤーが集ったという。また、リリックには“Outside”という言葉が頻繁に用いられ、ヒップホップ・ゲームの“外”でのし上がってきた2人という意味やトラヴィスの地元ヒューストンで暴力や麻薬売買が行われるのリアルな“外”、あるいはオンラインの世界を現実の“外”と捉えるなど様々な解釈で歌われている。パンデミック以降、“外”の概念は変わっているのかも?本曲にてカディは初の全米1位を獲得。(高久大輝)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Lucinda Williams – 「Man Without Soul」

この状況下で優れた対応力を発揮しているのが、各国の女性リーダーであると言われているが、なるほどルシンダ・ウィリアムスの新作も、そのような誠実さと理性を全編に感じるアルバムだ。さらに加えるならば怒りだろうか。ブルージーさが一層前面にでたサウンドで、音数を減らしながらもダイナミックな音圧を感じるあたり、初期フリーのような感触もあってルシンダの歌にいつも以上にフィットしている。先行して公開された「Man Without Soul」は、このタイミングにシンクロし過ぎてしまったような楽曲であるが、伝えたいことをストレートに言葉に乗せる歌の力を改めて感じる一曲。音楽の可能性を身体的に理解している人の作品だと思う。(キドウシンペイ)

Two People – 「A Taste」

070シェイク「Guilty Conscience」(2020年)など80年代的なシンセサイザー音色により、実態のない郷愁への羨望がカタルシスをもたらす楽曲に最近惹かれている。元スナカダクタルの二人によって結成されたメルボルン拠点のデュオTwo Peopleの新曲「A Taste」もその一つだ。 彼らの中で最もポップに振れた本作は、2010年以降のインディーロックにおける一つの形を提示したライの官能的な部分とピュリティ・リングが持つ80年代シンセ・ポップの再解釈を同居させたようだ。80年代リバイバルと郷愁は、オーストラリアのポップ・シーンの特徴でもあり、その辺りとも繋がりを感じさせる一曲。(杉山慧)

Jamie xx – 「Idontknow」

3月の緊急来日やDJミックスの公開も記憶に新しいJamie xxの5年振りの新作は、ダンスフロアで踊り明かしたくて悶々としている僕らのプリミティヴな衝動を強烈に刺激してくれる。ズシンと響くキックや艶めかしいトライバルビート、抜き差しされる様々な音のマテリアルによってじりじりと情景が移り変わる様は、クラブナイ卜の情感を極限まで早回しにしたかのよう。判然としないカットアップヴォイスで繰り返される「知らんけど」は大阪在住の僕としては照れ隠しにも感じられるが、The xxやRomyの動きも期待される中、彼はあの素晴らしい空間で再会する日を虎視眈々と描いている。「ハッピーにならなきゃ」だって?望むところだ。(阿部仁知)

中村ジョー&イーストウッズ – 「君は馬鹿だな」

90年代からザ・ハッピーズのボーカルとして活動してきた中村ジョーが、北山ゆう子、松木俊郎、藤原マヒトら百戦錬磨が集うイーストウッズを率いて発表した3作目。ソウルマナーのリズムに、人懐っこさと哀愁を感じさせる歌声が重なる楽曲には、生まれながらのスタンダード感がある。

人々が集まり、出会い、すれ違う場所を街(シティ)と呼び、そこで口ずさまれ、受け継がれ、洗練されてきた音楽をポップミュージックと呼ぶのならば、私はこの歌こそが真のシティポップだと言い切ってしまいたい。ここから伝わる誰かの確かな体温と、「きみは馬鹿だな」と笑ってくれる優しさこそ、集うべき街を失った今の私たちが最も切実に求めているものだから。(ドリーミー刑事)

七尾旅人 – 「今夜、世界中のべニューで(Who’s singing)」

SoundCloudで発表後、toeが主導するライブハウス支援プロジェクトによるコンピレーション作品にも収録された一曲。今は音が途絶え、真っ暗で冷え切ってしまった場所と、どこかで湧き出ている誰かの歌をつなぐリリックが、祈りを唱えるようなアコースティック・ギターの音色にのって響く。もう二度とステージに灯がつくことはない、かつて音が鳴っていた場所。これから音が戻ることを望み、苦闘する場所。その場所で歌を歌いたい、聴きたいと願い続ける万人へ本曲は捧げられている。狭い自室に置かれた小さなスピーカーから、帰宅の途につく人の耳にそっとかけられたイヤホンから、今も静かにこの曲は流れ続ける。(尾野泰幸)


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