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Little Simz: Sometimes I Might Be Introvert

2021 / Age 101 Music / Beatink
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自らを見つめる眼差しを他者へ

29 September 2021 | By Daiki Takaku

素晴らしい作品が届いた。それまでの評価の高さもさることながら、とりわけ前作『GREY Area』(2019年)ではアイヴァー・ノヴェロ賞とNMEアワードのベスト・アルバムを受賞、マーキュリー賞にノミネートという名誉を得た、リトル・シムズ4作目のスタジオ・アルバム『Sometimes I Might Be Introvert』である。この期待して然りという状況で、しかも9月3日のリリースが4月21日の時点で告知されるという最近の、しかもラッパーの作品としては珍しく長いストロークを、シムズは大袈裟に煽るでもなく悠然と、さながらレッドカーペットの上を歩いているかのごとく、壮大なイントロダクション「Introvert」を皮切りにいくつかの先行シングルをリリースしながら、こちらへと向かってくるように見えた。

もちろんそんな風に“見えた”に過ぎないが、どちらにせよ届けられたのは安っぽい表現であることを承知で、思わず「映画的」と言いたくなるような大作だった。ほとんど生音のよう(おそらく実際そうだ)な楽器の音色に、爆音のオーケストラ、クワイア、ソウルのサンプルなどは強い印象を残し、それ以外にも「Rolling Stone」のようなミニマルなグライム・チューンや、ナイジェリアのObongjayarが客演に招かれた珠玉のアフロビーツ「Point and Kill」があったりとサウンドは実に幅広い。それはシムズの幼馴染であり、ここ数年の内に英国のブラック・ミュージックを牽引する存在となった謎多きコレクティブ、ソー(Sault)の一員でもあり、前作に引き続きプロデュースを担っているインフローの手腕によるところも大きいだろう。おそらく、「Women」で“Naija”という長きに渡り旧体制的な人々によって苦境に立たされてきたナイジェリアの若者が自分たちをそのイメージから遠ざけるための言葉を使うような、シムズのルーツや個人史を深く理解しているからこそ、インフローの作るサウンドは大胆かつ多彩ではあるが違和感なくシムズのラップと連動し、ときに引き立て、ときに溶け合っている。

また、この全19曲で1時間を超える長大な作品にはいくつかの幕間が用意されており、そこに現れる、Netflixのドラマシリーズ『Crown』でダイアナ妃を演じるエマ・コリンの語りも本作の特徴のひとつだ。少し抜粋する。「Only the strong will survive(強者だけが生き残る)」、「So, follow your heart it’ll guide you(心のまま進めばきっと導いてくれる)」、「Those that last have given up made sacrifices to be here / Do you have the willingness to do the same?(最後まで残っている人はそのために犠牲を払ってきた / あなたも同じようにする覚悟はある?)」。その声には、たしかに気高く品がある。しかし一方で古めかしい断定にも受け取れ、そういった点では自宅で観ている映画を一時停止して、SNSを覗きこんだら説教くさい投稿が無作為に現れたような、そんな感覚にも似ているかもしれない。小休憩として注意力が散漫な私なんかにとってはありがたいが、聴く人によっては蛇足にも感じうるだろう。

そして、ラップされている内容は人種や性別におけるシステミック・レイシズムへの批判や、親族や父親とのあれこれ、経験してきた成功と挫折など、サウンドと同じく多岐に渡り……いや、よくよく考えてみればシムズのとても近く、あるいは内側で起きたことばかりだ。中でも大きなテーマのひとつは、「Simz the artist or Simbi the person(シムズはアーティストで シンビはひとりの人間)」という「Introvert」のラインや、アルバム・タイトル『Sometimes I Might Be Introvert』の頭文字を取るとシムズの友人からの呼び名である“SIMBI”となることからわかるとおり、アーティストとしての自分とひとりの人間として自分の間で引き裂かれそうな心情である。だからシムズのラップは強く外側へ発せられているが、自らの弱さに問いかけるようでもある。「Niggas is rappin’ about pieces / People are really dyin’, is that what’s needed(仲間たちは些細なことばかりラップしてる / 本当に死んでいる人々について語らなきゃいけないのに)」(「Standing Ovation」)。

長大な本作を一言で表すのは非常に難しいが、優れたサウンド・プロダクションと歯切れよくスキルフルなラップに刻印された重層的で多面的な個人の姿は、他者への眼差しに想像力を与えるものだ。きっと内側を見ることは外側を見ること、自らを知ることは他者を知ること。「First-class to Shibuya for the sushi(ファーストクラスで渋谷へ行ってお寿司を食べたい)」(「Rollin Stone」)。待っています。(高久大輝)


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