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The AlchemistLarry June2 Chainz: Life Is Beautiful

2025 / ALC / The Freeminded / EMPIRE
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優雅で威厳に満ちた完璧なトライアングル

11 February 2025 | By Daiki Takaku

魅惑のコラボ・アルバムの登場だ。この『Life Is Beautiful』は、2023年の『The Great Escape』でも相性の良さを証明済みのラリー・ジューンとアルケミスト、そこに想像の外側から2チェインズが合流し形成された、シーンのヴェテランたちによる完璧なトライアングルである。

オープニング・トラック「Munyon Canyon」から、ヒップホップ界で最も注目されるべきプロデューサーの一人であるアルケミストはメロウで滑らかなビートを提供し、ラリー・ジューンと2チェインズはその上でくつろぎながら、それぞれのスタイル──前者は主にストレートに、後者は攻撃性にときおりユーモアを交えて──でボースティングする。ここにある三者の調和、あるいは優雅で威厳に満ちたムードこそ、アルバム全体を支配する本作の魅力と呼べるだろう。その魅力は、ひび割れた鍵盤が響く「Colossal」でも、つんのめったビートの鳴る「LLC」でも、フルートの舞うタイトル・トラックでも、逆再生されたウワモノが不穏な夜の情景を呼び起こすトラップ風の「Generation」でも変わらない。2人のラッパーの言葉は、アルケミストの振るうタクトに従って堂々と輝きを放っている。

11曲、37分というコンパクトさも本作の魅力であることは言うまでもない。全体的にドラムの存在感は薄いが、それが気になるということもなく、逆に無駄もなく、何度も繰り返し聴きたくなるようなラップ・アルバムは正直言って珍しい。そして繰り返し聴いていれば当然、本作のより繊細な面にも耳を向けることができる。

本作に散りばめられたいくつかのヴォイス・サンプルがその最たる例だろう。陽だまりのようなウワモノがループする「I Been」のアウトロに差し込まれているのは、B.B.キングの応じたあるインタヴューでインタヴュアーを務めたボブ・コスタスの発言を切り取ったものだ。「本物のブルースマンになるには、どれほどの真の痛みや心の傷が必要なのだろうか?/幸福な人間でありながら、ブルースの真髄を体現することは可能なのだろうか?」。その反語的(少なくともここではそう聞こえる)な問いかけは、次の「LLC」ですぐさま回収される。つまるところ2チェインズによる「I got more blues than B.B. King(オレはB.B.キングよりブルースだ)」というラインは、彼らが自分たちが多くの“真の痛みや心の傷”を抱えていることを間接的に伝えているわけだ。

タイトル・トラック「Life Is Beautiful」のアウトロにもヴォイス・サンプルが差し込まれている。ラップが子供たちにどんな影響を与えるか、というヒップホップを巡る議論の中で最もポピュラーな類のもので、こちらも次の「Generation」ですぐさま回収される。「俺たちは子供たちをダーティー・スプライト(リーン)で酔わせる世代だ/俺たちは毎晩パーキー(パーコセット)で盛り上がる世代だ/俺たちはスイッチ(銃)で、見つけ次第殺す世代だ/俺たちは復讐とキャンドルライトに火を灯させる世代だ」。彼らはここで(表面的には)ラップ・ミュージックが次世代に与える負の影響を認めているように聞こえる。

だが「Tru Organics」の以下の一節を聞くとどうだろうか。「説教師たちは俺たちが欲望に溺れすぎていると言う、ほら、俺たちは売春を、そして無差別銃撃事件を、そのいくつかを目撃した/ランダムにスクール・キッズからドラッグを買う/フッドは君を傷つけるだろう、工具セットのようにハンマーを持ち歩け/連中は俺に、こんなクソみたいな状況でどうやって生き延びているのか聞いてくる」。2チェインズによるこのラップは、言ってしまえば彼らがときに露悪的なボースティングで金を稼ぐ理由の説明としても、彼らが本作に『Life Is Beautiful』と名付け、生き延びたことを祝っている理由としても受け取れるはずだ。

ラップが子供たちにどんな影響を与えるか、その答えはここにはない。しかし、もし本作に悪影響を与える言葉が並んでいるように感じるのだとしたら、その裏側にあるのは彼らの傷口から吹き出した血の跡であり、痛みである。『Life Is Beautiful』は、ラッパーたちの自慢話がクリシェと化して久しい昨今、あらためて優れたラップ・ミュージックが常に痛みと共にあることを教えてくれる。(高久大輝)




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