Review

Freddie Gibbs: $oul $old $eparately

2022 / Warner
Back

断絶を抵抗する魂の行き場

26 October 2022 | By Tatsuki Ichikawa

乱暴だが美しい。“魂は別売り”と題されたフレディ・ギブスの新作は、過激な描写と、それに相反するようなメロディ、そして感情に訴えかけてくる“ソウル”が同居している。

タイトルに隠れているのは三つのドルマーク。アルバムは1曲目「Couldn’t Be Done (feat. Kelly Price)」の最後で、リゾートホテルの一室という舞台を設定する。高級な香りを纏った本作は、まるで一人の人間の魂の行き先を追うように、男の傷心と記憶、その人生と感情を描く。

限定された空間で、一人の男が人生を回想するラップ・アルバム。そのコンセプト自体は何も珍しいものではないだろう。例えば、フレンチ・モンタナの『They Got Amnesia』(2021年)は、心臓発作で病院に運ばれた重体の男が人生を回想しながら、そこに友人から電話がかかってくる、そんな作品であった。思うに、そういった構成を強く連想させながらも、より一層の強度を『$oul $old $eparately』が獲得しているのは、全体を貫く滑らかな感触にあるだろう。

フレディ・ギブスの太い声質のラップは、スキルフルに、固く韻を紡いでいく。彼の発声にスタッカートの印象は弱く、ラップは単語の断片性や瞬間性よりも、語尾を引き伸ばしたりすることで、ライン同士をスムースに繋ぎ、寧ろ粘着性を強調させている。3曲目「Pain & Strife (feat. Offset)」をはじめ、一曲の中で細かく変化していく柔軟性のあるフロウも、作品の滑らかさに貢献する。男の言葉は唸るように、時にメロディを獲得しながら、何かを切り離すことに、または切り離されることに抵抗し、言葉を繋げようとする。

サウンドもしかりだ。『Alfredo』(2020年)で抜群の相性を見せていたThe Alchemistに加え、ジェイムス・ブレイクやKEYTRANADAがプロデューサーとして参加し、作品に内省的なムードを付与しているが、曲間をつなぐその編集は作品全体の滑らかさを強めるものだ。例えば、「Pain & Strife (feat. Offset)」の最後を飾るエレガントな間奏は、4曲目「Zipper Bagz」へとスムースな展開を見せることに機能している。アルバムは、言葉を繋ごうとするギブスのラップと同様に、サウンドも一つの流れとして、全体を繋げるように展開させている。

ジェイムス・ブレイクが手がけた11曲目「Dark Hearted」は、ボーカルの反響が幽玄的に響く、アルバム全体のムードを補強するような重要なパーツの一つだが、そこで語られる内容はギャング映画さながらの殺人のトラウマ。ダークで過激な側面も前面に出すフレディ・ギブスのリリックは物騒なものではあるが、やはりいつも以上に内省的に、もっと言えば自己反省的になっている本作は、自らのトキシックな人間性と向き合うような内容にもなっている。

罪と後悔。本作は反省し、乗り越え、成長するという安易なストーリーは語らず、人間の、あるいは男の変わらなさをも捉えるが、その中でこそ、時折挟まる穏やかなメロディが儚さを醸す。13曲目「Grandma’s Stove (feat. Musiq Soulchild)」は、7曲目「Space Rabbit」でも描かれていたようなドラッグの誘惑と家族との記憶を綴る楽曲である。淡々と独白するギブスのラップは、ドラッグの快楽で現実逃避を試みる自らに対して自己反省的な態度を見せる。その中で、後半に聞こえるMusiq Soulchildの透き通るような歌声は、生々しいギブスの声と対照的に聞こえ、アルバム中で最もスウィートで滑らかな時間が流れる。生々しいラップとエモーショナルな歌声。それを通過した最後には、歌詞の中でダメ親父と自省するギブスの元に母親からのボイスメッセージが届き、息子としての彼に一筋の光が差し込む。

愛するものや周囲の人々。ドラッグの快楽や自らの性格、または自らのマンフッド。メロディやフロウによって、様々な繋がりを断絶することのできない男の部屋には、物事を一面だけでは収まらせない、多くの時間や感情が流れる。男の魂が行き場を求め浮遊する様を見ながら、我々は、人間が矛盾だらけであることを、改めて確かめる。(市川タツキ)


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