京都は「カオスやな」って感じ──旅するロックンロール
水平線が語る京都のらしさ、そして最新作『Howling』での挑戦
衒いのないギター・ロックと芯のある歌が武器。こう書いてしまうとシンプルだが、水平線ほどメンバー全員の目線が揃っており、鳴らしたい音を素直に鳴らしているバンドはそう多くはない。
京都を拠点に活動する彼らは、今や関西圏のライヴハウスを中心に着実な支持を集めている。田嶋太一と安東瑞登が共にギター・ヴォーカルを務め、ラウドな演奏の中でメロディと詞を届ける実力は折り紙付き。バンドが理想像の一つとして挙げているスピッツをはじめとした日本語ロックの先輩たちに通じる魅力もあれば、京都のバンドが醸す名状しがたい“らしさ”も携えている、まさに“今見ておきたい”4人組だ。
昨年ファースト・フル・アルバム『NEW HORIZON』を発表し、リリースツアー《旅するロックンロールツアー’24》も成功させた水平線。そしてこの度、5曲入りのEP『Howling』を発表し、また新たなツアーへと旅立つこととなる。今回はバンドから田嶋と安東の二人にインタヴューを敢行。かねてより疑問に思っていた“京都らしさ”について聞きつつ、EP『Howling』についても一曲ずつ語ってもらった。長い旅路の最中、バンドが観ている景色に思いを馳せながらご一読いただきたい。
(インタヴュー・文/風間一慶 写真/Takuroh Toyama)

Interview with Taichi Tajima and Mizuto Ando(from Suiheisen)
カオスな人と場所が生んだ“京都のバンド”、水平線
──『Howling』の話をする前に、まずは去年リリースしたファースト・フル・アルバム『NEW HORIZON』について聞かせてください。水平線にとって初のフル・アルバムということで、バンドはどのような心境で世に放ったのでしょうか?
田嶋太一(以下、田嶋):ずっとアルバムを出したいとは思ってたんですけど、コストとエネルギーが必要になるから中々踏み出せなかったんですね。だから誰かのバックアップを受けられるようになってからアルバムを作ろうとしてたんですけど、それが獲得できなかったので、「もう自分らで一発やろうや」って言ったんです。それで昔の曲を入れたりしながら制作しました。
安東瑞登(以下、安東):「節目」という言い方が正しいのかはわかんないですけど、「これまでの水平線をギュッとできたらいいな」と思いながらアルバムを作りましたね。
田嶋:うん。ちなみに『NEW HORIZON』というタイトルは、新しい自分らのイメージというより、当時お世話になっていて、最近なくなっちゃった京都の《GROWLY》というライヴハウスの店長の安齋さんが、記事で僕らのことを「日本のニューホライズンとなるか!」と紹介してくれたことから来ています。
──近しい場所にいた人の言葉から名付けたんですね。個人的なことなんですけど、《GROWLY》に行けなかったことが悔しくて。ラインナップを見てても気になるバンドがよく出ていたし、周辺の京都の雰囲気も含め、重要な場所だったんじゃないかと勝手に思ってたんです。
田嶋:店長の安齋さんが音楽フリークで、色んな年代の色んな曲を愛してる人だったんです。ライヴハウスとしてビジネスは大事だとは思うんですけど、それよりも《GROWLY》を中心としたシーンを起こそうとしていて。そうなるとみんなが愛する場所に自然となっていくというか、とにかく色んな世代の色んな人が集まってましたね。
安東:《GROWLY》は「暗い、汚い、怖い」っていうライヴハウスに大衆が抱くようなイメージとは遠い場所で。明るい……視覚的にはライヴハウスなんで暗いんですけど(笑)、店長とかスタッフの雰囲気が明るくて、接しやすいし話しやすいし、何より楽しい。行けば行くほど関係が深まって家族みたいになっていくというか、多分どのバンドもそう思って《GROWLY》に出演していたと思うんです。その上で、集まっている人から新しいことを教えてもらって、自分らのバンドにも落とし込んでいました。
──京都って傍から見ていると特殊な場所というか、面白いバンドが本当に沢山出てきますよね。その理由はどこにあると思いますか?
安東:一言で言うなら、京都は「カオスやな」って感じですね。オルタナとかエモが好きな人も活躍しているけど、おっちゃんのフォーク・シンガーとかも多い。鴨川に行ったら訳のわからんおじいちゃんが歌ってたりもするし。それだけじゃなく『京都大作戦』のようなフェスもあって、パンクを追求しているバンドもいる。「どれが京都の音楽なの?」と聞かれても答えられないですよね、めちゃくちゃです(笑)。
田嶋:言語化は難しいですけど、地方でもなく都市部でもないっていう距離感が大事なんじゃないかと思うんです。あと、例えばくるりは京都の代表的なバンドとして広くイメージされてると思うんですけど、自分らの作品に民族楽器を取り入れてたり、音楽性の幅があるんですよ。そういう、誰も何にも囚われてないことが醸す京都の雰囲気があったりするんかなとは思います。
──わからないようでわかる気もします。くるりをはじめ、台風クラブや本日休演など、京都らしさを感じる先輩バンドから影響を受けたとは思いますか?
田嶋:京都っていうだけで意識して聴いたりはしてたかもしれないですね。それこそHomecomingsとか、個人的にハンサムケンヤっていうシンガー・ソングライターを中高時代から聴いていて。《いつまでも世界は..》という京都のサーキットイベントで観たんです。これは安東くんに問いたいんやけど、《いつまでも世界は..》に京都を感じてて……どう?
安東:うん。あれは京都よなぁ。ライヴハウスよりもカフェとか商店街の中でやってるステージの方が多かったり、さっき僕が言ってた“カオス”なイメージを可視化したようなイベント。鴨川の近くの演奏できる場所を全部使うくらいの勢いで、他では出えへん空気。
田嶋:そこで観る台風クラブとか、グッとくるんですよね。
シンプルな歌が武器のEP『Howling』
──バンド活動に話を戻すと、『NEW HORIZON』をリリースした後の全国ツアー《旅するロックンロールツアー’24》の手応えはいかがでしたか?
田嶋:手応えはありましたね。《旅するロックンロールツアー》は去年で3回目だったんですけど、自分らと近いところにいるわけじゃないバンドにも出演を頼んでみて、それがハマった感覚があるんです。アルバムとの相乗効果を感じられたツアーでした。
──そのツアーの時期から今回のEPの曲は書いていたんですか?
安東:アルバムをリリースしたタイミングで、既にデモを作り始めていて。とりあえず夏の前まで、月2曲はデモを持ってくるようにしてました。
田嶋:アルバムを出して、その反響があるうちに準備するのが大事だと思ってました。切り替えて次のことをしようかなと。
安東:今思い出したんですけど、アルバムのツアー中にカメラマンの子から「アルバム出して燃えつきんとってな?」って言われたんですよ。当時は「それだけ良いアルバムが出せたんかな」としか思わなかったんですけど、その言葉には影響されてるかもしれないですね。
──『Howling』のサウンドは『NEW HORIZON』の次へと進んでいるのが確かに伝わります。これまでのドンシャリした演奏はそのままに、より歌が聴きやすくなって、全体としてはスリムになったように感じました。
田嶋:レコーディングする場所とかマスタリングの方法は変わったんですけど、どういうサウンドを目指すかっていうのは前までと一緒なんですよね。環境の変化によって、全体で捉えた時の印象が違うものになったというか。周りで携わる人が増えてくれたおかげで、こっちの意図を汲み取ってもらいながらグレードアップできてるっていうのは、理想的な形なのかもしれないです。
安東:歌の録音に関しては、今回から初めて2人の声質に合ったマイクを使うようになったんですよ。エンジニアの人と一緒に何本も比べてみて、それぞれベストなものを使うようにしたんです。そのおかげかもしれないですね。
──先ほど話題に出たくるりもそうですし、以前から愛好しているというスピッツやオアシスをはじめ“ラウドな演奏で歌を聴かせる”路線にこのEPもあるなと。
田嶋:そうですね。活動の初期から歌は自分らの武器だと思っていたんで、それを突き詰めたいですね。
──先行シングルの「シリウス」は、田嶋さんらしいパッションが溢れる側面も引き継ぎつつ、ラウドなバラードという新基軸も開拓したのではないかと。
田嶋:「リード曲を作ろう」と思って作り始めた曲なので、ストレートなキャッチーさを目指しました。ただ、全体のサウンドとか使ってるコードは、自分らの得意な部分をシンプルに出していますね。
──これまでの水平線らしさもありますし、こういう曲でタンバリンがずっと鳴っているのはオアシスからの影響も感じます。
田嶋:確かに。今まで僕が作ってきた曲で、タンバリンとアコギが入ってない曲は多分ほとんどなくて。
安東:そうやな。
田嶋:結局、何をやろうとしても「入れたれ!」みたいになるんです。アコギとタンバリンを入れたら良くなるっていうか、秘伝のタレですね(笑)。
──2曲目に収録されている安東さん作曲の「selfish!」は、壮大な構成の「シリウス」から軽快なイントロで始まるのがEP全体の流れとして面白いなと。
安東:「selfish!」は『NEW HORIZON』の頃からデモがあって、EPのリリースとかを考える前から作っていた曲なんです。スタジオでも合わせたんですけど、「今回じゃないか」ってメンバーの間で話して、もう一回作り直すことになりました。こういう軽快な始まり方の曲を作りたかったんです、ELO(Electric Light Orchestra)みたいな。
──たしかに、「Mr. Blue Sky」風というか。
安東:そうなんです。それでEPの曲を並べてみた時に、僕の曲がギターから始まるイントロばっかりだなと気づいて、「selfish!」は歌から始まる構成に変えました。
──歌詞も面白いですよね。情景としては寂しいのに、タイトルは「selfish!」っていう。
安東:本当は明るい曲を書きたかったんですけど、書いていくうちに「なんか上手くいかへんね」みたいな歌詞になっちゃって。それで、むしろこの上手くいかない感じを曲にしちゃえってなったんです。最後の盛り上がる部分とかも、明るいというより、やけくそって感じです。

塩は塩で美味いし、タレはタレで美味い
──もう一つの先行シングル「メモリーズ」も安東さんの作詞作曲、個人的には先ほどの“京都のバンド”っぽさを一番感じるソリッドな曲でした。
安東:これは「シリウス」とは真逆のアレンジで、4人の演奏しかここに入れてないんですよ。アコギもタンバリンも入ってない。
──秘伝のタレ抜きというか。
安東:素材の味で勝負するっていうか、「塩で食え!」みたいな(笑)。
田嶋:俺の曲が体に悪いみたいになってる(笑)。
安東:どっちの良さもあるというか、塩は塩で美味いし、タレはタレで美味いっていう……「焼き鳥でどっちが好き?」って聞かれて、パッと答えられます?
──たしかに、「どっちも好き」って言っちゃうかもしれない。
安東:自分でやるなら塩の方が楽だけど、外で食うんやったらタレも食いたい、みたいな。僕らは音楽のルーツも違うんで、自分からは出てこない進行やアレンジを田嶋が出してくるのが面白いですよね。
──『Howling』はお二人の楽曲がバランスよく収録されてるじゃないですか。この際、お互いの作る曲についてどう思ってるか聞いてみてもいいですか?
安東:「スケール感の大きい曲もええなぁ」と思って試みたりするんですけど、ちょっとハマらないというか。(田嶋は)そういうのが得意なので、どんどんやってほしいです。
田嶋:秘伝のタレとは言いつつも、僕も割とシンプルでひねりのない曲が好きで色々作ってるんですけど、安東くんはそこへのアプローチが面白いなっと思ってて。転調もそうですし、展開を上手く使ってる。僕らは音楽理論を学んでいるわけじゃないので、その分だけ型破りになれているというか、曲にトリックをどう加えられるかっていう工夫を安東くんはしてるなって。それで爆発力のある曲だったり、「何がルーツなん?」みたいな曲を作れるのはすごいと思ってますね。
安東:田嶋の曲って弾き語りでやっても大丈夫なんですけど、自分の曲はあんまりハマる気がしなくて。多分、僕のやってる実験とか工夫とかはバンド・サウンドの中じゃないと成り立たないんですよね。
──次の「風の子のブルース」は、まさに田嶋さんの弾き語りが軸になっていますよね。
田嶋:そうですね。一年前の冬、ソロで弾き語りのライヴやることになった時に作って持っていった曲です。僕はアコギと歌だけで成立させたいというか、それこそオアシスが「MTV Unplugged」でやっていた形とかが理想なんですよ。
ただ、新しいことをやりたいとも思って、「風の子のブルース」はDADGADチューニングにしてるんです。ちょうどその頃に遊んでた友達の家で、サイモン&ガーファンクルの曲をDADGADでブルース風にカヴァーする動画を観せてもらったんですよ。ずっとブルースっぽい進行はやりたいと思ってたし、DADGADもいつかやりたいって思ってたんですけど、その動画で「両方一緒にやれるんや」ってヒントを貰って作りました。
──なるほど。
田嶋:曲を作る前提の部分で新しいことにチャレンジしつつ、その先で出てくる部分は割といつも通りというか。そうすればシンプルだけど新鮮になるんじゃないかと。

旅を続けていれば
──『Howling』ラストの「途中下車」は〈「さよなら」は言わない また会える/僕ら泣き笑い旅する〉という歌詞もあり、バンドのことをストレートに歌ってるんじゃないかと思ったんです。
安東:「途中下車」はバンドのことでもあるんですけど、実はさっき話した《GROWLY》のことを歌ってて。なんというか、水平線という電車に《GROWLY》が乗っていて、そこから一旦降りたみたいなイメージなんです。でも、別にもう二度と会えないわけではないじゃないですか。僕らがどこかに行ってる間に、また《GROWLY》と一緒になれることも可能だろうし、「また絶対会えるよな」って思いながら歌詞を書きました。
──自分たちのことのみならず、バンドを続ける中で出会った人を歌うというのも水平線の一つのテーマなのでしょうか?
安東:いや、こういう歌を書いたのは初めてかもしれないです。明確なイメージがあって歌詞を書くのはこれまでなかったというか、それこそ歌詞のテーマを決めてからアレンジを変えたりもしました。「途中下車」はアウトロがフェードアウトなんですけど、曲の終わりをバツって切ると何かが終わっちゃうと思って。だから終わらないことを表現するために、最後をフェードアウトにしました。環境は変わるけど、「僕らはずっと走り続けまっせ」みたいなことを最後に言えたんじゃないかなって。
20250119
— 水平線 (@suisuisuiheisen) January 19, 2025
なんばHatch
KYOTO GROWLY presents
『GOODBYE GROWLY』
かすみ草
颱
トーチソング
シリウス
ロールオーヴァー
Downtown
お疲れ様でしたGROWLY。
そして本当にありがとう!
お世話になりました!! pic.twitter.com/Kr3eqsTBgK
──今回のEPは総じてポジティヴですよね。新たにリリースツアーも始まりますし、バンドの活動がどんどん面白い方向に転がっている印象です。
田嶋:ずっとやりたかったバンドと出来るので楽しみですね。
──ツアーファイナルは京都《磔磔》、Khakiを迎えてのツーマンライヴです。
安東:Khakiは《旅するロックンロールツアー》皆勤賞なんですよ。東京で一緒にやったり大阪に来てもらったり、今回は《磔磔》で一緒にやろうかなと。Khakiと《磔磔》は合うんじゃないかと思うんですよ。

──最後に、今後のバンドとしてのヴィジョンについても教えてください。
安東:やりたいことをやった上で、「それだけじゃダメやな」っていうのは薄々わかっていて。初期からずっと言ってるんですけど、バンドとして芸術と商業の間を目指したいんですよ。やりたいことを表現しつつも、商業的にうまく成功させて自分たちの活動を続けていくっていうのがベストだとずっと思ってます。
──理想像としているバンドはいますか?
田嶋:スピッツは最強やなって、メンバーともよく話しています。良いバランス感で、ずっとカッコいい。
──『Howling』はその理想像に近づいているのが如実にわかります。
田嶋:そういうイメージへの挑戦ですね。
安東:うん、現状のベストだと思います。
<了>
Text By Ikkei Kazama
Photo By Takuroh Toyama
旅するロックンロールツアー2025 “Howling”
3月2日(日)【名古屋】池下UPSET
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3月8日(土)【大阪】心斎橋Pangea
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3月15日(土)【東京】下北沢BASEMENTBAR
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3月23日(日)【京都】京都磔磔
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【開場/開演】18:00 / 18:30
【料金】 一般 ¥3,500(税込)/ 学割 ¥2,500(税込)
※ご入場時ドリンク代別途要
※学割は入場時に学生証の提示が必要となります。
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