Review

DPR IAN: Dear Insanity…

2023 / DPR
Back

DPR IANがK-POPにもたらす新しいモノ

08 November 2023 | By Kei Sugiyama

まず簡単にDPR IANことクリスチャン・ユーについて説明する。オーストラリアはシドニーで育ち、10代の頃に、過度に活動的になる躁状態と気分が落ち込むうつ状態を繰り返す双極性障害と診断される。韓国へ渡りK-POPグループ、C-CLOWN(2012年〜2015年)として活動するもグループは解散。その活動の中で、双極性障害を悪化させたそうだ。その後、DPR LIVEやDPR CREAM、DPR REMらと共に、音楽だけでなく映像作品の編集/監督、マーケティングまで、制作の全てを自分たちで手がけているクリエイティヴ集団、《Dream Perfect Regime》を設立した。彼の名前は、レーベル名の頭文字DPRに、Christianの最後の三文字を合わせて名付けられた。

「So Beautiful」(2020年)から本格的にソロ活動を始めた彼は、彼のうつ状態を表現したMITOと躁状態を表現したMr. Insanityというペルソナを作った。双極性障害である彼から見えているモノをエンターテイメントとして昇華させることで、精神疾患に対する偏見をなくしたいと語る。彼はそのMITOとMr. Insanityを、バットマンとジョーカーの関係であると表現した。それはクリストファー・ノーラン監督作の映画『ダークナイト』で描かれている、互いが互いに影響を与えている、または依存する関係と言えるのかもしれない。彼がアイドル時代に所属していた「C-CLOWN」というグループ名は、「CROWN(王冠)-CLOWN(ピエロ)」の略で「ピエロである6人が、最高の音楽とパフォーマンスで歌謡界の王冠をかぶりたい」という意味だったそうだ。自らをピエロであると自虐的とも取れるし、偶像としてのアイドル像について自覚的なネーミングとも言えるかもしれない。彼のそうしたバックグラウンドといまの彼のこうした思考の繋がりは、偶然とは思えない。

本作の音楽的な背景を辿ると、マイケル・ジャクソンがまず挙げられるだろう。「Scaredy Cat」(2021年)でも既に彼を意識した踊りをみせていたが、本作収録の「Don’t Go Insane」のMVは踊りだけではなく、彼の誰にも理解されない自分の中のSane(正気)とInsane(狂気)の狭間で揺れ動く様は「Thriller」や「Bad」を想起させる。マイケル・ジャクソンへのオマージュが込められているという点から考えれば、現行の音楽シーンではザ・ウィークエンドなども引き合いに出せるだろう。そうした音楽性は、数多くのK-POPアクトが参照点としている。例えば、BTS「Dynamite」ではマイケル・ジャクソン「Beat It」のMVでみられたダンスをはじめ、マイケル・ジャクソンへのオマージュが込められている。またマイケル・ジャクソン生誕60周年を記念した楽曲、ジェイソン・デルーロ「Let’s Shut Up & Dance」にはEXOレイとNCT 127が参加、TWICEはジャクソン5「I Want You Back」をカヴァーするなど、枚挙に暇がない。こうした側面は、K-POP原点の一つと言っても過言ではないだろう。彼はそうした音楽的背景を感じさせるだけでなく、特に「Peanut Butter & Tears」ではトリップ感のあるサウンドを指向している。MVでのビビッドな色使いやコミカルな演出なども含めて、自分の内側にあるインナー・ヴィジョンを見つめるSSWであるクコ「Paraphonic」やテーム・インパラ「The Less I Know The Better」を想起させる。全てを自分たちで完結させるという点で《DPR》というレーベル自体がK-POPにおいて異端であるだけでなく、彼のこうした音楽性はK-POPというイメージを変える新たな要素と言えるのではないだろうか。(杉山慧)


関連記事
【INTERVIEW】
「終わらせ方が大事と言われたけど、終わらせない」
ヴォーカリストからラッパーの凌平へ
キャリア10年で選んだ、覚悟のリスタート
https://turntokyo.com/features/ryohei-interview/

【REVIEW】
Cuco『Fantasy Gateway』
https://turntokyo.com/reviews/cuco-fantasy-gateway/

More Reviews

The Road To Hell Is Paved With Good Intentions

Vegyn

1 2 3 64