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Cuco: Fantasy Gateway

2022 / Interscope
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“もし時間が戻せたら”
後悔を抱えた主人公のノスタルジックな旅物語

12 August 2022 | By Kei Sugiyama

Cucoとは、メキシコにルーツのある両親から生まれた移民3世であるカリフォルニア出身、Omar Banosによるソロ・プロジェクト。本作は2019年のデビュー作『Para Mi』以来のセカンド・アルバムだ。この間もムーディーなサンセット・ビーチが思い浮かぶ「Paradise」や、現行インディー・ポップにおける夢のコラボとなったBoy Pabloとの「La Novela」など、話題作をリリースしてきた。

3年ぶりとなる本作は、冒頭の「Heaven Is Lucid Dreaming」の歌詞で説明されているように、これを聴けば、時間や場所など実存から離れた夢体験ができるというコンセプトになっている。その説明は、なんだかデヴィッド・フィンチャー監督作の映画『ゲーム』を思わせるようで、この映画のような恐ろしい体験が待っているのかと体をこわばらせる。だが、本作が連れて行ってくれる世界は、後悔を抱えた人が、思い返しながら成長し前へ進んでいく物語である。タイラー・ザ・クリエイターやテーム・インパラなどいまの流れも踏まえつつ、80年代の質感を感じさせるギター・ソロであったり、シンセの音色、サイケデリックな世界観やムーディなAOR、そうしたサウンドによる装飾が、この物語にノスタルジックな質感を与えている。

例えば、「Caution」は、ヒップホップにサイケデリアを取り込み2010代以降のヒップホップのトレンドセッターとなったタイラー・ザ・クリエイターを思わせる。「Paraphonic」「When The Day Comes To An End」「Foolish」そして「Sweet Dissociation」の4曲における、歌声やドラム、シンセサイザーなどのエコーのかかり方/音の鳴りは、テーム・インパラ『Lonerism』からの影響が感じ取れる。また「Foolish」のベースラインやビート感は、カイリー・ミノーグ「More More More」を思わせる所があり、時代を遡っていく感覚も加わり聴いていて面白い。さらに、サウンド面の参照点になっていることはもちろんだろうが、サイケデリックな極彩色に彩られた未知なるポップなゆるキャラたちと遭遇するMVやアートワークはフレーミング・リップスを思わせる。アルバム全体を覆うそうしたサイケデリックな質感の中でも特に、ハーブ・アルパートを思わせるムーディーなトランペットにローファイなシンセサイザーが加えられボズ・スキャッグスなどのAORな雰囲気が感じられる 「Artificial Intelligence」や、そうしたサウンドにギターソロも組み合わされた「Aura」は、サイケデリックな波に揺られてポップ史の歴史を遡っていくようだ。それは、当時を体験しているかに関わらず、音楽を通したタイムトリップである。

本作をそう解釈した場合、「Time Machine」で歌われる「もしタイムマシーンを持っていたら時を戻せるのに」という歌詞に込められている後悔が、音楽的な表現としてアルバム全体のサウンドを構築していると捉えられる。こうした伏線が最後を締めくくる「Decir Adios」では、感傷的な歌詞とピアノ、そして泣きのギターソロを加えて、時間は戻すことができないという物語として回収されている。本作は全体の物語として親しい人との別れと後悔が歌われているが、そうした気持ちを”ファンタジー・ゲート”というタイムトリップを通して気持ちの整理を付けていく過程と捉えることができる。本作が私にとって響いた所はそこだ。音楽体験は、リスナーをここではないどこかへ連れて行ってくれるが、こうした代替え手段を使った逃避は、サイケデリックなマヤカシであり、根本的な問題の解決はしてくれない。しかし、そうした自分の中での後悔と向き合う時間的体験は無意味なモノではなく、この過程によりこの物語の主人公は自分の中で踏ん切りを付けることができたと前向きになる機微が描かれているからだ。また、彼はこの3年間で薬物依存とアルコール依存を患っていた時期があったそうだ。それを踏まえると本作のテーマである後悔の話は、こうした依存からの脱却の話とも捉えられるのではないだろうか。

最後に「Sitting In The Corner」について触れておく。この曲はCucoに加え、カントリー部門のグラミー賞を何度も獲得しているケイシー・マスグレイヴスと、カリフォルニアで生まれ3歳の時に祖父母のいるメキシコ北部ソラノ州へ移住しメキシカン・ポップスを奏でるAdriel Favelaとのコラボである。テイラー・スウィフトやディクシー・チックスのドキュメンタリーによると、カントリー・ミュージックは一部の人にとっては移民排斥主義の象徴となっている。そうしたことを踏まえると、立場の違うこの3人のコラボは、カントリーのそうした負の側面に対する音楽を通したプロテストとも言えるだろう。(杉山慧)


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