Charli XCX: Charli

2019 / Warner Music
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自らを規定しない(できない)ことから生まれるポップミュージック

23 September 2019 | By Daiki Takaku

「Girls Night Out」では「No Boys!No Boys!」と言ってのけ、「Boys」でステレオタイプな男女の関係を華麗に反転させたように、チャーリーXCXはレフトフィールドに片足を置きながら力強くダンサブルでキャッチーかつ先鋭的な面も備えたポップソングを量産してきた。しかし彼女は言う。「人々はそのバランス感をクールだと言うけど、それは私が決めることができないからだと思う」。本作はそんな彼女の迷いと、その克服をつまびらかにした、最もパーソナルで、ジャケットに映るその姿のように剥き出しのポップ・アルバムだ。

「アルバムの完璧なオープナー」と自身が評する「Next Level Charli」で早速エレクトロ・サウンドが弾け、本作でもインターネット・カルチャーに根ざしたレーベル《PC Music》の首謀者A.G.Cookとの蜜月は依然として継続されていることを告げてその幕を開ける。そして2曲目の「Gone」ではクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズのエロイーズ・レティシエとの本作中で最もアグレッシヴなヴォーカルの掛け合いを聴くことができるだろう。その中で綴られるのはパーティーで大勢の人に囲まれている中、抱く孤独や不安。チャーリーはインスタグラムのポストでこの曲の意味について「この曲は解放についても歌っている。この曲を聴いて踊るとき、脳からバッドなフィーリングを全て押し出して、本当の幸福と生きていることを感じる」と話していた。つまり孤独や不安を吐露すること、それを正直に吐き出すことでマイナスな感情は生きている実感として躍動し始めるのだと。

また本作は「Gone」のレティシエを始めとして過去作と同様に様々なゲストが参加した。同時期に頭角を現したスカイ・フェレイラをフィーチュアし、両者の歌声がシームレスに繋がれる「Cross You Out」。ヒット・シングル「1999」とその未来を描いた「2099」ではトロイ・シヴァンが。おそらくはA.G.Cookと共にプロデューサーとしてクレジットされている100 gecsのDylan Bradyの手腕が発揮されているであろう、圧倒的な陶酔感をもたらすノイジーなアウトロが印象的な「Click」にはKim PetrasとTommy Cashが招かれている。加えて「Warm」にはハイムが、「Shake It」にはBig Feeedia、CupcakKe、Blooke Candy、Pabllo Vittarが、「Blame It On Your Love」は『Pop 2』に収録された「Track 10」がLizzoの豊かなフロウによってアップデートされた。こういったゲストの面々をみてもチャーリーがとりわけLGBTQコミュニティと親密な関係を築いてきたことがわかるだろう。彼女は「そこにいるのが自然だった」と言うが、そういったコミュニティに属することで、いつしか個性を表現することの美しさへの憧れを抱き、自分のパーソナルな感情を表現することを求めるようになったのではないだろうか。

ClairoとYaejiの参加し、チャーリーがタイトルの時期に現在のボーイフレンド、ハック・クオンへ許しを乞う様が赤裸々に描かれる「February 2017」を始め、「1999」、「2099」と彼女は時間軸に対しても意識的だ。自らのアーティスト名を分離させたかのようなアルバム・タイトルについて「私の最も人間的な部分だと思う」と話しているが、それに「レコーディングが別の日であれば別のものになっていた」と続けた。本作はどの曲も相変わらずキャッチーで、ときよりレイドバックした緩やかな歌声によってリクライニングを倒すような心地よさに包まれ、ときより大胆にうねるビートによってエキサイトしハイにさせられる。そう、良い日もあれば、悪い日もある。ここにあるのは、自らを剥き出しにして、様々な(セクシュアリティを含む)バックボーンを持った人々と交錯した、彼女の人生の1ページを記録した音楽であり、迷いは迷いのまま解放してゆくことでそれを克服していくという一見矛盾した、でも確かに効果的な方法の記録。同時にそれは暗にあなたが今のあなたであること、わたしが今のわたしであること、そしてわたしたちは変化していくということを伝えてもいるのだろう。

おそらくチャーリーは今日も「決めることができない」。だがそう自分を省み続けることでそこには他者へ向けられたしなやかな想像力が宿る。わたしたちの日々も同じようにアップアンドダウンを繰り返していくし、いかようにも変化する可能性がある。ならば今起きている争いに意味はあるだろうか?本作を聴いていて、Lizzoらが取り上げられた『ELLE』の記事にある「Feuds are passé(確執は時代遅れ)」という言葉がよぎったのは、きっと偶然ではない。(高久大輝)

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