Faye Webster: Atlanta Millionaires Club

2019 / Secretly Canadian / Big Nothing
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ネオ・ソウルとの邂逅がさびしさを愛着へと昇華させていく

12 June 2019 | By Koki Kato

金貨を模したチョコレートを口いっぱいに頬張る様子が幸せそうでもあるし、どこか物足りなさそうでもある表情のポートレイトはフェイ・ウェブスター本人。弱冠21歳、前作『Faye Webster』(2017年)を出身地アトランタのヒップホップ・レーベル《Awful Records》からリリースした後、《Secretly Canadian》へと移籍してリリースしたのが今作『Atlanta Millionaires Club』だ。タイトル通り彼女の人生がミリオネア(百万長者)のごとく満ち足りているのは、出身地アトランタ、ヨーヨー、ニンテンドースイッチ、写真、野球チームのブレイブスなど、大好きなものに囲まれ愛着のあるものに没頭する時間が溢れているからだろう(それら全てが彼女を象徴するアイコニックなものにもなりつつある)。けれど本作では、そんな一見充実して見える彼女の中にある過去のさびしさが歌われている。

まるで日記を読んでいるように具体的で詳細に、悲しくもときにロマンティックな恋愛の思い出が綴られている。「Right Side of My Neck」では恋人の匂いを思い出し、傷ついた恋愛の思い出を語る「Hurts Me Too」、別れた後にメモを託した鳩を元彼の家に送る「Pigeon」。そんな彼の名前ともとれる「Johny」では悲しみについて告白するように、ブレイクアップした後の心情が時系列で語られる。彼女は高校卒業後にナッシュビルのベルモント大学に入学したが、中退し出身地のアトランタへ戻ったという。「Come to Atlanta」でアトランタに来てほしかったという吐露を聴くに、これはナッシュビルでの恋愛だったのかもしれない。どの曲もたしかにさびしさをまとった恋の歌だ。けれど決して悲観さだけではないと感じるのは、本作のサウンドゆえだろうか。

前作にも増してささやくような歌声、彼女のサウンドの代名詞とも言えるペダル・スティール、そしてローズやストリングスを使ったスローテンポな楽曲群が印象的だが、歌詞と合わせて聴いていると、まるで過去の思い出(さびしさ)が今となっては愛着へと昇華されているような心地のよさがある。「Room Tempature」や「What Used to Be Mine」がハワイアンやブルーグラスのゆったりと伸びやかなサウンドを聴かせる一方で、本作ではネオ・ソウルのエッセンスがそのメロウさに輪をかけ、思わず体をゆらゆらと揺らしてしまうリラックスしたサウンドをデザインしている。とりわけ「Johny」や《Awful Records》のラッパー、Fatherがフィーチャリングした「Flowers」を聴くと、アリシア・キーズ『The Diary Of Alicia Keys』(2003年)収録の大ヒット曲「You Don’t Know My Name」や(同アルバムに収録されるはずだった)「Unbreakable」のビートとメロディを思い出さずにいられなかった。両曲は奇しくもアトランタ生まれのラッパー、カニエ・ウエストとアリシア・キーズの共作によるものだ。出身地のアトランタに愛着があり、ヒップホップに親しみがあるフェイ・ウェブスターなら好んで聴いていたのではないだろうか。

またウェブスターは本作について、コンテンポラリー(現代的な)なサウンドを避けながらサウンド面でアリーヤからのインスピレーションがあったことを挙げているが、アリーヤ『One in Million』(1996年)で一躍名プロデューサーとなったティンバランドが、アリシア・キーズ『The Diary Of Alicia Keys』(2003年)に参加していたことを考えると、たしかにアリーヤ、アリシアに地続きの現在にウェブスターがいることを意識してしまう。けれどウェブスターは前述の二人のように力強くソウルフルに歌うスタイルではない、歌唱というよりはあくまでビートやサウンド、メロディを参照したのだろう。70年代のソウルからサンプリングされたビートと甘美なメロディのネオ・ソウルのインスピレーションが、ペダルスティールに象徴的なハワイアンやブルーグラスと邂逅することで彼女のささやくような歌声を引き立て、アルバムとして新たなサウンドスケープを生み出した。それがどうしよもなく心地よいのだ。さびしさがゆっくりと愛着に変わっていくと感じるのはそのせいだろうか。(加藤孔紀)

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