Review

Asake: Work Of Art

2023 / YBNL Nation / Empire
Back

ナイジェリアの新たなスター候補による、着実な進化を遂げた2作目

09 November 2023 | By tt

この1年を振り返るのは少しばかり早計ではあるが、バーナ・ボーイが《Coachella》のメイン・ステージで堂々たるパフォーマンスを披露し、Rema「Calm Down」のセレーナ・ゴメスとのコラボレーションが空前のヒットを記録した2023年は、ナイジェリアのアーティストが、とりわけアメリカのポップ・マーケットにおいてその存在感を高めた、さらなる飛躍の年だったと言えるだろう。

《Rolling Stone》誌のベスト・アフロポップ・ソングに3曲がランクイン、デビュー・アルバム『Mr. Money With The Vibe』も高い評価を得て、ナイジェリアの新人としては最も成功したアーティストとしての地位を獲得したのが2022年。同年のロンドン《O2 Arena》でのオーディエンスの死傷事故という悲劇に見舞われながらも、1年に満たない短いインターバルでセカンド・アルバムとして制作されたのが本作『Work Of Art』であり、そのリリースのスピード感からは急速なブレイクを果たしたAsakeの現在を表しているようでもある。

前作に引き続きのMagicsticksに加えて、最近ではWizkidをゲストに迎えたクリス・ブラウンの「Call Me Everyday」も手掛けているナイジェリアのBlaise Beatzがプロデュースで数曲参加している。ナイジェリア南西部のヨルバのムスリム・コミュニティをルーツにもつフジ・ミュージックやジュジュとヒップホップ、そして南アフリカ発のダンス・ミュージックであるアマピアノをミックスした、ベースとなるサウンドの方向性自体には大きな変化はない。しかし、短い製作期間でありながら、ファーストに比べてベースとなるサウンドをそれぞれブラッシュアップしたりさらにアレンジすることで、各楽曲のクオリティを担保することに成功しているという意味では理想的なセカンド・アルバムと言えるのかもしれない。「リスナーには私のアーティスティックな面を見てほしいし、ヴォーカルや表現方法に魂を感じてほしい。私は時間をかけて曲を作る」とは2023年6月の《Rolling Stone》でのAsakeの発言である。

とりわけヨルバ語と英語を巧みに操るAsakeのラッパーとしてのスキルはファースト・アルバムと比べても格段に進化しており、本作はよりヒップホップに傾倒した作品と言えるだろう。英語詞のみにフォーカスしてみても、

“Full branding, no be fugazi/white range and black Maserati/we dey fire go, koni da fun anybody “「What’s Up My G」

“Immediately, subsequently/Na frequently, high frequency/When I show, na emergency”「Remember」

のように韻の踏み方1つ比較しても、前作に比べてよりスキルフルだ。「Sunshine」でのナズ『Illmatic』への言及などからはAsakeのヒップホップへの愛着のようなものも垣間見える。そしてAsakeのラップと呼応するように、前作収録の「Joha」などでその片鱗を見せていた、彼のサウンドのシグネチャーでもある、アマピアノ特有のログドラムをベースにしたトリッキーなビートはよりソリッドに進化しているように思える。最近ではAsakeとアマピアノを巡る議論も起こっており、様々な見解があると思うが、Asakeのヴォーカル/ラップとの相乗効果によるところも大きいだろう、本作におけるビートの進化はアマピアノか否かという議論はさておいても非常に興味深い。

また、Asakeのルーツでもあるフジ・ミュージック自体が、00年代以降にヒップホップを取り入れ変化していった経緯がある。Wande Coalにはじまり、Wizkidや本作にも参加しているOlamideはその影響下から出てきた新たなナイジェリアのスター達であり、彼らが作り上げてきたフジにヒップホップやソウル、R&Bをミックスしたサウンドはアフロビーツの源流の1つである。本作は様々な紆余曲折を経て変化していったフジ・ミュージックからアフロビーツに至る歴史の末尾に位置する作品でもあるとも捉えることができるだろう。

ジャン=ミシェル・バスキアを曲タイトルに冠した「Basquiat」では、優れたアートや名声、富の象徴として、自らをバスキアでありメキシコの麻薬王エル・チャポやナイジェリアのジュジュの巨人、エベネザー・オボイであると、彼らの名前を引用しながら、自らを鼓舞している。そこからは、現在ブレイクの渦中にいるアーティストならではの自信と自己肯定感の高さを感じとることができるだろう。本作リリース後の、Fireboy DMLやTiwa Savageといったナイジェリアの先達と盟友が一堂に会した2023年8月のロンドン《O2 Arena》公演におけるパフォーマンスは、今後のAsakeのさらなる飛躍を予感させるのに充分な存在感を放っていた。(tt)




関連記事
【FEATURE】
Tems
今最もアルバムを期待されているナイジェリアの若手筆頭
http://turntokyo.com/features/the-notable-artist-of-2023-tems/

【REVIEW】
Fireboy DML
『Playboy』
http://turntokyo.com/reviews/fireboydml/

【REVIEW】
Burna Boy
『Love, Damini』
http://turntokyo.com/reviews/love-damini/

More Reviews

The Road To Hell Is Paved With Good Intentions

Vegyn

1 2 3 64