Review

Drahla: angeltape

2024 / Captured Tracks
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砕けた砂の中で輝きを分かち合った

11 May 2024 | By Takeru Murata

冷たくソリッドなポストパンクでしか覚えられない興奮を知っている。奇妙さと妖艶さと自由さが不気味に混ざり合い、痛みと快楽を伴った動的エネルギーが生まれる。それを再び思い出させてくれるバンドが2024年に戻ってきた。そう、UKはリーズ出身のDrahlaが2019年のデビュー作『Unless Coordinates』以来のセカンド・アルバム『angeltape』を2024年4月に《Captured Tracks》からリリースしたのだ。

Drahlaの活動にはあまり影響が無かったと思うが、近年のUK及びアイルランドのギターロック・シーンを少し振り返りたい。前作『Unless Coordinates』がリリースされた2019年はフォンテインズD.C.やブラック・ミディもまたファースト・アルバムをリリースしている。強烈なエネルギーを持った新しいバンドが次々と登場していく潮流が日々加速していった中で、2021年にはブラック・カントリー・ニュー・ロードやスクイッド、ブラック・ミディがそれぞれアルバムをリリース。これらの作品はポストパンクをルーツに持ちながらも、そのジャンルには留まらない様々な音楽をコラージュ&再構築したその年の象徴的な名作だと評価されている。これらは2010年代後半からの、いわゆるサウス・ロンドンのシーンの中で勃興した流れの一つの到達点であり、分岐点ともなったと思っている。つまり、 Drahlaがいなかった5年間のUKのインディー・ロック・シーンは、ポストパンク的なサウンドが興隆を生み出したものではあると思うが、シーンは一周し、今では多くのアーティストはポストパンクからは距離を置き、別のジャンルの中に自分たちの音を探しているようにも感じる。

そうした変わり目の中で、久しぶりに新作を発表したDrahlaのサウンドは痛快そのものだった。冒頭曲「Under The Glass」は不穏なサックスで始まると思えば、それを切り裂くようなソリッドなギターで作品が一気にドライブしていく。Drahlaを再びこのシーンに召喚させるような呪術的な始まりは、その復活を祝福せずにはいられない気持ちにさせられる。



個人的に最も白眉だったのは6曲目の「Concrete Lily」。作品の中で最もスピーディーなリズムで始まるが、疾走感あるサウンドでも変わらずニヒルなヴォーカル・ワークを貫くルシエル・ブラウン(Gt/Vo)の歌に加え、ジグザグとしたギターと闘争心を掻き立てるサックスはらしさそのもの。更に、疾走感を先導していたドラムは曲の終盤でドカドカとしたリズムに転調するが、カッティング・ギターとサックスが衝突するように不規則に交じり合うカオティックなサウンドへと変わる様も天才的だ。コンクリートの百合という曲名でもあるが、そのカオスの最中で発せられる「砕けた砂の中で輝きを分かちあった」というリリックラインにもゾクっとさせられる。

「このアルバムは孤立したインスピレーションを土台に作られた」とルシエル・ブラウンは言うが、エクスペリメンタル・ロック・バンドのレジェンド、ディス・ヒートのアプローチをヒントに、既にまとまったイメージを目指して制作するのではなく、メンバーそれぞれが持ち寄るバラバラのアイデアからインスピレーションを得て制作していったという。「外部の音楽から着想を得るよりもずっと実験的で閉鎖的だったと思う」は面白いコメントだと思った。既成の音楽のイメージに左右されないよう距離を置きつつ、己に潜むまだ形になっていない何かを深く追求することこそが彼女らにとっては実験的であり、その手法だからこそ没入感のある斬新で新鮮なサウンドを生み出したのだ。「絶え間ない変化、相反するアイデアや構成、曲全体のエネルギーや推進力。再接続、励まし、自由という感覚もある。私たちが再び一緒に何かを見つけることから生まれる興奮がある」ルシエル・ブラウンはこのようなコメントも残す。

Drahlaは2019年にファースト・アルバム『Unless Coordinates』をリリースしたが、《Captured Tracks》のオーナーであるMike Sniperが惚れ込んで契約したという逸話もある通り、上述したようなそれ以降の時代の主役にさえなり得る存在でもあったと思う。燃え上がっていくシーンの中で息を潜めていた孤高の天才たちの再登場は、ポストパンクの美しさやそれでしか得られない興奮を再び示す最高のカムバックとなった。ソリッドな楽曲が続く中で唯一優しいムードに包まれた9曲目「Venus」では「ヴィーナスはまるで私がそこにいないかのように私に手を差し伸べた」と歌う。神秘的帰還。改めて太字で伝えたい。Drahlaが帰ってきたことを。(村田タケル)


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