BEST TRACKS OF THE MONTH : 11 June 2018

Various Artists

BEST TRACKS OF THE MONTH ~2018.05~

By Shino Okamura / Daichi Yamamoto / Yuta Sakauchi / Daiki Takaku / Yasuyuki Ono

BEST TRACKS OF THE MONTH -May, 2018-

TURNライター陣による、2018年5月のベスト・トラック紹介!

Anderson .Paak – 「Bubblin」

前作『Malibu』は、ブラック・ミュージックの歴史を探究するようなアルバムだった。ソウルからファンク、ヒップホップまで幅広く取り込んだ音楽性、バックのThe Free Nationalsによって支えられた有機的な演奏の上品さから、彼のことをシーンに舞い降りた”優等生”と捉えていた人は少なくないだろう。しかし、今年中のリリースが期待されるアルバム、『Oxnard Ventura』からの新曲「Bubblin」はそんなイメージを覆す、マネーやマテリアリズム、更なる成功への欲を全く隠さない、パークの強い野心が溢れた一曲だ。

アクション映画も連想させる、トランペットやストリングスの忙しないメロディが印象的なトラックの上でパークは、「カネの無かった時代よ、R.I.P.」と声高に叫びながら多数の客演やグラミー・ノミネートを経た自身のステータスを鼻にかける。だが、札束のプールにダイブし、ひたすらケツを振るオンナたちに囲まれるMV中のパークの姿は、それでもまだカネが欲しい、スターダムにのし上がりたいと言っているかのよう。今でこそブラック・ミュージックのオルタナティブ的立ち位置の彼だが、ドラム演奏やステージからのダイブも披露した「ジミー・キンメル・ライブ!」でのこの曲の華のあるパフォーマンスを見ていると、ただただ彼の本性はブルーノ・マーズさながらのギトギトしたエンターテイナーなのだはないかと思えてくるのだ。(山本大地)

André 3000 – 「Me&My (To Bury Your Parents)」

“言葉がなくなってしまう”というクリシェは、こういう曲にこそ使われるべきなんだろうな。アウトキャストの片割れで、完全な休止状態ではないものの、緩やかな沈黙の中にあるアンドレ3000が、今年のマザーズ・デイ(5月13日)にSoundCloud上で発表した一曲。長年のコラボレーターであるケヴィン・ケンドリックのスムースなピアノに、アンドレの歌とバスクラリネットが重なる、あまりにもメロウでラブリーでスピリチュアルなR&Bバラード。シンプルなリフとメロディの繰り返しで成立している曲であるにも関わらず、リズムやニュアンスが軽やかに移ろい続ける様から、煌めくようにアンビエンスが浮かび上がり、4分半ほどの曲は(何度でも)あっという間に終わってしまう。

今回のリリースは、2013年にこの世を去った彼の母親に捧げられており、アンドレは翌2014年にも父親を失っている。曲そのものは両親が失くなる前に書かれたものだが、楽曲がレコーディングされたのは2015年とのこと。また、この曲が公表された5月13日には、ジェームズ・ブレイクの鍵盤をセッション相手に迎えた17分に及ぶジャジーな「Look Ma No Hands」も同時に公開、こちらは2017年にレコーディングされている。改めて振り返ると、カニエ・ウェスト『The Life of Pablo』、フランク・オーシャン『Blond』、ソランジュ『A Seat at the Table』など…ここ2年ほどで彼が関わった重要作の数々には目を見張るものがあるが、2曲はその前後に産まれ落ちた作品ということになる。カニエが驚異的なアルバム『ye』で本格的に復帰を果たした今、次なる帰還が待たれる天才は彼だ。今回は一度限りのプロジェクトである可能性が高いとは言え、今後の行く末を想像するにも十分過ぎるリリースとなった。(坂内優太)

ANOHNI – 「Miracle Now」

昨年暮れの来日時には「しばらくアルバムは作らない、少なくとも『ホープレスネス』と同じ制作陣ではもういいかな」と語ってくれたアノーニの新曲は、デンマークのコペンハーゲンにあるアート・センター《Kunsthal Nikolaj》で先月から開催されているアノーニのアート・インスタレーション&回顧展『MIRACLE NOW』のために書かれたもの。絵画、彫刻、9チャンネルのビデオなどによる展示は、アノーニが昔から気にかけている自然や生態系の破壊がテーマになっているようで、インスタレーションの一部と思われるPVからも、尊大な人間への徹底した戒めを見て取ることができる。曲自体は僅か1分40秒程度の、アントニー&ザ・ジョンソンズ時代を思い出させるシンプルなピアノ弾き語り。なるほど、この曲もそうだが、あのミニマムなスタイルで共演した大野慶人との禁欲的かつ情緒豊かなパフォーマンスにアノーニが絶対的に敬意を表しているのは、現代人としてどこまで謙虚でいられるかに向き合おうとする意識の現れなのかもしれない。(岡村詩野)

A$AP Rocky -「Purity feat.Frank Ocean」

エイサップ・ロッキーの最新作『Testing』は、タイトル通り実験的な試みに満ちている。さらにいえばPitchforkが「フランク・オーシャンが2016年に発表した『Blonde』のリメイクを試みたもの」と書いているように、その影響を強く感じるものだ。『Blonde』はオーセンティックなR&Bに主眼を置きながらも、ピッチ・シフトされたヴォーカルは何層にも重なり、楽曲は曲中で幾度もカタチを変える。それは複雑だが、様々なリズム・パターン/ドラム・レスのビートによって緩やかに繋げられ、現代の多様性とそれらをいくつも内包した存在である我々を表現した傑作だった。本曲はまさにその作者であるフランク・オーシャンを招き、ローリン・ヒルの「I Gotta Find Peace of Mind」をサンプリング。ロッキーを含めた三者の声は変調され、複雑に絡み合い、その境界線は崩れ、曖昧になってゆく。しかしそれらは終始サンプリングを用いたトラックに優しく包み込こまれている。

ロッキーはロッキーであり、オーシャンはオーシャンであり、自分は自分以外の何かになることはできないのか。いや、わからないんだ。境界線は曖昧で、私は私で、君でもある。そう、わからなくていいんだ。それは紛れもなくオーシャンが『Blonde』へ込めた多様性への祈り。本曲はそのバトンが確かに繋がれたことを知らせている。(高久大輝)

Childish Gambino – 「This is America」

「This is America」は、”脚本家、ドナルド・グローヴァー”の顔が強く押し出された作品だろう。楽曲の本質にあるシリアスさを無視したようなミームもネットに溢れた通り、この曲が全米初登場1位を記録したのは、あらゆる受け取られ方、楽しみ方をされるポテンシャルを持っていたからこそである。リリックやMVの真意について語ろうとしないガンビーノは、そうした「楽曲へのリアクション」も含めて「これが現実」と言いたいかのようだ。脚本も務めたコメディ・ドラマ『アトランタ』同様、彼はこの曲で現実について、あくまでもポップ・ソングというフィルタを通して、私たちに学び、思考する機会を与える。特定のトライブをリプリゼントすることも、一つの理想を押し通すこともしない。『To Pimp A Butterfly』や『Lemonade』とは別種のアプローチなのだ。

オーガニックなギターにクワイアのコーラス、ネプチューンズを彷彿とさせるような高揚感もある。だが、何よりドラムの鳴りからして、体はトラップ・ビートのヒップホップを聴いている時と何ら変わりなく動く。未だに日々起こり続ける銃殺事件や警官による黒人への暴力など私たちが日々エンタメに”逃避”している間に忘れがちな”現実”へと目を向けさせるこの曲は「ポップ・ミュージックは現実の写し鏡」という言葉そのものであるが、リリックには耳を傾けず、あの衝撃的なMV(細かい解説は他の記事に任せよう)も見ていないとしたらこの曲は単に「娯楽」で終わっていたかもしれない。(山本大地)

Kanye West – 「Lift Yourself」

“自由な思想”や“抑圧されない思考”をいまカニエ・ウェストは求めているとツイートしている。“リバティー”と名付けられ、「自由を求め自ら立ち上がれ」と繰り返し歌う一曲をサンプリングしたメロウなこの曲が、そのツイート群と関連していると考えることは容易である。曲後半は曲調が一転し、ダークな重低音の中「次のヴァースで」とカニエ自身がラップし、「自らの脚で立ち上がる」という歌詞のサンプリングを重ね合わせた後、ラジオDJエブロ・ダーデンを揶揄するヴァースが展開される。自らの考えを“自由”に発信し、自身の中の“正しさ”を貫くこと。それが、今のカニエの態度のようにもみえる。

しかし、最近のカニエによる親トランプ的な行動や奴隷制は選択であったという発言からは、それらによって傷つき何かを奪われてきた他者へのまなざしが欠如している。それは、”自由”や”正しさ”などでは決してなく、”自由や正しさのかたちをした何か”でしかない。

この曲は私たちが決して戻ってはいけない位置を指し示していると考えることもできよう。自らを絶対視し、他者性を喪失した言葉は単なる暴力でしかない。私たちはその位置へ戻らないように音を、言葉を紡いていかねばならない。スタートはそこしかない。カニエは自らの身をなげうって、反面教師としてそのようなメッセージをこの曲に込めているのだろうか。「Lift Yourself(立ち上がれ)」とは目線を一段階上げることでもある。他者に対する批判が止まぬこの世界で、自らが立っている場所を相対的に見つめなおし、自らの言葉が向かう先を考えるための歌としてこの曲が作られているのであれば、どの楽曲よりも優れて批評的にこの曲は鳴り響く。これは“自由”と“正しさ”の手前にある他者に気づくための一曲だ。(尾野泰幸)

Moses Sumney -「Make Out in My Car」

まもなく初来日公演(6月15日品川グローリアチャペル)が実現するカリフォルニア出身のシンガー・ソングライターによる、ちょっとユニークな4ヴァージョン入りのEP(デジタルのみ)が届いた。去年のファースト『アロマンティシズム』に収録されている曲のリ・ワーク集という扱いで、モーゼス自身による新ヴァージョン、アレックス・イーズリーとのデュエット、ジェイムス・ブレイクによるリミックス、さらにスフィアン・スティーヴンスによる同名の新曲という構成。みなモーゼスとは旧知のメンツだが、中でも注目したいのは元の曲を参考にして新たな曲を作り上げたスフィアンの仕事だろう。モーゼスとスフィアンとは過去にステージでも共演しているが、ここでのスフィアンの『キャリー&ローウェル』路線の静謐な弾き語り曲はまるでモーゼスへのラブ・コールのよう。本気でモーゼスに惚れ込んでいることが伝わってくる。もちろん、今回PVが公開された元の曲(本人によるエクステンデット・ヴァージョン)ありきだが、4種類合わせて聴いて、モーゼスがここでの参加アーティストの顔ぶれさながらに、ゴスペル、エレクトロニカ、フォーク…などにクロスオーバーしたハイブリッドな存在であることに気づかされる、そんな企画だ。(岡村詩野)


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