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自分と世界、その圧倒的な違いを感じる瞬間を音楽に
Le Makeupが『Odorata』で歌う“せめぎあい”

09 March 2023 | By Daiki Takaku

普遍的なことなんて、世の中にはあまりないのかもしれない。多様性という言葉から想像するイメージにはそれぞれ幅があって、その外側の存在を想像するのは難しいのかもしれない。だから人は語り合うのだと思う。でもどうして……相互理解はこんなにも遠くにあるのだろうか。世界がそれを見つめる私自身の認識や理解を通して映し出されているのであれば、わたしとあなたが理解し合うことなど、永遠に叶わないのではないのか。そもそも自分が何を求めているのかさえ、私たちはわかっていないのではないのか。

冷静になって考えても、『Odorata』はしぶとく、諦めの悪いレコードである。切り替わる一人称や二人称。ゆらゆらとたゆたうギター。少しだけザラついたピアノ。差し込まれるアンビエンス。そして響く歌。Le Makeupは対話のままならなさへと直面する一瞬一瞬を周囲に漂う空気の揺らぎごとまるっと切り取ることで、そこに横たわる諦念とそこにしかない可能性を掬い取っていく。

身体や影を重ねて。あなたを、君を、俺を、わたしを、僕を、もういないあの人を、わかった気になって、またわからなくなってを繰り返して。そうしているうちに、全18曲(とはいっても意外にもあっという間に過ぎていく約55分間)、しぶとく描かれる一瞬一瞬の情景を聴いているうちに、こう言い切りたくはならないだろうか。愛の本質は祈りである、と。

あえて言うならこのLe Makeupの歌の核にある何かは前作『微熱』(2019年)とさほど変わりないのかもしれない。でも確かにその表現は軽やかさを纏いながら、深化し、進化している。完全セルフ・プロデュース作となった『Odorata』でLe Makeupは何を試みているのか、抱いた印象を制作者本人にぶつけながら話を訊いた。

(取材・文/高久大輝 協力/岡村詩野)

Interview with Le Makeup


──ご無沙汰しています。お変わりないですか?

Le Makeup(以下、L):お久しぶりです。引越しをしました。今住んでいるところには中学の頃まで住んでいたんですけど、高校生くらいで大阪の市内に引っ越して、今はそこに戻ってきた感じですね。前にインタヴューしてもらったときは逆に実家を出て暮らし始めたくらいのときだったんで。そういう住環境の単純な変化はありますね。南大阪の海側で、難波とか中心地へ出るのに30〜40分くらいかかる。だから今は少しスローダウンしてるというか、駅まで徒歩20分かかるような田舎なので、本当に散歩くらいしかやることがないというか。リラックスはしてるけど「これで大丈夫か?」みたいな気もする(笑)。

──そうでしたか。『Odorata』を作ったのは引越し前ですか?

L:半々くらいですかね。去年の春に引っ越したのでもうすぐ一年で、曲自体は半々だけどどっちが濃いかと言われると今住んでるこっちかな。だいたいアルバムの前半が引っ越し前、後半が後って感じですね。大阪の中心地と田舎に住んでいたこの2年半くらいの記録でもありますね。

──前作『微熱』から約2年半が経ってのリリースになりましたが、いつ頃から制作は始まったんですか?

L:『微熱』を出してからすぐに次を作ろうとはしていました。「うまいことできたな」という部分と「これでは自分がうまくできたと感じただけで終わるな」という気持ちがあったので、次はもう少しちゃんとアルバムとしてレールに乗った上で同じことをしたいなと思っていて。例えば今回でいうと《SPACE SHOWER》でリリース関係の大半をマネジメントしてもらったりしているんですけど、そういう一個のレールに乗った上でできるだけ外したいというか。前の段階だと最初から外れていたから、そういう意味で開けたものにしたかった。普通に聴かれるものでいかに同じことができるかということを考えながらいろいろやってみたかったんです。『微熱』をリリースした頃はコロナでいろんなものがシャットアウトされていたときだったので、出した後はライヴも少なかったですし、実家を出て暮らし始めたタイミングで環境が変わった時期というのもあってあまりペースが掴めなくて。気持ちだけはあるし、曲も作っていたんですけど、なんとなくやる気がなかったというか、何もできない時間が結構あったなと。言ってしまえば世間のムードといっしょに沈んでいたんですよね。そこから制作で以前よりは声をかけてもらえたり、「トラックを送ってほしい」と言ってもらえる機会が増えたりして、それをやっているうちにいろいろ吸収できたりして。ちょっとずつライヴもできるようになって、前よりも自信がついてきて。だいたい1年前くらいから集中してやった感じですね。

──『Odorata』には『微熱』で掴んだ手応えが確実に生かされていて、言い方が変かもしれないですけど改めてファースト・アルバムを出したなと思ったんですよね。

L:そうですね。前作が自分にとってはターニング・ポイントというか、自分が今やるならこういう感じだなと思えた作品でした。次のアルバムを出すならこれを拡張というか深掘りしたものにしたかった。ただ単純に歌を増やすとか、聴きやすくするんじゃなくて、自分でいいと思えた部分、5角形のパラメーターがあるとするなら、前作で伸びていたところを5角形からはみ出させることによって、全部イケてる感じにしたかったんですよね。足りていない部分を諦めるんじゃなくて、良かった部分を伸ばすことでそれも補うような。

──『微熱』は言葉選びにもすごくこだわった作品でしたね。今作にもそういった印象を受けました。

L:前作は作る前から使う言葉をメモしていて、そこから自分がこの音に対して乗せたい言葉をフリースタイル的に入れていくことが多かったんですけど、今回は言葉をメモしておくというよりもうちょっと自分以外の話も入っているというか。もうちょっと外の視点があるかもしれないし、そうでもないかもしれない(笑)。基本的には話しているような言葉を選びたくて、正しいことでも間違ってることでも自分が普段絶対に言わないあるいは言う可能性がないことは曲の中でも絶対言えない。そういった部分は変わらないですね。あと人間なんで言いたいことや考え方も今日明日とかで全然変わると思うんですけど、それでも自分の中で伝えたい手触りというかニュアンスのようなものは結果的にやっぱり似てきた。今作でも、この曲でこういうこと言ったからこの曲ではやめておこうとか、この曲はこういうテーマだからこういうことを言おうというのはやっぱりあまり考えなかったです。このアルバムでこういうニュアンスの言葉を使おうということしか決めなかったので、そこは似てきていると思う。考えてることとか言いたいこととかは毎日変わってるようで、実際そんな変われるものでもないというか。

──前作ほどパーソナルに感じなかったのは、“外の視点”があるからなのかもしれません。例えば曲のタイトルになっている「パートナー」という言葉は昔からずっと使われてきた言葉ですが、「彼氏、彼女」あるいは「ボーイフレンド、ガールフレンド」といった言葉が持つ性別の隔たりを意図的に越えていく言葉でもあると思っていて、それもあって自分は政治的な意味合いで新しいラヴソングとして受け取ったんですよね。

L:「パートナー」は最初の構想では12曲くらいで全部ラヴソングっていうのも僕がやったら面白いかなとか思っていて、結果そうはならなかったですけど、その中の一つでした。でも、政治的にあえてというよりはもっと文字通りの意味かも。この曲でこうしたいとかこういうことを伝えたいというのは自分の中ではあるとしても、これを歌ってその先を考えることはないというか。そう思った瞬間とかについての歌でしかない。ただ、たしかに前より俗っぽいというか、社会に触れているかもしれないです。実際の自分も、この数年で以前よりかなり社会に触れたと思うし。

──事前にいただいている資料にはイタリア人作家、チェーザレ・パヴェーゼの名前がありますし、13曲目のタイトルになっている「カラブリア」もイタリアの地名ですよね。イタリアという国が今作では重要だったんですか?

L:単純にパヴェーゼっていう作家の本を去年、一昨年くらいに読んでいて。自分が思う、自分の住んでいる街とか、今でいうとこの大阪の南の海の近くの街なんですけど、それと重ねている部分があるんです。パヴェーゼの小説って第二次世界大戦の頃のイタリアが舞台になっていて、パヴェーゼの自身も反ファシズムの活動家でもあって、そういう絶望感や閉鎖感が文章の後ろに流れていると思うんですけど、その閉鎖感と住んでいる街の感じが、もちろん絶対同じではないけど、自分の中で重なっていて。カラブリアはパヴェーゼの「流刑」という小説の舞台なんですけど、カラブリアにも行ったことはないし、本当に自分の幻想で、勝手に重ねているだけなんです。イタリアがどうというよりは自分の中の想像で、アルバムの舞台になっている風景というか。何個かシーンがあって。ベンチに座っていて、海が見えていて、夕日が射しているとか。そのときの温度や湿度の感覚、風の吹き方や木の揺れ方だったり、自分のイメージするシーンの舞台のソースがそのパヴェーゼの小説だったという感じですね。

──ではギターのエフェクトやトーン、アンビエンスなども舞台設定を音として具現化したということですか?

L:架空の舞台を用意したとか、その舞台の中でいろいろ起こっているアルバムではないんです。こういうところを舞台にしてこういう曲を作りましたってことには自分は興味をそそられない。瞬間、その木の葉が揺れた瞬間のような。対人やとしたら自分と対面するその他者と自分の圧倒的な違いというか、自分と世界の圧倒的な違いを感じる瞬間を内包するのがその空気感というか。

──その一瞬、ワンシーンに映っているものを音に変えていっているイメージですか?

L:それが近いですね。

──「自分と世界の違い」というのは前作からもフォーカスしているところですよね。さきほど政治的なことは意識していないとおっしゃっていましたが、それってきっとLe Makeupさんの曲がその一歩先にいるからなのかなと思いました。対話のままならなさ、難しさを歌っているというか。

L:そうですね、考え方的にはスーパーローカルというか。例えばですけど、地元や友達のことを歌う曲が日本や世界中でたくさん聴かれることがあるとして、それをもっともっとローカルにするイメージで自分の半径1mくらいで起きる出来事もしくは自分の内側に向かっていて。結局たぶん見えているものは自分でしかない。目の前にいる人も自分を通して見ている。というのと「自分なんてないよな」という考えも同時にあって。そのせめぎあいを歌っている気もしますね。なんというか一概には言えないけど、政治的にアウトプットしようとしていないものこそ政治性を帯びるんじゃないかみたいに考えているところがある。だから、こういうことを伝えたいからこう言おうとかそんな風に作るって感じじゃない。政治的であることは当たり前というか……。意識してないというと嘘になるけど、意識して書いたというとそれも嘘になる。

──単位をミニマルにして“自分”にフォーカスしていくと、そもそも「自分とは何か」という問いも立ち上がってくるということですかね。

L:はい、だからさっき言っていた舞台みたいなものももっと限定的にしていっているというか。自分が考えた映画のサントラとかではなくて、もっとその中の局所的な事柄について考えたい。そういうところに結局目がいってしまうんです。

──1曲の中にもいろんな瞬間があるということですね。だから曲の中で一人称や二人称が切り変わったりもする。

L:そうですね。場面ごとに自分のことを“僕”と言うこともあれば“俺”と言うときもあるし、別にそれは変ではないかなと思っていて。曲のそのときのアティチュードみたいなものもそこに入ってきてると思います。日本語で歌う面白さだと思うんで、一人称や二人称を選ぶのは好きですね。“君”や“あなた”も、さっきの話で言うともっと限定的というか。“君”は別に聴いている人のことではなく、その瞬間にいる相手のことを歌っているつもりです。そういう限定的なことを歌っていると思います、自分は。でももちろんそれは作っているときのことなので、そう受け取らないでくれっていう話ではなくて(笑)。

──ちなみに客演はどのように選んでいったんですか?

L:選んだという感じではなくて、アルバムを作ろうとして誘ったものはないんです。客演してもらった方々のおかげでたぶん前作より開けた印象も出たと思うんですけど、かといってこの人とやったらヒキがあるとか、この人とやったら面白いことが起こるんじゃないかっていう理由で誘ったと言うよりもうちょっとラフにできたものが多いですね。自然な関わりの中でできたものを後からアルバムに入れるための工夫をしたものがほとんどで。

──《Pitchfork》が「Play (feat. Tohji, gummyboy)」を取り上げた際にMura Masaの名前を挙げていました。自分は勝手にそこまで影響はないだろうと思っていたんですが、実際はいかがですか?

L:正直言うと全然ないんですよね。一緒に名前があがっていたPinkPantheressとかもそうだけど、正直あんまりちゃんと聞いたことない。だから意外というか、こう聴こえるんやっていう面白さはありました。もちろんこう聞かれて嫌とかは無くて、そこは楽しみでもあります。

──アルバムの中でも飛び道具的な1曲ですよね。

L:まさにそんな感じで。あの曲があるおかげで聴こえ方が変わってくるんじゃないかと思って入れた曲ですね。

──アルバム全体の流れの中で重要ですね。18曲、フルプロデュースということで、アルバム全体の流れはどのように意識していましたか?

L:自分だけでやると、そうしようと思っているわけでなくても、僕の声とかメロディーや節回し、歌詞が、どうしても感傷的な雰囲気になってしまうところがあって。そこはバランスを取りたいなと思っていたんですよね。今回は最初に言った通り、レールに乗った上でどこまで外せるかなと考えていたので、そういう取っ掛かりも作りたかった。『微熱』を聞いた人のこともちょっと想像して「この人の音楽はこんな感じでしょ」と思ったとしたら「でもなんか違うやん」っていうところをいくつか作りたかったんです。そういう面で自分が思うポップスに接近したものやもうちょっとオーソドックスなポップスに聴こえそうなものを配置したいなと思ってましたね。

──“取っ掛かり”という意味では「Drive My Car (あなたとわたし)」というタイトルも気になりました。これはそのまま映画の影響ですか?

L:すごい影響されたとかっていうよりは、パヴェーゼの話と同じで自分が今住んでいるところと『ドライブ・マイ・カー』の映画の雰囲気、空気感が似ていたというだけで。だから変な言い方ですけど利用させてもらったようなところがあるかもしれません。そこに自分の一時のムードを落とし込むような感じで。だから別に映画自体は今後一生好きかと言われるとわからないしそういうことでもない。あれだけヒットしたものだったからというのもある。もちろん大好きだし本当に素晴らしい作品だと思ってますけど。影響ってそのくらいのものでもいいのかなとも思っていて。例えば“Drive My Car”とタイトルに入れたのも「昨日観たから」とか、それくらいの話でもあるというか。

──たしかにタイトルになっていなければわからないかもしれないです。

L:だからこそ無理矢理にでも引用したかったんですよね。前作でも『乱れる』という映画のリリックを入れたんですけど、そういう強引な差し込みなんです、この曲でやったことは。共有できるイメージを利用させていただいたというか。

──ヒップホップ的な身軽さがありますね。

L:そういう感覚かもしれないです。

──アルバムがまだ完成していないころに東京のあるクラブで偶然お会いしたとき「シンガーソングライターとしてのアルバムを作りたい」とおっしゃっていましたよね。その点は制作していく中で変わっていきましたか?

L:今回に関しては最後までそう思っていましたね。以前はやっぱり歌に自信が無くて、でも『微熱』をリリースしてから「ちょっと聴けるようになってきてるな」と録音しながら思っていたので、自分がそう思っているならそれも出したいなと。誰かにトラックを提供しているプロデューサーのアルバムという感じではなくて、一聴して“シンガーソングライターのアルバム”として聴こえるものにしたかった。

──そういった「聴こえ方」を俯瞰するために周りに意見をもらったりはしてたんですか?

L:《SPACE SHOWER》のスタッフの方はもちろん、近いところだとDoveは自分と同じくらい聞いて感想やヒントを沢山くれたりしたし、あとはDJのCE$さんに相談させてもらったり、「カラブリア」のMVを作ってくれたKazumichi Komatsuにも何度も聴いてもらっていたり。周りの人にたくさん聞いていましたね。2人きりで話す機会があったら「実は今アルバムを作っていて」みたいな。大阪のトラックメイカーのMetomeさんにも話を聞いてもらったこともあったり。周りには恵まれていると思いますね。もちろん「こうせなあかん!」みたいに言う人はいなくて、自分で話をしている中でこうしようかなと思えてくるというか。そういう意味では周りの方々に時間や労力を取らせてしまいました。でも、そのおかげで得たものは沢山ありますね。

──それも開けた印象に繋がっているんでしょうね。

L:周りにいろいろ話していたのはやっぱり聴かせる意識があったんだと思います。以前は他人に聴いてもらうことは考えていなかったし、自分も好み的にあえて普段考えないようにはしているんですけど、これを出したら誰かは聴いてくれるなという感覚が初めて生まれた気がしていて。これまでは聴き手の想像が一切できていなかったというか、それが生まれた初めての作品ではあるかもしれないです。

──『微熱』のリリースによって聴き手が存在していることの実感があったと。

L:聞かれることを意識してつくるというよりは、聞く人のいる状況に自分がいるという前提がうまれたという感じですかね。

──音楽的な影響を受けた作品はありますか? ワンシーンを切り取ったものを集めたという今作には、そのときどきに聴いていた音楽も反映されているのかなと。

L:最終的にそうなっているかは置いておいて、憧れ的なものもあるとしたら、ミカ・リーヴァイ(Micachu)は純粋に大好きなので影響は受けていると思う。あとThe Cleaners from Venusっていうイギリスのバンドもよく聴いていて。《Captured Tracks》とかからもリイシューされていたと思います。ドラムマシンとローファイなギターでヘンテコなポップさがあって。制作期間中に良く聞いてました。そういうのと、日本語詩においてはSMAPの「Magic Time」(2010年)って曲だったり、サニーデイ・サービスの『愛と笑いの夜』(1997年)とかの影響は大きいと思う。あとは小沢健二とか。

──小沢健二だとどの辺りの作品ですか?

L:『Eclectic』(2002年)とか、ニューヨークにいたころの作品ですかね。『Eclectic』のスノッブな感じというか。あとは小田和正やスネオヘアーとか、Serpentwithfeetとか。今思えば、普段聴いているもの(ミカ・リーヴァイやThe Cleaners from Venusなど)をそういう方向で昇華しようとは考えていたかもしれないです。ポップスに接近しようとした結果的にもっと異質なものができているみたいな、そういう風に仕上げたかった。でもあくまでも結果であって、自分がすることはポップスに接近しようとすることだけみたいな。

──影響を受けたサウンドやそのテクスチャーをシンガーソングライターとして昇華するということですね。いわゆるウェルメイドな音作りにもできたと思うのですが、そうはしなかった。この進化の方向性は前作と聴き比べるとわかりやすいかもしれません。

L:僕は単純にギターが好きなのもありますし、自分の下手なギターのサウンドも質感含め好きで。あと自分の所在を考えるとしたらインディーっぽいというか。結局聴こえ方としてニューウェーブとかポストパンクとか、ああいう聴こえ方はして欲しいんですよね。単純にツルッとした質感に馴染みがないというのもあるし、“なんとなく隙がなさそうなもの”とか“完璧っぽいもの”に興味がない。自分の中で完璧なものにしたいなら、自分の曲をそういうふう(ウェルメイドなもの)にするのは勿体無いって思ってしまう。

──なるほど。

L:やっぱり歌詞も含めて印象としてのサウンドが面白くないと意味がないと思う。そういう意味では、考え方としてもインディー的なものに惹かれるというか、そうありたいなとは思いますね。

──では録音の部分での変化もありましたか?

L:『微熱』のベースは808のプラグインで打ち込んでいたんですけど、今作は結構自分でベースを弾いていて、それは大きな違いかもしれないです。自分の中で一個「これは出来るな」と思えた。あとはギターもアンプで鳴らしたものを録ったり、制作中にシンセを買って試したりもしていたんですけど、そのシンセを打ち込むんじゃなくて、スピーカーで鳴らしてマイクで録ったりとかもしました。『微熱』ではそういう不確定な要素をアンビエンスに頼っていたところがあったんですけど、今作は録音作品として聴かれたかったので、即興性というか空気感をパッケージすることは意識しましたね。

──いろいろと挑戦があったと。

L:DTM臭さのようなものは良いところもあれば敬遠しちゃう人もいるところだと思うんで、それを完全に無くしたいわけではないけど、それについて考えて録ることにはなりましたね。これまでは考えてもいなかったことなんで、一個の視点として取り入れることができたポイントかもしれないです。

──その差し引きの感覚はプロデューサー的かもしれないですね。

L:やっぱりアンプを鳴らしたりマイクで録ることで変わる音の配置もあるんですよね。ただ別にスタジオで録りたいというわけではないんですけど。生っぽくしたかったわけじゃないんですけど、もうちょっと音を立体的にしたかったので、そういう方法を取りましたね。ピアノの音もプラグインをスピーカーから鳴らして、その音をマイクで録ったりしましたね。

──マイキングなども試しながら?

L:知識もなくて本当に全然わからないので、試行錯誤してますね。本とか動画で学ぼうとしてやってみたりもしたけど、自分の環境下だったら自分で色々試してみたやつの方が良い結果がでるような気もして。あとオーバーダブを前作よりたくさんやりました、いっぱい録音しましたね。

──トライを重ねたんですね。

L:いろいろやろうとしたことはありましたね。今回に関してで言うと、結構気合い入ってるなというか、これ聴いとかなあかんなと思わせたかったんで、パッケージに。淡々としてたとしても録ったときの熱量ができるだけ損なわれないようにしたいなと思っていたんで。いろいろ一応頑張ったかなという気はしますね。

──さきほど「DTM臭さを完全に無くしたいわけではない」とおっしゃっていましたが、全部生で録ろうとは現状考えていませんか?

L:いやー、できるならしたいですね。でもやってみたいですけど、かと言ってそれが好きかというとわからない。ただ今回は、環境音とか以外でいかに即興性というか、変な部分というか、不確定な要素を少しでも入れようと思っていたので、録音のプロセスはそういうところの試行錯誤だったかもしれないです。スタジオで録ったりできないからこそ、どうするかみたいな。

──録音の部分も含めてその試行錯誤の過程はなかなか苦労されたと思います。アルバムが完成したと思ったタイミングはどこだったんですか?

L:「Odorata」「Alice」「カラブリア」のデモが最初にあって、音のテクスチャーや方向性の部分は、こういう感じでいこうと思って作っていって。最後の曲を作ったときに完成したと思ったかもしれないです。最後の方は終わり方がわからなくなってしまって。

──「Self Service」ができて完成したんですね。最後に少しふわりとアゲてくれる1曲です。

L:本当に終わらせられなくて、「どうしよう?」って。最後どんな感じがいいのか考えたときにサラッと終わらせたかったので、しっとり終わらせるならその前の曲とか16曲目で終わっても成立すると思うんですけど、自分の微妙なサービス精神もありつつ、「気持ちよく終わろう」って。

──たしかに前の曲でも終われる雰囲気ですよね。

L:めっちゃ終わりそうだからこそ、そういうバランス感は大事にしたかったですね。一応できるだけ客観的に考えようとはしていたので。感傷的になりすぎる終わりにはしたくなかった。

──例えば「Every Breath (feat. 環ROY)」にも「このままでいれば小さいままか、羽ばたいているように見せたいのにな」といった焦燥感を感じる歌詞もあります。ここまでのお話を聞くと生活の中にそういった感情を抱いたワンシーンがあったということですよね。キャリア的に目指している場所はあるんですか?

L:キャリアの話で言えば、安直に「どうなりたい?」と言われるとこういう人みたいになって、こういうのに出てみたいというのはないんです。一番は、音楽を続けていられる立場にいたい。音楽以外の理由で音楽をやめたりペースを掴めなくなりたくない。やらなくなるなら単純に自分がやりたいことがなくなってやめたいですね。それまではとにかく、ずっといい感じでいたい。そのためには余裕も必要ですよね。

──スターになりたいわけではなくてもお金は必要ですもんね。

L:全然なってもいいというかなるつもりではいるんですけど、こうなりたいというのはあまりないかもしれないですね。こだわりは特にないですけど、こんな感じのままでできるなら何にでもなりたいですね。

──音楽的にやりたいことがまだまだ残っているということですね。

L:最初に「改めてファースト・アルバム」と言っていただいた通り、今回の『Odorata』は『微熱』を上書きしたような感覚はあるんで、もしかしたらそれと全く同じアティチュードではできないかもしれないけど、やりたいことはいっぱいありますね。

──例えばバンドに外部のプロデューサーが参加してアルバムを作るようなやり方もあると思うんですが、将来的に誰かプロデューサーと組んで自分の作品を作るような展開もありそうですか?

L:イメージしにくいですね、僕、すごい自己中なんで(笑)。できるなら自分がプロデューサーとしてそういうことをしたいですね。そういう立場に行きたい。だから考えにくいですね。たぶん良いプロデューサーは自己中じゃないと思うけど…そこは成長したい(笑)。なんというか自分の言語というか自分の所在は歌よりも音の方だと思うんですよね。音のテクスチャーとか好みとか、歌詞も自分の中では音かもしれないですけど、歌唱というところには矢印があまり向いていないと思うので。

──今作でさらにスタイルが確立された印象があったので、だからこそ次どうしていくのかが気になるんですよね。

L:自分で開き直っている部分がありますけど、一般的に見てアウトプットがすごく似てきてしまうタイプだと思うんです。それは自分のすごく良いところであり、悪いところでもある。それによって増す強度もあると思うし、それが邪魔するものもあると思うので。そこは外部の人と関わることで変わってくる可能性のある部分ですけど、まだそこまで心を開ききれていない、外に向ききれていないかもしれないです。例えばいっしょにずっとやっているDoveがトラックを作ってくれるとか、Kazumichi Komatsuに曲を作ってもらうとかも別の話で、そういうことはやりたいと思う。単純に人見知りというのもあるかもしれないですね。

──現状は近い人との作業が前提になっているということですか?

L:別に距離とか仲の良さとかの問題ではなくて、ただ単に会話のリズムみたいな。その人の音楽はその人の会話のリズムでもある気がするというか。それは何も自分と同じリズムというわけではなくて、リズムが合うか。話ができるとかでもなく、ただなんとなくでも相手のリズムがわかるかみたいな。良い化学反応を生むためには必要かなと思います。

──アルバムの話ではありませんが、ライアン・ヘムズワースと「Moon Hit」を作ったときはどうでしたか?

L:難しかったですね。自分の中でもチャレンジでした。曲はすごく気に入っているんですけど、でもやっぱり最終的に僕が自分に合うようにトラックをエディットする作業がどうしても必要だったんです。面白かったし、そういうコラボをやりたいとも思ってはいるんですけどね。

──アルバムがリリースされ今後ライヴも多くなっていくと思います。どのようなスタイルでライヴする予定ですか?

L:会場の大きさにもよるんですが、『微熱』を出してからラッパーっぽい形でバックDJがいて前に立ってやってみたり、自分でラップトップ広げてキーボードやギターを弾いてやってみたり、Doveと二人でミニバンドのような形でとかやってみていたんです。今のところそのミニバンドみたいなのが一番しっくりくるので、誰かに手伝ってもらって、演奏しながらやるのがいいかなとは思ってます。リリースパーティーができるならそういう形でやりたいかな。本音を言うと三人くらいのミニマルなバンドで、できたら理想ですね。僕がギターヴォーカルをやって、あとキーボードとドラムマシンとか、なんでもいいんですけど。

──ゆくゆくはそういう形になるかもしれないということですね。

L:はい、ゆくゆくは。ライヴをやるからにはちゃんとしたいし、こういう感じで自宅で完結している人間にとってライヴは課題だと思うので。そこはしっかり考えたいですね。

<了>


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Text By Daiki Takaku

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