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クラブ・ミュージックとしてのエレクトロニック・マロヤ
~レユニオン島のマロヤ、その進化の現在~

21 November 2023 | By yorosz

インド洋の端、マダガスカル島の東に浮かぶフランス領レユニオン島。作家のミシェル・ウエルベックの出身地としても知られ、筆者にとってはフェネスなどとも共演のあるフランスの作曲家Bérangère Maximinの出身地として記憶にあるこの島の音楽、「マロヤ」をご存知だろうか。マロヤは長きに渡ってマダガスカルやアフリカ大陸から連行された奴隷が人口の高い割合を占めていたこの地において、彼らが労働の後に(祖先への敬意や統治者への嘲りを込めて)秘密裏に披露する歌や踊りとして伝えられてきた。元々隠れた性質を持つものではあったが、その政治性や反体制性はフランス政府によって危険視され、1950年代末から1976年までは公での演奏や発売が禁止されており、長きに渡って正に「不法のレジスタンス音楽」であったといえるだろう。

クレオール語で歌われるコール&レスポンスと、カヤンバ(kayamb)と呼ばれる箱型の揺らして発音するシェイカー的な楽器、ルーレ(roulèr)と呼ばれる跨って演奏される樽太鼓、ピケール(pikér)と呼ばれる竹の打楽器、ボブレ(bobre)と呼ばれる楽弓などが主な要素となる、旋律とリズムによって駆動されるスタイルでありながら、そこから色彩感やトランス的なニュアンスを生み出す特性を持つマロヤは、その禁止が解かれた1976年頃には既に電子化された様々な楽器(例えばエレクトリック・ギターやエレクトリック・ベースなど)を加え、私たちの耳にも親しみ深いかたちのバンドサウンドで演奏される試みが多く行われていたようだが、近年はクラブ・ミュージックとしての発展に目覚ましいものがあり、徐々に注目を集めている。その近況が伝わるきっかけとなったのは間違いなく2019年に《InFiné》よりリリースされたコンピレーション『Digital Kabar』であろう。柴崎祐二氏のレビュー[1]にもあるように、本作にはデジタル・テクノロジーとのマリアージュを果たしたマロヤの発展と変容が、一括りにされることのないある種の雑多さ=多様性を感じさせるままのバランスで収められている。そこで今回はこの『Digital Kabar』を起点とし、近年のクラブ・ミュージックとしての発展目覚ましいマロヤの現在を、レユニオン島出身、もしくは拠点とするミュージシャンを多数取り上げることで微力ながら紹介したい。

長きに渡る禁止によって見捨てられかけていたマロヤの再興に尽力し、後進に多大な影響を与えているマロヤの代表的なアーティスト、ダニエル・ワロ(Danyel Waro)によるライヴの様子。彼が手に持って演奏しているのがカヤンバで、他にもルーレやピケールの存在や、舞台上で披露される踊りも確認できる。


《コンピレーションとDJミックス》

・『Digital Kabar』

エレクトロニックなマロヤの発展と広がりに触れるにあたって、まず有効なのはいくつかの素晴らしいコンピレーションとDJミックスだ。中でもまずはこの『Digital Kabar』である。Kabar(カバール)はレユニオン島の民衆祝祭を指し、マロヤはそこで披露されることで伝えられてきた歴史があるが、本作にはその象徴的なタイトルが示すように、デジタル環境でもその祝祭を受け継ごうとする新たな音楽家(《Nyege Nyege Tapes》からもリリースのあるJako Maronを筆頭に、LOYA、BoogzBrown、Labelle、Agnescaなど)が勢揃いしている。また、本作には「Electronic Maloya From La Reunion Since 1980」とのサブタイトルが付いているだけあって、Patrick Manent、Christine Salem、ティ・フォック(Ti Fock)など、クラブ・ミュージックとしての隆盛が起こる以前からマロヤの発展に貢献してきた音楽家のリミックスやコラボレーションも収録されている。音楽的にはその多様性が最大の魅力で、各アーティストはマロヤという共通項を背後に持ちながらも、それを様々なスタイルのエレクトロニック・ミュージック(テクノ、ハウス、ダブ、ヒップホップ、エレクトロなど)と自由に配合させており、マロヤを何かしらの新たな一ジャンルの創生に結び付けることより(そのような動きもこれから顕在化する可能性はもちろんあるが)、様々な文化とのハブとして機能させている印象を受ける。


・『PAM Club : PANGAR』

『Digital Kabar』のラストにそのトラックが収録されているKwaludと、BetnwaarによるユニットであるPANGARが、全編レユニオン島のアーティストで構成したDJミックス。『Digital Kabar』と重複するアーティストも多いが、そちらに名前のないアーティストも収録されており、中でもINSULAの存在には要注目。冒頭を飾る世界的な知名度を持つレユニオン島のアーティストで《フジロック》への出演経験もあるLindigoの楽曲のPANGARによるエディット版はここでしか聴けない貴重なトラック。


・『1PLACE4BEATS – LA RÉUNION EP』

フランスのレーベル、《Radio Chiguiro》が世界中のダンス・ミュージックを巡り紹介するシリーズ「1PLACE4BEATS」の第3弾としてリリースされた、レユニオン島を舞台とするEP。《Shika Shika》からもリリースのあるEat My Butterfly、既に名前を出しているBoogzBrownとAgnescaに混じって、オリジナルトラックはこれが初リリースと思われる新鋭BeBassのトラックが一際輝く。


・The Beat Club『Zembrocal #1』

レユニオン島を拠点とする多数のアーティストからなるコレクティヴ、The Beat Clubによる初コンピレーション。これが初のプロデュース作品のリリースとなったアーティストが多いため各々のキャリアはほとんど掴めないのだが、それ故『Digital Kabar』に比しても秘匿的なもの(それはマロヤが長きに渡って抱えざるを得なかった性質でもあるだろう)を覗き見る感覚は強い。KongやDarwillなどのトラックが感じさせる民族楽器をデジタル解釈した音色と身体の芯に響くグルーヴはどこかブラジルのコレクティヴ、VOODOOHOPと通じるものがある。BandcampのタグにMaloyaの記載はなく、作風の面でもストレートなテクノの影響が色濃いものが多い印象はあるが、レユニオン島の現在のクラブ・シーンを知るうえでこれもまた貴重と思い、掲載する次第だ。The Beat Clubは本作以降まずは収録アーティストの中からAgnescaの単独作『FURCY』をリリースしており、後続のリリースが待たれる。


・『Ote Maloya』

レユニオン島出身のDJデュオ、La Basse Tropicaleによって編纂された、70年代半ばからのマロヤ・シーンの様子を伝えるコンピレーション。先に紹介したようにこの時期はマロヤに対する当局の禁止が解かれたタイミングにあたるが、その時点において既に様々な電子楽器の導入が試みられていたことがわかるだろう。エレクトリック・ギターやエレクトリック・ベースが用いられた私たちの耳にも親しみ深いバンドサウンドで演奏され、ファンクやロックの影響を感じさせる楽曲も多いが、故にそこに混じる新鮮な響きからこのシーンの特異性を掴める内容だ。『Digital Kabar』にも作品が(リミックスというかたちで)収録されたティ・フォックによる「Se Pi Bodie」からVivi「Mi Bord’ A Toue」までのファンキーさと歌謡性の入り混じる流れは絶品。同レーベルからリリースされている、レユニオン島の隣島であるモーリシャスの音楽「セガ」を取り上げた『Soul Sok Séga』も併せてチェックされるといいだろう。


《アーティスト紹介》

ここからは先に挙げたコンピレーション、DJミックスに収録されたアーティストによる作品をピックアップして紹介していく。

・Jako Maron『The electro Maloya experiments of Jako Maron』

1968年、つまりマロヤが禁じられていた時期にレユニオン島に生まれたJako Maronは、90年代からマロヤとエレクトロニック・ミュージックの混成を試み始めたという。2019年にウガンダの《Nyege Nyege Tapes》からリリースされた(2023年には新たに4曲を加えた新装版もリリースされた)本作には、そんな彼が2006~2015年に渡ってモジュラー・シンセサイザーとリズムマシンを使って繰り広げた実験の成果が収められており、『Digital Kabar』と共にクラブ・ミュージックとしてのエレクトロニック・マロヤの存在を知らしめるきっかけとなった重要な一作と位置付けられる。3連符が訛ったような独特のリズムニュアンスが見事に表現されている点はもちろん、リズムマシンと単音で動くシンセの連なりで描かれるクールな音像(Bandcampの紹介文ではパン・ソニック(Pan Sonic)や《Raster-Noton》が引き合いに出されている)は、打楽器と歌が主であり和音の要素が本来なかったマロヤのサウンド面での特徴も体感させてくれる。彼は本作の制作以前となる2004年にはヒップホップ・グループ、Force Indigèneのメンバーとしてマロヤとヒップホップの融合を試みており、また2022年には打楽器と声、つまり本来のマロヤの編成に自身がエレクトロニクスで加わる新ユニット、Kabar Jakoとしてアルバム『Kabar Jako』をリリースし、本作に収められている実験を踏まえたうえでの伝統的なサウンドとの再会という新たな方向性を見せるなど、マロヤの進化と発展をリードしている人物といって差し支えないだろう。


・LOYA『Eruption』

レユニオン島出身、90年代にパリに移住しオウテカやボーズ・オブ・カナダなどを知ったことがきっかけでエレクトロニック・ミュージックを志し、トニー・アレン(Tony Allen)のリミックスを手掛けた経験もある音楽家、LOYAの2014年作。今回紹介する音楽家の中でも先に挙げたJako Maronと共に特にキャリアが長い人物と思われ、本作も9年前とやや古い作品ではあるが、この時点で既にルーレの腹の底に響くような打音やカヤンバで刻まれる特徴的なリズムといったマロヤの音楽的特徴を完璧に消化した、これぞ「エレクトロニック・マロヤ」と言わんばかりの作風が確立されている。また、本作ではところどころでマロヤの重要なルーツであるインド音楽の要素が表出しているが、ここから彼の音楽的関心は(レユニオン島を含む)マスカリン諸島やインド洋の音楽などへと更なる広がりを見せ、後続の作品『Indian Ocean』や『Corail』ではクレオール性を体現するかのようにより複雑な混成が展開されることとなる。ちなみに、本作のジャケットに描かれている火山はレユニオン島の欠かせない要素であり(この島には2つの火山があり、一方は地球上で最も活発な火山の1つとされるフルネーズ山である)、レユニオンのアーティストの作品にはこのモチーフが度々登場する。


・BoogzBrown『3883』

ヴィジュアル・アート・ユニット=Kid Kreol & Boogieとしても活動し、レユニオン島のアーティストの作品においてリミックスなどを手掛けることも多いBoogzBrownが2021年に《InFiné》よりリリースしたEP。彼のトラックは《Nyege Nyege Tapes》が2020年のフェスに伴ってリリースしたコンピレーション『L’Esprit De Nyege 2020』にも収録されているため、名前に見覚えのある方も多いのではないだろうか。カヤンバによる訛った3連符のリズムがしっかりと残されたうえで、現代的なダンス・ミュージックへと昇華された冒頭2曲に象徴的だが、(ところどころでジューク/フットワークなど同時代の音楽の影響を垣間見せつつ)マロヤの独特の楽器編成によるサウンドとリズムの傾向を精緻に活かしきったスタイルがあまりに見事。4曲目のより複雑にデザインされたポリリズムも素晴らしい(タイトルの『3883』は本作の音楽的テーマであるポリリズムの構成を示唆するものでもあるようだ)。


・Labelle『NOIR ANIMA』

「(哲学・宗教などの諸派の)融合」を意味するSyncretic Musicを掲げる音楽家、Labelleが2023年10月に《InFiné》よりリリースしたばかりの新作。その地理的特性からインド音楽とアフリカ音楽の影響が混在するマロヤの、特にリズム構造を、抜群の精度でエレクトロニック・サウンドに移植してみせる手腕が素晴らしい。特に1、3曲目など、3連符のグリッドを意識させつつその一つ目の音符がやや伸びたような(もしくは2つめと3つめの音符が次の拍の1つめの音符に引っ張られたような)、いわゆるリズムの「訛り」が耳を引くトラックには魔術的な色彩や陶酔が感じられる。


・Agnesca『FURCY』

レユニオン島を拠点にクルー、The Beat Clubの一員として活動するDJ/プロデューサーのAgnescaによる初アルバム。本作はレユニオン島の歴史において初めて自身の自由のために主人を訴えた奴隷であるFurcy[2]の人生にインスパイアされている。Agnescaは『Digital Kabar』に提供したトラック「Bilimbi」においてもマロヤの(アフリカ音楽と並ぶ)重要なルーツであるインド音楽の要素を強く打ち出した作風が異彩を放っていたが、本作ではマロヤのサウンドやリズムは非常に抑制されたかたちで用いられており、ダウンテンポやエレクトロを思わせるどこか不穏なニュアンスの打ち込みが今回紹介する作品の中でも異色。


・INSULA『TRMBA』

PANGARによるDJミックスにも取り上げられていた、レユニオン島生まれのMickael Gravinaによるプロジェクト、INSULAによる初アルバム。カヤンバのサウンドはもちろんのこと、他にも多種多様な民族楽器を思わせるサウンドで3連符のグリッドを巧みに活用したリズムが執拗に刻まれる。マダガスカルの儀式や南米に伝わる信仰に登場する精霊ユルパリなども影響源として記載されており、サウンドだけでなくコンセプトの面でも密教的なトランス性の増幅が図られている。


・ZÈNE’T PANON『Maloya Malbar』

レユニオン島のマロヤに、南インドに多く存在するタミル人のリズムやメロディーを取り込んだという、この島にあっても一際特徴的な音楽を奏でるグループ、ゼネット・パノンによる作品。A面にはmorlon、tarlonなどのタミルの楽器も用い、川辺でメンバーの家族を伴った暖かな雰囲気で録音されたというその特異な音楽を収録。そしてB面にはJako Maron、Eat My Butterfly、BoogzBrown、Aleksand Saya、LOYAによるエレクトロニックなリワークが収められている。伝統的な側面も持ちつつ、ただ伝承されるだけでなく常にこの地域のクレオール性によってその内容が変化し得るのがマロヤの特性といえるが、本作ではそれが民族的な混成やアコースティック/エレクトロニック双方での進化、そしてそのサウンドを取り巻く雰囲気まで、様々な側面からドラスティックに体感できる。


・Maya Kamaty『Pandiyé – Remixes』

レユニオン島のシンガー、Maya Kamatyが2019年に発表したエレクトロニック・フォーク的アプローチによる現代的なマロヤ作品『Pandiyé』のリミックス・アルバム。南アフリカ、カナダ、モーリシャス、レバノン、チュニジアなど世界中のDJ/プロデューサーが参加しており、作風も異形のハウス的なアプローチからLAビート的なグルーヴを介入させたものまで幅広い。特に原曲以上にパーカッシヴなサウンドを増幅しトライバルに仕上げたFloreと、UKガラージやソウル的ニュアンスとマロヤを配合してみせるPotéのリミックスは出色の出来。荒天のサウンドを加えたRibongiaのリミックスも印象深い(レユニオン島は絶海の孤島にして高峰という地勢のため豪雨や雷などの荒天に見舞われやすく、エレクトロニック・マロヤにおいてもそのようなサウンドを象徴的に用いるケースが時折見られる)。


・Eat My Butterfly『Labalamer』

エル・ブオ(El Búho)やバリオ・リンド(Barrio Lindo)などをリリースし、オーガニック・ミュージックとエレクトロニック・ミュージックの境界線を探求し続けるレーベル、《Shika Shika》より2021年にリリースされたEat My Butterflyによる傑作EP。レユニオン島に生まれ海外移住を経た後にこの島に戻ったという経緯(そこに生まれた文化との再会)や、ドラマーでありエレクトロニックなプロデューサーでもあるという自身の資質がミックスされ、Justine Mauvin ‘aka’ Sibuや今日「マロヤの女王」と呼ばれる存在であるChristine Salemの協力も得て制作されている。マロヤのリズムやサウンドに、親指ピアノなど多彩な打楽器で更に彩りを加えながら、ゆったりとしたテンポでヴォーカルを積極的に導入した本作は、ダンス・ミュージックとしての機能を持ちつつ歌謡性や浮遊感も保持しており、彼女独自の世界観、音楽性が堪能できる仕上がりだ。


・Aleksand SAYA『Domin』

シンガー、打楽器奏者、そしてエレクトロニックなプロデューサーでもあるという自身のテクニックを活かし、それらを融合したM’BAS(Maloya Bass)を提唱する音楽家、Aleksand SAYAによる作品。シンセサウンドも随所で用いられているが、打楽器や自身による歌が楽曲の構成要素として欠かせない役割を演じており、オーガニックな印象を生んでいる。J-ZeuSやINSULA、BoogzBrownなどが参加した本作のリミックス盤『Remix Contest』もリリースされており、そちらはクラブ色の強い仕上がり。


・DJ Psychorigid『Radiating Volcano』

『Digital Kabar』においてエレクトロやアシッド風味の強いトラックで異彩を放っていたPsychorigidが、Elektron Monomachine SF60 mkIIのみを用いて制作したEP。家族の一部が行っていたタミル語の宗教儀式、家族の他の一部が演奏していた政治的なマロヤ、友人と演奏していたポピュラーなセガ、そして自らが演奏している電子音楽の要素を取り入れた作品ということだが、ピッチの狂った鳴り物のようなサウンドが耳を引く1曲目や、マロヤのリズムをしっかりと感じさせながらそこに音の隙間が妙なファンキーさを加味する4曲目など、ストレンジな印象を残すトラックが多い。他にもBandcampでジューク/フットワーク的作風のトラック集をリリースしたり、最新シングル『Death By Shatta』ではダンスホールとヘヴィ・メタルの融合を打ち出していたりと、今回紹介する中でも最も動向の読めないアーティストだ。


・PANGAR『POSITION』

先にDJミックスを紹介した、『Digital Kabar』のラストにそのトラックが収録されているKwaludとBetnwaarによるユニット、PANGARが2023年に発表した初のオリジナル・アルバム。レユニオン島に移住して15年以上になる彼らが、その長い時間をかけて吸収したミックス・カルチャーが反映された内容というだけあって、本作からはマロヤだけでなく、ソカやレゲトン、ダンスホール、ジューク/フットワークなどの影響も聴き取ることができ、また音作りの面では例えば台北のシーン[3]などのデコンストラクテッド・クラブ(deconstructed club)以降の感覚で駆動されるクラブ・ミュージックとの共時性を感じさせ、エレクトロニック・マロヤの文脈に留まらずより広くクレオール文化の複雑性を表出することによってグローバルなクラブ・ミュージックの動向との交信を達成した内容といえる。そのハイエナジーなサウンドは、シンゲリだけに留まらず今日のアフリカのクラブ・ミュージックの爆発的な盛り上がりを捉える《Nyege Nyege Tapes》の諸作品とも強く通じ合うものでもあるため(彼らは《Nyege Nyege Festival 2020》にも出演しており[4]、そのライヴは《Resident Advisor》によって「このフェスの10大パフォーマンスの一つ」と評された[5])、それらをチェックされているリスナーの方にはまず本作を、そしてこれを入り口にエレクトロニック・マロヤのサウンドにより深く触れていただければと思うところだ。また、彼らはアルバムのリリースに先んじて、ミックステープ作品『POSITION mixtape』もリリースしており、こちらも素晴らしい内容なので併せてチェックされることをお勧めしたい。


以上、5つのコンピレーション/DJミックスと、12のアーティストを紹介してきた。クラブ・ミュージックとしてのエレクトロニック・マロヤは現段階では複数のアーティストに共有されその象徴となる(例えばアマピアノにおけるログドラムのような)音色の確立など、新たなジャンルとしての「しるし」的な要素は掴み難いかもしれないが、強いて挙げてみるならマロヤに用いられる打楽器、中でもカヤンバの音色とそれによって刻まれる3連符のグリッドを意識させつつ「訛り」を伴ったリズムは(マロヤに限ったものではなくアフリカ音楽に広く見られるものではあるが)多くの作品から聴き取ることができ、この音楽で踊るうえでのガイドのような役割を果たしてくれるため、お聴きの際には意識してみるのもいいかもしれない。エレクトロニック・マロヤはJako Maron『The electro Maloya experiments of Jako Maron』がリリースされた2018年、そして『Digital Kabar』がリリースされた2019年頃を一つの起点に、年々盛り上がってきている印象があるが、この2023年にはPANGAR『POSITION』やLabelle『NOIR ANIMA』、そしてJako Maron『The electro Maloya experiments of Jako Maron』の新装版のリリースという大きなトピックもあり、その動向をまとめてチェックしてみるにはいいタイミングなのではないかと思う次第だ。

最後に、エレクトロニック・マロヤを入り口により広くマロヤを聴いていかれる方のために、代表的なマロヤの音楽家を数名手短に紹介させていただきたい。『Digital Kabar』の冒頭にてJako Maronによるリミックスが収録されたPatrick Manent、Eat My Butterflyの作品にも参加している今日「マロヤの女王」と呼ばれる存在Christine Salem、PANGARのDJミックスにおいてラストにその楽曲がかけられていたNathalie Natiembé、故人ではあるがコンピレーション『Ote Maloya』の最初に収録されたバンド・Cameleonを主導し、最後に収録されたバンド・Carrouselにも初期メンバーとして関わったAlain Peters、そして当局からの禁止によって無きものとされかけていたマロヤを広く認知させたパイオニアとして後進の音楽家にも大きな影響を与えているダニエル・ワロ、マロヤが禁止されていた時期にもその保存の場として機能したという民衆祝祭・カバールにて腕を磨きダニエル・ワロとの共演も果たしているザンマリ・バレ(Zanmari Bare)、まずはこの辺りからマロヤの魅力に触れていただければ幸いだ。(よろすず)


1 https://turntokyo.com/features/serirs-bptf5/
2 https://fr.wikipedia.org/wiki/Furcy
3 https://daily.bandcamp.com/scene-report/taipei-club-music-scene-report
4 このライヴの様子はフルでYouTubeにアップされている。
  https://www.youtube.com/watch?v=fK8Y1Ag1Okw
5 https://ra.co/features/3801

本稿執筆にあたり、他にも以下の記事を参考にさせていただいた。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-08-01
https://ovninavi.com/802zizique/
https://ovninavi.com/812zizique/
・『ミュージック・マガジン2012年10月号』掲載「レユニオンの人々の生き方そのものの音楽、マロヤ – 海老原政彦」

Text By yorosz


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