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ウガンダの気鋭レーベル《Nyege Nyege Tapes》と《Hakuna Kulala》を、2022年のリリースから考える

25 November 2022 | By tt

ウガンダの首都カンパラにあるTilapia Nightclubのパーティー「Boutiq Electroniq」に集まるDJやプロデューサーたちをベースに、2013年に活動をスタートさせたレーベル《Nyege Nyege Tapes》。今年のレーベルが主催するフェス「Nyege Nyege Festival」にボアダムスのEYEや、東京を拠点にアフリカのダンス・ミュージックを追求するコレクティヴ“TYO GQOM”が参加、DOMMUNEでも特集が組まれるなど、日本においてもその注目度は徐々に上がってきているように思える。サブレーベルである《Hakuna Kulala》を含めて、アフリカ各国のダンス・ミュージックに様々な要素を取り込んだ、出身国もサウンドもバラバラなアーティストのリリースを手掛けている気鋭のレーベルである。その音楽はどれも、いわゆる大文字の「アフリカ音楽」という言葉が無効になるくらいの強い個性を持っている。


1. アフリカ各国の音楽と欧米のダンス・ミュージックが交差する《Nyege Nyege Tapes》

《Nyege Nyege Tapes》の特色として挙げられるのが、ウガンダを中心とする東アフリカの(主にアンダーグラウンドの)ダンス・ミュージックへの優れた目利きを活かしたリリースだ。例えば、2003年にウガンダ北部で始まった伝統音楽アチョリを電化させた「エレクトロニック・アチョリ」を編纂した『Electro Acholi Kaboom from Northern Uganda』(2019年)や、かつてウガンダに存在したバンドゥー系の王国であるブガンダ王国の伝統音楽を護持・再生するプロジェクト『Buganda Royal Music Festival』(2021年)など、現在のアンダーグラウンドや本国の音楽の歴史にリーチするようなリリースを行っている。レーベル自体に、(現時点では主に東アフリカを中心にではあるが、)アフリカ各国のローカルやアンダーグラウンドの音楽をより広範にカバーしていこうというアティテュードを垣間見ることができるのではないだろうか。

その中で《Nyege Nyege Tapes》の過去のリリースで特筆すべきものを一つ挙げるとすれば、タンザニアのゲットーから発展した「シンゲリ」をフィーチャーしたコンピレーション『Sounds Of Sisso』(2017年)だろう。エレクトロやガバにも通ずる高速ダンス・ミュージックは、例えばUKのプロデューサー、Rian Treanorを魅了し、彼はシンゲリからの影響を反映させたアルバム『File Under UK Metaplasm』(2020年)を制作している。


そんなシンゲリを2022年に最も過激な形でアップデートしたのはDJ Travellaの『Mr Mixondo』(2022年)だ。DJ Travellaはタンザニアのダルエスサラームを拠点に活動する19歳。シンゲリをベースに、EDMを織り交ぜるDJの如く、レイヴシンセの音色やトラップのビート、ジャマイカのダンスホール起源のリディム=DEMBOWといった様々なサウンドやリズムをミックスした、2022年きっての高速ダンス・ミュージックの怪作になっている。


《Nyege Nyege Tapes》の母体である「Boutiq Electroniq」はテクノやグライムとアフリカ各地のダンス・ミュージックが混在する空間らしいのだが、レーベル自体もその空気を共有しているようにも思える。上述のDJ Travallaを筆頭に、コンゴ共和国のプロデューサー、La Roche『Liye Liye』(2022年)の、コンゴのルンバ起源の音楽である「スークース」とグライムやチップチューン、或いは、南アフリカのアーティスト、Phelimuncasi 『Ama Gogela』(2022年)のゴムとマイアミ・ベース、ゲットー・テックといった、欧米とアフリカ各地のダンス・ミュージックのアマルガムともいえるサウンドは、《Nyege Nyege Tapes》のレーベルのカラーをより鮮明に表しているのではないだろうか。


2. エレクトロニック・ミュージックの実験の場としての《Hakuna Kulala》

ケニアのDJ/プロデューサーのSlikbackが主宰する《Nyege Nyege Tapes》のサブレーベル、《Hakuna Kulala》は「Club explorations from the East African and Congolese Electronic Underground and beyond」というレーベル紹介文が表すように、コンゴのエレクトロニック・ミュージックを中心に、より広義のクラブ・ミュージックを探求するレーベルと言えるかもしれない。Slikbackが今年リリースしたコラボレーション・アルバム『CONDENSE』(2022年)にブリストルのテクノ・デュオ、Giant Swanや上海を拠点に活動する北京出身のプロデューサー/DJのHyph11E、“TYO GQOM”を主催する東京在住のトラックメイカー/DJ、KΣITOなどのメンバーが参加していることは、(『CONDENSE』自体は自主リリースであるが)《Hakuna Kulala》のレーベルとしてのカラーを表しているようにも思える。


その意味での2022年における象徴的なリリースは、ウガンダのラッパーEcko Bazzの 『Mmaso』 だろう。インダストリアル・ビートやグライム、エレクトニック・ミュージックなどが混ざり合った異形のラップ・アルバムには、ベルリン在住の日本人ビートメーカーDJ Die Soonやブライトンで活動する日本人プロデューサー、Scotch Rolexといった海外のアーティストがビートを提供している。アンダーグラウンドのコネクションを活用しながら、ビートやサウンドを追求して、Ecko Bazzの攻撃的なラップに乗せる最適解を導き出したような本作は、クラブ・ミュージックを探求するレーベルの姿勢を表していると言える。

そして、そんな《Hakuna Kulala》における2022年の最も刺激的なリリースは、カンパラのクィア・コレクティヴ“ANTI-MASS”の主催でアンダーグラウンド・ダンスミュージック・シーンの最重要人物、Authentically Plasticの『Raw Space』だろう。インダストリアル〜エレクトロニック・ビートがひたすらポリリズミックに鳴らされる荒々しくカオティックなサウンドは、レーベルの最もアグレッシヴかつ先鋭的な部分では最も飛び抜けた存在である。或いは、植民地時代の名残で同性愛が違法とされているウガンダにおいて、ダンス・ミュージックの手法を用いながら、クィア・コレクティヴのメンバーとして発信をすることは、初期よりLGBTQの層にも支持されており、LGBTQを歓迎する文化的土壌を作ったとも言われている「Boutiq Electroniq」のアティテュードを象徴するアーティストでもあると言えるのかもしれない。


また、エクストリームで実験的なエレクトロニック・ミュージックをリリースする場所として機能しているのも、《Hakuna Kulala》の《Nyege Nyege Tapes》とはまた違ったレーベルのカラーと言えるだろう(その境界はやや曖昧であるようにも思えるが)。例えば、ウガンダのDIYシンセサイザー製作者でありプロデューサーでもあるAfrorackは2022年作『The Afrorack』で東アフリカの音楽におけるポリリズム構造を複雑なアルゴリズム・パターンに分割して作り上げた独特のリズムを持つ、アブストラクトなエレクトロニック・ミュージックを作っている。またコンゴのプロデューサー、Chrismanの『Makila』はアンゴラのアグレッシヴなダンス・ミュージック、「クデゥロ」とトラップ、ゴムをドローン・シンセとメタリックなパーカッションで塗り替えたハイブリッドかつエッジーなアルバムである。両者による2022年のアルバムはいずれもレーベルのカラーを色濃く反映した作品であるのではないだろうか。




3. 《Nyege Nyege Tapes》/《Hakuna Kulala》と活発化するアンダーグラウンドとの交流

《Nyege Nyege Tapes》/《Hakuna Kulala》のレーベルとしての強みは、世界各国のアンダーグラウンドのシーンとの繋がりを持ち続けていることだろう。マンチェスターのオンライン・ショップ《Boomkat》や《NTS Radio》、《PAN》といった他レーベルやプラットフォームとの繋がりは、レーベルがより東アフリカの外へと波及していくうえで重要な役割を担ってきた。アーティストとの交流においても同様で、前述のEcko Bazzをはじめ、2022年はPhelimuncasi『Ama Gogela』には韓国のエレクトロニック・アーティスト、NET GALAが参加している。また、特に《Hakuna Kulala》はアフリカ以外のアーティストのリリースにも関与しており、2022年にはメキシコのアウトサイダー・アーティストと言われているTony Gallardoの編集盤『Selected Works』をリリースしている。

その中で、アンダーグラウンドとの繋がりという意味で興味深い2022年のリリースは、ケンドリック・ラマーやジュラシック5にも影響を与えた西海岸の伝説的なグループ、C.V.E.の編集盤『Chillin Villains: We Represent Billions』だろう。元々は《Nyege Nyege Tapes》の創設者であるArlen Dilsizianが彼らの熱狂的なファンであり、メンバーのRiddloreと交流を始めたことに端を発している。その後Riddloreは2015年の「Nyege Nyege Festival」に出演、ウガンダに滞在した2ヶ月半でインストゥルメンタル・アルバム『Afromutations』(2017年)を《Nyege Nyege Tapes》からリリースしている。その後の交流から件のリリースに繋がったということは、各国のアンダーグラウンド同士の関係を象徴するような良いエピソードである。


最後に、これからのレーベルの更なる飛躍を予感させるコラボレーションとして、Mdou Moctar『Afrique Victime』(2021年)の《Nyege Nyege Tapes》のアーティストによるリミックス集『Afrique Refait』(2022年)を挙げたい。近年、欧米で発見されたニジェールのギタリストが東アフリカの気鋭のエレクトロニック・ミュージックの作り手を起用したことは、より広範に、或いは今までと違った層に広まっていく可能性を予感させるものである。現在最も挑戦的で刺激的なダンス・ミュージックがより広範に届くことは、例えばビヨンセがKelman Duranを、ケンドリック・ラマーがDuval Timothyを起用したように、今後の欧米のポップ・シーンの作り手へと影響を与え、関わっていくのではないか。そうなっていくことが(異なる文化圏の間で起こりうるネガティヴな側面はありつつも)エキサイティングな音楽が新たに生まれる契機となれば、それはとてもポジティブなことのように思う。(tt)


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