ボーズ・オブ・カナダ最新作『Inferno』先行視聴会へ
想像力と共にある音
ボーズ・オブ・カナダが約13年ぶりの新作『Inferno』を5月29日にリリースする。
前作『Tomorrow’s Harvest』(2013年)が、前々作『The Campfire Headphase』(2005年)から約8年の歳月を経て発表されたことを考えても、長い沈黙だった。
この13年の間、ボーズ・オブ・カナダが私たちリスナーに送り出したものといえば、ネヴァーメン(Nevermen)「Mr Mistake」のリミックス(2016年)やザ·セクシャル·オブジェクツ(The Sexual Objects)「Sometime」のリミックス(2017年)、《Warp》の30周年記念イベント『WxAxRxP』の一環として、《NTS Radio》で放送されたミックス音源『Societas x Tape』(2019年)など、極めて断片的であり、そもそもインタヴューもほとんど応じず、ライブもわずか、という彼らのミステリアスさは増していくばかりだった。
ただ、その“謎めいた存在感”こそが、スコットランド出身のマイケル・サンディソンとマーカス・イオンからなる兄弟デュオ、ボーズ・オブ・カナダの持つ魅力の一つであることもまた、疑いようのない事実だろう。彼らはキャリアを通して、サウンド、曲やアルバムのタイトル、ヴィジュアル表現などから立ち上がるイメージ(ARG的手法とも言える)にほとんどすべてを託してきた。要するに、多くを語らないことによって、彼らはリスナーの想像力と共にあることを選んできたのである。
また、『Music Has the Right to Children』(1998年)で子供の声をサンプルし、失われた子供時代へとアプローチしたことに顕著なように、失われた記憶や過去へと執着してきたこともボーズ・オブ・カナダの特徴の一つだろう。同じ《Warp》のオウテカやエイフェックス・ツインが比較的未来への視座を提供してきたのと比べてみても、その個性は際立っている。
さらに『Geogaddi』(2001年)以降は、より不穏でダークな作風へと舵を切っていったことも新作を聴く上では踏まえていいかもしれない。前作『Tomorrow’s Harvest』で描いていたのも、荒涼とした終末的風景だった。
というわけで、世界7都市(東京、ベルリン、バルセロナ、ロンドン、グラスゴー、ニューヨーク、ロサンゼルス)で同日開催された世界同時先行試会『‘INFERNO’ SESSIONS』で一足先に最新作『Inferno』を聴いてきた。
会場は《ヒューマントラストシネマ渋谷 odessa theater1》。まずは彼らが象徴として用いてきたHexagon Sunが画面の中央に登場。その内部で炎が揺らめき続ける映像が流れ、『Inferno』はすでに先行配信されている「Introit」、そして「Prophecy At 1420 MHz」から幕を開ける。
細かいところは正式にリリースされてからの楽しみとして、文字通り一聴して印象に残ったいくつかの点を書き留めておこう。一つは、声ネタが大胆に用いられていたこと。その声の内容までは理解できなかったが、サウンドのダークさも相まってこれまでの作品で最も時事的、というか……ボーズ・オブ・カナダの持つダークな想像力に現実が追いついてしまったような感覚を抱いたというのが率直な感想だ。
もう一つは、映画館という会場の音響の良さに影響されているが、先行曲「Prophecy At 1420 MHz」のビートにせよ、その他アルバム全体にあったりなかったりするビートが素晴らしい鳴りだったことだ。筆者がボーズ・オブ・カナダの音楽を追いかけるように聴いていった2010年代には、すでに現在の──いわゆるIDMのシーンに君臨する伝説的な──存在感は固まっていた。そんな中でリアルタイムで彼らの出現に接していた人々による「初期ボーズ・オブ・カナダはクラブ・ユースされていた」というような話を片耳で聞いてきたわけだが、ここにきてそのリアリティがグッと増したのは個人的にとても大きな収穫だった。
これまでボーズ・オブ・カナダを定義付けていた一要素であった郷愁を誘うメロディーも終盤にかけて光を放ち、見事なカタルシスを生んでいたことも付け加えておくべきだろう。13年もの沈黙を破って私たちの前に(もちろん音として)現れたボーズ・オブ・カナダは、当たり前だが紛れもなくボーズ・オブ・カナダだった。
間違いもあるかもしれないが、現状で自分に言えるのはこんなところだろうか。ともあれ、想像力を総動員して聴く楽しみは替えが効かない。ボーズ・オブ・カナダの音楽は、それを今も雄弁に語り続けている。これだけ情報に溢れた世の中であれば、なおさらその価値は高まっていくだろう。正式なリリースを楽しみに待とう。(高久大輝)
Text By Daiki Takaku
