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BEST 9 TRACKS OF THE MONTH – March, 2021

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Hit Like A Girl – 「Monsters (feat. Bartees Strange)」

ニュージャージー拠点のミュージシャン、ニコル・マルーリスによるインディー・ロック・ユニット、ヒット・ライク・ア・ガールがこの3月にリリースした新作『Heart Racer』のリード・トラック。多重録音された厚みのある歪んだギター・サウンドにのって、フィーチャリングとして迎えられたバーティーズ・ストレンジのコーラスを伴いながらマルーリスの抑揚を抑えた歌声がメランコリックに耳へと届く。後半にかけてヴォーカルを埋め込んでしまうほどの強度を持って響き渡るシンセサイザーとギターによるオルタナティヴ・ロック然としたサウンドの構成に、ノスタルジアではなく、今がゆえの新鮮さをも感じてしまう一曲である。(尾野泰幸)

Le Makeup, Ryan Hemsworth – 「Moon Hit」

トリー・レーンズをはじめ数々の大物との共作や日本人では水曜日のカンパネラのコムアイ、ゆるふわギャングなどとも手を組み作品を発表してきたカナダ出身のプロデューサー、ライアン・ヘムズワースの次なるコラボ相手は、昨年ファースト・アルバム『微熱』を発表した大阪を拠点に活動するプロデューサー/シンガーのLe Makeup。シンセサイザーが穏やかに揺れるトラックに乗り、抽象的でいて誠実な言葉が、衒いのない歌声とともにまっすぐ胸に届く。“未来が見たい 別に5秒先のことじゃない”。想像してみる。既存のシステムが崩れ去ったあと。その瓦礫をかき分けるとき。一体どんな気分なのかを。目一杯の希望と不安を握りしめた、新しい春の歌。(高久大輝)

Lim Kim – 「MAGO」

韓国のシンガー、リム・キムが今年の国際女性デーに発表した楽曲。韓国の神話であるMAGOからインスピレーションを受け、韓国の伝統楽器の音も取り入れているというが、ルーツへの単なる好奇心ではない、現代のリスナーの耳にスムーズに届くようにデザインされたサウンドが印象的だ。地面を打ち鳴らすようなビートや、宗教的な儀式を連想させるメロディ・ラインが神々しく、かつ過去と現代を接続させることで、新たな価値観とサウンドの提示になっている。MVでは、ナイキや韓国のファッション・ブランド《MISCHIEF》とコラボレーションし、その装いからも東洋の女性としての彼女のアイデンティティを現代にプレゼンテーションしているようだ。(加藤孔紀)

Marisa Anderson / William Tyler – 「Lost Future」

マリサ・アンダーソンとウィリアム・タイラー(元ラムチョップ、シルヴァー・ジュウズ)という、ジョン・フェイヒィ言うところの“アメリカン・プリミティヴ”の継承者である二人の男女が初のコラボレート・アルバムを8/27にリリースする。この曲はそこからの先行曲。共通の友人であるデヴィッド・バーマン(パープル・マウンテンズ)追悼公演で意気投合しコロナ禍で制作したそうだが、流れるように美しいドローンやリフの反復、ほんの少しの異物感を創出したテクスチュアが深い悲しみを伝えている。タイトルはマーク・フィッシャーの著書『わが人生の幽霊たち』にも記された「潜在的未来の喪失」という文化理論に由来しているそう。むべなるかな。(岡村詩野)

Ryley Walker – Axis Bent

シカゴ出身のSSW、約3年ぶり5枚目のソロ・フル・アルバムからの先行シングル。ジャム・セッション的な性格の強かった前作〜前々作、その後の他アーティストとのコラボ・アルバムのリリースを経た今作は、そうした彼元来のセッション・ミュージシャン的な気質と歌モノ・シンガーとしての側面がバランス良く融合した佳作に。弾むリズムに、流麗なギター捌き、肩の力が抜けた温かみのある歌声、それらを繊細にレイヤードしたサウンド。本人は現在NY在住だそうだが、ジョン・マッケンタイアのプロデュースも頷ける、シカゴの育んできたポスト・ロック〜オルタナ・カントリーの実験精神が生き生きと息づく1曲。ガスター・デル・ソル、ウィルコ、そしてジム・オルークの顔が次々と浮かんでくる。(井草七海)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Benny the Butcher, Harry Fraud – 「Plug Talk ft. 2 Chainz」

近年台頭著しいGriseldaの雄=ベニー・ザ・ブッチャーと、フレンチ・モンタナ仕事で名を上げたHarry Fraudのタッグ作『The Plug I Met 2』収録の一曲。ベニーと客演の2チェインズが成り上がりのストーリーを語る本曲でサンプルされているのは、なんと佐井好子の1977年作「胎児の夢」。タイトルにある“plug”はスラングで「ドラッグの仕入先」の意味を持つが、2チェインズのヴァースにおける同単語を用いたワードプレイが心憎い。21から25までの数字を用いたラインも遊び心満点だ。対するベニーのヴァースでは、スニッチ疑惑を描写した4行が短いながらも絶妙な臨場感を醸し出す。(奧田翔)

あっこゴリラ – 「DON’T PUSH ME feat. Moment Joon」

あっこゴリラ曰く「まだこんなこと言わなきゃいけない」日本の前時代的価値観に牙とナイフを痛快に突き立てた今作。個人的には意外だったあっこゴリラとMoment Joonという取り合わせをスマートに結びつけるのはFUNLETTERSとして活動でも知られるNew Kによるトラックだ。聖歌のように荘厳なメロからのドロップ、低音最前面のベースラインの展開は静と動、毒とユーモア、冷静と情熱、理性と狂気、清濁併せ持った2人のパーソナリティを的確に捉え、作品としての強度を底上げ。ラップパートとトラックが絶妙なトライアングルで奏でる、皮肉のこもった、でも極めて切実な人間賛歌である。(望月智久)

リ・ファンデ – 「ドレス」

ファースト・アルバム『HIRAMEKI』からわずか半年で届けられたリ・ファンデの新曲は、モーゼス・サムニーやホイットニー等を手がけたジョー・ラポータがマスタリングを担当した意欲作。高らかなホーンとチアフルなリズムに組み合わされる少しビターな歌詞が思い起こさせるのは、ベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックによる映画「God Help the Girl」にも通じるような、まごうことなきネオアコの世界。心に茨を持つ若者だけが歌える、繊細だけど筋の通ったこの歌は、困難を抱えたまま新しい春へと進む私たちの足取りにこそ似つかわしい。西村佳菜子が最高のボーイ・ミーツ・ガール・ムービーに仕立てたMVも必見。(ドリーミー刑事)

我是機車少女i’mdifficult – 「Half-full」

この曲の不思議な歪さは我々を強烈に魅了する。気怠いメロディー、ドラムとシンセベースの快く強いリズム、狂おしく響き渡るギター・ソロ、それと共鳴して感情を爆発させるボーカル…どれもスムースに溶け合っていながら、全体を覆うムードはひどく不安定で危うい。それは英語と中国語が滑らかに交差する歌詞が描く「動けない身体の中で思考だけが頭を巡り続ける状態」の焦燥感、凌元耕と張芷瑄の男女ツイン・ヴォーカルのアンニュイさのためだろうか? 昨秋以降リリースの「愛愛不懂愛」「Sunburn」と共に、R&Bへの憧憬をオルタナティヴな感性で昇華したEP『25』を象徴する1曲。EPごとに表情が変わる彼らの次の行き先に目が離せない。(Yo Kurokawa)

 

【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/


Text By Sho OkudaTomohisa MochizukiYo KurokawaDreamy DekaShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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