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BEST 11 TRACKS OF THE MONTH – August, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Anohni – 「It’s All Over Now, Baby Blue」

相変わらずまとまった新作の噂はないが、ローリー・アンダーソンのラジオ番組に出た時の様子を聴く限りでは、これまで以上に強い発言力を持っている。この発言を伴った生命力が今のアノーニの活動の柱になっているのは間違いなく、意図的にラフな録音のままにしたこのボブ・ディランのこのカヴァーも、「これで終わりさ、出ていけよ」と「退場」させることに力点を置いて歌われているように思えてならない。では何を「退場」させたいのか? それはもちろん権力、権威、人間のエゴ。逆に迎え入れたいのは真実を語ること。「その日」が来るまで訴えかけていく負けない姿勢だ。そういう意味でも同時公開のニーナ・シモン「Be My Husband」のカヴァーとセットで聴きたい。(岡村詩野)


Arlo Parks – 「Hurt」

つい先ごろフィービー・ブリッジャーズとのセッションを披露するなど、躍進の兆しを見せている、ロンドン出身の新人SSW、アーロ・パークス。この「Hurt」もその兆候のひとつ。これまでのシングル曲の多くはベッドルームポップやネオ・ソウルの文脈で捉えられてきたようだが、既発曲「Cola」などを聴いてもわかるように、本来彼女のルーツとして感じ取れるのは、ポーティスヘッドなどのトリップホップだ。「Hurt」のドラムやベースラインに聴ける、タフなサウンドや乾いたミニマルさも、ブレイク・ビーツを思わせるもの。曲の輪郭をかたどるサックスや、ホールリヴァーブのかかったギターの擦れる音を取り入れ、磨きをかけた空間の表現には、ベッドルームなどすぐに軽々越えていきそうな器の広さを匂わせる。そんなブレイク前夜の自信に、ついニンマリとしてしまう1曲。(井草七海)


Bartees Strange – 「Boomer」

オクラホマ出身ワシントン在住のシンガー・ソングライターによるデビュー・アルバムからのシングル・カット。エモ、インディー・ロックをルーツとする彼は、今春にバッド・ブレインズ「Black Dots」の引用とパン・アフリカ色のトリコロールを配するアート・ワークを携えた、ザ・ナショナルのカバーを含むEPを《Brass land》(デスナー兄弟が設立者に名を連ねる)からリリース。本曲は、エモ・ライクなアルペジオ・ギターに始まり、後半につれてダイナミックに展開するギター・サウンドを彼のハスキーな歌声が纏め上げている。彼自身のルーツが伝わる、素直なギター・ロック・サウンドが小気味よく響く。(尾野泰幸)


Ian Sweet – 「Dumb Driver」

一人で乗車する車はとてもプライベートな空間で、それはまるで他の誰も立ち入ることのできない脳内のように密室でもある。感情を制御できなくなってしまった自身を運転手に例え、その止められない気持ちを歌うイアン・スウィートことジリアン・メドフォード。自身のことをDumb Driverと形容しながら感情の矛盾について内省する楽曲で、何重ものレイヤーとなった歌声が、浮世離れしていて少し危なっかしくも思えるサウンドになっている。IANとは彼女のスケーター友達が付けたあだ名だそうで、スケートボードも基本は1人で乗るもの。一人で作曲に向き合うこととソロライドすることは、彼女が自身を投影する対象として重なるものなのかも。(加藤孔紀)


環ROY – 「Protect You」

セルフメイドのトラックはピッチシフトされた声ネタが騒々しく鳴り、その緊張感の中で踏み重ねられるライムは情景描写からポリティカルで物々しく、それでいて穏やかな日常を立体的に構成していく。

前作『なぎ』リリース時のインタビューで「これから荒れていくんだろうな、って予感がある」と語っていた通り、これはまさしく実際に荒れてしまった現在の世界であろう。“俺ら気分はもう戦争”とばかりに立ち上がる人々にも、等しくマジックアワーは訪れる。そのコントラストの中でアディショナルヴォーカル的に響く“お前を守るだけ”という少々マスキュリンにも思えるラインは、もがきながらも過ぎていく時間の中で精一杯に絞り出した覚悟だろうか。(高久大輝)



Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Father John Misty – 「To R.」

オリジナルとしては2年ぶりとなる新曲は、《Sub Pop》のシングル・クラブ・プロジェクトの一部としてリリースされた両A面シングル。コロナへのチャリティとして7月にレナード・コーエンらのカヴァーEPを発売したばかりだが、新曲もその流れと地続きと言ってよく、詩的でプライベートな視点にぐっとフォーカスしている印象だ。骸骨(詞中の”angel of death”か)がそっと人を抱きしめているアートワークのとおり、テーマは生死と自他だろうか。確固たる個としての自分と、誰でもない記号としての自分、そして他者との関係性における危うさを、繊細なピアノとヴォーカル、冷たいドラムに乗せて切なすぎるほどつきつける。そして生きることと死ぬことが対称ではなく結局はどちらもその一部であると改めて示唆する美しい1曲だ。(キドウシンペイ)


Silica Gel 실리카겔 – 「Kyo181」

2017年には韓国大衆音楽賞の新人賞を受賞するなど実力ある4人組が、兵役による活動休止、メンバー脱退を経て一皮も二皮も剥けた。一曲の中でドリーム・ポップやポスト・ロックなどが同居したスケールの大きな音を鳴らしていた過去と比べて、この曲は身軽になった演奏、延々同じメロディがループされるだけのシンプルな曲の構造など、メインストリーム・ポップと並べても違和感無いくらい洗練されている。だがそれは楽曲が単調になったことを意味しない。決まった形式の中で、ギターのエフェクト、シンセサイザーのメロディが移り変わっていくうちに、私たちはそのサイケデリアに陶酔していく。サイケデリック・ロックの可能性が詰まった名曲だと思う。(山本大地)


Tame Impala – 「Is It True(Four Tet Remix)」

テーム・インパラの原曲同様、全体を貫くフレーズのループが印象的だが、様相は随分違うFour Tetによるリミックス。最新作『Sixteen Oceans』から連なる、ウワモノや環境音に重心を移したアプローチはそのままに、肉感的なベースを中心とした小気味のいい原曲から、中心となる音数は絞られている。その2音のニュアンスが示す神経質な内省により、どことなく漂っていた諦念や不安はより強調され切迫して響く。うだるような暑さと不確かな未来、いつまで続くのかという疲弊感。フロアライクになり過ぎずオーガニックに聞かせるこのリミックスは、例年と完全に変わってしまったこの夏の様相を確かに映していたように思う。(阿部仁知)


Victoria Monét – 「Go There With You」

アリアナ・グランデ「thank u, next」などソングライティングに関わり、広く認知されるようになったヴィクトリア・モネ。彼女のアルバム『JAGUAR』に収録された「Go There With You」は、松尾潔が常々語っているR&Bシーンは最新のものではなく、その時々の最良のものが求められているという定義を体言した今年の夏における最良の楽曲と言える。

コロナの只中にある今年の夏は例年とは違う雰囲気にあるが、この曲はギターをはじめ夏の大定番アイズレー・ブラザーズの「Summer Breeze」を思わせる。それは、どこか漂う喪失感を郷愁という美しい物語に変換する作用があるのではないだろうか。(杉山慧)

曽我部恵一 – 「永久ミント機関」

コロナウィルスが2020年の夏から奪いとっていったものの巨大さを思う。哀れな私たちに残されたものは、もはや意味のない日付と気温の上昇だけだったのだろうか。否。今この瞬間にも夏は、数えきれないほどの、絶対不可侵な純情を生み出し続けている。かつてのあなたや私の夏がそうであったように。地球がその回転を止めるまで、永久に。

そんなコロナ後も揺るがない、世界が孕む途方もない生命力を、高鳴る心臓の鼓動のようなイーブン・キックと奔放な色づかいで描き切った異形のダンスチューン。それを歌うのが、額に汗して働くカレー屋の店主であるというのも最高にロマンティック。もう一度、世界を抱きしめよう。(ドリーミー刑事)


ミツメ – 「トニック・ラブ」

4月からほぼ月一で配信シングルをリリースしてきた彼らの真打ちのような曲。『A Long Day』以降貫いてきた分離の効いたバンド・アンサンブルから距離を置き、ガムランを思わせる上モノの掛け合いを中心にしたコンセプチュアルな作りとなっている。音色もあってアジアのインディー・ロック・シーンとの相関が感じられるが、単にドリーム・ポップ、サイケデリックといった関連性の強い言葉で表すのはためらわれる。それはひとえに、体温の低いコード運びやタイトなドラムなど、あくまで持ち前のスタイルの延長線上できっちりまとめられているがゆえだろう。同世代のバンドが様々な分岐に入りはじめた中、四の五の言わせない成熟ぶりが頼もしい。(吉田紗柚季)

Text By Hitoshi AbeSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaichi YamamotoNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki OnoSinpei Kido

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