Review

Yard Act: Where’s My Utopia?

2024 / Island / Republic / Zen F.C.
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ベースをより前面に押し出し、グルーヴィーになった2作目

10 April 2024 | By Kei Sugiyama

ジェームス・スミス(ヴォーカル)とライアン・ニードハム(ベース)が中心となりサム・シップストーン(ギター)とジェイ・ラッセル(ドラムス)の4人で結成されたリーズ出身のロック・バンドであるヤード・アクトのセカンドアルバム。デビュー作『The Overload』(2022年)では、ギャング・オブ・フォーやPiLなどのポストパンク〜2000年代にそれらを踏襲したザ・ラプチャーやレイト・オブ・ザ・ピアなどのディスコ・パンクの雰囲気が強かった。

前作で成功を手にした彼らは、本作の導入としてシングル「The Trench Coat Museum」をリリース。この曲や本作の「We Make Hits」でのサム・シップストーンのギターは元フランツ・フェルディナンドのニック・マッカーシーを思わせるし、ジェームス・スミスのヴォーカルは元カサビアンのトム・ミーガンを思わせることも相まって、2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルの雰囲気が強くなったように感じられる。そんな彼らのもう一つの特徴は、ベースを軸にした音作りだ。本作では、前作以上によく動くベースラインを前面に押し出し、よりくっきり聴こえるようにしたことで、サウンドがよりグルーヴィーになり、彼らの楽曲がよりソリッドな魅力を持つようになったと思う。ここには、ゴリラズのドラマー兼プロデューサーであるレミ・カバカがプロデュースとして参加したことも大きく関わっているだろう。

このようによりグルーヴィーなサウンドを手にした彼らのサウンドは、「An Illusion」や「Down by the Stream」、そして「Petroleum」と、ベックが『Mellow Gold』や『Odelay』で示したアコースティックなサウンドとヒップホップ的手法の融合を、彼らはいわゆる4人組ロック・バンドのフォーマットとして成立させたと言えるのではないだろうか。ヤード・アクトの音楽的志向は、ヘヴィーでグルーヴィーなサウンドにヒップホップ的な手法であるスポークン・ワードをのせていると言え、2000年代に台頭したアークティック・モンキーズからも多大な影響を受けていることは推察される。このヒップホップ的な手法は、市井の人々の代弁者としての役割を表現しているようにも思われる。

そうした彼らの特徴が最もよく表れているのが、「A Vineyard for the North」だ。成功を手にした自分たちに対する視線から感じる虚像と実態とのギャップは、この作品のテーマの一つである。さらに、この曲は温暖化が進んでいることから着想を得ており、フランスのブドウ畑所有者がより適したイングランド南部の土地を購入し始めるなどの現在起こっている変化も反映されている。この両方を踏まえて、サビの部分では韻を踏みながら歌われている。そしてこの曲は、ベースを軸においた楽曲としても彼らの特徴を示している。「Petroleum」のMVではヴォーカルとベーシストに意図的にスポットライトを当てており、そうした彼らの特徴をMVの方向性でも表しているのではないか。このMVで描かれたロック・バンドのイメージは、成功を手にした自己像に対する「We Make Hits」の歌詞とも呼応しているように思われる。ギター・ヒーローがいないという声はよく耳にするが、このバンドはそうしたロック・バンドという言葉が持っている雛形を変える可能性すらあるのではないだろうか。(杉山慧)


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