BEST 10 TRACKS OF THE MONTH – June, 2021
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Alien Boy -「The Way I Feel」
オレゴン州ポートランドを拠点とするバンド、エイリアン・ボーイが8月にリリースするセカンド・アルバムから先行リリースされた一曲。前作が《Tiny Engines》からリリースされた背景をみれば、2010年代以降のフォース・ウェーブ・エモの文脈から受容されてしまいそうなところだが、バンド名をワイパーズの曲名から引用し、過去作ではザ・スミス「Hand In Glove」をカバーしている事実に表れるように、一音目から端的に伝わるジャングリーかつ歪の効いた寂寥感漂うオーセンティックなオルタナ・ギター・サウンドが本曲の何よりもの魅力。素直すぎるかもしれないけれど、それもまた味と思わせてくれる佳曲である。(尾野泰幸)
Big Red Machine -「Latter Day(feat. Anaïs Mitchell)」
既にこの時点ではテイラー・スウィフトをフィーチュアした「Renegade」を含めた3曲が、それも初週立て続けに公開されている。そのどれもがテイラーの去年の一連のアルバムの流れの上にあるもので、プロデュースしたアーロン・デスナーにとって彼女との邂逅が活動の潮目を変えたことがわかるだろう。そのアーロンとジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)によるユニットの来たるセカンド・アルバム(8/27発売)からの最初のリード曲。アナイス・ミッチェルをヴォーカルに迎えた(でもハーモニーにはしっかりとジャスティンが!)ゴスペル・タッチのこの美しいバラードが繰り返す“終わりの日”(タイトル)とは、一体何を示唆しているのだろうか。(岡村詩野)
BudaMunk & TSuggs – 「Lost View」
2020年にコラボ作『Thank And Gro』を発表した国内屈指のビートメイカー、BudaMunkとジャズ・ピアニスト、TSuggs(Tony Suggs)のタッグが再び実現しシングルをリリース。ザラついた、いわゆる“ローファイ”な質感のあるぶっといビートに、突き抜けるように鳴る発振音など浮遊感のあるウワモノ、独特のタイム感が相まってタイトル通り視界が不明瞭に……。どこか現在漂っているムードを切り取ったようにも感じるが、個人的にはクラブのデカいスピーカーで聴いたときどんな感覚に襲われるのかが楽しみな1曲。それにしても、Invizible Handzとの共作も含めBudaMunkは恐るべきペースでリリースを続けている。(高久大輝)
Kiefer – 「When There’s Love Around」
今年の4月に新作『Between Days』を発表したばかりのLA拠点のキーボーディスト、キーファーが早くも次のアルバムを8月にリリースする。その最新作の表題曲でもある本楽曲は、ザ・クルセイダーズが1974年に発表した『South Comfort』からのカヴァー。これまでJ・ディラやマッドリブを思わせるビートを楽曲に取り入れてきた彼だが、この曲ではそういったビートを後退させ、複数の鍵盤楽器によるメロディやハーモニーを一層聴かせる演奏に舵を切った印象。原曲よりもテンポを落として、ゆったりと響く美しい鍵盤の音色と、そこに交わるカルロス・ニーニョのパーカッションが心地良い。LAの広い空の下での演奏こそ似つかわしい、解放感を携えたフュージョン・カヴァー。(加藤孔紀)
Yves Tumor – 「Jackie」
ひとり、周りと違うことは、不幸せだろうか。いっそ、誰か / 何かに身を委ねてしまったら楽なのではないのか。こうも長く世の中から半ば隔絶された状態でいると、正直そんな弱音も頭をもたげてくる。だが、彼は違う。本曲は、そのリリックだけ見れば確かによくある失恋ソングで、血を流す彼の心が見て取れるようなメロディも甘く切ない印象だ。ただ、彼はその孤独の痛みを、昨年のアルバムの延長線上にあるようなギラつきでもって、曝け出すのである。80年代風の残響音のかかった極彩色のシンセ、雄叫びをあげるギターのチョーキング・サウンドで、パワフルに、クィアに、そしてグラマラスに。生きることの痛みを見せつけながらひとり我が道をゆく彼の音楽に触れると、自分自身の人生のこともちゃんと肯定したくなるのである。(井草七海)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴きる逃し注意の楽曲をピックアップ!
Anika – 「Rights」
エクスプローデッド・ビューとしても暗躍するベルリンの才媛、アニカによる11年ぶりのソロ新作『Change』からのリード曲。マシナリーに刻まれるリフ/ビートと、ニコ譲りの退廃的なヴォーカルが漂わせる終末感は、どこかポーティスヘッドの『Third』が描く世界とも共鳴するが、アニカはここで《力を感じる/力を見せて》と繰り返す。本人いわく「分裂じゃなく団結を歌うエンパワーメント・ソング」だそうで、かつては“生気を失ったよう”と称された(同時にそれが魅力でもあった)彼女の声が、強烈な意思と希望を持って訴えかけてくることに感動を覚える。2010年時点でアニカを見出したジェフ・バーロウ、その審美眼に狂いなし。(上野功平)
Clairo – 「Blouse」
ロードやテイラー・スウィフトを手がけてきたジャック・アントノフとの共同プロデュースによる、セカンド・アルバム『Sling』からの先行リリース。キッチンで過ごす情景を歌う彼女の言葉には、ブラウスへ向かう男性の視線への不快感やそれを言い出せない自身への苛立ちといった、やり切れない感情が滲み出ている。だがそんな想いとは裏腹に彼女の歌声は優しく語りかけ、フォーキーに爪弾くアコギとロードのコーラス、ストリングスも柔らかく包み込むよう。その皮肉とも諦念ともとれるギャップはかえって想いの痛切さを感じさせる。これまで以上に繊細に心情の機微を捉えた本曲が予感させる、アルバムで描く彼女の新たな地平を期待してやまない。(阿部仁知)
HANDSOMEBOY TECHNIQUE – 「ANSWER」
なんと12年ぶりにリリースされたHANDSOMEBOY TECHNIQUEのニューアルバム『TECHNIQUE』からの一曲。ダンスミュージックを下敷きにしながらも、全ての楽器が思い思いに美しい旋律を口ずさむような多幸感あふれる世界は、やはり唯一無二のもの。先行リリースされた曽我部恵一、川辺素、畳野彩加をゲストに招いた日本語曲ももちろん素晴らしいかったのだけれども、やはり個人的にはどこかアノニマスでどこまでもドリーミーな雰囲気を漂わせた楽曲こそ真骨頂、という思いがある。だってディズニーランドのエレクトロニカルパレードの作曲者なんてほとんど誰も気にしないでしょ? そういう音楽だと思うのです。(ドリーミー刑事)
Joy Crookes – 「Feet Don’t Fail Me Now」
エイミー・ワインハウスも引き合いに出されるSSW、Joy Croockesのアルバムに向けた先行シングル。本作の歌詞は、恐怖心をキーワードに表面だけを取り繕い、自分の意見を飲み込む人物の視点を描いていて、一方でMVはヴィヴィッドな色彩が美しい。インド映画などでよく目にする機会のある花飾りやアジア圏を思わせる民族衣装が醸し出すそうした色合いは、バングラデシュとアイルランドにルーツを持ちロンドンで育ったという彼女のアイデンティティの一端が滲んでいるかのようだ。恐怖心による硬直は、声の小さい者の立場をより不安定にさせるが、本作はそうした呪縛を彼女のグルーヴと映像美で解きほぐす作品になっている。(杉山慧)
シュガーダンス – 「丸の内」
東京を拠点とする5人組バンド。2019年の結成以降SoundCloudに2曲分のデモをあげているのみだったが、このたびミックスにあだち麗三郎、マスタリングに風間萌を迎えた正式音源がようやくリリース。本曲はそのEPの1曲目だ。赤い鳥やガロなどコーラス中心のフォーク、あるいはソフトロック・グループの影響が色濃いたおやかな佇まい。スロウでほんのりアシッドなアンサンブルの温度感もさることながら、特にサトウマイ(Vo, Pf)のやわらかな渋みを帯びたアルトボイスは若手らしからぬ表現力を備えている。演者5人とは別に書き手がついているという歌詞の、波立つ感情のあわいを紡ぐような情景描写もたまらない。(吉田紗柚季)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事
http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/
Text By Hitoshi AbeSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki OnoKohei Ueno