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Jon Batiste: World Music Radio

2023 / Universal Music / Verve / Interscope
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グラミー受賞、そして彼は世界になろうとした

29 August 2023 | By Shoya Takahashi

前作『WE ARE』(2021年)の時点では、とにかくウェルメイドでチアフルで祝祭的な音楽の作り手としてジョン・バティステを認識していた。ソウルを軸に、ディスコ、ゴスペル、ジャズなど、いくつもの背景や歴史に根差したブラック・ミュージックを、高解度で現代的な音でポップに落とし込む巧さに舌を巻いた。あまりの音楽的ルーツの手広さとそれをコンパクトにスムースにまとめてしまえる手際の良さには、凄みを通り越して若干の軽薄さやチャラさを感じなくもなかったが、実際にはとても誠実な作り手であることは彼の言動や作品内のメッセージが明らかにしている。翌年の「第64回グラミー賞」では、『WE ARE』のアメリカにおけるブラック・カルチャーの系譜を表現するような作風と、多彩な黒人音楽の要素を凝縮したようなサウンド、そんな音楽性と共振するようなメッセージ性が評価されアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。グラミー賞に出席した際のバティステはドルチェ&ガッバーナによるスーツを身につけ、そこにはルイジアナ州出身である彼の出自やルーツを重んじるアティチュードを象徴するように、ニューオリンズのトライバル模様のダイヤ柄が取り入れられていた()。ちなみにバティステ一家はニューオリンズでは濃厚な音楽家系として知られ、いくつかの伝統的なブラス・バンドでジョンの血縁者が名を馳せている。

新作『World Music Radio』もやはりウェルメイドという印象で、その巧さはアルバムをさらにコンセプチュアルで大きなものにしている。何千年ものあいだ星々を超えて音楽を聴きながら生きてきたDJ、“ビリー・ボブ”というペルソナを被り、未来と過去のサウンドが全宇宙に配信される魔法のラジオ、というのが本作のコンセプト。黒人音楽の系譜の表現から、全世界そして宇宙へ。広げられた大風呂敷は、ジャンルや国籍を越えて多数のゲストを招いた長尺なプロデューサー・アルバムという形で実現された。いくつかの1分台の短い楽曲が挿入され、ラジオにおけるジングルを再現する形で、個々のジャンルのデフォルメを可能にしている。《Pitchfork》はそのデフォルメ感やウェルメイドさを、「グローバル・ミュージックの幅広い可能性をアメリカン・ポップスという形に落とし込んでいる。真に“異質な”音楽とのスリリングな出会いという、荒いエッジの部分をすべて削ぎ落としている」と批判的に評した。南アフリカのアマピアノ・デュオのネイティヴ・ソウル、スペインのボサノヴァ・シンガーのリタ・パイエスのような才能を発掘したり、JID、NewJeans、カミーロ、ファイアボーイ・DMLのような多彩な新しいスターとラナ・デル・レイ、リル・ウェイン、ケニー・Gのようなキャリアの長いスターを一堂に集めたりする試みは、確かに話題性と批評性を持ってはいるが、グラミー受賞に続くスターダムとセールスへの野心を抱えた戦略性まで見えなくもない。

そういう音楽作品としての無難さや戦略の明け透けさは感じつつも、とにかく個々の楽曲のクオリティが高いことは認めざるをえない。なまじテーマやコンセプトが前景化しているため軽薄さを感じてしまうが、それを考えずに聴けば最高に楽しいポップ・アルバムである。例えば「Raindance (feat. Native Soul)」はスタンディング・ロック居留地でネイティヴ・アメリカンのミュージシャンに出会ったことがきっかけになっているそうで、トラップとレゲエを行き来するビートにチャントが乗っかった、実質的なアルバム・オープナー。バティステのソウルフルな歌声が「I look up……! and do my Raindance」とタメを作るたびにトラックも静止する。無音の中に声のエコーだけが伸びる1秒間に、ここまで感嘆を覚えるとは。「Uneasy (feat. Lil Wayne)」では、バティステと同じくニューオリンズ出身で年齢も近いリル・ウェインがラップとギターで参加。ファットなキック&スネアにベースライン、後半に炸裂するバティステによる叩きつけるようなピアノ・ソロに気分高まる楽曲だ。

多彩なゲストが参加したアルバムだが、ゲストを招いていない楽曲もまた、どこか肩の力が抜けた奔放さが素晴らしい。先行シングルにもなっていた「Calling Your Name」は本人によるメロディカのどこか懐かしい音色と、童謡のように親しみやすいメロディーが印象的。本人曰く「みんなの反応が一番ピュアだったのが、シングルに選んだ理由」。ソウルフルというよりは低く抑制的に歌われるコーラスや2分足らずで終わるという力まない感じも、この曲を魅力あるものにしている。サウンドに一番驚きのある楽曲は、ルーツ・ロックに接近した際のボブ・ディランやザ・ローリング・ストーンズさえ連想させる「Master Power」だ。イスラム教やユダヤ教の祈りの声をサンプリングして聖書の引用まで歌い込んでいる。「フォークとスピリチュアル・ミュージックの融合」がこの楽曲のテーマだそうで、それは上の「Raindance」とも共通している。また、そのフォーク&スピリチュアルという観点から聴けば、必死に世界中の音楽をサンプリングしようと試みていることにも、アルバム全体からそこはかとなくスピリチュアルなムードが流れているのにも納得がいく。ここまでに挙げた以外にも、アフロビーツ、トロピカル・ハウス、ディスコ、エレクトロクラッシュ、アダルト・コンテンポラリーまで、見方によっては節操がないほどに様々な音楽が織り込まれた本作。これを軽薄だと聴くか革新的だと聴くか、音楽本来のスリリングさがないと批判するか楽しく親しみやすいと肯定するかは、結局は個人次第ということになってしまうのかも。判断はラジオのリスナーひとりひとりに委ねられている。とにかくまずはこのバティステとビリー・ボブの試みに耳を傾け、そして私たちも彼らのように、絶えずアンテナを伸ばし世界と宇宙のヴァイブを集め続けていきましょう。(髙橋翔哉)


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