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SZA: SOS

2022 / Top Dawg Entertainment / RCA
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ありのままの姿をストーリーに浄化する力

29 January 2023 | By Nao Shimaoka

この世には五万と失恋ソングが存在する。その分だけ、過去の恋人への想いを綴る歌手が世界にはいる。しかし、「元彼を殺しちゃうかも/彼のことはまだ好きだけど/一人ぼっちになるくらいなら刑務所に入った方がいい」と歌って共感を得ることが出来るのは、セントルイス出身のシンガー=シザだけではないだろうか。感情に規則性はないこと、常に矛盾したり意思に反すること、そして、それに嘘をつけないことを、彼女は熟知している。シザが同世代から圧倒的信頼を得ている理由は、決して彼らの代弁者になろうとしているからではない。彼女自身が感じる寂しさや惨めさと言った気持ちや、他者からの期待を恐れて人々が言おうとしないことを、偽りない繊細な言葉で独自のストーリーにするからだ。

現代的な恋愛と友達以上恋人未満な関係性を写した、記録的なデビュー・アルバム『Ctrl』(2017年)で、意図せずにシザが多くの女性のシンボル的存在となったことは、明らかだ。御伽話とは程遠い欲望に素直な女性像を、トラップやインディ要素で再構築したR&Bのサウンドで、リアルさを求める今の若者世代の心を鷲掴みにした。しかし、一度多くの人々の代表的な立ち位置として認識されると、自身が次に発するステイトメントにプレッシャーを感じることとなる。それは、シザも同様だったようだ。前作から5年を経てリリースされた待望のセカンド・アルバム『SOS』で、シザは恋愛のみならず、成功を得た後の人生のストレス、理想像に縛られないことを歌い、5年という長い年月の間で経験した生の感情を、見事なリリシズムで表現している。

「私たちの船を救って」。アルバム・タイトルでもあるモールス信号「SOS」の指すとされる意味だ。アルバム・カヴァーには、故ダイアナ王妃が亡くなる直前にヨットで撮影された有名なフォトグラフを起用している。全ての成功を掴んだと思われる33歳のアーティストは、失恋に打ちひしがれ、自暴自棄になったり、過去の恋人に復讐しようとする姿を、儚く寂しい生涯を遂げたプリンセスと重ねているようだ。皮肉的に「他にも男はいるって自分に言い聞かせるためにセラピストを雇うほど、私は大人」と言ったかと思えば、「全て愛のために行ったの/シラフの状態で/私たちのために」と、恋人の殺人を正当化しながら失恋の重みを吐露する(「Kill Bill」)。

アルバムで語られる狂気的な心情には、切なさも混合する。「あなたの彼女にはなりたくない、ただあなたの隣にいる人になりたいだけ/それだけで満足なの、彼女になろうとすでに試したけれど」と語るのは、「Notice Me」。そして、リリシストとヴォーカリストとして両方の腕前が光る瞬間は、彼女が最も脆弱になる時だ。ベイビーフェイスがプロデュースを手がける「Snooze」では、愛に浸る幸福感を綴る。「居眠りはしていられない、この瞬間を逃したくないから/あなたはそれだけ大切な人なの」。アコースティックギターの上で「私が特別な存在だったらよかったのに/私の全ての個性を放棄してしまった/昔は特別だった、けどあなたが私を嫌いにさせた/自分を変えたことを後悔する」と語る「Special」は、『Ctrl』で「母親に紹介されるような普通な女の子だったらよかったのに」と歌った「Normal Girl」と同様の心境を映し出しているのだろう。

リリックの鋭さは、全ての曲で発揮されている。人生で疲れ切った心情と失いかけた自己を歌う「Far」、元婚約者との破局を元に作られた失恋ソング「Nobody Gets Me」と、全曲に彼女のソウルが感じられる。また、「Conceited」では、体を整形したことに罪悪感を感じないと告白しており、こういったありのままの姿が、シザが共感を得る理由を裏付けている。今作のハイライトを挙げるなら、タイトルは映画『ゴーン・ガール』(2014年)からリファレンスされた、壮大なバラード曲の「Gone Girl」だろう。ドラマチックな曲展開と、ダリル・ホール&ジョン・オーツの「She’s Gone」をアレンジしたコーラス部分が特に素晴らしい。ヴォーカル的な観点でも今まで以上にシザの肩の力は抜けていて、柔らかく、伸びの良い歌声を披露している。

また、世間が黒人アーティストに求めるステレオタイプに囚われたくないという姿勢が、今作には特に強く感じられる。「私をR&Bのカテゴリーに入れるのは怠慢だ。黒人音楽はR&Bである必要はない。私たちが最初にロックを始めたでしょ!」という彼女の発言も納得だ。ポップパンクな曲でシャウトする「F2F」、そしてフィービー・ブリジャーズを客演に迎えた幻想的な「Ghost in the Machine」と、シザのインディ・ミュージックへのさらなる傾倒が見受けられる。さらに「Forgiveless」ではウータン・クランのファンである彼女らしく、オール・ダーティー・バスタードをサンプリングしており、「SOS」と「Smoking on my Ex Pack」もブーンバップで一貫している。

シザはアルバム・カヴァーで「孤独」を表現したかったと発言しているが、そこに映る彼女の表情には、5年を費やしてやっと作品を世に出せたことによる安堵感も漂っているように感じる。恋愛の失敗や恥ずかしい経験をシェアすること、脆さを打ち明けるプロセスを経て、今までで最もシザは自信と強さを手に入れているようだ。そして、『SOS』と名付けられたこのアルバムが、一種のセラピーとして、多くの人を救うことだろう。(島岡奈央)


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