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Lady Donli: Pan African Rockstar

2023 / Bad Moon Ltd / Believ
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ナイジェリア《Alté(オルテ)》の代表格による『Pan African Rockstar』をその名に冠した最新作

07 December 2023 | By tt

2010年代半ばより、ナイジェリアのラゴス郊外の中産階級を中心に始まった文化運動であり、コミュニティの総称でもある《Alté(オルテ)》。インターネットの普及により、西洋のポップ・カルチャーが情報として本格的に流入してきたことの恩恵を受けた第一世代とも言われている彼(女)たちの音楽性は様々だが、その多くはフジ・ミュージックやハイライフといった(主に)西アフリカの音楽とR&Bやヒップホップ、インディー・ロックなどをミックスしたエクレクティックなものであるという部分に共通点を見出すことができる。Lady Donliが2019年にリリースしたファースト・アルバム『Enjoy Your Life』は、ハイライフやアフロ・ポップとR&Bの洗練された見事なフュージョンであり、《Alté》のシーンが少しずつではあるが、ナイジェリアの外側に伝わる契機となった作品の1つだったように思う。その後、複数のコラボレーションや2021年のEP『WILD』を挟んではいるものの、最新作『Pan African Rockstar』はフル・アルバムとしては、世界的なコロナのパンデミックを経て、実に4年ぶりのリリースとなった。

『Pan African Rockstar』というタイトルに表れているように、ロックは本作を構成する重要な要素の1つと言える。Donliは当初サイケデリック・ロック・スタイルの楽曲を作るにあたり、ナイジェリアの80年代のロック・グループに大きなインスピレーションを得たという。アフリカン・ロックを再構築するという意志のもとDonliが結成したバンド、The Lagos Panicでの活動の影響もあるのだろう。例えば「Your Fantasy」や「The Bad Ones」では前作にはなかったラウドなギター・サウンドを聴くことができるが、そこにナイジェリアの先達フェラ・クティを筆頭とするアフロビートやハイライフ、スークーからジャズ、R&Bまで様々な要素を取り入れてミックスすることで、前作『Enjoy Your Life』の風通しの良いサウンドと比較しても、ポップな面影を残しつつも作品全体がよりヘヴィかつバラエティに富んだ構成になっている。

ゲスト・アーティストの起用も興味深い。前作『Enjoy Your Life』ではブレイク前のTemsやAmaaraeといった様々なアーティストを起用している。“私たちはとても女性差別的な社会の出身で、音楽業界はさらにひどい。なぜナイジェリアの音楽システムでブレイクする女性が少ないのか、私たちは常に女性について話し合っているように感じますが、実際のところ、私たちにはそれを可能にするエコシステムがありません”とは《More Branches》のインタヴューにおけるDonliの発言だが、前述のTemsように男性優位とされているナイジェリアの音楽産業の中で、Donliはナイジェリアの女性アーティストを起用し、フックアップすることを1つの重要な役割として自らに課している。既にブレイクはしているものの本作でも2018年の英国のDJ Rittonとのコラボレーションでも知られているナイジェリアのラッパー/SSW、Kah-Loをゲストに招いている。

前作にガーナ系アメリカ人のAmaaraeが参加しているように、ナイジェリア出身でUKをベースに活動しているObongjayarとコンゴ出身でカナダをベースに活動しているPierre Kwendersといった世界中に散らばったアフロ・ディアスポラの面々を起用していることも“Pan African”というタイトルを冠した本作においては重要なポイントだろう。「Nothing2Something」のメロウなアフロポップはObongjayarのスウィートなヴォーカルを引き立て、「SAID」ではDonliの英語とマルチ言語での歌/ラップが自身のシグネチャーでもあるPierre Kwendersのリンガラ語のコンビネーションを聴くことができる。Kah-Loも含む参加アーティストの長所や特色を引き出したことが、そのまま本作のヴァラエティの豊かさに繋がっていると言えるだろう。

『Pan African Rockstar』とは実に大胆不敵なタイトルではあるが、ロックを1つの大きなインスピレーションに様々なジャンルを繋いでいくサウンドからは“Rockstar”という言葉の、(前作からはブレてはいない部分ではあるが)アフロ・ディアスポラのアーティストを要所で効果的に起用する采配からは“Pan African”という言葉の、それぞれの説得力を感じさせる作品になっている。RemaやBurna Boyといったナイジェリアのアーティストがグローバルにより飛躍していった2023年に、インディペンデントのアーティストがこのような作品を作り上げたこともまた記憶に留めておくべきなのではないだろうか。来年以降でThe Lagos Panicとしての活動も本格化する予定とのことで、こちらも注目していきたい。(tt)


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