Review

Amaarae: Fountain Baby

2023 / Interscope
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忙しなく大胆に、アマレイがパッケージする過剰さ

02 August 2023 | By Tatsuki Ichikawa

思うに、過剰さは現代における一種のトレンドなのだろう。特に、音楽や映画含め、世の中で目立っているコンテンツは、どれも様々な要素が詰め込まれているもので、シンプルな世界観を創造しているものは、現代において非常に少なく感じる。あるいは、その過剰さこそが、インターネットと多様性の現代のリアルを反映しているという言い方もできるかもしれないが。

ともかく、アマレイ『Fountain Baby』も例外ではない。本作が担っているものがあるとするのならば、まずはその過剰さだ。情報量の多い、ドラマティックで、混乱していて、生き生きとして、なんなら雄大な、そんなレコードである。最近の作品で言えば、リトル・シムズ『Sometimes I Might Be Introvert』のコンセプチュアル、ロザリア『MOTOMAMI』の俗っぽさと流動性が合体したような、非常に現代らしい作品と言えるだろう。

全てが同時多発的で同時進行的。ただし、本作に関してはその様を優雅に見せているのがポイントだ。ジャネール・モネイ『The Age of Pleasure』(2023年)やKAYTRAMINÉ『KAYTRAMINÉ』(2023年)など、話題のサマー・アルバムへの参加も立て続けに話題になったシンガー、アマレイが作り出すアルバムの展開は、散漫とは逆の、非常に統制されたものに聴こえる。

例えば、『Fountain Baby』の全編に散りばめられる音の豊富さは忘れ難い。作品を通して、多様な表情を作り出すシンセの活用。また、日本からヴォーカルとしてCrystal Kayも参加する7曲目「Wasted Eyes」は、安東ウメ子「バッタキ」をサンプリング(原曲でコラの鳴る2小節は、実際にコラ奏者を呼び弾き直してもらっているそう)。その他にも幻惑的、あるいは幽玄に作品を彩るヴァイオリンやハープの音色など、多様かつ多国籍な管弦楽器のアンサンブルにより、作品はグローバルな色を醸している。この辺りはまさに過剰ともいうべき、多文化からのインスピレーションと情報の詰め込みであるが、アマレイは散らかすことなく、あくまでエレガントに、作品のムードを一貫させているようである。

ただしその一方で、鮮烈な瞬間がリスナーを待ち構えてもいる。例えば、10曲目「Sex, Violence, Suicide」における後半のパンクへの転換。あくまでアフロビーツをベースに紡がれるスムースな展開に、もしリスナーが油断していたとしたら、まさに冷や水をかけるような展開である。何よりも、『Fountain Baby』にはそういったスリリングさがある。

『Fountain Baby』はいささか暴力的で、過剰なまでに欲望が充満する。前述した「Sex, Violence, Suicide」は、作中の多くがそうであるようにラヴソングであるが、実在の連続殺人鬼の名前が登場する序盤から、タイトル通り暴力的とも言えるような内容である。“あなたなしでは生きていけない”“あなたが欲しい”。切迫したその態度で、愛に飢える様子は全編に聞こえる。起伏の激しい彼女のボーカルの速度やトーンの変化も、忙しなくリスナーに迫る。激しい感情と関係性の変化の中で、どうにか彼女自身が気持ちよくなることを優先させているようだ。

豊富な音が鳴る『Fountain Baby』の多様さはそんな欲望の表れと言えるかもしれない。彼女は妥協せず、ただしどうにかバランスを崩すことなく、自分の望むものを手に入れようとする。その様は繊細というには流石に荒っぽく見えるが、こういった過剰さを屈託なく貫くことを、『Fountain Baby』は過激に達成しようとしている。(市川タツキ)


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