夏の終わりのノスタルジックな感覚を、別れの象徴として捉え直した一枚
「Evergreen (You Didn’t Deserve Me At All)」のヒットや第65回グラミー賞の最優秀新人賞へのノミネート、SZAのツアーへの参加など、前作『Ivory』は、オマー・アポロが新世代のポップ・スターとして注目を集めるきっかけとなった。これまでの彼の楽曲を振り返ると、「Invincible (feat. Daniel Caesar)」はレディオヘッドを思わせたし、「Tamagotchi」などはスペイン語歌唱を入れることでヒップホップにおけるラテン系移民が果たしてきた歴史的な視座も感じさせた。「Go Away」などはディスコ・ポップとしての側面も見られ、「Petrified」ではギターと声にフォーカスした弾き語りでも魅力が引き立つようなシンプルな楽曲まで見られた。彼の様々な側面が垣間見れる自己紹介的な作品とも考えられるだろう。
彼は本作までの間に、自身がゲイであることを家族に打ち明けたときのことを歌った「Ice Slippin」が収録されているEP『Live For Me』を発表。疎外感や後悔を基調としたシリアスな雰囲気を纏った方向性は、別れをテーマにした本作『God Said No』と共通する部分が感じられる。また、これまで彼の作品で重要な役割を果たしてきたテオ・ハーム、カーター・ラング(Carter Lang)が本作にもプロデューサーとして参加しており、特にテオ・ハームはほぼ全ての楽曲に関わっている。そのため、本作がこれまでの音楽性を踏まえた上で、アルバムとしてまとまりのある作品となったのは必然と言える。
本作を作るにあたって影響を受けたアーティストの中に、ジェフ・バックリィやラナ・デル・レイが挙げられていた。前者は「Plane Trees (feat. Mustafa)」や「While U Can」、「Dispose of Me」で聴かれるファルセットや、ゴスペル的と言えばよいのか、また疎外感や後悔といった情感が共通しているように思える。後者は別れがテーマの本作においてノスタルジーを喚起させるという意味でサウンド的に重要な役割を果たす「Empty」や「Life’s Unfair」、「Pedro」などに影響が感じられるだろう。
そうした本作の核となるのは、二人の関係性が終わることを決心し吹っ切れた気持ちを表現した「Done With You」だろう。アルバム後半のノスタルジックな回顧へと入る前に、爽やかなこの曲が前半に配置されることで明るい作品というイメージを強くし、後半のノスタルジックな楽曲も前向きな楽曲へと変換されているのではないだろうか。また、彼は本作において夏らしいエネルギーを入れたと語っている。ここでの夏らしさとは「Drifting」のMVで見られる、高い空や少し落ちてきた太陽、涼しげな風、こうした情景なのではないだろうか。それは夏の終わりのノスタルジックな側面であり、そうした感覚を本作のテーマである別れの象徴として捉え直しているとも考えられる。(杉山慧)
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