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「You Are My Sunshine」90年の歴史
第六章
You Are My Sunshineとゴスペル

03 May 2023 | By Kei Sugiyama

YAMS楽曲とゴスペルについても少し触れておきたいと思う。ジミー・デイヴィスは、ジミー・デイヴィス礼拝堂を作るなど歳を重ねるに連れ教会で歌うようになっていった。そうした活動の中で、彼は「You Are My Sunshine」のメロディーを使った「Christ Is My Sunshine」(1974年)という楽曲もリリースしている。“You Are My Sunshine”というフレーズは、主(Lord)の修飾や比喩表現として教会音楽と相性が良いのだろう。

教会音楽をポップスにする流れとしては、YAMS楽曲ではないがThe Southern Tones「It Must Be Jesus」(1954年)を、世俗的な歌として作り変えた「I’ve Got A Woman」(1954年)としてレイ・チャールズがカヴァーしている例がある。イエス・キリストを称える「It Must Be Jesus」は“You Are My Sunshine”とは歌っていないが、「この我が小さな光」という日本語タイトルが示しているように、“sight”や“blind”という歌詞など光がテーマになっている。そうした楽曲を俗な表現へとレイ・チャールズは作り変えた。こうした楽曲は、彼がYAMS楽曲だけでなく、ゴスペルとR&Bの越境者としての側面があることを示しているのではないだろうか。そうした歴史を示すように、ソウル/R&Bを重点的に調べた今回の調査でも、ゴスペルと表記されている楽曲が多く見つかった。

ソウルとゴスペルの関係として、まず思い浮かぶのがアレサ・フランクリンだろう。彼女は高名な牧師の家庭に生まれ、幼い頃から父と共に巡業するなど有名なゴスペル・シンガーだった。しかし、公民権運動など時代の流れの中で確立されていった彼女の意志と父親との間に確執が生まれ、そうしたコントロール下から独立を果たす。このように彼女はソウル/R&Bにおいて聖と俗を繋ぐ存在となっていった。そんな彼女がYAMS楽曲を歌ったのは、独立を果たしたアトランティックに移籍した1967年「You Are My Sunshine」(ジミー・デイヴィス)だ。ゴスペル・ソングを聖とするならば、この楽曲は俗表現としてのYAMS楽曲を歌っていると表現できるだろう。

アレサ・フランクリンと同じような出自を持つクラーク・シスターズの登場は、ゴスペルとソウルの関係を考える上で面白い。レイ・チャールズはゴスペルをソウル/R&Bに作り変えたが、彼女たちはソウル/R&Bをゴスペルへ作り変えたのだ、しかもYAMS楽曲で。その楽曲とは、キリストが私に太陽をもたらしてくれたと歌う「You Brought the Sunshine」(1981年)だ。この曲は、メンバーであるTwinkie Clarkを中心にして彼女たちが自作したが、元ネタとして使われているのはスティーヴィー・ワンダー「You Are My Sunshine Of My Life」(1972年)と「Master Blaster (Jammin’)」(1980年)だ。この2曲を掛け合わせゴスペル風に装飾した楽曲と言えるだろう。彼女たちの半生を描いた映画『クラーク・シスターズ -First Ladies Of Gospel-』(2020年)によると、教会側からはこうした楽曲やグラミー出演などが反感を買い俗な表現だとみなされたとされていたが、USビルボード・チャートではゴスペル・ソングとして集計されるなどゴスペルのポピュラー化を進めた楽曲とも言えるだろう。またYou Are My Sunshineというフレーズをゴスペル表現として有名にしたとも言えるのではないだろうか。

その後も、タラリン・ラムシー「Everyday」(2000年)やVirtue「You Are My Everything」(2001年)、そしてカーク・フランクリン「Sunshine」(2005年)などに見られるようにYAMS楽曲のパターンを用いたゴスペル・ソングは定期的に作られるなど、You Are My Sunshineというフレーズがゴスペル・シーンにおいても定着していった姿が見受けられる。

またゴスペルとソウルの繋がりという点では、テネシー州メンフィスを舞台にした音楽制作ドキュメンタリー映画『約束の地、メンフィス テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー』(2014年)で「Ain’t No Sunshine」(2014年)を歌ったボビー“ブルー”ブランドの発言が興味深い。それはメソジストは発音などに拘る言語的な歌い方で、バプティストは感情に訴える歌い方だと説明している。こうした発言からもゴスペルとソウルは不可分な関係にあると言えるだろう。(杉山慧)

筆者作成のプレイリスト
第六章 You Are My Sunshineとゴスペル

短期集中連載
「You Are My Sunshine」90年の歴史

第一章 You Are My Sunshineとレイ・チャールズ
第二章 You Are My Sunshineとモータウン
第三章 You Are My Sunshineとディスコ
第四章 You Are My Sunshineとヒップホップ
第五章 You Are My SunshineとR&B
第六章 You Are My Sunshineとゴスペル
第七章 ダニエル・シーザー「Best Part (feat.H.E.R.)」とその後
まとめ

「You Are My Sunshine」90年の歴史 扉ページ

Text By Kei Sugiyama

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