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「You Are My Sunshine」90年の歴史
第五章
You Are My SunshineとR&B

02 May 2023 | By Kei Sugiyama

前章で見たようにディスコがトレンドでなくなるにつれ、YAMS楽曲も少なくなっていった。そうした中でLL・クール・Jや、特にメアリー・J. ブライジなどが登場したことでYAMS楽曲が再び注目を集めるようになった。メアリー・J. ブライジがクイーン・オブ・ヒップホップ・ソウルと呼ばれていることが示すように、恋人に対する愛を歌うことの多いYAMS楽曲は、R&B/ソウルと相性が良いのだろう。彼女の活躍もあり、同じ年に発売されたジョー「Good Girls」(1997年)など、90年代後半から徐々に歌い上げる感じのYAMS楽曲が増えてきた。さらにこの頃は、バックストリート・ボーイズ「Shining Star」(2000年)などYAMS楽曲が再びポップ・ヒットしてきた時期とも言える。主だった所としては、アンジー・ストーン 「No More Rain (In This Cloud)」(1999年)、ボーイズIIメン「That’s Why I Love You」(2002年)と「Shining Star」(2009年)、ブライアン・マックナイト「Still」(2001年)と「Every Time You Go Away」(2005年)、トニー・ブラクストン「And I Love You」(2002年)、R・ケリー「Dream Girl」(2003年)、ジョデシィ「Stress Reliever」(2015年)、ベイビーフェイス「Exceptional」(2015年)と「Walking On Air」(2015年)などが挙げられる。

誰もが知っているR&B界の大物がYAMSをテーマに歌っている。この変化には、メアリー・J. ブライジの登場とその影響力を物語っているだろう。メアリー・J. ブライジ「Everything」(1997年)を制作したプロデューサー・チームであるジミー・ジャム&テリー・ルイスがボーイズIIメン「That’s Why I Love You」も手がけていることを踏まえると、このチームはYAMS楽曲の新たなトレンドセッターとして大きな役割を果たしたと言える。YAMS楽曲を定期的にリリースするなどYAMS楽曲フリークとも言えるベイビーフェイスはこの流れを好機と捉えたのか、トニー・ブラクストン「And I Love You」の制作に関わるなど2000年代の潮流を後押ししたと言えるだろう。

こうしたベイビーフェイス楽曲の中でも、「Walking On Air」はYAMS楽曲の歴史を踏まえていて面白い。この曲は、80年代に活躍したヴォーカル・グループであるデバージのエル・デバージが参加している。1番をベイビーフェイスが2番をエル・デバージが歌い、サビ部分を二人でという典型的なデュエット・ソングだが、YAMS楽曲フリークであるベイビーフェイスの面目躍如となる仕掛けが施されている。まずは、1番の“You Are My Sunshine”からの“You Are My Everything”と畳掛ける所は、メアリー・J. ブライジ「Everything」へのオマージュがこめられているのだろう。それだけでなく、2番のエル・デバージの歌唱部分では、1番で“You Are My Sunshine”と歌っていた所が“My shining star”へと変換されており、ディスコ時代のYAMS楽曲オマージュとなっているのだ。この人選にしてこの曲ありということだ。ここには彼がただYAMS楽曲を歌ったり作ったりいるのではなく、彼の中でYAMS楽曲が体系的に歴史として認識されていることを示しているのではないだろうか。

90年代から活躍していたブライアン・マックナイトがこのタイミングでYAMS楽曲を短い期間に2曲リリースしていることも、YAMS楽曲がトレンドになっていることを示している。それだけでなく、「Still」が収録されたアルバム『Superhero』(2001年)と「Every Time You Go Away」が収録された『Gemini』(2005年)はいずれも60年代からYAMS楽曲を牽引してきた《モータウン》からリリースされていることも決して偶然ではないだろう。

この頃にYAMS楽曲が活況を呈したもう一つの理由として、ジェラルド・レヴァート「Don’t Take It Away」(2000年)やチャカ・カーン「Shining Star」(2007年)、LL・クール・J「Not Leaving You Tonight」(2013年)など、60年代から90年代までの間で活躍してきたミュージシャンもYAMS楽曲を歌ったことが上げられるだろう。あと調べていて興味深かった点として、ニュー・ジャック・スウィングではYAMS楽曲が見つけられなかったし、マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンでもYAMS楽曲が見つからなかったのが意外であった。彼女たちが登場したのは80年代後半〜90年代であり、YAMS楽曲を歌うことで彼女たちのイメージが古臭くなることを避けたのではないだろうかとも考えられる。そうした中でベイビーフェイスの一つのアルバムに2曲のYAMS楽曲を収録するなど、YAMS楽曲に対する一貫性には驚かされると共に、彼のブレない信念を感じさせる。(杉山慧)

筆者作成のプレイリスト
第五章 You Are My SunshineとR&B

短期集中連載
「You Are My Sunshine」90年の歴史

第一章 You Are My Sunshineとレイ・チャールズ
第二章 You Are My Sunshineとモータウン
第三章 You Are My Sunshineとディスコ
第四章 You Are My Sunshineとヒップホップ
第五章 You Are My SunshineとR&B
第六章 You Are My Sunshineとゴスペル
第七章 ダニエル・シーザー「Best Part (feat.H.E.R.)」とその後
まとめ

「You Are My Sunshine」90年の歴史 扉ページ

Text By Kei Sugiyama

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