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「今はワールド・ミュージックとされていたものの壁がなくなってスタンダードなものになっている」
ケンドリック・ラマーも魅了されたLAのプロデューサー、ノサッジ・シングが導くコミュニティの連帯

06 January 2023 | By hiwatt

ノサッジ・シングが帰ってきた。LAで生まれ育ち、韓国にルーツを持つJason W. Chungによるプロジェクト。近年は、いくつかのシングルやリミックス仕事で絶え間なく我々に音楽を届け続けてくれていたが、フル・アルバムは5年ぶりとなる。それだけ時間が開いたのには、家族の健康問題のサポートや住まいの改築など、プライヴェートでいくつかの問題があったのだという。

そんな状況にパンデミックが輪をかける中で制作されたのが、最新作『Continua』だ。「継続的、連続体、絶え間ない」といった意味のタイトルを持ったこの作品。UKの残り香を感じるエレクトロニカ作品であった2006年のデビューEP『Views/Octopus』から、その流れを汲みつつもテクノの色気を纏う出世作となったファースト・アルバム『Drift』、自身が設立した《Timetable Records》からリリースした自身のサウンドを確立してからの音楽も、彼の約15年間が詰まっている作品だ。

加えて、キッド・カディやチャンス・ザ・ラッパー、ケンドリック・ラマーをプロデュースした経験も明らかに含まれているが、トラックメイカーとしてのプロデューサーではなく、古典的な意味での音楽プロデューサーとしての挑戦もこの作品の見どころの一つ。彼の中での一時代の終わりと始まりを同時に感じさせるこの一作についてや、アジアン・ミュージックの今について本人に訊いた。
(インタビュー・文/hiwatt)



Interview with Nosaj Thing


──まず初めに、まずは素晴らしい作品を届けていただきありがとうございます。前作のリリースから5年間、パンデミックは勿論、ご家族のサポートなど大変な時間を過ごされたと聞いています。シングル等のリリースはありましたが大きな作品のリリースは出来ず、ライヴ・パフォーマンスも制限され、オーディエンスへ向けてのアウトプットがなかなか出来ずにいたと思います。フル・アルバムをリリースされた今の気分を教えて下さい。

Nosaj Thing (以下、N) :誰もがパンデミック禍で未来を考え直したと思う。失業や転職を余儀無くされたり、友人や家族とも長く会えなかった人もいると思う。自分にも様々な葛藤があったんだけど、そんな中でもっと意味のあるものを作りたいという気持ちになったんだ。そのために、もっとスタジオにいる時間を取ることにした。というのも、これまではずっとツアー中心の生活だったんだ。勿論、パフォーマーとして、オーディエンスに直に音を届けるのは最高の仕事なんだけど、アーティストとして成長するためにはもっと多くの作品を作るべきだと思ったんだ。

──パンデミックが良くも悪くももたらしたものはありますよね。

N:パンデミックが起こるまで、この10年はツアー・ルーティーンが体に染み付いた生活だったんだ。ホテルからライヴ会場に向かい、サウンドチェックをし、1時間のセットをプレイしたあとホテルに戻り、次の街に移動する。それを繰り返す。人間らしいとは言えないよね。 もちろん、それが収入の多くだったわけだし、最初は不安に思ったよ。だけど、一度立ち止まって考え直すことは自分にとっては良かったし、今は以前の生活に戻る方が恐ろしいよ(笑)。

──今回の作品は、今までにないほど多くのミュージシャンとのコラボレーションによって作られましたが、作品の構想段階からコラボレーション作品になることを想定されていたのでしょうか?

N:そうだね。この作品はキャリアで最も挑戦的なアルバムで、夢の詰まった作品なんだ。前提として、ゲストの全員が自分の尊敬するミュージシャンで、半数以上は面識が無かったんだ。シャイな僕にとっては、ある意味一番大変な挑戦だったんだけどね。実際、《LuckyMe》(今作をリリースしたレーベル)に繋いでもらいつつ、基本的に僕がゲストに直接連絡を取ったんだけど、メッセージの送信ボタンを押すのに1ヶ月かかったこともあったよ(笑)。

──(笑)

N:幸い、最初の数人が良い返事をくれたから、勇気をもって他のゲストも誘うことができて、うまく形にすることができた。製作のプロセス自体から今までとは違う試みをしていて、以前は共作をするとしても曲が出来てからゲストに共有していたんだけど、今作では構想の段階からゲストにイメージボードのようなものを共有して、ディスカッションを重ねながら作ったんだ。あと、僕が撮った写真をスリーブに使用しているんだけど、写真も挑戦したかったことの一つで、ジャケットやMVなどのアートワークにこれほど関わったのも初めてだったから、様々な挑戦が僕の財産になったよ。

──個人的に最も驚いたコラボレーションは「Grasp」で、LAからサム・ゲンデル、NYからスローソン・マローン、ロンドンからコビー・セイという、三都市のタレントが集結し、私を含めたキッズの想像するヒーロー・チームのような組合せになりました。

N:僕もそう思うよ(笑)。

──サムとスローソンの使用するエフェクトやアナログなサウンドに強い親和性を感じますが、どのような化学反応を狙ったのでしょうか?

N:この化学反応は自然な流れで起こったんだ。最初にスローソンに声をかけて、自分のスタジオに来てもらってセッションをした。彼がギターで、僕がドラムを叩いたんだけど、そこに彼がベースラインも加えてくれたんだ。ただ、この曲の製作はすぐに進行することはなく、半年ほど温めていたんだ。何かが足りないと思っていた時に、サムのサックスが必要だと感じ、友人を通して彼と会ったんだ。5つほどアイデアを提示して、彼が気に入ったものを持ち帰ってもらったんだけど、2週間ほどで素晴らしいサックスが乗った音源を送ってくれたんだ。

それでも、まだ何か足りない。ヴォーカルが入る余裕があるなと思い、《Luckyme》のスタッフに相談したらコビーを提案されたんだ。僕も彼のファンだったから、その意見に乗って彼に連絡したんだけど、彼も作品の製作で忙しかったのに、すぐに快諾してくれたんだ。

そして、この巨大なパズルのピースが揃ったんだけど、そこからが大変だった。共同プロデューサーのサニー・レヴィンに相談しつつ、何度も試行錯誤しながら構築した結果、9ヶ月がかかった。この作品で最も時間がかかったし難しい曲だったけど、最も多くを学んだ特別な一曲でもあるね。

──今作の歌詞は、全体的に内省的で様々な葛藤を感じる歌詞が多く、誰もが魅力的に感じると思いますが、これらはどのように書かれたものですか?また、コラボしたアーティストが歌詞に変化をもたらしたことなどがあれば教えてください。

N:リリックに関しては、歌を入れてくれたシンガーに全て任せたんだ。ゲストにイメージボードを共有する時に、アルバム・ジャケットの写真も添えて、各々のイメージで歌詞を書いてもらったんだ。それでこそ生まれる化学反応もあると思ったからね。いくつか相談しながら書いたものはあるけど、基本的には一切口出しせずに、彼らのインプレッションで書いてもらったんだ。そして、その歌詞を受けて僕なりにも解釈した上で曲を仕上げたんだよ。

──長年のコラボレーターのカズ・マキノや、同じルーツを持つヒョゴ、トロ・イ・モア、アイドレスといったように、今作には多くのアジア系のミュージシャンが参加しています。あなたを含め、近年のアジア系ミュージシャンの躍進には、同じアイデンティティを持つ私たちも大きな刺激を受けています。これらのアジア系ミュージシャンの起用にはアイデンティティをレプリゼントするような意図があったのでしょうか?

N:ただただ僕の友人だったり、尊敬するアーティストに参加してもらったから、コンセプトとしてあった訳ではない。けど少しは意識する部分はあったし、僕の周りの同じルーツをもったミュージシャンの活躍は嬉しいし、コミュニティが連帯するのはとても重要だとは思っているんだ。映像作家の真鍋大度と初めてツアーをした時、バルセロナの《Sónar》でクレイジーなショーをしたのが今でも印象に残っているんだ。ステージの上に僕ら2人が立ってその現象を巻き起こしたこと。それが全てだと思うよ。

──近年、メインストリームではK-POPが大きな存在感を示し、インディー・シーンでもあなたを含め、多くの才能あるコリアンにルーツを持つアーティストが活躍しています。15年前にはこのような現象を想像できた人はいなかったと思いますが、韓国にルーツを持ち、約15年程のこの業界を見てきたあなたは、この現象をどのように見ていますか?また、あなたが今注目するコリアンのアーティストがいれば教えて欲しいです。

N:これとてもポジティヴなことだよね。MVなんかのプロダクションを見ても売れないわけがないよね(笑)。今はJ・バルヴィンやロザリア等のスペイン語圏アーティストの活躍だったり、ワールド・ミュージックとされていたものの壁がなくなって、スタンダードなものになっているし、近年の《Coachella》でのそれらのアーティストの活躍からも分かることだよね。Netflixのランキングでもアジアのコンテンツが上位にあることが当たり前になっているし。

今LAだと、XGの話題で持ちきりだよ! COCONAは凄いよね。少なくとも僕の観測範囲内で、SNSやYouTubeを開けば必ず話題に上がってるよ(XGは《エイベックス》発の日本人ガールズ・グループで、最近J.I.Dやロザリア等をビートジャックする動画を公開し、話題となっている)。

──今作の話に戻りますが、共同プロデューサーのサニー・レヴィンという人物について教えてください。彼は、数作品をリリースしているミュージシャンでもありますが、彼は今作でどのような貢献をしたのでしょうか?

N:彼は長年の友人であり、僕にとって兄のような存在なんだ。今作は初めて多くのヴォーカルが参加したから、サウンドの構成にかなり悩まされたんだ。このアルバムを作り上げるのに2、3年かかり、全ての曲で90%確信を持てないような状況だったんだけど、客観性を失いかける度に彼が第三者的視点を与えてくれたし、大きな決断をする助けをくれたのが彼だったんだ。あと、ストリングスやピアノ等のスタジオミュージシャンと僕を繋いでくれたのも、彼のおかげだよ。

──最後になりますが、過去のあなたの作品で聴けたようなミニマルなアンビエント・サウンドはあなたのシグネチャ・サウンドで、今作でも聴くことができますが、『Continua』のサウンドを特徴付けるアイデアや機材など、新しく取り入れたものがあったら教えてください。また、気が早いかもしれないですが、今後の展望などを教えてください。

N:今作は挑戦的なアプローチが多かったんだけど、サウンドとしては過去の4作のいいとこ取りをして、コンパイルしたものになっているんだ。これまでの作品を作っている当時は、サウンドを作るのに手探りな状況で作っていた。そんな過去の自分へのアンサーとしての意味も、この作品にはこめられているんだよ。今後は、もっと視点を広げた活動をしたいと思ってるんだ。ゲームや映画のサントラに挑戦してみたいとも思ってるよ。なんにせよ、今作みたいに5年の間隔を空けるようなことはしたくないね(笑)。


<了>

Text By hiwatt


Nosaj Thing

Continua

LABEL : Luckyme / Beatink
RELEASE DATE : 2022.12.09


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