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白昼のノスタルジア
フォールズ、キャリア初のポップ・レコード

21 June 2022 | By Shoya Takahashi

変わらぬ「ポップ」への挑戦心

《フジロック ‘22》にも出演が決定しているオックスフォード出身の(インディー・)ロック・バンド、フォールズ。2019年の『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』は全英No.1になるなど、英国随一のバンド・アクトの一つといって差し支えない。

だが、彼らの最新作『Life Is Yours』はキャリアの中でもずば抜けてポップ、かつ明るいアルバムであり、これまでの作品とは一線を画しているように見える。ミドル・テンポな4つ打ちのビートにファンキーなカッティング・ギター。ここまでシンセのリフがギターよりも前面に出たアルバムはフォールズのキャリア史上初めてである。80年代リバイバルという文脈はもちろんだし、これまで以上にダンス色の強い作品だ。

ポップ・スターも次々とダンス・フロアへ向かっている昨今。ザ・ウィークエンドは「Take My Breath」でジョルジオ・モロダーを思わせる70年代ディスコへ接近したり、最近ではドレイクが突然ハウス・レコードを発表したり。ビヨンセの来る6年ぶりの新作『Renaissance』もダンス・レコードなのではと囁かれている。『Life Is Yours』のいくつかの楽曲のディープなエレクトロニック志向は、彼らとおなじくフロアへの憧憬から生み出されたものかもしれない。

本作のインスピレーションは、パンデミックをはじめとする周囲の出来事からの逃避であり、アルバムの制作が自身らのセラピーになっていたことを、バンド自身が明かしている。『Life Is Yours』のポップネスや明るさ、ダンス・フィールの強さが、厳しい現実からの反動であり、気の置けないダンスへの渇望であり、従来のサウンドからは一線を画したものにしようという明確な意志の結果であるのは確実だろう。

ただ、フォールズがはじめて決定的成功を手にした3rd『Holy Fire』以降、彼らはつねに現行のメインストリーム音楽に対するカウンターであろうとする試みをつづけてきた。4th『What Went Down』のダンス・ビートとスタジアム級のスケール感との融合は、2010年代のスタジアム・ロック=EDMへの抵抗ともとれる。5th、6th『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』&『Part 2』の低音に寄った重厚なリフと大幅にテンポダウンしたビートは、トラップ/ドリル以降のラップ、BPM50~60台が当たり前のサブベースの効いた楽曲がならぶ時代への挑戦だった。このようにアルバムごとにテイストを変えながらも、メインストリームの音楽にロック・バンド的ダイナミズムで対抗してきた彼ら。本作で見せたサウンドの大幅な転換は、パンデミック下での制作、キーボーディストのエドウィンの脱退といった外的要因に紐づけた語り口もあるだろうが、バンド自身にとっては案外自然で順当なキャリアの変遷なのかもしれない。


開放的な白昼のムード

『Life Is Yours』のサウンドの80年代っぽさに、より意識を向けてみる。たとえば「2am」のイントロのシンセリフは、プリンスの「When Doves Cry」を思わせるし、「Under The Radar」やタイトル曲の「Life Is Yours」のシンセベースやディケイ感のあるギターなどには、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのようなニューウェイヴ~ニューロマンティック勢、あるいは方々で引き合いに出されるアーハや、ブロンディのようなダンスポップ・バンドの面影を見ることができるかもしれない。

ところが、上にならべたような音楽家たちが纏っている、どこか暗くてダーティで、セクシャルな「夜」の雰囲気は、フォールズの『Life Is Yours』からはあまり感じない。もっとずっと健康的で、時折のぞかせるしっとりとしたムードもなんだか一時のレジャー体験のように思えてしまう、むしろ白昼のレコードだ。

彼らが描こうとした風景について、リリックや映像からも考えてみる。いったん前作の『Everything Not Saved Will Be Lost』2部作から振り返ると、「保存していないものはすべて失われる」というタイトルどおり、技術革新や政情不安、気候変動など世界の破壊とそれに対する再生という大きなテーマの作品。そしてイカロスや黙示録といったモチーフが登場し、ヘヴィなサウンドと相まって荘厳な雰囲気のアルバムだった。

いっぽうで『Life Is Yours』はというと、「二日酔いが覚めてきた今/やっと君の言葉がちゃんと聞こえるようになった」(「Life Is Yours」)、「君はここに留まってもいいし行ってもいい/かつて僕たちがなじんでいたあらゆる行きつけの場所に/ネオンの光を浴びて過ごした深夜の数々に/ショウの後でこみ上げる懐かしさに」(「Looking High」)と、かなり地に足のついた感情について歌っている(それでも具体的な生活描写よりは観念性に寄っていくリリックのほうが多い。そこに夜の雰囲気ではなく白昼の明晰夢っぽさをくみ取ってしまうのだが)。ダンス・フロアや音楽が鳴っている場への愛着と同時に、最悪な状況から逃れて安らぎと高揚感を得たいというフィーリングが全編から漂っている。それは、前作『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』のツアーがパンデミックで中止になって以来のバンドの動きとも無関係ではないだろう。


Photo by Sam Neill

真夏のドライビング・レコードとして

MVについては、「2001」が本作のムードをよくとらえている。スペインのコスタ・ブラバのビーチで日光浴をする男性、それを眺める女性たち、白いクルマ、口づけを交わすカップル。そして男性はキャンディを口にしてトリップする…。それぞれの形で表現される青春の香り、ボラロイド風のフレーミングや90年代後半の映画を思わせるフォントと編集、そのすべての根底にノスタルジアがある。80年代のサウンドや青春時代に憧憬を抱きながら、パンデミックのロンドンからダンス・フロアを夢見た本作が、殺伐とした状況からの逃避のレコードであることを、あらためて認識する。

加えて、このMVに映る白いクルマが『Life Is Yours』のジャケットにもボンネットだけ映っているほか、先行シングル「2am」のジャケットにも赤いクルマが映っている。先ほどのノスタルジー文脈でいえば、これらのちょっと年代を感じるクルマは資本主義/物質主義時代における産業プロダクトの象徴ともとれる。

だが、ラップやレゲトンのMVにクルマが頻出するように、アメリカのポップ・ミュージック全般や日本のシティポップが「カーオーディオで聴かれる」ことを前提としたプロダクションとされるように、フォールズの『Life Is Yours』もまたドライブしながら聴きたいアルバムである。ヘヴィさやラウドさが後退して音域がバランスよく振り分けられ分離したサウンドや、4つ打ちのリニアなビートは、室内でヘッドフォンで聴くのはもちろんだが、クルマという視聴覚環境で聴いたほうが映えるはず。

ここ日本も殺伐とした状況が落ちつきつつあり、フォールズが『Life Is Yours』の中で夢見た世界に戻ってきているように思う。今年の夏こそは少し遠くまで行ってみたい。そんな安らぎと高揚感への渇望、ここにある現実からの逃避に対して、強く背中を押してくれるような、カラッと気持ちのいいサマーレコードでもある。(髙橋翔哉)
Top Photo by Alex Knowles

Text By Shoya Takahashi


Foals

Life Is Yours

LABEL : Warner Bro. / Sony Music Japan
RELEASE DATE : 2022.06.17


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