「明るいのは好きじゃない」
《Stones Throw》から登場したポストパンク・バンド、オートマティック
無機質に反復するビート、太いベースとけたたましいシンセ、脱力したヴォーカル。LAから登場した女性3人組バンドであるオートマティックは、UKインディで再燃するポストパンクに呼応するようにして、ある種ティピカルなポストパンク・サウンドを鳴らしている。そのミニマルな音作りはDIY感覚を残しつつもよくデザインされており、クールな佇まいと人懐こさを併せ持つ。アート・パンクとシンセ・ポップの今様のミックスとして、中毒的な気持ちよさを携えているのだ。《Stones Throw》がサインしたバンドということも含めて、彼女たちはLAシーンにおける個性的な存在としてじわじわ注目を集めつつある。
加えて、オートマティックはサウンドだけでなく精神的な面でもポストパンク的だ。演奏技術よりもアイデアを生かしたサウンドを志し、折衷的でユーモア感覚があり、アートや文学を参照する。SF作品からインスピレーションを得て現代の消費主義を風刺したセカンド・アルバム『Excess』(2022年)は、社会の不公平に対する怒りを遊び心や知性とともに表明した一枚だった。そこには等身大のウィットがある。
メンバーは、イジー・グラウディーニ(Syn/Vo)、ローラ・ドンペ(Dr/Vo)、ヘイリー・サクソン(Ba)の3人。ローラはゴスのレジェンドであるバウハウスのケヴィン・ハスキンスの娘であることも知られているが、あくまでLAのインディ・シーンのつながりから生まれたバンドだ。初来日ツアーをおこなった彼女たちに話を聞いた。
(インタヴュー・文/木津毅 Photo/Koichiro Funatsu)※トップ写真は渋谷《Studio Freedom》公演(2024年11月29日)
渋谷《CIRCUS TOKYO》公演(2024年12月1日)

Interview with Izzy Glaudini, Lola Dompé, Halle Saxon
──アジア・ツアーはいかがでしたか?
Halle Saxon(以下、H):本当に素晴らしかった。東京は大好きだし、大阪も大好きになったよ。
Lola Dompé(以下、L):bedみたいな、地元のバンドといっしょに演奏できるのは本当に楽しいよね。彼らのファンになったし、新しい友だちを作ったり、新しい音楽を見つけたりするのが最高。
Izzy Glaudini(以下、I):世界中を旅するのって本当に楽しいよね。こんなに遠くまで来ても、コミュニティやテイストを共有できるひとたちとつながれるから。それがバンドをやっていて、一番好きなところ。わたしにとっても、メンバー全員にとっても、このツアーは本当に楽しい。
──国によってオーディエンスのリアクションの違いは感じましたか?
I:ジャカルタの《Joyland festival》で演奏したんだけど、オーディエンスがものすごく盛りあがってた。それからバンコクでも演奏して、すごく楽しかったね。東京でやった2つめのライヴはちょっと静かだったかもしれないけど、たぶん、日本の文化的な特徴なんだよね。
L:東京での最初のライヴはすごかったよね。だって朝の2時くらいにやったから。みんなけっこう騒がしくて、酔っぱらってたね(笑)。
──日本のオーディエンスは海外に比べたら少し静かな傾向があるけど、基本的に、みんな真剣に聴いてるんだと思います。
I:うん、そうだよね。でもSUPERFUZZのパーティでは、みんなすごくワイルドだったよ(笑)。
イジー・グラウディーニ(Syn/Vo)
──いいですね! では、日本の読者にオートマティックのことを紹介したいので、少し基本的なところから聞かせてください。オートマティックの3人がバンドを始めるとき、どのようなところで意気投合したのでしょうか。
H:ローラとわたしが最初、ベースとドラムだけでセッションを始めたんだよね。ギターは入れないっていうのがわたしたちのアイデアだったから。その後イジーに出会って、彼女はギターを弾いてたんだけど、シンセをやってもらうことにして。ヴォーカリストも必要だったから歌ってもらって、それで、いっしょにセッションするようになったんだよね。
I:もともと、地元のバンドのライヴに通ってて出会ったんだよね。ヘイリーがみんなをつないでくれた感じだね。最初はみんなただの音楽ファンで、それでバンドを始めたいって思ったんだ。ローラ以外は、ちゃんとしたバンドに入ったことがなかったからね。
L:うん、でも、わたしが10代の頃にブラック・ブラックっていうバンドに入ってたのもずいぶん前の話だからね。今回がはじめて、自分たちがどんな音楽を作りたいのか、ちゃんと意識的に考えるチャンスだった。わたしたち全員、音楽の好みがすごくはっきりしているから、それを全部ひとつにまとめてバンドにしたかったんだ。
──その音楽の好みでいえば、オートマティックに影響が強く与えたアーティストを挙げるとすると?
I:わたしは10代の頃からジーザス&メリー・チェインが大好き。シンセじゃないけど、あのミニマルさとか、音楽の雰囲気やムード、そして哲学的な部分にすごく惹かれていて。ロマンチックだけどダークな感じもあって、その要素はわたしたちの音楽にも受け継がれていると思う。だから、そこがわたしの貢献のひとつだね。
L:たくさんあるんだけど、一番大きな影響を受けているのはニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョンかな。本当にミニマルでダークで、わたしをインスパイアするものの核心みたいな感じがするんだ。
H:わたしはスーサイドだね。ずっとあの哲学が好きだったし、あと、ドラムマシンの感じがすごく好きなんだよね。
L:最近インスパイアされているものもあるよね。ちょっと唐突ではあったんだけど、エールが新たなインスピレーションだね。前から好きだったんだけど、最近ライヴを観て、彼らも基本的にはドラム、ベース、シンセでものすごいことをしていることに気づいたんだ。だから、いますごく刺激を受けてるよね。
ヘイリー・サクソン(Ba)
──LAの音楽シーンに属しているという感覚はありますか?
L:もちろん。最近は世界中をツアーで回ることが多くなったから、ちょっと離れた感じもするけどね。
L:LAでたくさんショーをやってきたんだけど、《Stones Throw》やそのシーンにはすごくつながりを感じてる。《Stones Throw》のアーティストたちやレーベルのひとたちは、本当にウェルカムな感じで、ひとつのコミュニティになっていると思う。
──LAのシーンの面白さはどんなところにあると感じますか?
I:行きたい場所がいくつかあって、どこに行っても、絶対に何かクールなことをやってるんだよね。たとえば《Permanent Records》とか《Zebulon》、《Heavy Manners Library》、《Lodge Room》とか。まだ全部行ったわけじゃないけど、ミドルサイズから小規模な会場がたくさんあって、それらがアンダーグラウンドのバンドにとって健全な音楽のエコシステムを作るのにすごく重要な役割を果たしていると思う。そこがわたしの一番好きな部分だね。
──オートマティックはヒップホップのイメージが強い《Stones Throw》がサインしたポストパンク・バンドというところでも注目されましたよね。
L:(《Stones Throw》の創設者の)ピーナッツ・バター・ウルフって、じつはポストパンクのルーツがあるんだよね。それにもちろん、ヒップホップやビートが中心の音楽にもすごく興味を持っていて。わたしたちのバンドもビートがすごく大事で、ドラムとベースが中心なってる。そのつながりだと思う。
H:でも、一般的には彼のポストパンク寄りのルーツは知られてないよね。だから、秘密のポストパンク・ウェポンだね(笑)。
I:だね(笑)。で、わたしたちが契約したとき、彼は「長い間、バンドはほとんど契約してなかったんだ、ソロアーティストばかりで」って言ってたよね。そうそう、マイルド・ハイ・クラブが唯一のバンドだったのかな。でもそれ以来、もっとたくさんのバンドと契約したみたいだね。
──ただ、あなたたち自身はポストパンク・バンドだと括られることに納得していますか?
H:すごくざっくりした言い方をすると、パンクのあとに出来たものってことだから、そこは同意するよね。
L:わたしたちはすごくパンクってわけではないもんね。
I:でも、ちょっと限定しすぎかなっていまは思うんだよね。というのも、ポストパンクは特定の時期に実際に存在したシーンだったから。たしかにわたしたちはポストパンクから影響を受けているけど、それだけじゃなくて、シューゲイズやニュー・ウェイヴ、さらにはヒップホップからも影響を受けてるからね。だから、わたしたちは自分たちの独自のサウンドがあると思うけど、ポストパンクって呼ばれることに対しては別に怒ってないよね。理解はできるけど、ちょっと言い過ぎかなとは思う。
──ただ、折衷的なアイデア自体がポストパンクの精神性だという考え方もありますよね。
I:そうだね。あともうひとつ言いたいのは、パンクはすごくマスキュリンで、それがちょっと誇張されたような感じになっていたってこと。でもポストパンクは、女性バンドがたくさん登場するきっかけを作ったんだよね。というのも、技術はそんなに必要じゃないけどドラムとベースがすごく機能していて、それがうちのサウンドの核になっていると思う。だからわたしとしては、そこが好きなんだよね。あの時期、ザ・スリッツやクリネックスみたいな女性ミュージシャンたちが登場したから。
──なるほど。あと、これもポストパンク的だと言えるかもしれませんが、サウンドにユーモアがあるのもオートマティックの魅力だと思います。
L:そう言ってもらえて嬉しい! というのも、正直、そういう部分が伝わるとは思っていなかったから。でも、わたしたちはいつもユーモアを持ちたいと思ってる。真剣なテーマについて話すのが好きだけど、そのなかにもユーモアを感じてもらいたいと思っていて。
H:わたしたち3人は自然に、いいユーモアのセンスを持っていると思う。それが伝わらないこともあるんじゃないかって思ってるけど。
I:わたしたちのユーモアのセンスはちょっとドライで……うん、ふざけた感じではなくて。どちらかというとキャラクター的というか、皮肉っぽくて、ダークな感じ。ネガティヴな部分もあるけど、いまの時代にはそれが必要だと思う。
──同時に踊れる音楽ですしね。
H:うん、それも大きな目標。わたしたちはいつも、みんなが踊りたくなるような曲を作ろうとしてるけど、頭のなかではそれに完全に届いていないように感じる。だから、そう言ってもらえると嬉しいね。
ローラ・ドンペ(Dr/Vo)
──一方で、オートマティックは消費主義や気候変動といったシリアスなテーマを取り上げていますよね。そうしたトピックに惹かれるのはどうしてですか?
H:とくに『Excess』は隔離中に書いていたから、みんなで、どうしてこんな極端な状況に世界がなったのかを振り返っていたんだよね。そして、消費主義や終わりのない資本主義がどうやって病気や混乱を引き起こす状況にまで至ったのか、あるいは資源が尽きかけていることも考えてた。
L:それに、隔離中で働かなくていい状態だと、物を買うことを客観的に考えられるんだよね。時間がたっぷりできて、頑張りすぎなくてもいいんだってこともはっきりとわかった。
I:そうそう、時間ができたから、政治システムがどれだけ不公平かとか、階級の不平等について考えることができるんだよね。そして、それが上流階級や資本家階級によって、みんなを抑えつけるように作られているってこともね。
──そうした意識は、世代の共通する感覚としてあると思いますか?
I:そうだと思う。アメリカでは、1990年頃に生まれたひとたちが2008年の金融危機を同時に経験して、それがみんなの生活に大きな影響を与えたっていう記事を見たことがある。だから、わたしたちの世代はずっと厳しい状況にあるってことだよね。そしていま、みんなが経済的に苦しんでいて、生きていくのが大変だっていうことを無視するのは難しい。生活費が高すぎるんだよね。日本でも似たような問題があると思うんだけど、多くのひとたちが気づいているのは、働いても働いても、昔なら当たり前に手に入れられたのものが手に入らないという現実。だから、これはもう資本主義が行きづまっていることの表われだと思う。
──本当にそうですね。いまのアメリカ社会は日本から見ていてもすごく混乱しているように感じますが、そんななかでオートマティックが提示したい価値観はどのようなものでしょうか?
H:そうだね、表面的な違いを超えて協力することが大事だと思う。いま、わたしたちの国やたくさんの国々が本当に分断されてる。だからこそ共通点に目を向けて、何が課題なのか考えて、そして、権力を持っているひとたちに対して組織的に立ち向かうことが大事だと思う。
I:階級意識もわたしたちのバンドのもっとも重要なメッセージのひとつ。それから気候変動、ゾンビのような消費者主義にならないこと、無駄遣いしないこと、そういったことにも気をつけるべきだと思ってる。
H:それは消費者のせいじゃないんだよね。
I:うん、構造的な問題で、それを意識することが大切。
──なるほど、ありがとうございます。では、次のアルバムが完成間近とのことですが、どんなアルバムになるのでしょうか。
H:ほとんど同じだね。
(一同笑)
L:同じもののさらに進化したヴァージョンみたいな感じだよね。それに、新しいプロデューサーとしてローレン・ハンフリーといっしょに作ったから、ヴォーカルの音の部分が違うものになっていると思うよ。テーマとしては、似たような部分もあるけど、戦争についての書いたものが増えてるね。
H:家族からは「オートマティックの核となる部分はちゃんと残ってるね」ってフィードバックをもらったんだよね。だから、まだ新しいバンドとかそういう感じではないね。
──なるほど、楽しみです。では、オートマティックとしてこれから目標としていることがあれば、教えてください。
I:まだ行ったことのない地域でもっとツアーをしたいよね。さっきも言ったけど、ツアーやバンド活動で一番好きなのは、同じ価値観やテイストを持ったミュージシャンたちと出会うこと。だから、そういう機会がもっと増えたらいいなって思ってるし、いろんなひとたちとコラボレーションするのもいいかも。
L:もっともっと多くの若いひとたちや、女性たちに届けばいいなと思う。そういう反応はわたしにとって本当に大切だから。
H:わたしの目標は、もっと実験的なものを書くことかな。もっといろんな楽器を使ったり……。
L:コンガとかね(笑)。
H:うん、コンガだね(笑)。
──(笑)今夜のライヴも楽しみにしていますが、ライヴではどういうことを意識していますか?
I:とにかく大きな音でやりたい。ちょっとパンクっぽい雰囲気にして、観客が引きこまれるようにしたい。そうすることでわたしたち自身も楽しめるからね。あと、わたしたちはあまり動き回らないし、けっこう無表情なところがあるので、音でエネルギーを作り出したいね。
L:クールでアトモスフェリックなものにしたい。それに、シネマティックで……。
I:明るすぎないこと。わたしたち、明るいのはイヤだから(笑)。
*
その夜《NOON + CAFE》で観たオートマティックのライヴは、まさに“明るすぎない”ものだった。ほとんど素っ気なく反復ビートが鳴るなか、武骨なベースと騒々しいシンセが鳴ると、音源以上に生々しいグルーヴとパンキッシュなエネルギーが発生する。その根っこに感じられたのは現代の若い世代からのまっすぐな怒りであり、しかしそれはどこかギクシャクとしたダンス・サウンドで発散されているようだった。
LAの凄惨な山火事のニュースが日本にも伝えられるなか、彼女たちはいま、何を見て何を考えているだろうか? 取材時にも彼女たちが危機感を示していた気候変動は、本当に取り返しのつかないことになりつつある。無事を祈りつつ、間もなく完成するという3作目で、オートマティックがどのようなヴィジョンを示してくれるか待ちたい。(木津毅)
渋谷《CIRCUS TOKYO》公演(2024年12月1日)

Text By Tsuyoshi Kizu