BEST 11 TRACKS OF THE MONTH – September, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Amber Mark – 「won’t cry」
ジョルジオ・モロダーが手がけたドナ・サマーか、ダフト・パンク『Homework』か。ベタでいいねと思う一方で実感するのはここ1、2年で浮上したハイエナジー(Hi-NRG)の復活だろう。その背景には間違いなく、映画『異人たち』に象徴されるクィア文化や映像作品を通じてのペット・ショップ・ボーイズ再評価があり、カイリー・ミノーグやジェシー・ウェアらによるディスコの再生活動があり、そしてデュア・リパやAllie Xら若手の尽力もあった。これら複合的な要因によって用意された舞台で響くのはわいざつなダンスポップ、80年代リヴァイヴァル第2章とでも呼ぼうか。さらに固有名詞を並べてしまうと、ちなみに僕はデッド・オア・アライヴとブロンスキ・ビートが好きです。(髙橋翔哉)
Father John Misty – 「Screamland」
漢・ジョシュ・ティルマンよどこへ行く──そう呟きなくなる曲だ。11月22日にドリュー・エリクソンが共同プロデュースした新作『Mahashmashana』をリリースするファーザー・ジョン・ミスティ、8月にはベスト盤が出たので明らかにリセットさせてくるのだろうと思っていたし、実際に7月に出た先行曲は躍動的なニュー・ソウル調の仕上がりにワクワクしたが、この2曲目の新曲はタイトルからも連想できるようにスクリーモが少し入ったオルタナ・バラード。この2曲が同じアルバムに入るらしい。シアトリカルなヴォーカル・ミュージック路線からの新機軸を彼はどこに着地させようとしているのだろうか。(岡村詩野)
Pa Salieu – 「Belly」
ガンビア出身でUKはコヴェントリーで育ったラッパー、パ・サリュが暴力事件に関わった罪で約21ヶ月(判決では33ヶ月だったよう)の服役を経て戻ってきた。デビュー・ミックステープ『Send Them To Coventry』(2020年)で高い評価を受け、デビュー・アルバムも待ち望まれていた中での収監だったので、またこうして生き生きとした声が聴けるのは嬉しい限りだ。力強さと柔らかさを持ったビートの上で彼は刑務所での日々を振り返りながら威勢良くボースティングしている(少しマッチョすぎる部分はあるが……)。さらに数日後にはもう一つの新曲「Allergy」もリリース。こちらはルーツのある西アフリカ的なリズムの光る1曲だ。どちらもぜひチェックを。(高久大輝)
SASAMI – 「Slugger」
来年3月リリースの新作『Blood On the Silver Screen』からオープニングを飾る「Slugger」。新作は共同プロデュースにジェニファー・デキルベオ、ロスタムを迎えて「愛についてのポップレコードを作る」と語っていたようにコード進行と歌にフォーカスした印象だ。サビの「My, my, my, my, my」と連呼する躍動からやわらかなファルセットに移行するリズムはキャッチーで口ずさみたくなる。歌詞も自己破壊的な愛の執着を綴っていてインパクトと親しみやすさを兼ね揃えたナンバーは、00年代アメリカのポップ・シンガーを想起させた。個人的に新作は来年のベスト・アルバム候補になりそうな予感がしています。(吉澤奈々)
2nd Grade – 「Made Up My Own Mind」
《Stereogum》で『Hit to Hit』(2020年)がAlbum Of The Weekを獲得した、フィラデルフィアを拠点に活動するミュージシャン、ピーター・ギルを中心としたパワー・ポップ・バンド、2nd Gradeによる最新楽曲。ジャングリーに輝き、跳ね回るエレクトリック・ギターとメランコリックなメロディーを中心に構成された愛すべきほどストレートなパワー・ポップが、バンドの特徴でもある2分程度の短い楽曲時間の中にギュッと詰め込まれている。まるでマシュー・スウィートや田中ヤコブのソロ・ワークのように胸を締め付けるような情感で溢れた佳曲。(尾野泰幸)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
Dora Jar – 「Behind The Curtain」
LAを拠点に活動するシンガー・ソングライターであるDora Jarのデビュー作からの1曲。本作はムームなど00年代のフォークトロニカを軸にした楽曲だ。またボイスシンセサイザーを使った合成音声とノイズは、『Kid A』頃のレディオヘッドの雰囲気もある。この声は、彼女の亡くなってしまった妹が使っていた機械の音声で、MVが妹の影を追っているようにも見えてくる。また、タイトルは映画『オズの魔法使』(1939年)でも描かれている、自分を卑下してしまうインポスター症候群の暗喩だという。この症状は女性に多く見られることを踏まえると、この曲が男尊女卑社会の構造的な問題を指摘しているとも読み取れるのではないだろうか。(杉山慧)
Dora Morelenbaum – 「Essa Confusão」
坂本龍一とのジョイント・アルバムで本邦でも認知度の高いモレレンバウム夫妻の元に生まれ、現在は解散状態にあるバーラ・デゼージョのメンバーでもあるドラ・モレレンバウム。数々の客演作で美しい歌声を響かせてきた彼女が、待望のファースト・フル・アルバム『PIQUE』を10月18日にリリースする。本作はアナ・フランゴ・エレトリコが全編プロデュースを手掛け、偉大なる両親をはじめとしたリオの有望なプレイヤーが一同に会しているという。先行シングル「Essa Confusão」はバーラ・デゼージョのゼ・イバーハとの共作、ストリングスをフィーチャーした懐かしみのあるナンバーだ。今年度MPBの最注目作、ぜひお聞き逃しのないよう。(風間一慶)
リ・ファンデ – 「straw steps feat. Negicco」
リ・ファンデのニュー・アルバム『SANGO ALBUM』からの先行配信曲。リが2020年にメンバーのNao⭐︎に楽曲提供したことがきっかけで実現した異色のコラボ。90年代のR&Bクラシックスを彷彿とさせるメロディに絡むファニーなコーラスと嬌声。朴訥としたリズムボックスとアコギ、オルガンの伴奏の上で躍動するTomoko(SaToA)のベース。どれをとっても他にはない組み合わせで、ベッドルール的でありながら風通しのよい、タイニー・ソウル・ポップと呼びたくなる愛すべき空間が広がる。そして一緒にスタジオの中にいるような親密な空気感を作り出すNegiccoの「素」の声に、人気アイドルのすごみを感じた。(ドリーミー刑事)
Louis Culture -「Babe ft. Tora-i, Richie」
ルイス・カルチャーはロンドン南部のバタシーで生まれ育ったラッパーで、同じ地元のソー・ソリッド・クルーやジェイ・プールの影響を受けながら、2016年から活動を始めた。当初はUKラップやグライムをお手本にした曲が多かったが、徐々にフォークやエレクトロニカなどにも手を伸ばしていき、現在では多様なトラックを背景を持つようになった。この最新シングルでは、R&BシンガーのTora-iをフィーチャー。ソウルズ・オブ・ミスチーフのような90年代感を出しつつ、ルイスのヴォーカルの存在感も際立つようになってきた。今年4月にリリースしたEPでも歌への関心が高まっているような印象があり、さらに自己表現の幅を広げようとする意思が感じられる。シングルが多いのも、そんな意思の表れと言ってもいいだろう。(油納将志)
Starcleaner Reunion – 「Plein Air」
ブルックリンのカフェに入れば、85%の確率でBroadcastがかかっている──そんな言説を目にしたことがあるけれど、このニューヨーク出身の5人組が最新EPに『Café Life』といささか照れくさいタイトルを冠しているということは、あながち嘘ではないのかもしれない。同じニューヨークのFievel Is Glauqueのジャズ度を控えめにさせたような彼らのサウンドを聴いていると、確かにステレオラブ、ブロードキャスト、ユーロポップといったキーワードが浮かんでくるのだけれど、ゆったりとしたふくよかなギターの絡み合いが生むドリーミーなアンサンブルは新鮮で、こじんまりとしたヴェニューでライヴを観てみたい!と思わせる。(駒井憲嗣)
U-zhaan × mabanua – 「VENDER WOH!」
曲名でもある「VENDER WOH!」は、U-zhaanが大ファンだというアート・プロジェクト・ブランドで、本楽曲MVの制作も行っている。シンセ系の電子音が作った空間で鳴る、タブラとドラムの響きを抑えたリズムがシャープでイケている。mabanuaによる、ドラムの相性の良さと境目なく混じり合うミックスがよく効いていることにより、私は、タブラの印象がこんなにもアーバンになることに驚いた。また、VENDER WOH!が掲げている「THREE TIMELINE」(過去、現在、未来を繋ぐ)というコンセプトに納得させられるMVや、U-zhaanがこれまでに起用したアートワークも併せてチェックしておきたい。(西村紬)
Text By Kenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono