Review

Superchunk: What A Time To Be Alive

2018 / Merge / Big Nothing
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USシーンのリアル首領が伝える、絶望を叫ぶことの必要

21 February 2018 | By Shino Okamura

 昨年、米《VICE》に掲載された「ローラ・バランスが選ぶスーパーチャンクのベスト10」という記事は今読んでも本当に面白い。唯一の女性メンバーでベーシストのローラ自身が解説するという企画だが、一つ一つの作品に対しなんとも辛辣。レコーディングがキツかったとか、ゲット・アップ・キッズとのツアーは最悪で憂鬱だったとか……一つ前のアルバム『I Hate Music』に至っては「ダメ。思い入れがない」と一刀両断にしてしまう始末で読んでいてここまでくるとむしろ気持ちがいい。上位がすべて初期…1991年〜95年までの作品で占められているのはリーダーのマック・マコーンとともに創設メンバーの一人であるローラのプライドでもあるのだろうが、ここまで自分たちの作品を厳しく評することができるのは、00年代に長い活動停止期間こそあったものの、実に30年弱、全くブレることなくずっと己と黙々と向き合う活動をしてきたからこそだと思う。今日、ロックに活気がないとか低調だとか軽々しく言う人はローラのこのインタビューを正座して読むといい。

 もちろん、米ノースキャロライナはチャペルヒルという人口6万にも満たない小さな町を有名にし、今なおそこから発信するこの4ピース・バンドが大きな説得力を持ち得ているのは、ただ彼ら自身の活動に真摯に向き合っていただけではなく、《Merge》というレーベルで世界との扉を開いたからでもある。スプーンもアーケイド・ファイアもマグネティック・フィールズもニュートラル・ミルクホテルも……そしてそして今年屈指のアルバムをまもなくリリースするタイタス・アンドロニカスもスーパーチャンクに対する信頼は絶対的だ。それが転じてマックやローラの力となっているのは間違いのないところで、この約5年ぶりの新作にはステフィン・メリット(マグネティック・フィールズ)、サブリナ・エリス(A Giant Dog)、ケイティ・クラッチフィールド(Waxahatchee 他)といった《Merge》周辺から、デヴィッド・ベイザン(ペドロ・ザ・ライオン他)まで彼らを慕う同志とも言える仲間が珍しく大挙参加、約30年前のデビュー当時となんら変わらない迸るパンク・スピリットを一気に放出させている。しかも演奏にも曲調にも、マックの野太いヴォーカル・スタイルにももう見事なまでに迷いがない。聴力障害などを理由にライヴ活動からは離れている件のローラももちろんしっかり関わっているようだ。

 とはいえ、リーダーでありメイン・ソングライターのマックも現在50歳。当然のように肉体の衰えはあり、人生の終盤にどうしても目が向けられるようになる世代。本作も2016年の大統領選挙の結果への怒りをエネルギーとして、でも若い頃には決してリアルではなかった老化による喪失や絶望を描いたのだという。だが、それを彼らは30年前と何ら変わらぬパッションでダイナミックな形にしてみせる。それが必然であることを、30年に渡り様々な栄枯盛衰、盛者必衰を横目で見てきたマックは本能でわかっているからだ。

 それだけに、“説明できないけど、心と頭脳を失ってしまった!”と繰り返したたみかける超ハードコア曲「Lost My Brain」は震えるほどのリアリティを放つ。ここにこのバンドの誰にも抗えない絶対的な強さがある。マックと同い年の私は、今、この“何時(いつ)まで生きるべきか”というタイトルがつけられた本作に込められた絶望を叫ぶということの必要を、大泣きしながら実感しているところだ。(岡村詩野)

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