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aldn: the end

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映画『バッファロー’66』へのオマージュから見えてくるモノ

15 August 2023 | By Kei Sugiyama

100 gecsなどを中心に盛り上がってきたハイパーポップの流れの中で注目を集めたバージニア州レストン出身のSSWであるaldn。彼はハイパーポップはジャンルというよりコミュニティだと発言しているように、midwxstとNYでアパートをシェアし、そこで楽曲制作などをしていた。そんな彼の最新作『the end』は、映画『バッファロー’66』(1998年)へのオマージュが込められた作品でありつつ、ハイパーポップをゼロ年代~テン年代のインディー・ロックの文脈も含めて捉え直した作品にもなっている。

本作を聴いてまず参照点として思い浮かぶのは、ビーチ・ハウスやアリエル・ピンクだろう。特に「pressure」での、シューゲイザーなサウンド・エフェクトやノスタルジーを喚起させるシンセの音、ゲスト・ヴォーカルのchloe moriondoの歌声は、ビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランを彷彿とさせる。その他にも「end of the night」でのシンセの音色や重ね方は、フランスを代表するバンドであるフェニックスの中でも『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2009年)~『Bankrupt!』(2013年)辺りの作品を彷彿とさせる。「golden promise」などで見られるゼロ年代のエレクトロ以降のディストーションの使い方は、クリスタル・キャッスルズを思わせる。

本作はこのように、ハイパーポップが出てくるまでの流れを踏まえるだけでなく、「buffalo ’66」という曲名が示しているように、70年頃のイエスやキング・クリムゾンなどが使われるなど音楽映画としても注目を集めたヴィンセント・ギャロのカルト映画『バッファロー’66』へのオマージュが込められている。上記の映画を思わせるピストルや冬、そして夜といったキーワードだけでなく、孤独や愛、嘘、他者の視線などのテーマも描かれている。本作は、このようにサウンドや歌詞からカルチャーの多層的な連なりを意識させてくれる所が面白い。さらにaldnはオピオイド中毒になった経験があるとインタヴューで語っており、「golden promise」での自暴自棄的な側面は『バッファロー ’66』へのオマージュだけではないのであろうと想像させる。

『バッファロー’66』がカルト的人気を博したのは、主人公は決して褒められた人物ではないが、彼の視点で語られる物語に彼の育った背景が見え隠れすることで同情や共感を覚えるからだろう。本作を聴いているとオマージュ元となった映画と同様、誰かの視点から物事を捉えてみることで見えてくるモノもあるという事に気づかされる。私たちはカルチャーという形を通すことで自分とは違う考えや状況に触れることができる、だからこそ面白いし、それぞれの作品は別の視点を与えてくれる。本作はそうしたカルチャーの重要性をサウンドや物語を通して理解させてくれる作品と言えるのではないだろうか。(杉山慧)


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