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2022 / Stones Throw
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《Stones Throw》の若きエースによる変化と転機の最新作

23 September 2022 | By tt

スーダン・アーカイヴスことブリトニー・デニス・パークス(Brittney Denise Parks)の音楽のルーツを、スーダン出身のヴァイオリン奏者、Asim Gorashiやカメルーンの電子音楽家のFrancis Bebeyを始めとするアフリカ各国の先達や伝統音楽と、 《LaFace Records》の設立者である継父の下で慣れ親しんでいたヒップホップとR&Bの2つを軸に考えるならば、アーネスト・グリーン(ウォッシュト・アウト)、オープン・マイク・イーグルやダニー・ブラウンとの仕事で知られるポール・ホワイトといったプロデューサーを迎え、スーダンやガーナの伝統に触発されたヴァイオリン奏法を駆使して独自のR&B/ヒップホップを作り上げた前作『Athena』(2019年)は、2つのルーツのクロスオーバーという意味では集大成的なアルバムだったと言えるのかもしれない。

オノ・ヨーコのトリビュート『Ocean Child: Songs of Yoko Ono』やネナ・チェリーによるリ・ワーク・アルバム『The Version』などへの参加を経て、より注目度が上がったであろうタイミングでリリースされた本作『Natural Brown Prom Queen』は、ブリトニー・デニス・パークス自身のルーツや人生をひとつのモチーフに過去を巡る旅のような側面を持ちながらも、サウンドのクリエイティヴは新しいものを生み出そうとする野心と未来志向を感じるほどに説得力があるように思う。

インタールードを含む全18曲50分強、アルバムとしては曲数/時間ともに、ともすれば冗長で間延びしかねない多さ/長さではあるが、そうは感じさせないほどにトラックはバリエーション、クオリティともに充実している。『Athena』からの大きな変化を挙げるとすれば、一部楽曲でのエレクトロニック・ミュージックとエレクトリック・ファンクへの傾倒であり、LAビート・シーンで注目を集めるノサッジ・シングスやメンフィスのベーシストMono Neon、Mustafa『When Smoke Rises』のプロデュースで知られるSimon on the Moonといった参加メンバーからも、その傾向が覗えるだろう。アンビエンスな導入からシンセとヴァイオリン、ハンドクラップが入り混じるエレクトリック・ファンク「Home Maker」から「NBPQ (Topless)」の2曲の流れはスーダン・アーカイヴスの変化を象徴するようなオープニングである。

スーダン・アーカイヴスの音楽を語るうえで欠かせないであろうヴァイオリンのアレンジにおいても、過去作ほどの存在感を示さずとも、様々な意匠が散りばめられている。例えば、「ChevyS10」ではハウスとアフロビートを融合させたようなダンス・トラックに自然に溶け込むように配置され、「TDLY (Homegrown Land)」ではアフリカ各国の民族音楽からの影響であろう演奏がパーカッションや808のビートと混然一体となるダンス・トラックに個性を与えている。最も印象深いのは「Ciara」「Homesick (Gorgeous & Arrogant)」でのアレンジで、電化させて歪ませたようなバイオリンが楽曲におけるサイケデリック・ファンク要素を強化するような役割を担っている。いずれも『Athena』を踏襲しつつも、前作からは着実に進化を遂げていることが、ヴァイオリンの演奏/アレンジ面でも体感することができるだろう。

アルバムのタイトルでもある「NBPQ (Topless)」では、幼いころに持ち続けていたポップ・スターになることの野心、“I’m not average”とリスナーを繰り返し挑発し自らを鼓舞するような力強さを描くと同時に、最初のバースでは黒人女性として生きることの苦難をも描いている(「ChevyS10」にはトレイシー・チャップマン「Fast Car」からの引用があり、女性の苦難や貧困というモチーフには意識的ではあるのだろう)。野心と苦難の両方の物語を描きながら、ブリトニー・デニス・パークスの過去とルーツを巡る旅は、(ザ・ノトーリアス・B.I.G.の「Going Back to Cali」を引用しながら)生まれ故郷であるシンシナティに戻ることについての曲であり、故郷の通りをタイトルに冠した「#513」で幕を閉じる。過去の追憶と音楽的な野心に満ちた本作を通して感じるのは、挫折や苦難から滲み出るビターな感触と、何よりもそれを飛び越えて未来へ向かっていくような、全体に通底しているポジティヴなヴァイブスである。(tt)



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